7月1日(木)


 昨日の新作『桃太郎電鉄』の打ち合わせについて、日記で書いた
ことに対して、かなり多くのメールが来たり、電話が入った。
 でも、朝になっても怒りは収まらない。
 これは相当やばい状態だと思う。
 人間には「ガマン」という名のビーカーがあって、我慢を水とす
ると、我慢の水は少しずつ貯まって行くものだ。
 途中いいことがあれば、我慢の水は蒸発して、我慢の目盛りは下
がって行く。
 その我慢の水が、ビーカーにあふれた時に、人は本気で怒り出す
ものである。
 そして人間は「もうすぐビーカーの水がいっぱいになてしまいま
すよ!」とシグナルを送っているのに、相手側は、ちっともそれに
気がつかない。それなら早く言ってくれれば、とさえ言うだろう。

 というわけで、この問題はどうなるかさっぱりわからない。
 もう解決方法を考えるのも面倒になっているので、そのままゲー
ムごと消滅するかもしれない。
 年末の『桃太郎電鉄』だけは出るようにしたいけどね。
 
 午前11時。高島屋「つばめグリル」で、ハンバーグ。
 うっかり嫁の珈琲を間違えて飲んでしまったり、とにかく腹が立
ってどうにもならない。

 午後1時。帰宅。
 ビー・アール・サーカス出版の新見知明さんと、森澤明夫さんが
来る。
 例の『さくまあきらバラエティ・ブック(仮)』の取材である。
 この仕事が今、一番楽しい。
 唯一自分が出版人に戻れるからだ。
 あっ、今この本のタイトルを『さくまあきらの正体』っていうの
はどうかなって思った? わけのわかない正体不明の男と言われ続
けて来ただけにいいかもしれない。
 むむむ。正体が無い。正体無。『さくまあきらの正体無(ショー
タイム)』というのが浮かんでしまった。ぶわっはっはっは。
 こういうのを蛇足という。
 きょうは取材プラス、対談、座談会の日程の打ち合わせもメイン。
 みなさん、お待ちどうさま! 『ジャンプ放送局』の4人のメン
バーの座談会がこの本のなかに入ることが決定した!
 さらに、グルメの師匠である、すぎやまこういち先生との対談も
載る予定! 何てゴージャスな本だ。すぎやまこういち先生との対
談場所は言わずと知れた、青山「穂積」だぞ〜。
 今から喉が鳴る。

 午後5時。漫画家志望の藤川かつらサン、新人漫画家の森田崇が
来る。
 ふたりとも、週刊少年サンデーの担当さんがほかの雑誌に移動に
なってしまうことに。えらいこっちゃ! ふたりしてあわてている。
 だから担当さんが付いているうちに、死に物狂いでがんばらな、
あかんのよ!
 また一から出直しになっちまうぜいっ!

 お笑い芸人志望の門脇忍が来る。
 先日放送作家の福本岳史くんのはからいで、TBSの「ネタ見せ
会」に出たが、落選だったという報告。
 う〜〜〜ん。才能のある男だと思っているんだけど、とにかくチ
ャンスの落下点で待つという頭が無いので、ずるずると26歳にな
ってしまった。
 チャンスの落下点というのは、たとえばお笑い芸人になりたいな
ら、食うや食わずの生活になってでも、芸人さんの付き人になると
か、コンビニでバイトするにしても、お笑い芸人さんたちが数多く
住む、中野坂上のコンビニでバイトするとか、とにかくチャンスの
落下点に身を置かないといけない。
 どうも元『チョコバナナ』の投稿者たちにしても、このチャンス
の落下点を計算して動ける人がほとんどといっていいほどいない。

 地方に住んでます。FAXありません。インターネットもやって
ません。携帯電話ありません。東京に出て行くつもりはありません。
 でもプロの漫画家になりたいです。
 情報化社会の現代でこういうムリが通るのは皆無に近い。
 地方に住んでるならインターネットは不可欠だし、自宅に住んで
るなら、携帯は不可欠。親が電話に出る家に電話をかけるのはつら
いからね。

 というわけで、きょうは才能はあるけど、チャンスの落下点を見
る回路の無い人たちが揃ってしまったので、そういった話をした。
 ほかにもこういう人はたくさんいるだろうから、あえて話題にし
てみた。
 
 午後7時。嫁、私、グルメ・バカ娘の3人で、人形町の「喜寿司
(きずし)」に行く。
 ストレスが貯まってるときは、お寿司をバカ食いするのが、わが
家の習わしなので、文字どおりバカ食いして、揃いも揃ってカエル
のお腹になる。
 うれし苦しい〜!
 帰り道。ひさしぶりに、グルメ・バカ娘の「寿司っぱらい」が始
まった。けらけら笑いが止まらなくなって、♪北の〜 酒場通りに
は〜と、歌い始める。
 中学1年生が『北酒場』を歌うか?
 さらに酔っぱらいのマネをして、「おう、坊主! お土産買って
来てやったぞ!」とまで言い出す。
 どこでそういうことを覚えるんだ、おまえは!

 午後9時。帰宅。
 実姉に電話して、『さくまあきらバラエティ・ブック(仮)』用
の私の子ども時代の写真を実家から持ってきてもらうお願いをする。
 ついに『ジャンプ放送局』の単行本でも特集されなかった、私の
子ども時代が初公開になりそうである。
 いよいよもって、『さくまあきらバラエティ・ブック(仮)』は、
作家さくまあきらの追悼号っぽくなって来た。
「また不謹慎なことを!」と言われるだろうけど、追悼号が出るっ
ていうのは、作家にとって最高の勲章だからね。
『追悼号』って、タイトルにできないかなあ。
 
 とりあえず、しばらく執筆関係はさぼる。
 とてもいい仕事ができる気分ではない。


7月2日(金)


 午前10時。高円寺の整体さん。
 案の定、後頭部にストレスによる「こり」が出来ていて、脳内出
血再発の危険が出ているという。
 やっぱりなあ。
 もう肉体的にも、ゲーム作りは無理なようだ。
 10数年この無茶を続けてしまっている。
 まわりの人には、この無茶が当たり前に見えてしまって、誰も気
遣ってくれない。
 自分からやめるしか方法が無いのがつらいところだ。

 午後12時。吉祥寺のおそば屋さん「よしむら」に行く。
 親子丼+せいろそばランチ。
 あいかわらずお勧めの味なのだが、青山「穂積」のおそばのせい
で、どうも味覚センサーが狂ってしまって、「あれ〜? よしむら
のつゆの味ってこんなのだったかなあ?」と思ってしまう。
 不思議な感覚だ。
 ほかのお店の味を忘れさせてしまうなんて。

 午後2時。新宿に出て買い物。インクリボン、ビデオなど。
 弟子の原口一也のホームページ日記に、DVDを買おうか迷って
いると書いてあったので、さっさと買って悔しがらせてやろうと思
って、DVD売り場へ行く。
 大量のLDがもったいないので、LD+DVDを買おうとして、
展示品のボタンを押して、驚いた。
 ターンテーブルが出てこない!
 何だ? 展示品だから酷使されて壊れてしまったのかあ、大変だ
なあ…と、隣りの売り場に行こうとすると、ガーーーーーッとゆっ
くり出てくる! おい! おい! おい!
 ホラー映画じゃないんだからさあ!
 ほかの機械のボタンを押す。
 出ない! まさか、みんなこんな調子なのか?
 ぶっきらぼうな店員さんに聞く。
「LDですからねえ…」
 どうしてこう説明になっていない言葉を、説明した気になってし
ゃべれるのだろう。最近こういう人が多すぎる。

 仕方無いので、自分で確かめる。
 たしかにDVD専用機だと、もうちょっと早い。
 う〜む。この遅さは耐えられないなあ。
 でも液晶のDVDは、やけに画像がきれいだなあ。
 けっきょく今回の購入は断念。

 午後2時30分。ビデオで『ディープ・インパクト』を見る。
 もう外国産の映画というものは、別世界のメディアだねー。
 ただただ感心するだけだ。
 こうなりゃ竹やりでB29を落そうとした国のクリエイターは、
セリフで勝負するしか無いのだが、まあ、みごとなセリフのオンパ
レード。とくに最後のほうの米国大統領の言葉は、さらっと聞き流
すと何の変哲も無い言い回しだけど、じっくり聞くと、心にしみわ
たる言葉だ。
 しかもこの映画の監督は女性だという。いよいよ映画も女性の時
代なのかもしれない。
 
 午後5時。昨日から1日2錠、血圧の薬を飲むことに。
 血圧が上がりっぱなしで、危険。

 午後6時。赤坂「津つ井」で嫁と食事。
 メニューを眺めていたら、「豚肉の生姜焼き」の文字。
 豚肉の生姜焼きというと、デビュー当時のビンボー生活時代、自
分で作って食べた代表的な料理だ。
 ゲーム作りをやめて、昔の文筆業時代に戻りたくなっている私は
なつかしさで注文する。
 ところが出て来たものは、何と豪華な豚肉!
 しかもびちゃびちゃした生姜の海に浸っていない!
「豚肉の生姜焼き」ではなくて、「豚肉の網焼き生姜添え」である。
 もちろん「津つ井」の味だから、バツグンに美味しいのだけれど、
あまりにも想像と違うものが出て来て、面食らった。

 午後7時。TBSに行く。
 おなじみ『有限会社 桃太郎商店』の録音。
 しかし本当に不思議だ。
 石井正則くん、石塚義之くん、吉野紗香ちゃん、私の4人はふだ
んまったく会わないのに、なぜか本当に仲がいい。
 変だよ、これって!
 さすがに私は業界長いから、タレントがどんなにつまらいギャグ
を飛ばしても、ある程度合わせて笑うことができる。
 ところがこの4人のやりとりだけは、本当に腹を抱えて笑い転げ
てしまう。何でなんだろう?
 とくに石塚義之くんのギャグに弱い。
 番組の流れから、笑ってはいけないところで、つい笑ってしまう。
 とにかく石塚義之くって男が「かわいい」のだ。性格がかわいい。
真面目だし、その場をなんとかして盛り上げようとして、突飛なこ
とを言い出す。
 そのふつうの人には見えない努力を一生懸命している(私は業界
長いからね)様が、ちょうど犬のようなかわいらしさなのだ。
 
 早くもこの番組の単行本化の計画が浮上しているようで、きょう
は出版社の方も来ていた。
 今でも出版界の人間だと思っている私にとって「単行本」という
単語は、極上の言葉だ。
『ジャンプ放送局』みたいな本になったらいいなあ。 

 午後10時。録音終了。笑いすぎて、またあごが痛くなる。
 笑うことはストレスの解消にいいそうなので、よかった、よかっ
た。でもへばった。ははは。

 午後10時30分。きょうは録音が少しだけ早く終了したので、
直接帰るつもりでTBSを出たあと、喫茶店「コヒアアラビカ」に
寄る。
 お気に入りのアラビアモカのフレンチローストを飲む。

 午後11時30分。帰宅。
『出版社と書店はいかにして消えていくか』(小田光雄・ぱる出版)
を読む。
 何だか終戦直後の日本について書かれた本を読むような気分にな
ってしまう。ああ、本当に消えて行くんだなあ。
 この問題について、やっぱり出版社の現場にいる人たちは、そう
いう危機感がまったくないそうだ。
 ゲーム業界もまったくおなじだ。
 ゲームもいっしょに消えて行くんだろうなあ…。


7月3日(土)


 午前中、ひさしぶりに遠出しようと思ったけど、やっぱり雨。
 ここ数年空梅雨だったイメージがあるけど、今年はしっかり梅雨
を満喫の日々だな。

 午後1時。近所のフランス料理屋さん「ENO」に行く。
「ENO」はそのまま「えの」と呼ぶそうだ。いやだね〜。貧乏神
えのクンとおなじ名前っていうのは。わっはっは。
 ちょうど晴れ間が出たから、秩父宮ラグビー場に向かって歩いて
行ったのに、雨が降ってきたので、「ええい、ここでいいや!」と
言って入ったのが、「ENO」って、ちょっと気になるよねえ。

 でも味のほうは、なかなかのもので、値段も安くて美味しい。
 オプションで無塩バターというのを注文できるので「これって美
味しい?」と若いお兄ちゃんに聞くと、間髪入れず「おいしーです
よー!」と、自信に満ちた返事。
 この返事が気に入ったので、注文する。
 これが本当に美味しい。何回もパンを追加してしまった。
 私は前菜が、にんにく風味きのこのスープ。主菜が牛フィレ肉の
粒マスターソース。
 どちらも強打者ではないが、いかにも一番打者・二塁手といった
感じの美味しさ。
 これはまた今後何回も来るお店になりそうだ。
 そのうちえのクンと来ることになりそうな気がする。
 おっと、忘れちゃいけない。デザートの蜂蜜のアイスクリームが
美味しかったあ! グルメ・バカ娘に知られたら、毎日でも来たい
と言い出しそうな、ちょこざいな味だ。
 ふっふっふ。グルメ・バカ娘がいなくてよかった。

 午後3時。食後、散歩するつもりだったが、雨が激しいので、そ
のまま帰る。
 本を読みながら、仮眠。

 午後6時30分。家族で、銀座の「さか田」に行く。
 今週、ハドソンの梶野くんといっしょに、この「さか田」で讃岐
うどんを食べたと言ったら、次の日から、毎日「さか田に行きた
い!」「さか田に連れて行ってくれなかった」とうるさい。
 連れて行こうにも、学校行ってる時間だろうが!

 というわけで、夜の「さか田」は初めて!
 念願だった夜だけのメニュー品を注文しまくる。
 豚ロースのすだちじょうゆ、竹ちくわ、たこのやわらか揚げ、塩
焼き豆腐、鳴門わかめのぬるぬるサラダ、さらにおなじみ。生しょ
うゆうどん。
 これをグルメ・バカ娘が『風の谷のナウシカ』の王蟲(オーム)
のようにばくばく食べる! すっかり豚田ヒカル!
 例によって、おじさんが必死に走って持って来た料理を瞬時にし
て食べるものだから、途中、徳島のしょうゆ豆をサービスしてくれ
た。これがまたうまい! 甘い空豆、ちょっとだけ醤油風味。
 空豆って好きだなあ。

 さすがにグルメ・バカ娘は、最後の冷しゃぶうどんが苦しくなっ
て、ひーひー言い出す。
 もうダメといいながら、それでも食べる。
 カツオ風味がきいた美味しいうどんだ。
「ぐえ〜〜〜」とか言いながら、それでも食べる。
 この娘の食い物に対する執念はどこから生まれたものなのだろ
う? わからない…。
 私のように貧乏時代があったわけでもないのに。
 
 午後7時30分。帰りかけると、もう元気で「不二家に寄ろう!」
と言い出す。私も不二家という単語には滅法弱いので、つい乗って
しまう。
 ちょうど、ポコちゃんのきせかえセットがもらえるキャンペーン
が始まったばかりではないか!
 わずか5000円で(高いだろーがー!)、フィギュアがもらえ
るのだぞ! それっ、者ども、かかれ!
 我が家に伝わる兵法、不二家のフィギュアのためなら、何でも買
っていいぞ!命令が出る。
 グルメ・バカ娘が各種アイスクリームをカゴに入れまくる。
 私が不二家グッズを買いまくる!
「がっちり買いましょう!」のさて、お値段は?
 4250円!
 くそ〜〜〜、750円足りない!
 すかさずグルメ・バカ娘が、「ホールケーキの3号を買えば?」
とアシスト! すかさず私がキ〜〜〜〜〜ック!
 このホールケーキは、家族の誕生日以外買わないお触れが出てい
るのだが、今は緊急事態! 
 わっはっは。一石二鳥とは、このことだ。

 午後8時。帰宅。
 これから不二家のケーキを食べて、あとは鍼灸師の弓削くんを待
つのだ! わっはっは。さらばじゃ!


7月4日(日)


 むひょ〜〜〜! きょうも雨だと思い込んで、すっかり午前中ご
ろごろとTVを見てしまった。
 でも私よりすごいのは、グルメ・バカ娘。
 お昼になろうとしているのに、まったく起きて来ない。
 起こそうとしても、起きる気配、ま〜〜ったく無し。
 たまにこういうことがあるのだ、こいつは。マニア向けにたとえ
ると『サイボーグ009』の001と、うちの娘を呼んでいる。
 仕方が無いので、嫁とふたりででかけることに。
 あとから聞いた話によれば、グルメ・バカ娘が起きて来たのは、
午後4時すぎだったそうである。豪傑さんだ。

 午後12時30分。代官山のオープンカフェ「カフェアルト・フ
ァゴス」に行く。
 明日のTBSラジオ『有限会社 桃太郎商店』を聴く予定の人は、
きょうの私と嫁の行動を知っておくと、非常に笑えます。
 代官山のオープンカフェに行ったということをまず暗記しておい
てください。
 クック・ファゴスとかいう、ピザトーストみたいなパンを食べる。
 このオープンカフェに座ったあたりから、陽射しが海の浜辺にい
るぐらい強くなって、じりじり暑い。ときどきくらっとなる。
 食後、駒沢公園に向かう。  これも明日TBSラジオ『有限会社 桃太郎商店』を聴く予定の 人は、よ〜く覚えておいてね。  でもって、明日聴いたら、この日記の意味がこういうことだった のかあ!という感想をぜひ『ほんのチョイ係』のほうに送ってね。  駒沢公園のオープンカフェを探すのだが、なかなか見つからない。  あった! でもこのオープンカフェって、アンティーク家具もい っしょに売ってるぞ〜。アンティーク家具と、アリtoキリギリス の石塚義之くんのイメージが結びつかないなあ。  はい、また、ここがヒントね。  石塚義之くんと、オープンカフェ。  これがキーワードね。このキーワードを覚えておくと、ただでさ えおもしろい番組を、さらにおもしろく聴くことができます。  明日の番組の冒頭で、私は「最近オープンカフェ飽きてきた」と わざと言っています。これも要チェックね。はっはっは。  はい。ここまでが番組がらみネタね。    午後1時30分。駒沢公園を散歩する。  どんどん陽射しが強くなって行くので、ローラーブレイドをやっ ているお兄ちゃんたちを見ているうちに、ぼ〜〜〜としてくる。  元デブとしては、暑さにはムチャクチャ弱い。    午後2時。駒沢公園の前のベーカリーレストラン「サンマルク」 に行く。  このところストレスが貯まりっぱなしなので、どうしても甘い物 がほしくなっている。そういうときに、メニューを見ると「おしゃ べりコース」という、甘い物フルコースが写真に写っている。  つい注文してしまう。  なんとブランマンジェ+ティラミス+オレンジ・ホットスフレに、 コーヒーというセットだ。ひさしぶりの甘い物オンパレードに興奮 して、ものすごい勢いで食べてしまう。  嫁に「そんなに急いで食べなくてもいいのに」と言われて初めて、 そのスピードに気がついた。  何に対して、そんなにあせっていたんだろう?    このお店は、古いタイルがいっぱい貼られていて、けっこう高級 感もあって、気に入った。とくに男性用トイレは写真に撮りたかっ たぐらい、おしゃれ。また来てもいいな。  午後3時30分。原宿に戻る。  竹下通りは、文化祭初日みたいに人、人、また人!  ディス・イズ・原宿というぐらい大混雑していて、ちっとも前に 進めない。  途中横道にそれて、「TIN TIN」ショップに寄って行く。  ここのデザインが好きでよくTシャツとか買っている。  きょうもつかえるかどうかよくわからないのに、バッグを衝動買 いしてしまった。  午後4時。美容院「ヘアストリート」に行く。  何カ月ぶりかで、社長の鈴木さんに会う。  最近どんどんTVに出始めているようで、CMのうしろのほうに 出たり、TVドラマ出演の話が来ているようだ。  私は「この人売れますよ!」というのを当てる名人と言われてい るけど、この人の火の付き方の速さは驚きだ。  このところスーパー美容師が注目されているせいもあるんだろう なあ。  また私と知り合うと、バカ当たりするという神話の新たな1ペー ジが書き加えられそうである。  午後6時30分。帰宅。  家で「那覇そば」を食べる。昼間甘い物を食べ過ぎてしまったの で、カロリー調整。最近じりじりっと体重が微増している。  なんとかこの辺で食い止めないと。  食後、『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書作り。  かなり手応えが感じられる出来になりつつあって、うれしい。  そうだ、業務連絡!  海月神さん! そろそろ結婚相手イラストの描き直し分を送って くださ〜い。ソフトハウスさんに渡す時期が近づいて来ている。  おっ、結婚相手イラストといえば、この日記の8万ヒットがもう すぐ…じゃなくてもう達成されたのか、早い!


7月5日(月)


 午後12時。臨海副都心「青海(あおみ)」駅に行く。
 観覧車でおなじみのパレットタウンとかいうところ。
 私が行きたいのは、トヨタシティショウケースってところ。
 ショウケースと言ったって、およそ東京ドーム2個分ぐらいの広
さがある。
 どうにもお台場というのは、広すぎて、いろんなところをハシゴ
できない。ひとつの駅を決めたら、そこで楽しんで帰るしかない。

 きょうはひとりで来たので、まず中のレストランで腹ごしらえ。
 ストレス太り抑制中につき、ミックスサンドにコーヒー。
 まずい。いかにも冷蔵庫で冷やしてあったようなサンドイッチで、
かえってよけい腹が減ったぐらいだ。
 接客サービスはかなり高得点だっただけに、惜しい!

 トヨタシティショウケースのなかのヒストリーガレージというと
ころに行く。ここひとつでも十分、町の大きな博物館並みの広さで
ある。
 しかもここに行くまでが遠い、遠い。
 1Hあったんじゃないだろうか?

 ここには内外の古い自動車が数多く展示されている。
 私は『桃太郎電鉄』のせいで、電車マニア思われがちだが、マニ
ア度から言ったら、圧倒的に自動車マニアである。
 親父が日産自動車(旧・プリンス自動車の出身)だったせいもあ
って、子どもの頃から、自動車の本ばかり読んでいた。
 しかもカーデザイナーになるのが夢であった。

 ちなみに20歳で免許を取ってから乗っていた車といえば、コロ
ナ・マーク2、スカイライン2000GTX、ブルーバード510
といったところである。
 マニアの人ならちょっと「にやっ」とはするだろう。
 そんなわけで、古い車が展示してあると知ると、つい居ても立っ
てもいられなくなる。
 ベンツ、アルファロメオ、ジャガーEタイプ、フィアット850、
キャディラック…。昔欲しかった車ばかりである。
 しかもえらいのはトヨタのパビリオンなのに、他社の古い車も展
示していることだ。日産からはスカイラインGTRが展示されてあ
った。
 そしてお目当ては、私が一番好きだったトヨタ2000GTであ
る。以前本気でこの車が買いたくて、中古車ショーに行ったことが
ある。
 しかし値札の1600万円の数字に、3分間ほど呆然と立ち尽く
した。嫁の「そんなに欲しければ買えば?」の声で、ようやく正気
に返ったほどである。

 あった! あった! トヨタ2000GT!
 映画『007』にもつかわれたこともあるんだぞ!と、子どもみ
たいな自慢をしながら車に近づく。
 きれいにレストアされてるなあ。ピッカピカだ。
 このヒストリーガレージがうれしいのは、ほとんどの車を走らせ
ることは無理だけど、運転席に乗り込むことができることだ。
 ってことは、うおおおおおっ。ついに夢のトヨタ2000GTの
運転席に座ることができるんだ!

 っと思ったが、世の中そんなに甘くない。この車だけ「お手を触
れないでください」のシールがべっとり貼ってある。
 やっぱりなあ!
 何たって、1600(いっせんろっぴゃく)万円だからなあ。
 くやしいからドアのウインドウにべ〜〜〜ったり顔をくっつけて、
運転席をのぞき込む。左ハンドルだ。すげー! 輸出仕様だ! か
っけー!
 おいおい、子どもに戻ってるぞ!

 気が動転して、ついありがちな「自動車といっしょに写真を写し
ませんか?」のボックスに入ってしまう。
 何たって、700円でトヨタ2000GTと写れるのだ。
 ちょっと恥ずかしかったが、ひとりでボックスに入って、写る。
 写真を見てもらうとわかるかもしれないが、私はわざわざ身体を
思いきり隅っこに追いやって、トヨタ2000GTが全部写るよう
に工夫しているのである。
 バカだね〜〜〜。
 その証拠に、目線がやや下に行っている。
 午後1時。EbCOMライトステーションとかいう、電気自動車 みたいなものを、200円出して乗る。  解説書によれば、自動運転方式の未来型短距離交通システムとあ る。よくわからない。  遊園地を一周する蒸気機関車が、電気自動車になっようなものだ。  自動運転してくれるから、何の感動も無い。  でも、このヒストリーガレージから、トヨタシティショウケース の入り口までは、1H近くあるから、この「自動自動車」? 変な 言い方だな。自動で動く車じゃ、自動車じゃないか!  とにかくこのエコ・カーは楽チンである。  しかしこういうものはカップルで乗るもので、中年のおっさんが ひとりで乗っていると、珍しいのか、道行く人にじろじろ見られる。 まるでリストラされたサラリーマンが、会社を首になったことを家 族に言えなくて、こんなところで時間つぶしをしているみたいだ。    まあ、ひとりでちょっとわびしかったけど、十分楽しいところだ、 ここは。グルメ・バカ娘を連れて来ると、笑えるようなものがたく さんある。もう一度来よう…実は娘を出汁につかおうと思っている。  男はいつまでも子どもだ。  午後1時30分。青海駅からゆりかもめで、新橋に向かう。  そういえばレインボーブリッジのそばに、『雷波少年』の「熱狂 的巨人ファンVS阪神ファン」のテントがあるって聞いていたけど、 見あたらないなあ。  ここかな、あそこかな。  もうすぐ新橋駅に着いてしまう。何だ見つからなかっ…、あっ!  あれは! あれはまさしく! ふたつ並んだテント!  見つからないわけだ。ゆりかもめの新橋駅の真下にあるじゃない か! これは盲点だった!  まさかこんな近くにあるとは想像つかないもんなあ。  駅に着いて、ひょっとしたらプラットホームに向かう階段の踊り 場あたりから、テントが見えるんじゃないかと、のぞき込むと、あ あ! なんと窓の真下に『電波少年』の「ハルマゲドン2」のシェ ルターが埋まっているではないか!  一昨日特番の『雷電為右衛門』で見たばかりだ。  そしてそのすぐ向こうに「熱狂的巨人ファンVS阪神ファン」の テントが!  まさか、ふたつ並んでいたとは!!  まるで金田一耕助が、ページの最後であわてて次々にトリックを 解説してるみたいだ! 「ハルマゲドン2」はTVで見ていると、すごく広いところに見え ていたけど、現場で見ると、25メートル・プールぐらいの広さし かない。しかしTVっていうのは、いつもうまいアングルで撮影す るもんだなあ! ちょっとズレれば毎回通勤客が映ってしまうとこ ろだったんだ。  たいしたもんだ、映像の力というものは。  午後3時。帰宅。  午後3時30分。新人漫画家の汐崎隼さんが来る。  今月末か、来月から始まるデジタル・マガジンの打ち合わせ。 『チョコバナナ』で連載していた戦闘機漫画『SIDE WINDER』を もう一度最初から描き直して、連載にしようという計画。  そうそう。デジタル・マガジン発刊の暁には、もう元『チョコバ ナナ』の投稿者もプロの扱いをする。だからきょうから漫画家志望 の汐崎隼さんではなく、新人漫画家の汐崎隼さんと表記することに する。  お仕事あったら、紹介してください、業界の皆様。  ほかにもいい娘がたくさんいまっせ。へっへっへ!  午後4時。新人漫画家のくらげ13号さんが来る。  こっちは『当方見聞録』でおなじみの「沖縄シリーズ」の連載化 の打ち合わせ。  午後5時。読売広告の岩崎誠が来る。  イラストレーターの高内優向さんが来る。  岩崎誠が高内優向さんに発注していた、あるキャラ・デザインの 仕事に対して、私と岩崎誠のツープラトンで、盛大にボツを食らわ せる! はい、やり直し!  プロの世界は厳しいぞ!  引き続き、高内優向さんがデザインした『さくま式人生ゲーム2 (仮)』のなかに入る予定の『怪物パラ☆ダイス2(仮)』のモン スター・デザインを見る。  およよ。困った。  先週あたり、『さくま式人生ゲーム2(仮)』のメインMAPが 相当な規模になったから、『怪物パラ☆ダイス2(仮)』は中止し ようと思ったのだが、きょうのデザインが相当いいので、気持ちが ぐらつく。  いい絵は、ゲーム作家を触発してくれるものだ。  う〜ん。この出来は、1本のゲームとして発売したほうがもっと いいような気もするなあ。ゲームボーイ向きだ。  うれしい誤算だが、困ったなあ。    午後5時30分。新人漫画家の秋月涼さんが来る。  デジタル・マガジンに載る読み切り漫画の打ち合わせ。  午後7時30分。私、嫁、グルメ・バカ娘、汐崎隼さん、くらげ 13号さん、高内優向さん、秋月涼さんの7人で、お好み焼きの「さ くら亭」に行く。  グルメ・バカ娘がまたしても、壁に書いてある「そばめし」の文 字を見つけて「食べたい! 美味しい気がする!」と叫ぶ。  焼きそばの麺に、白いご飯が入っていて、それをかき混ぜて、鉄 板の上で炒める。  これが本当に美味しい!  塩、胡椒に、醤油というのがまた香ばしくて、チープな味だけど、 郷愁を誘う匂いがたまらない。  けっきょく、最後にもう1人前「そばめし」を注文してしまうく らい美味しかった。  これはまたごひいきメニューの一品になりそうである。  午後8時30分。そのまま「カフェ・ヴァジー」へ移動。  ここでもグルメ・バカ娘最近のイチ押し「エスプレッソ・アイス」 をみんなで注文して食べる。  アイスクリームの上にコーヒーのエスプレッソをかけるんだけど、 これが甘さとにがさのみごとなハーモニーってやつで美味しい。  アイスクリームの玉が3個もあるんだから、グルメ・バカ娘と半 分こにして食べようと提案したのだが、どうしても自分で1人前食 べると言って聞かない。  そのくらい美味しいのだ。  グルメ・バカ娘は本当に美味しいときは、親の命令も聞かない。  午後10時。親戚のおばさんから、私の子ども時代の写真が届い ていた。おっ! これなら『さくまあきらバラエティ・ブック(仮)』 につかえるぞ!  へ〜。私は子どもの頃、こんな顔をしていたんだ。  ついに初めて明かされる私の幼少時代ってやつだな。  まるで他人事のように楽しみだ。


7月6日(火)


 午前中、『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書作り。
 調子が出ない。明日会議なのになあ。
 一気に明日までに完成させる予定だったんだけど、難しくなって
来た。どうもゲームは最近…。 

 午前11時30分。原宿駅。私の実姉と待ち合わせ。
 嫁、私、実姉の3人で、天現寺のフランス料理屋さん「プティ・
ポワン」に行く。
 もう「プティ・ポワン」と言えば、北岡さんのお店とわかる人が
多いぐらい、この日記ではおなじみである。
 このお店に食い道楽の姉を連れて来ていなかったことが頭に残っ
ていた。京都ではしょっちゅう姉と会っているので、どうも東京で
会う機会が少ない。
 姉が横浜に住んでいるせいもあるが。

 さすがに、平日なので、グルメ・バカ娘がいないと思ってるでし
ょ、みなさん! まだまだみなさん、グルメ・バカ娘の本当の恐ろ
しさをわかってないね〜。
 きょうのこういうときにかぎって、娘は期末テストで、3時限で
終わりなのである。
 どうしてこうも食べ物運がいいんだろうねえ。
 でもさすがにきょうは、学校から原宿の家に戻る着く頃には、午
後12時をはるかに過ぎてしまう。
 待ち合わせの原宿駅には間に合わなかったのである。

 ところが、ところが!
 グルメ・バカ娘は方向音痴のくせに、「プティ・ポワン」に行く
とわかるや、セーラー服のまま、学校から「プティ・ポワン」に直
行という荒技に出た!
 途中、タクシーまでつかって!
 着いた先の歩道橋で、まわりを必死に見渡して、見慣れた景色を
探し出したそうである。
 そしてまんまと午後12時15分。
 私たちが到着したわずか2〜3分後、息を切らしてお店に入って
来た!
 ねっ! 恐ろしいガキでしょ? そういうやつなんですよ。
 でもロンドンの首都は、ヨーロッパと答えるアホなんですよ。

 料理のほうは、姉の好きな帆立貝も出て、大喜び。
 さらにデザートが、見る目も美しいので、びっくり!
 グルメ・バカ娘曰く「美味しいお店はデザートも美味しい」の典
型である。
 姉と私は、キャラメルをつかったデザートが大好き。
「歯が抜ける! 歯が抜ける!」と言いながら、うれしそうに食べ
る。 
 きょうはランチだからいつもより量が少なかったはずなのに、ま たしてもお腹がいっぱいで苦しくなる。    少し歩いて行こうと、広尾ガーデンを散歩。  スーパーの明治屋に寄る。  このスーパーは芸能人が出没することが多いことでも有名で、品 揃いがいい。見ているだけで楽しくなる。 「お腹が苦しいよ〜!」と言いながら、グルメ・バカ娘はやっぱり とうもろこしを買っている! おまえの胃袋は一体どうなっている んだ!?  午後3時。帰宅。  きょう実姉を「プティ・ポワン」に連れて行ったのは、今度の『さ くまあきらバラエティ・ブック(仮)』の生い立ち写真館用の写真 を持ってきてもらったお礼。  家で写真を見て、姉と昔話。  生まれて初めて1センチ四方程度の、実母の顔を見る。  しかしそれも遺影である。  悲しいかな。嫁はくっきり私の実母の顔の輪郭までわかるようだ が、私は老眼がひどいので、ぼやけてよくわからない。  実の母親の写真を初めて見るのに、老眼で見えないなんて悲しい ねえ。ちょっと滑稽な気もするけど。  これでも実母の顔を初めて見たってことになるのかなあ?    それにしても初めて見る自分の子どもの頃の写真というのは、け っこう楽しい。  どうせなら、今度の本には、私の年表も入れようという気になっ て来た。なにしろ私は作品年表というものを作ったことがない。  実は今、年表を作ると言ったけど、例のデビュー曲の発売年月日 も知らないのだ。    ここで古くからの私の読者の人にお願い!  月刊アウトでやっていた連載『アウト政府』『月刊さくま』『私 立さくま学園』の連載年月日、何年何月スタートなのかを教えてく ださい。  ついでに幻のデビュー曲『燃えよフトリッパー』の発売日も教え てください。  ニッポン放送で、土居ちゃん(土居孝幸)、えのクン、私の3人 でやってた『アタック北斗の拳』のスタート時期も教えてほしいな あ!   スペクトラムの作詞をしたのいつなんだろう?  アニメ『桃太郎伝説』の放送開始年月日は?  アニメ『あげだま』は?   ゲームにしても、桃太郎シリーズだけは、プロスペックの江口貴 博くんのおかげでわかっているんだけど、ほかのゲームはさっぱり わからない。  私は作品を作ることは大好きなんだけど、その作品がいつの作品 なのかということにまったく興味が無いまま、ずっとここまで来て しまった。  怒涛の20数年だったので、完全年表などというものを作るヒマ すらなかったせいもあるんだけどねえ。  それにしても無頓着である。  でもこのままだと本当に、こういうまとめをしないまま人生が終 わってしまいそうなので、とにかく私の作品に関する年月日をいく つでも教えてください。  って、まるで記憶喪失の人の公開捜査みたいだなあ。  市民の皆様、ぜひ協力してくださいね。  午後5時。レイアウターの野澤ちゃんが来る。  デジタル・マガジンの打ち合わせ。  渡空燕丸さんの新連載『つばくら草紙』のロゴタイプも出来上が って来た。うれしいなあ!  デジタルだろうが何だろうが、雑誌の創刊号ぐらいうれしいもの はない!  午後7時。お昼の「プティ・ポワン」のせいで、まだお腹がいっ ぱいで、みんな動けない。  カプコンのゲーム『ディノ・クライシス』を見る。  グルメ・バカ娘の操作がヘタなので、なかなか先に進めない。  やっぱりゲームは宮路一昭くんにやってもらうのが一番いいだろ うなあ。どうせもうクリアしてるんだろうなあ。  午後8時。姉、私、嫁、グルメ・バカ娘の4人で、麻布十番の「紅 虎餃子房(べにとらぎょうざぼう)」へ行く。  グルメ・バカ娘はこのお店は初めて。  最近私と嫁はこのお店をかなり気に入っている。  きょうも棒状の餃子を何種類か頼み、最後は美味しい杏仁豆腐。  味にうるさいグルメ・バカ娘も、最後の杏仁豆腐に高い評価を下 す。ここも何度も行くお店になるだろうなあ。  午後10時。帰宅。  こまかい仕事をこなして、就寝の予定。


7月7日(水)


 午前11時。三軒茶屋の世田谷警察署に行く。
 別に悪いことをしたわけではない。
 免許の更新だ。
 代書屋さんで申請書を作って、証紙を買って、視力検査をして写
真撮影と順調に進んだところで、やり手ババア風のおばちゃんに、
まんまと手が不自由なことがバレて、一悶着(ひともんちゃく)。
 手を挙げたり、足を動かしたりして、なんとかクリア。

 別にごまかしてまで免許が欲しいというわけではない。
 どっちみちもう20年近く乗っていない。
 近い将来も乗るつもりもない。
 身分証明書として便利なだけだ、免許書は。
 条件つきとかで、もう一度来ないといけないとかを回避したかっ
ただけ。

 午後12時。三宿(みしゅく)に行く。道沿いにいいお店が多い
と必ず雑誌に書いてあるけど、どこも興味が湧かない。
 デニーズとジョナサンのほうが魅力的だ。
 だらだらと歩いてとうとう、サザンオールスターズのカズ坊(関
口和之)の家の近くのお店にたどり着く。
 以前カズ坊(関口和之)と食べて美味しかったので、ここにしよ
うと思ったら、貸し切り! ふんぎゃあ!
 20分以上歩きっぱなしで、もう動けねーだよ。

 午後12時30分。原宿に戻り、家の近所の「そら豆」というお
店に入る。ランチメニューのステーキ丼。
 十分美味しいお店だけど、口のおごった私の味覚を唸らすのは難
しい。

 午後1時。帰宅。家の並びの喫茶店「らぴす」サンでお茶を飲む。
 午後2時。宮路一昭くん、土居ちゃん(土居孝幸)、タカラの高
田さん、放送作家の福本岳史くん、ヴィアール・ワンの本山博敏さ
ん、荒堀明弘くんが来る。
『さくま式人生ゲーム2(仮)』の打ち合わせ。
 私の原稿がけっこう遅れていて申し訳ないのだが、出来上がった
ところまでの原稿を渡し、いよいよ細かいところの打ち合わせに入
る。ほぼ80%近く完成していて、あとはもうひとアイデア、ひと
手間かけるところだけなので、このままもう作業に入るのは可能な
のだ。
 ただここからのひと手間、演出の妙味がゲームのおもしろさを大
きく左右してしまう。
 プログラム担当のヴィアール・ワンさん(人の名前みたいだなあ。
会社名なんだな)が、いろいろアイデアを出してくれるので、私の
負けず嫌い魂を大いに刺激してくれる。

 午後8時30分。土居ちゃん(土居孝幸)、宮路一昭くん、嫁、
私、グルメ・バカ娘の5人でおなじみ西麻布の「内儀屋(かみや)」
へ行く。
 土居ちゃん(土居孝幸)がこのお店の味がお気に入り。
 しっかり土居ちゃんだけ、ご飯をお代わり。
 デブはやっぱり白いご飯が好き!

 午後9時。土居ちゃん(土居孝幸)、宮路一昭くんの3人で、西
麻布の喫茶店でいろいろ今後の打ち合わせ。

 私がカフェ・スーとかいうベトナムのミルクコーヒーとかいう飲
み物を注文したので、ちょっとした騒ぎに。
 真鍮(しんちゅう)のドリップみたいなのが付いていて、お湯を
入れるのはコーヒーとおなじなのだが、最初から器のほうの底に、
コンデンスミルクみたいなものが沈殿していて、どうもお湯の量で
その甘さを調節するらしい。
 最初お湯を入れて、上澄みを飲み、さらにお湯を加えて、2度飲
むのだろう。
 何度もお店の人に入れ方を聞きながら飲む。
 
 まったくこの界隈のお店はいつも新しいメニューをどこかからか
探し出してくるものだ。
 クリエイターたるもの常に新しい物を吸収し続けないといけない
と思う。
 
 午後10時30分。帰宅。
「さくまあきら年表」作成の準備を始める。
 昭和世相史も入れようと思って、嫁にインターネットで調べても
らっていたのだが、昭和20年代の人がインターネットをほとんど
やっていないので、いろいろなデータはすべて昭和30年からのも
のしかないそうだ。
 私は昭和27年生まれ。
 確実に、私は古い人のほうの部類に入ってしまっている。
 しかし作品年表を作るのは大変そうだ。
 どうしてこういつも面倒なことばかり浮かんでしまうのだろう。
 でも完成したらおもしろそうだ。
 これがいけないんだ。堂々めぐりの夜。
 


7月8日(木)


 午前11時。嫁と新宿「航海屋ラーメン」で、清流麺。
 食後、嫁はデパートへ。
 私はふと思い立って、バッティングセンターへ行く。
 まだ左が不自由なので、とてもバットなど振れないと思うのが、
野球少年だった私としては、バットをちゃんと振れるようになって
初めて、完治!のイメージがあるので、とにかく今の自分の病気の
状態がどのくらいなのか知りたかった。

 90Hのスローボールのゲージに入る。
 うわっ。なつかしいなあ。金属バットのこの感触。
 300円を入れて、かまえる。
 おっとっと。左脇が締まらないよ〜。うわ〜、もうボールが来て
しまう! キン!
 おおっ! おおっ! 当たったよ! 当たった、当たった!
 打てた、打てた、打てた! 片手っぽかったけど、打てた!
 こんなにうれしいと思わなかった。
 じ〜〜〜〜ん…。早いよ。もう次の球が来た。
 キン! うれしい。また当たった!

 20球ぐらい打って、もう身体へろへろ。
 左手がもうちょいだなあ。バットに手を添えることはできるんだ
けど、うまく返すことができないなあ。片手打ちに近くなる。
 左手のほうも、必死に打ちたくて、もどかしそうなのがわかる。
 足は十分踏ん張れて、これはほとんど完治と言っていいな。まだ
スリッパはけないけど。
 まあ、満足でバッティングセンターをあとにする。
 今後1カ月に1度くらい来て、リハビリの成果を確かめたいな。

 たまにはゲームセンターにも寄らないと、新宿のゲームセンター
を覗く。ドラムを叩くゲームがあるのが笑えた。
 いかにもドラムやってそうな太ったお兄ちゃんが嬉々として、華
麗なるスティック捌きを見せていた。
 いろんなヒーローのなり方があるもんだなあ。
 ギターをベンベンやるやつに、まったくお客さんがいない。
 そりゃそうだろー。弦が無いんだから。
 自慢できないやつは流行らないよなあ。

 午後1時30分。帰宅。
『さくまあきら完全年表』の作成。
 あれ? 年号と年齢が合わないぞ〜。どうもこの計算が苦手なの
だ。小学校上がるときは、5歳? 6歳?

 午後2時30分。ビー・アール・サーカス出版の新見知明さんが
来る。
 午後3時。嫁と新見知明さんと私の3人で、なぜかいつもの美容
室「ヘアストリート」に行く。
 社長の鈴木勝裕さんに、新見知明さんを紹介する。
 鈴木勝裕さんの生き様は、本になりやすいなあと思っていたのだ。
 それにしても、この人は当たるという予言は得意なほうなのだが、
会って聞くたびに、どんどんブームの波が押し寄せているのがわか
って楽しい。
 当たっている人に会うより、当たる寸前の人に会うのが、何より
大好きだ。
 そのうち大ブレイクするから、名前だけでも覚えておくと、「あ
あ! あのときの人だ!」と叫ぶことができるよ。しまった。おも
しろい話に熱中して、写真撮ってくるの忘れた。

 午後5時。帰宅。
 再び『さくまあきら完全年表』の作成。
 高校出て、1年浪人して、出るとき、1年留年してるから、昭和
何年卒業なのか、さっぱりわからなくなって来る。
 歴史好きのくせして、自分の歴史にとんと興味が無いことに気が
ついて大笑いだ。

 午後7時。さてさてきょうは『さくまあきらバラエティ・ブック
(仮)』のグルメ部分の取材。
 対談で構成することになっている。
 お相手はもちろん、グルメの師匠・すぎやまこういち先生を置い
てほかにいない。
 対談の場所は、もちろん青山「穂積」。
 ビー・アール・サーカス出版の新見知明さん、森澤明夫さん、カ
メラマンの浅野豊親さん。
 すぎやまこういち先生ご夫妻、嫁、グルメ・バカ娘の総勢8名。

 この日記を読んでいても、あまり知られていない、すぎやまこう
いち先生と私の出会いから始まって、すぎやまこういち先生がいか
に食い道楽の道を突き進んできたかという話が中心。
 いつも食べ物の話ばかりしていて、すぎやまこういち先生の生い
立ちについてじっくりお聞きしたことがなかったことに気がつく。
 親子三代続いたグルメの家系というのは、なかなか興味深かった。
 近藤進さんという、すぎやまこういち先生を上回るようなグルメ
だった人の話もおもしろい。
 
 対談をしながら、雑談をしていたら、とんでもない事実が判明し
た。…といっても、興奮したのは、私とビー・アール・サーカス出
版の新見知明さんの2人だけなんだけどね。
 あまりにもレアな確率なので、関係無い人にはちっともおもしろ
くないんだけど、話させて!

 どういう話かというと、すぎやまこういち先生ご夫妻とごいっし
ょさせていただく次の旅行は、ほぼ伊賀上野と決まっている。
 きょうもそういう話になったとき、ビー・アール・サーカス出版
の新見知明さんが「私も伊賀上野が好きです」と言い出した。
 もちろん旅好きな人なら、静かできれいな町だから「意見が合い
ますねえ」程度で終わるものだ。
 ところが新見知明さんが、伊賀上野に行くようになったきっかけ
は、西岡たかしサンという歌手の『上野町(うえのまち)』を聴い
てからだというではないか!
 ま、ま、まさか! 
 私もなのだ!
 西岡たかしサンという人は『遠い世界』という音楽の教科書にも
載るようなヒット曲を持っている人だけど、その『上野町』という
曲はそんなにヒットした曲ではないのだ。
 まさか、おなじ曲を聴いて、おなじように何度も伊賀上野を訪れ
るようになった人がいたなんて! しかも目の前に。
 こんなびっくりしたことはない。
 新見知明さんも『上野町』を聴いて、何度も伊賀上野を訪れるよ
うになったのは、日本で自分ただひとりだと思っていたそうだ。
 私もだ。
 こういう偶然ってあるんだなあ。

 対談のほうは、料理の話なので、いつも通り楽しい話題。
 すぎやまこういち先生がお椀の中身の、トロっとした切れ端を、
鯨、しかもシロナガスクジラのものだと当てて、お店の人を驚かす。
 さすが師匠である。
 私なんぞ生麩だと思っていた。

 午後11時。すぎやまこういち先生ご夫妻もビー・アール・サー
カス出版の人たちと話が合ってしまったせいか、会話が止まらなく
なって、とうとうこんな時間になってしまった。
 お店の人にみんなで「こんなに遅くまで申し訳ございませんでし
た!」と言って、お店を出る。

 この対談の様子は、ぜひ年末発売の本で見てね!
 私は「完全年表」を作成しなきゃ。
 


7月9日(金)


 午前10時。渋谷で嫁と待ち合わせ。
 嫁がスポーツジムに通い始めたからだ。

 東急百貨店前の本屋さん「ブックファースト」1F。喫茶店「ラ・
メゾン」で、サンドイッチにコーヒー。
 食後、本を大量に購入。旅の本は重い。

 午後1時。私だけ帰宅。さくまあきら完全年表の作成。自分の歴
史と世相を組み込んで、さらに影響を受けた人や本の名前も書き込
んでみた。これはけっこう楽しい。

 午後2時。『月刊コインジャーナル』の取材。
 編集の加古さんが『ジャンプ放送局』の大ファンで、この日記も
ずっと読んでくれている人だったので、インタビューが的を得てい
て、すごくしゃべりやすかった。
 
 午後4時。元『チョコバナナ』投稿者、いや新人漫画家の吉野桜
風さん、藤川かつらサン、汐崎隼さんが来る。
 きょうはこれから3人とも業界人宴会に参加させる。
 もう新人漫画家として、どんどん業界の人と会って、何もしゃべ
れなければ消えて行くといった厳しい場所に、みんなを放り込んで
いく。かわいい子にどんどん旅をさせるぞ!

 午後5時30分。3人を連れて、銀座の讃岐うどん屋「さか田」
に向かう。
 嫁から電話が入って、すぎやまこういち先生ご夫妻が「さか田」
の場所がわからなくて迷っているとの連絡。
 はっはっは。またしてもすぎやまこういち先生ご夫妻のお茶目攻
撃だ! 電話するとやっぱり「黙って行って驚かそうと思ったんだ
けど、迷っちゃった」。
 横でこの会話を聞いてる3人の背筋がピンと伸びて、顔がこわば
っているのが見えておもしろい。

 午後6時。無事すぎやまこういち先生ご夫妻と合流できて「さか
田」へ。
 プロスペックの江口貴博くんが到着。おなじみ『レガイア伝説』
の柴尾英令くん、嫁、グルメ・バカ娘、タカラの高田さんも到着。
 みんなお店に入ると、目の前の席にすぎやまこういち先生ご夫妻
が座っているので、「ぎょっ!」とした顔をするので、楽しい。
 みんなうちの日記を見ているので、昨日青山「穂積」で対談の仕
事でごいっしょしてたので、まさかすぎやまこういち先生ご夫妻が
きょう見えられると想像できなかったようだ。
 そういう意味では、十分すぎるほどすぎやまこういち先生ご夫妻
はみんなを驚かせることが出来た。

 さらに宮路一昭くんが到着。お店に一歩足を踏み込んで、立ち止
まっている。すぎやまこういち先生ご夫妻に何度も会っているので、
一番驚いている。

 きょう予定があって、来れなかった弟子の原口一也、ナムコの岸
本好弘さん、ポニーキャニオンの鵜飼泰隆くんたちは、思いきり悔
しがるだろうなあ。

 しかしみんなで讃岐うどんを食べながら、宴会というのは妙な絵
面だ。いっせいに丼をすすっては、業界話をしている。
 案の定、生しょうゆうどんが大好評。
 これからもここをたまり場にしようということに。
 学生時代、ジャズ喫茶をたまり場にするっていうのは、よくあっ
た光景だけど、讃岐うどん屋さんをたまり場にするって発想は笑え
ていい! 
 午後7時。すぎやまこういち先生ご夫妻が帰られる。みんながい っせいに立ってお見送りしたので、今度はすぎやまこういち先生ご 夫妻がびっくりされた。  この風景を見たお店のご主人がもっとびっくりしたそうだ。    午後7時30分、放送作家の福本岳史くんが到着。すぎやまこう いち先生ご夫妻がいらっしゃったことを聞いて、くやしがりまくる。  福本岳史くんが来たので、席替えして、初めて同士の人が会話す る。こういうときもみんな私の日記を熟読してくれているので、私 は名前を教えるだけですむので、本当に楽チン!  業界人を紹介するときって、たくさん仕事をこなしてる人の場合、 紹介するだけで何10分もかかってしまうけど、インターネットの せいで前から会っているような気がするそうだ。  新人漫画家の3人も、頬を緊張させながら、必死にしゃべってい る。よし、よし! こういうことができることが漫画上達の急がば 回れだぞ! 業界人とコミニュケーションが取れない人の作品が、 読者とコミニュケーション取れるわけがない。  このお店がみんな気に入ったので、長居するために、みんなでと にかくおつまみを注文しようということになって、きびなご、四国 の魚練り物盛り合わせ、しょうゆ豆とどんどん注文するので、お店 のご主人が完全に舞い上がって、必死に料理を運ぶさまが最高にお もしろい。  1秒でも早くテーブルに料理を出そうと、死に物狂いで走ってく る。よくTVで見る、電車のジオラマがあって、風船を割らないよ うにするゲームをやっている人のようだ。  午後9時。女の子たちを帰さないといけないので、お店を移る。  方向音痴の汐崎隼さんに、みんなが適当に有楽町線有楽町駅はあ っちだこっちだというものだから、大笑い。  汐崎隼さんが迷子になるさまは、チャップリンの映画のような動 きをするので、大人気を博す。  銀座インズ2Fの飲み屋さん「アメリカーナ」へ移動。メンバー は柴尾英令くん、江口貴博くん、宮路一昭くん、福本岳史くん、嫁、 グルメ・バカ娘。  おいおい! 中学生が何でこんな時間に飲み屋さんにいるんだ?  残ったメンバーのほとんどが喫煙者なので、今度弟子の原口一也 を呼んで、「喫煙オフ会」をやろうという冗談をいう。  原口一也の日記の喫煙嫌煙問題はかなり注目の話題のようだ。  午後10時。さすがに嫁がグルメ・バカ娘を連れて帰る。   午後10時30分。銀座の飲み屋さんは閉店が早い。  午後11時30分。原宿のうちの近所の飲み屋さん「ブルドッグ」 に移る。移る途中で、福本岳史くんがアリtoキリギリスの石塚義 之くんを電話で誘う。ところがちょうど石塚義之くんは、駐車違反 でキップを切れられている最中だという。  芸人として、なんとおいしいタイミングの男なんだろう。  石塚義之くん大ブレイクの音が近づいているような気がする。  グルメ・バカ娘を連れて帰った、嫁も近所なので合流する。  福本岳史くんの食いっぷりのよさが、みんなの評判となる。  若いうちはやっぱり楽しそうに、たくさん食べないとね。  柴尾英令くんがいると、映画、本の話題になるので、買っておか ないといけないものをチェックできていい。  午後1時30分。ここのお店も閉店なので、追い出される。  さすがに私は老齢なのと、近所なので、帰宅。  その後どうなったかは、柴尾英令くんのところの日記で確認しま しょう。さすがに帰ったかな?  でも柴尾英令くんがいるからなあ、などと想像するのもまた楽し。
 


7月10日(土)


 午前11時30分。食い道楽家族は、麻布十番の洋食屋さん「E
DOYA」に行く。
 昨日の「讃岐うどんオフ会」の席で、グルメの師匠・すぎやまこ
ういち先生ご夫妻から、麻布十番の美味しいお店をいろいろお聞き
していたところ、この「EDOYA」の話になって、私と嫁があそ
こは「美味しいかった」というと、グルメ・バカ娘が「私は行った
ことがない、ずるい!」と激怒。
 さっそくこうして行くこととなった。

 まったくグルメ・バカ娘は、試験休みの日程すら忘れるいい加減
なガキのくせして、美味しい食べ物屋さんのことになると、R2b
D2のように、ピロロ、ピロロピッと高速検索機能が付いているよ
うで、よく覚えている。

 さて、まず注文したのは、スペアリブ、冷たいパンプキンスープ、
温かいポタージュスープ、メンチカツ、ビーフのバター焼き、タン
シチュー。
 真っ昼間から、大晩餐会である。

 ところがここで運良く?悪く? お店の人が焼き上がったお持ち
帰り用のミートパイをテーブルの上に並べたものだから、グルメ・
バカ娘の目が「きら〜〜〜ん!」。
「さくちゃ〜〜〜ん!」
 ずっと言い忘れていたが、グルメ・バカ娘は私をこう呼ぶ。
 ほとんど友だちである。
 たまに「お父さま〜〜〜!」とミュージカル風に寄ってくるとき
は必ず私が入っているトイレを開けるとか、いたずら用である。
「さくちゃん、ミートパイ!」
「焼き立てだよ、焼き立てだよ。食べない?」
「オレはいいよ」
「絶対美味しいと思うんだ、ミートパイ!」
「食べりゃいいだろ、おまえだけ」
 いつも通りの儀式があって、グルメ・バカ娘はミートパイも食べ
る。しかも美味しいポタージュスープをグルメ・バカ娘にも味あわ
せてあげようと思って回してあげると、「ぐい〜〜〜〜〜!」と飲
み干して「おいちい!」。
 おいおい、オレの分は!

 終いにはいつも私と嫁がこのお店に来ていて、ずるいと言い出す。
 まだ2回目だよ。
 面倒だから「オレたちはずるいんだよ〜」というと「そうだよ!」
と負けない。

 冗談で「今晩もこの店に来るか?」というと、「ホント?」と目
を輝かせる。
 食い物の話で娘に冗談は通じない。

 食後、すぎやまこういち先生ご夫妻に教わった人形焼きのお店「紀
文堂」で、人形焼きを買う。レジをすませたところで「あっ!」。
 日曜だと、限定の野菜の形をした人形焼きを売っていると教わっ
ていたのに! あ〜、どうしてわが家族は食べ物のことになると、
たった2日間が待てないのだらふ、よよよ…。ああ、君、死にたまふ
ことなかれ!

 さっそく食べる。
「ちょっと皮がいまいちかな?」
「だったらさくちゃん、2個目を食べないんじゃない?」
「こしあんがさらっとしてるからな」
「けっきょく美味しいんじゃん」
「そういうこと言ってると、10個全部食うぞ!」
 ギャグではない。昔デブだった頃、おまんじゅうというものは買
ってきたら、その日のうちに全部ひとりで食べるものだと思ってい
た。箱食いである。
 あの甘いことでは日本一の伊勢名物「赤福」ですら、箱食いして
いた。ご飯と別に。
 私にも甘い物の話で冗談は通じないのだ。

 本来、不二家のホールケーキもひとりで食べていたし、クリスマ
スのアイスホールケーキもひとりで食べていた。
 何たって箱に「お早めにお召し上がり下さい」と書いてある。
 ああ、私は耽美派ならぬ、甘味派。

 午後1時。新宿に出る。東京デジタルフォンで、グルメ・バカ娘
の携帯電話を買い換える。今度の携帯は256音も携帯着メロが入
るそうだ。すごいなあ。

 昨日の宴会で、DVDの話題が出た。弟子の原口一也の日記で、
DVD購入を読んで、しまった、先週あのとき買えばよかったのに
と後悔していたのだが、宮路一昭くんも買っていたのが、判明。
 むむむ。時代はDVDか?
 そして映画狂の柴尾英令くんがまだDVDを買っていないという
ことがわかったので「ふっふっふ。これは何があっても買わねば…」
と、目の奥が星飛雄馬。めらめらめら。

 午後1時30分。というわけでカメラのさくらやで、SHARP
の液晶DVDを購入。液晶をまだ誰も持っていないからというだけ
である。業界人たるもの、失敗してもいいから、無茶をする。これ
はお約束である。
 で、さっそく大失敗。
 買ってすぐ、松竹ホームビデオで、DVDソフトを買おうとした
のだが、ほしいものが無い。
『ディープ・インパクト』は先週ビデオで買ってもう見た。
 グルメ・バカ娘が「これ見てないから買って!」「持ってるよ」
「じゃあ、これ!」「持ってるよ!」
 柴尾英令くんがDVDを買っていない理由が、LDを2000枚
だか、3000枚持っているからと言ったのを思い出す。
 このことか〜。私もビデオとLD合わせると2000枚近いかも
しれない。
 買う物がない!
 ええい、これでいいや!と、『ボルケーノ』だけ買う。
 ビデオで『追跡者』と『黒澤映画の世界』というメーキング・ビ
デオを買う。何たって私はメーキング。ビデオマニア。見たことの
無い映画のメーキング・ビデオを買ったこともある。

 さらにカメラのさくらやゲーム館に寄って、ゲームを4本買う。
 同業者なので、おもしろかったらここで話題にする。おもしろく
なければ話題にしない。けなしても話題にしたらおもしろいほうで
ある。
 タカラの『DX社長ゲーム』は惜しい!
 ってな具合にね。

 ほかにも買い物して、家族は荷物だらけ。
 町の人から見たら、ものすごくイヤな亭主である。嫁と娘に荷物
を持てるだけ持たせて、自分は手ぶらでぶ〜らぶら歩いているのだ
から。今じゃ、誰も手足が不自由だと思ってくれないからなあ。

 午後3時。帰宅。仮眠する。

 午後7時。恵比寿のフカヒレのお店「筑紫楼」に行く。
 放送作家の福本岳史くんを連れて行く約束をしていたのを急に思
い出す。あわてて電話したが留守電だった。残念。
 ゴメンね。急にグルメ・バカ娘がこのの杏仁豆腐が食べたいと言
い出してしまったのだ。

 いつものように、カニ肉とふかひれのスープ麺をメインに、牛肉
と黄ニラの炒め、芝海老のチリソースなど食べて、杏仁豆腐。
 夢中で杏仁豆腐を食べてしまって、味わうのを忘れてしまった。
 もったいないことをした。

 食後、フィギュアさんに寄って、漫画家の石ノ森章太郎さんの歩
く人形を発見。どの作品?ではない。石ノ森章太郎さん本人の人形
なのだ。ご本人が似顔絵にして作品に出していたあのキャラなので
ある。
 生前何度もお会いしてるだけに、悲しいやら、作家の目で見れば
感動的やら入り交じった感情で、とりあえず買う。
 私もこういう風にフィギュアとして発売されたいものである。
 でも同時発売で、榎本45歳、土居ちゃん(土居孝幸)、横山智
佐がいっしょに発売されて、横山智佐だけひとりヴァージョンでお
じさんたちは4人一組なんだろうなあ。
 それでもいいから、どこかでフィギュアにして!

 午後9時。帰宅。このあとは鍼灸師の弓削くんが来る予定。
 


7月11日(日)


 午後12時。嫁と代官山に行く。
 まずレストラン「小川軒」に行くが、お休み。
 前から行きかけているお魚料理のお店もお休み。
 けっきょく「トムズ・サンドイッチ」で、食事。
 すでに歩き疲れて、へとへと。

 食後、すぎやまこういち先生ご夫妻に教えていただいた、レスト
ラン「パッション」を発見。予約を入れようとするが、きょうはパ
ーティで貸し切りだそうだ。
 タイミングが悪い日のようだ。
 
 止んだはずの雨が激しく降ってきた。
 おにぎり屋さん「ベリー・グッドマン」で、おにぎりをいろいろ
買う。ここのおにぎりは美味しい。
 グルメ・バカ娘もお気に入り。
 中身がナスみそだったり、八丁みそ、うなぎ、岩のりと、変わっ
た具が多い。晩ご飯用。
「おにぎりは、どうも主食のような気がしない」と言って、嫁に驚
かれる。どうもおにぎりは太っていた時代、おやつ程度だったんだ
なあ。ふへへへ。

 外に出たら、もっと激しく雨が降りだした。
 あわてて帰る。

 午後2時。家に着いたとたん、晴れ上がる。くやしい。
『さくまあきら完全年表』の作成。
 世相の方は順調に入るのだが、自分の作品のほうがぽつぽつと虫
食いが多い。
『ジャンプ放送局』全24巻を読み直すと、けっこう穴が埋まるの
だが、24巻読むのはつらいなあ。 
 頼むから誰か、ニッポン放送のときの放映年月日を教えてくれ〜
い!
 
 夕方。DVDの解説書を読むが眠くなる。
 どうも何とか端子という単語が出てくると自動的に眠くなる。
 しかも「このディスクは再生できません」と無情な表示。
 DVDソフトは『ボルケーノ』1枚しか買っていないから、この
ディスクが不良かどうかも判断できない。
 いつもこうやって、ひとりで電化製品をつかいこなせたためしが
無い。

 午後6時30分。買って来たおにぎりで晩ご飯。味噌汁代わりに
作ったいなにわうどんが美味しい。またしても四万十川の青さのり
が入っていた。うれしい。

 食後、最近ご無沙汰の人、何人かに電話する。
 ひさしぶりの人はみんなインターネットに縁の無い人たちばかり。
 どうしてもここ半年ぐらいの近況報告をしてからでないと本題に
入れないので、電話が長くなる。
 インターネットをみんながやってほしいという言い方もまた暴力
になってしまうけど、仕事をする人は、インターネットでお互いを
逐次知っておいたほうがいいことが多い。

 こうやって時代は変わって行くんだろうなあ…。などと嘆息して
いるヒマがあったら、DVDを動かせるようになりたいものだ。動
かすという言葉づかいがすでに、おじさん臭い。
 


7月12日(月)


 午前11時。ハドソンの梶野くん、土居ちゃん(土居孝幸)、宮
路一昭くんが来る。
 そのまま近所の「ルナ・アンジェロ」で食事しながら、打ち合わ
せ。
 あれ? またグルメ・バカ娘が平日にいるぞ。
 え? 試験休み? いつ試験あったんだ? 勉強してるところを
見たことがないぞ。
 不良学生得意の、試験休みで学校休み、または創立記念日で学校
休みという、ズル休みじゃないだろな!
 ふだん親がズル休みを奨励してるもんだからなあ。

「ルナ・アンジェロ」のきょうのシェフおすすめのスペシャル・カ
レーが美味しかったあ! 豚肉だったか、大きいのがべろんと横た
わっていて、美味! 美味!
 また明日も食べに行こうと思ってしまうぐらい美味しい。

 午後12時30分。そのまま全員で、TBSラジオへ。
 おなじみ『有限会社 桃太郎商店』の録音。
 案の定、石塚義之くんの駐車違反の話題が出る。この日記を読ん
でる人なら知ってるよね。先週の金曜日9日の話題だ。
 あのとき石井正則くんもいっしょにいたらしい。
 ふたりでネタ作りをしていたそうな。
 芸人さんはこのネタ作りが命だから大変だ。
 TVやラジオに出ながら、ネタを作るのは尋常じゃない。
 昔は芸人さんに、作家が付いていて、台本を書いてくれたものだ。
 しかもその作家さんたちは後の井上やすしサンだったり、野坂昭
如さんだったりするわけだから、すごいメンバーだ。
 今の芸人さんたちは自分で作れないといけないから本当に大変だ
と思う。

 いつものように雑談できょうの放送のコンディションを整えて行
くのだが、またしてもテーブルの上に、私の大好きなかぶき揚げが
置いてある。
 吉野紗香ちゃんが、おいしそうにぱりぱり音を立てながら食べて
いる。
 う〜。食べたい。でも太る。
 スタジオの副調整室を見ると、嫁がいない!
 今だ! 食べるぞ!
 ううっ。袋が開かない。左手が不自由だから、袋が開けられない
のだ。ええい、いつものように、口にくわえて、ひきちぎろう!
 バキッ! ううっ。 やけに大きい音だぞ!
 ああ〜〜〜! 歯が欠けた!!!!
 しかも前歯だ! 3本もブリッジしてる大事な歯だ。
 ひえ〜〜〜い。これは値段が高そうだぞ。ふえ〜〜〜ん。

 とにかく録音を進める。
 あいかわらず石塚義之くんが絶好調。
 2本目の録音では、私の誕生日をみんなが祝ってくれた。
 またまた大好きなTOPSのケーキだ。
 ここのスタッフは私の好きな食べ物をよく覚えていてくれる。
47本のローソク!
 それにしてもときどき副調整室を覗くが、グルメ・バカ娘がいな い。いっしょに来てるはずなのに。  土居ちゃん(土居孝幸)、宮路一昭くんが先に帰るとき、いっし ょに帰ったのかな。  録音終了。おっ、グルメ・バカ娘が戻っている。  嫁に聞いたら、なんと隣りのスタジオをずっと見学していたとい うではないか!   なんだよ、お父ちゃんの録音を見学したいといってついて来たの に。なんだ? へ〜。そりゃ仕方がない。  グルメ・バカ娘が一番好きな声優さん、子安武人さんの番組だそ うだ。  もうすっかりよろこんじゃって、「ふに〜〜〜」「むふ〜〜」の 繰り返しである。  午後4時。TBS1Fの喫茶店で、ムサシノ広告の伊東正義とお 茶を飲む。まだグルメ・バカ娘はにたにたしている。気持ち悪い。  そんなに子安武人さんに会えたのがうれしいのか。  ちゃっかりサインまでもらっているそうだ。  女性の声優さんでは、三石琴乃さんが一番好きだというし、グル メ・バカ娘は私のコネをつかいまくっとるなあ!  午後5時。わざわざ西武新宿に出て、そこから上井草駅へ。  駅前の細見デンタルクリニックに行く。  ここの院長さんは私の忙しいのを知っていて、いつもイレギュラ ーでもすぐ治療してくれる。  さすがに前歯が欠けたので、しばらく通わないといけないんだろ うなあ。でも今週末からまた京都に1週間ぐらい行きっぱなしにな ってしまうから、ここに通えないし、どうしよう。  などと思っていると、すぐ直るというではないか! 「でもあんまりに無茶するなよ!」  なんだか継ぎ足すようにシューッと直してしまう。  つなぎ目がまったく見えない。  どうやったんだろう?  前歯3本全部取り替えて、30万円ぐらい取られてしまうんだろ うなあと、覚悟を決めて来たのに、治療費700円。腰くだけ。  午後7時。帰宅。娘が家庭教師さんとお勉強している。  何で試験終わったのに、勉強してるんだ?  変なガキだ。  嫁が買ってきた高島屋のお弁当を食べる。    食後、『さくまあきらバラエティ・ブック(仮)』の完全年表を 作成する。ゲームはほぼ網羅できたけど、ニッポン放送の『アタッ ク北斗の拳』『キャンピコ放送局』がまったくわからない。 『キャンピコ放送局』の公開録音初日のゲストが、堀井雄二で、ま だ発売前の『ドラゴンクエスト』のロムを見せたという、今では信 じられないサービスをしたことを思い出すから、『ドラクエ・1』 発売の直前なんだろうなあ。  誰か知らない? インターネットでももちろん検索件数0だった。  さらに『さくまあきらバラエティ・ブック(仮)』用のグルメ・ ページを作成。  つい悪のりして、47都道府県別お土産リストを作り始めてしま った。一番得意なジャンルだから、書き出したら止まらなくなって しまった。  気がついたら、午後11時をとっくに過ぎている。    いかん。ラジオの録音のあった日は、早く寝て、回復しないと。  きょうも石塚義之くんのハイテンションに笑い疲れた!
 


7月13日(火)


 午前10時。外苑診療所。やっぱり血圧が高い。
 本気で仕事セーブしないとやばいかな。

 午前11時30分。どしゃ降りになって来た。
 土居ちゃん(土居孝幸)、横山智佐ちゃん、榎本45歳が来る。
『ジャンプ放送局』のメンバーが勢揃いだ。
 きょうは『さくまあきらバラエティ・ブック(仮)』の座談会の
ために集まった。

 午前11時30分。まず近所の「おけい寿司」で食事の風景から
撮影を始める。
 午後12時。自宅に戻り、『ジャンプ放送局』時代の思い出など を、大笑いしながらしゃべる。  私の本なので、私の話を中心にしないといけないのだが、どうし てもこの4人が揃うと、話のオチをえのクンにしてしまう。いかん なあ。  横山智佐ちゃんが私に関して、素晴らしいコメントを連発するの で、その度に「えのクン、こういうことを言わないと!」「こうい うことを言えるから、横山智佐と榎本45歳の今日の大きな差があ るんだなあ」といじめる。  もう14年間続いたこのパターンはどうにも変えられない。    横山智佐ちゃんが『サクラ大戦』のミュージカルのおけいこがあ るので、横山智佐ちゃんの部分だけ早めにインタビューする。
1999.8.4〜7 東京厚生年金会館
 午後1時。横山智佐ちゃんは稽古場に向かう。  残ったメンバーで、さらに『ジャンプ放送局』の思い出話。  本当によく、えのクンが覚えている。  えのクンが初めて『ジャンプ放送局』に加わった日の席順まで誰 がいた、どんな服を着ていたということまで覚えている。  残念ながらこの能力、ちっとも仕事に役立たない。  私と土居ちゃん(土居孝幸)は全然覚えていない。  おかげで私がよくインタビューされたときに話したエピソードと はまた別の話がかなり出たので、お楽しみに。  午後2時で終了の予定が大幅に伸びて、午後3時30分まで続く。  ふだんほとんど会わないのに、何でこのメンバーで会うと、今度 は話題が尽きないんだろう?  午後4時。『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書作り。  放送作家の福本岳史くんに付け足しメッセージを頼んでいた部分 を再構成して、メッセージに組み込む。  メッセージを書いてるうちに、内容がどんどん変わって行く。  おもしろくなるのはいいけど、またまた大変。  すごいストレスだ。  はっと気がつくと、午後6時すぎ。  TVをつけると、どこも大雨洪水注意報。  一体どうなってるんだ?  お腹が減って来た。  おや? ふだんならこれはグルメ・バカ娘のセリフなのに、やけ におとなしい。まさかまた寝ているのでは?  やっぱり寝ているそうだ。 『ジャンプ放送局』のメンバーが来てたときに、3Fで食事をして そのまま寝たままらしい。  もう5〜6時間寝てるってことか。昼寝じゃないぞ、その睡眠時 間数は。  よ〜し。起きないなら置いて行こうと、美味しいお店に次々に電 話するも、どこも満員。  この大雨でキャンセルがたくさん出ているものと期待したのに。 「やっぱり、グルメ・バカ娘を連れて行かないと、予約が取れない んじゃないのか?」 「まさかあ…」  試しに、絶対予約がいつもいっぱいな「旬香亭(しゅんこうてい)」 に「3人ですが…」と電話してみる。  OKである。  またしてもグルメ・バカ娘には、食い物の神様がついていること を証明しただけである。  本当に恐ろしいやつだ。  午後8時。赤坂の「旬香亭(しゅんこうてい)」に行く。  和風料理に洋風料理が加わった、ここでしか見ることのない料理 が多い。  そのどれもが、青山「穂積」に匹敵するぐらい美味しい。  きょうのバカ家族のお気に入り料理は、和牛のたたき。レンコン のすり流しを乗せた洋風茶碗蒸し。カボチャの冷製スープ、うに添 え。カスタードプリンのキャラメルアイス乗せ。  自慢のオムライスの中身は、マツタケであった。早い。夏もまだ なのに。  そういえば途中のメニューにも、マツタケの切れ端が入っていて、 けっこういい香りだった。  というわけで、このお店のランクがまた上昇。  この先どこまで評価が上がるか楽しみ。    午後10時。帰宅。『さくまあきらバラエティ・ブック(仮)』 の横浜ベイスターズ日記の再構成に取りかかる。  現在セ・リーグ3位と、気分のいいときにこういう原稿はすませ ておかないとね。  げっ! おっとっとっと。インターネットで何気なく試合速報を 見たら、横浜VS阪神戦、きょうやってたんだ!  9対8で勝った。おもわず最初8対9と読んでしまった。  38年間染み着いた負け癖は、1回ぐらいの優勝じゃぬぐえない んだなあ。  よ〜し。これならがんばって原稿をまとめるぞ!
 


7月14日(水)


 午前10時30分。トイレから戻ると、私の部屋にグルメ・バカ
娘がベッドに寝ていて、「腹、減った!」とつぶやく。
 そうか。試験休み。そして夏休みか。
 近所の「アフタヌーン・ティー」で、チキン・サンドにキャラメ
ル・ティー。

 食後、『さくまあきらバラエティ・ブック(仮)』の横浜ベイス
ターズ日記のリライト。昨日から続いてるのだけれど、予想外に難
航する。編集担当の森澤明夫さんには「私がば〜〜っさり、削りま
すよ! ぶわっはっは!」と豪語していたのに、いざ始めると、ど
こも削ることができなくて、四苦八苦。
 しかも去年の9月1日からの日記の横浜ベイスターズ部分を読ん
でいくうちに、またしても目頭が熱くなってなってしまった。情け
ねーなー。今シーズンももう中盤だというのに、私の気持ちは去年
のままだ。
 なんとか削るだけ削ってみて、あとは森澤明夫さんに相談しよう。
級数8Qぐらいで載せるしかないかな? そんなに小さかったら、
まず私が読めない。はっはっは〜っ。

 午後3時。きょうは朝から雨が激しく降ったかと思うと、青空が
広がって、また叩きつけるような雨が降って、今度は入道雲が出て、
また降ってと、忙しい天気。
 高田馬場BIGBOX2Fで、タカラの高田さん、イラストレー
ターのかすやたかひろと待ち合わせ。
『さくま式人生ゲーム2(仮)』のイラストの件。タカラの高田さ
んに、かすやたかひろのイラストの管理をお願いする。
 かすやたかひろはもう、20年以上になる私の仲間。
『ポポロクロイス物語』の田森庸介(たもり・ようすけ)さんの慶
応漫画研究会の後輩にあたる。私とはおなじ年。
 TVの『お笑い漫画道場』の例題イラストを描いていたというと
「ああっ!」という人がけっこう多い。今は『SPA!』のイラス
トがおなじみなのかな。
 今回『さくま式人生ゲーム2(仮)』のメイン・イラストを頼ん
だ。恐ろしく上手い絵なので、前から一度つかってみたかった男だ。

 午後5時。ひさしぶりに高田馬場に来たので、栄通りの広島風お
好み焼きのお店「小次郎」に行く。
 と思ったら、無い! またしても閉店か?
 月島もんじゃ焼き「はやかわ」の看板が。
 念のため、嫁がお店に入っていくと、昔いた店長がいて、広島風
お好み焼きもやっているという。よかった、よかった。
 広島風お好み焼きでは、東京で一番美味しいと思っているので、
潰れないでほしい。

 午後5時30分。雨の湿気で身体が重いので、銀座の数寄屋橋の
交差点までタクシーで行こうとしたが、3台続けて、数寄屋橋の交
差点を知らないという。
 ええっ! そんなバカな! タクシーの運転手さんが、数寄屋橋
の交差点を知らないって? 口あんぐりだ。

 午後6時30分。とても数寄屋橋の交差点に寄れそうもないので、
本来の目的である、東京国際フォーラムに直行する。
 なんたって、きょうはブライアン・ウィルソンのコンサートなの
である。ブライアン・ウィルソンといっても知らない人がほとんど
だろう。実は私も表参道に長いことブライアン・ウィルソンのコン
サートの垂れ幕がかかっていたのを知っていたのだが、まさかザ・
ビーチボーイズのブライアン・ウィルソンだとは思ってもみなかっ
た。
 そう、サーファーなどで絶大なる人気を誇る、サーフィン・ミュ
ージックの王者、ザ・ビーチボーイズのリーダー・ブライアン・ウ
ィルソンなのだ。
 もう兄弟もどんどん死んでしまっているので、ひとりで来日した
ので、個人名でのコンサートのようだ。
「ブライアン・ウィルソン・フロム・ビーチボーイズ」のポスター
がうれしくもあり、悲しくもありだ。

 会場に着いて、ファン層が低いのにはびっくりした。
 私ぐらいの年代しかいないと思っていただけに、正直驚いた。
 やっぱり毎年夏になると、ラジオでもTVでも海辺でも聴けるだ
けに不滅なんだろうなあ。

 このところずっと若い頃に見ることができなかった海外のアーテ
ィストを数多く見てきた。でもそのなかでもとくにビーチボーイズ
のコンサートだけは絶対見たかった。
 私が中学・高校生の時代に一番熱中したグループだからだ。
 それにしても、どうして中学・高校生の時に覚えた曲って、もう
30年も経っているのに、何でまだ歌詞をくっきり覚えているんだ
ろうねえ。
 どの曲もどの曲もブライアン・ウィルソンといっしょに歌えるん
で興奮してしまった。
 どんなときでも、コンサートでいっしょに歌わないし、総立ちに
は加わらないのだが、きょうだけは声を枯らして歌ったね。
『カリフォルニア・ガールズ』『サーフィンUSA』『ヘルプ・ミ
ー・ロンダ』『ゴッド・オンリー・ノウズ』『アイ・ゲット・アラ
ウンド』『バーバラ・アン』『ファン・ファン・ファン』『キャロ
ライン・ノー』『ダーリン』『グッド・ヴァイブレーション』など
など…。 

 ブライアン・ウィルソンはすっかり老齢になってしまって、ステ
ージの真ん中で、キーボードというよりもコンボオルガンに座って、
必死になって歌っている。
 ときおり立って歌うのだが、「大丈夫?」と声をかけたくなるく
らい足下がおぼつかない。
 テンポも原曲より遅く聞こえるのは、ブライアン・ウィルソンが
老齢のせいかな。
 何でもいいんだ。夢にまで見た、ザ・ビーチボーイズだ!

 おお! 『ドゥ・イット・アゲイン』だ!
 この曲、大好きなんだ。邦題を『恋のリバイバル』といって、私
の数少ない作詞家時代、声優の三ツ矢雄二くんに『恋のリバイバル』
という題名で作詞を提供したことがある。
 原曲をついに生で聴けたんだなあ。

 こうしてなつかしの音楽を聴きに行く度に、心の中で「ありがと
うございます!」「ありがとうございます!」ばかり、繰り返して
いる。
 中学・高校生時代、見た物、聴いた物、読んだ物、そのすべてが
のちの私の創作活動の源になっている。
 こういうコンサートに行くのは、私にとって、感謝の旅なんだろ
うなあ。

 午後10時。先日土居ちゃん(土居孝幸)、宮路一昭くんといっ
しょに行った西麻布の喫茶店「TeTeS」に行く。
 ベトナム・ミルクコーヒーがおもしろいと嫁とグルメ・バカ娘に
自慢したくて行ったのだが、さっぱり受けず。あいかわらずわが家
は食べ物のことになると、辛口だ。
 見た目のおもしろさだけでは満足してくれない。
 午後11時。帰宅。  午前0時。最古のさくまにあ・戸田圭祐から電話。声が枯れてい るのがバレる。  来週1週間京都にこもって、『さくま式人生ゲーム2(仮)』ひ とり合宿をする件について。毎日いろんな仕事をかかえていて、な かなか『さくま式人生ゲーム2(仮)』に専念できない。  朝から晩までおなじ仕事のことを考えたいのだ。
 


7月15日(木)


 朝っぱらから、顔をくしゃくしゃにして、ぼろぼろ泣きながら私
は一体何やってんだろうねえ…。
 もちろん『さくまあきらバラエティ・ブック(仮)』の横浜ベイ
スターズ日記のリライトをやっているのだ。
 刻一刻、優勝の日に近づくにつれて、もう泣けて、泣けて。
 自分の文章読みながら、泣くなんてつくづくバカだねえと思う。
 バカなことをやりたいがために、この仕事を選んだのだから、本
望である。

 午前11時。なんとかセ・リーグ優勝の日までの原稿を仕上げる。
一体何ページになるんだろうなあ。本当に心配だ。もう少し文章削
ってみようかな。

 午前11時30分。税理士の赤根豊くんが来る。いろいろ経営の
難しいお話。
 そのまま原宿の大阪寿司「八竹(はちく)」で食事。茶巾ずしと、
アジの黄味ずしが美味しい。
 食後店を出ると、むちゃくちゃ蒸し暑い。
 ほ〜ら、汗が出るだろうと、遊ばれているかのように蒸し暑い。
 汗がだらだら出る。

 午後2時。帰宅。
 週刊少年サンデーの石川亨さん、鈴木翼さんが来る。
 すでに石川亨さんは、週刊ヤングサンデーのほうに移動している
ので、きょうは引き継ぎ。
 今後ゲーム・ページは、鈴木翼さんが担当することに。
 石川亨さんとはまた、ヤングサンデーのほうで情報ページやりた
いねえという話に。
 ちょっとでもいいから出版の仕事に首を突っ込んでいたい。

 午後4時。レイアウターの野沢ちゃんが来る。 
『月刊デジタルさくまにあ』のタイトル・ロゴも出来上がって来た。
 まあ、全部は揃いそうもないけど、7月29日の私の誕生日あた
りから、見切り発車で『月刊デジタルさくまにあ』を創刊させよう
と思う。
 別に売れないと会社が倒産するといったものでもないので、好き
勝手にやる。
『当方見聞録』も応募があればまたやる。なければやらない。何事
も行き当たりばったりで行こうと思っている。
 嫁がほかのサイトで探して来たおもしろいページを再録するなん
てこともやろうと思っている。
 たぶん本格的に出そろうのは、9月くらいだろう。
 まあ、みなさん、お楽しみに。

 午後7時。文化放送。月1レギュラーの『三石琴乃のエーベルナ
イ2』に出演。新アシスタントの小林晃子ちゃんもすっかり番組に
とけ込んでいるようだ。

 午後8時。読売広告の岩崎誠と、嫁、私、グルメ・バカ娘の4人
で文化放送にけっこう近い、欧風カレーの店「オーベルジーヌ」に
行く。
 ここの甘口カレーは、わが家ではかなり評価が高い。
 
 午後9時30分。帰宅。
 どうもきょうの昼間に、汗かいて歩いたあと、Tシャツを着替え
るのを忘れて、うたたねしてしまったせいか、ちょっと夏風邪を引
いてしまったようだ。
 グルメ・バカ娘も19日の終業式まで試験休みなので、明日から
どこか旅に出ようと言っていたのだけれど、どうなるかわからない。
 風邪を引かなければ、たぶん出かけるだろう。
 仙台方面が有力視されている。
 でも私の疲労度もけっこう高い。
『月刊デジタルさくまにあ』のフォーマットを完成させてから来週
京都へ行きたいという話もある。
 さて、明日どうなることやら。
 とりあえず身体を休めておこう。
 


7月16日(金)


 ダメだ。風邪引いた。
 やっぱり夏風邪を引くバカか?
 首の皮一枚、悪化する寸前で止まっている。
 何とか横浜ベイスターズのように踏みとどまりたいものだ。

 というわけで、まず旅行は中止。
 それではとわが家では、その存在がすでに聖域に達しているお店
に予約を入れる。
 えっ? OKなの? やったー!
 グルメ・バカ娘がいるときに電話すると本当にOKの場合が多い
なあ。
 お店の名前は、銀座「てんぷらの近藤」。
 わが家はこのお店に来れることが何よりうれしい。
 まずその日に電話しても、席が空いていることが無い。
 噂では3カ月先までほぼ満員。
 ご主人の人柄がよくて、いかにも達人の顔をしている。
 てんぷらはカロリーの王様だから、私はめったに来てはいけない。
 だからこのお店は1年間に3回来るかどうかなのである。
 病気になる前にこのお店と出会っていたら、毎週通って、もっと
早く死ねたことだろう。

 午後12時。てなわけで、家族揃って、銀座へ。
 グルメ・バカ娘ももちろんこよなくこのお店を愛していて、行く
と決まった瞬間から、しくしくお腹が痛いと言い出す。
 何のことはない。胃液がものすごい勢いで活動を開始しているの
だ。グルメ・バカ娘の胃液。すごそうだ。金属も溶かしそうな気が
する。
 銀座に着いてからも、グルメ・バカ娘は先頭を歩く。ずんずん歩
く。足早に歩く。脇目もふらず歩く。
 グルメ・バカ娘にとって、ジャンル別NO.1のお店に行くとき
の特徴のオンパレードだ。これで鼻血を出したら、総合ランキング
第1位である。

 このお店のてんぷらだけは、ひとくち食べるたびに、幸せを感じ
る。一瞬身体が浮いたのかなと思うくらい美味しい。
 
 きょうも海老から始まって、キス、タマネギ、アスパラガス、シ
シトウ、小ナス、トウモロコシ、サツマイモ、穴子、メゴチ、空豆
といった天にも昇るような料理が続く。
 これは絶対みんなに一生に一度は行ってもらいたいお店なので、
デジカメで一品ずつ撮って来た。
 しみじみお腹を空かせてもらいたい。
 何しろ、サザンオールスターズのカズ坊(関口和之)が「こ、こ
れは!」と言ったきり、言葉が続かなくなったぐらいの美味しさだ
からね。
 ご主人の「達人の顔」も味わってね。
↑ クリックするとてんぷらの画像が!
   料理の名人から学ぶことは本当に多い。  てんぷらは、食材に衣をつけて、油の鍋に入れるだけで、出来上 がってしまう。  こんな単純な工程なのに、天と地ほど味に差が出るのだから、す ごいもんだ。  ご主人に聞くと、食材選びが第一だという。美味しい野菜を見極 められるかどうかにかかっているらしい。  1週間に1度しか休みが無いのに、野菜の善し悪しをどこで勉強 するのだろう。営業時間以外のご主人の行動を知りたいものだ。  一流の人に、息抜きの時間は無い。  24時間仕事のことを考えている。  このわかりきったことを人間はなかなかできないものだ。  それにしてもここのサツマイモのてんぷらは、ほかのお店に無い 絶品で、ひときわイモの好きなグルメ・バカ娘は、このお店=サツ マイモである。  あいかわらずグルメ・バカ娘には、食べ物の神様が付いているよ うで、季節柄、サツマイモはきょうでおしまいだそうだ。明日から サツマイモは、カボチャに変わるという。  どこまでも運のいいやつだ!  私はなんたって、このお店=トウモロコシのかき揚げだ。  もう大事に大事に一粒ずつ食べたいぐらいだ。  甘い。甘い。  嫁はアスパラガスかな。  アスパラガスも甘い、甘い。  穴子もいいよ。  あ〜、もうこのお店なら明日の朝まで食べ続けられるかもしれな い。そんな気になるぐらい美味しい。  最後にこのお店の比較的空く日をご主人から極秘入手した。  これで今年はあと3回ぐらい来ることができるかもしれない。  空いてる日は教えてあげないよ、って言っても、この日記見てた ら、バレてしまうんだった。  午後1時30分。帰宅。身体がだるいので、寝る。  午後4時。まだだるい。ちょっと汗が出始める。もう少し休むか な。  午後6時30分。グルメ・バカ娘が「腹、減った〜」と歌いなが ら、部屋に入って来る。  まだ鼻のあたりがぐずぐずする。  風邪を引きかけの特効薬、ニンニクを食べに行くことにする。  ニンニクなら、焼き肉の「第一神宮」である。  ニンニク食べるのにわざわざ焼き肉屋さんに行く必要は無いのだ が、どうせなら美味しい物を食べようという、図々しい考え。  かくて、お昼・てんぷら、夜・焼き肉。  かつての私の食生活のようである。いや違うという声が聞こえそ うである。  これに夜中、デニーズでミックス・グリルに、チョコレートパフ ェ、真夜中に、ジャンバラヤである。  午後7時。またしても焼き肉ランキング1位のお店に向かって行 くので、グルメ・バカ娘はずんずん先頭を歩く。  まだ3人ともさほどお腹が空いていないので、少量肉を頼み、さ っさと退散することに。  私はニンニクのてんこ盛りをできるかぎりたくさん食べる。  できれば明日から、京都ひとり合宿をしようと思っているので、 風邪を治したい。  午後8時。書きかけの文書をフロッピーなどにコピーする作業。  いろいろ残っている作業をすませておこう。  さて、明日から京都に行けるかな?  でも京都は、祇園祭が真っ盛りで、暑そうだなあ。町もうるさい。 
 


7月17日(土)


 どうも夏風邪が引かない。喉が痛い。
 家で寝ているくらいなら、仕事をしに京都まで行ってしまったほ
うが直りが早いことが多いので、でかけることに。
 仕事をすると緊張感と集中力で風邪が直るというのは、あまり身
体にいいことではない。

 午後12時。嫁、グルメ・バカ娘と、南青山「キハチ」でランチ。
 夕張メロンのスープという贅沢なものが出た。前菜というより、
デザートだ。

 食後、店の前で家族と別れて、東京駅へ。
 
 午後1時56分。のぞみ17号。
 西日が射すのか、どの窓もブラインドを降ろしていて、車窓から
の景色を楽しめない。
 窓側に座ればいいのだが、ひとり旅のときは、トイレに立つとき
に「すみません」と言わなくていいように、通路側の席を予約する
ことにしている。
 だからブラインドをどうするかの権限が無い。
 仕事に専念するしかないな。

 車中、『さくま式人生ゲーム2(仮)』のアイデア出し。
 今まで出来上がった仕様書を読み返すと、まんざらでも無い。
 ひたすら職業数が多いことによる、メッセージの遅れなだけのよ
うだ。
 
 午後4時30分。京都駅着。きょうの京都は、祇園祭り。
 なかでもひときわクライマックスの山鉾巡行があるから、地下鉄
でマンションまで行かないといけないだろうなと思っていたのだが、
巡行は午前9時から。
 とっくに終わっていて、町はコンチキチン! コンチキチン!の
音はすれども、いつもの景色。
 みごとなまでに、全行程が終了したあとに到着したようだ。
 もちろん蒸し暑い。

 午後5時。軽い食事を買いに出て、本など買い込んで、マンショ
ンに戻る。
 ぽつぽつと『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書作り。
 地味な作業がしばらく続く予定。
 
 仕事を始めると、本当に話題が無いものだ。
 


7月18日(日)


 どうにもダメ。夜中に何度も喉が痛くて目が覚める。
 仕方がないので、起きる度にフジテレビの『27時間テレビ夢列
島』を見る。
 全部生放送になると、これだけテンポの悪い番組しか作れないも
のかと驚いてしまった。

 その後も何度も目が覚める。喉が痛い。鼻水が出る。
 さすがに仕事しようとしても、力が入らない。
 本を読む。『歴史に残る18人のミステリー』(中津文彦・東京
書籍)がけっこうおもしろい。

 午後1時30分。腰まで痛い。でもお腹が減っているので、無理
してでも外に出ないといけない。
 近所の河原町通りにある「しぇふず・きっちん」へ行く。
 カレーとオムライスの専門店とある。
 2種類では、専門店とは言えないんじゃないのか?
 店の前で30秒ほど立ちつくす。
 もう、いいや。お腹が減ってるほうが先だ。とても遠くのオムラ
イス専門店「ルフ」までは行けそうもない。

 オリジナル・オムライス、750円。
 ご飯のなかに、ウインナまで入ってる。これはまずそうだ。
 ケチャップでなくて、トマトソース。
 最初から備え付けの福神漬けを盛る。福神漬けの味で食べてしま
おうと思ったのだ。
 食べる。ん? 意外と美味しい。
 でも、これは空きっ腹なせいだと思うなあ。
 なんだか玉子がけっこういけるなあ。
 いつかもう一度食べてみよう。きょうの味覚は絶対狂ってると思
うし。

 食後、本屋に寄るが、もう頭がくらくら、身体がふらふらして来
る。雨まで降って来た。

 午後2時30分。マンションに戻る。
 ダメだ。寝るしかない。
 一体京都まで何しに来たんだろう。
 ゴミ箱が、鼻をかんだちり紙で山のようになっている。
 わびしいなあ。ひさびさに独身時代に戻ったようだ。

 何度か起きて、また寝るの繰り返し。
 汗をかく。

 寝っぱなしなので、とうとう大相撲の千秋楽まで見てしまう。
 ありゃりゃ。曙が、ごろん。優勝決定戦になったあげく、出島が
逆転優勝。何だか曙がかわいそうだねえ。
 人生はちょっとしたきっかけから、歯車が狂って行ってしまう。
 今回の『さくま式人生ゲーム2(仮)』は、こういった人生の綾
を描いてみたいんだけど、自分が病気で倒れてちゃ仕方無いよなあ。

 午後6時30分。本を買いに外に出る。
 嫁から電話が入って、すぎやまこういち先生ご夫妻とごいっしょ
に食事にでかけるとの連絡。いいなあ。
 身体の調子が悪いと、せっかくの京都は何の意味もない。
 そうそう。忘れちゃ、いけない!
 すぎやまこういち先生! 管理人さんから伝言です。402号室
が空いたそうなので、誰かご希望の方がいたら、連絡をくださいと
のことです。

 午後7時30分。少し鼻水が引いて来た。
 嫁たちはすぎやまこういち先生ご夫妻と美味しいところに行くの
だろうから、こっちも景気づけに美味しいものを食べに行くか。
 一気に風邪を直してしまいたいので、ニンニクだ。
 ニンニクといえば、焼き肉屋だけど、先日行ったばかりなので、
ステーキハウスに行ってしまおう。ホテルのお店ならひとりで入り
やすい。
 というわけで、意を決して、ブライトンホテルの「ひもろぎ」に
行く。今年初めて行って美味しかったので、もう一度行きたかった。
 お店の人に、ニンニクを大量に注文する。
 食べ過ぎもいけないので、もったいないけど、ご飯を遠慮する。
 ニンニクと但馬牛だけ食べに来たようだ。
 やっぱりひとりだけで食べるステーキというのは、豪勢では無い。
 それでもすーっと、風邪が快方に向かいそうな気がする。
 
 午後9時。マンションに戻る。
 ようやく頭が動き出した気がするので、少しずつ『さくま式人生
ゲーム2(仮)』の仕様書作りを始める。
 早く風邪を直したいなあ。
 こういうときだから、たくさん本を読もうっと…。
 


7月19日(月)


 京都3日目。
 昨日の夜も、ようやく寝付けそうになると、喉が痛くなって、咳
き込んで、眠れなくなる。
 全英オープンゴルフの最終戦をほとんど見てしまった。
 プレーオフの最後の最後で寝てしまったので、誰が優勝したのか
わからないや。

 午前10時。起きたことは起きたけど、身体はだるいし、熱っぽ
い。胸のあたりだけ汗をかく、中途半端な病状。
 パンを食べて、寝てるしかできない。
 少しぐらい遠出して、疲れたほうがいいのかもしれないけれど、
頭が酸欠状態のように、ふらふらするので、外に出る気がしない。
 きょうも風邪が引かなかったら、東京に帰ると、嫁には言ってお
いたのだが、帰る気力も無い。
 東京の自宅は、仕事場兼用なので、寝込むなら、京都のほうが電
話が鳴らなくてこっちのほうがいい。
 
 本を読みながら、すごすことにする。
 毎日寝ているという日記を読むのは、おもしろくないだろうから、
せめて昨日からきょうまで読んだ本の名前など。

  ・『諸国名物地図』(市川健夫・東京書籍)
  ・『図説千利休』(村井康彦・河出書房新社)
  ・『バガボンド』(井上雄彦・講談社)1〜2巻
  ・『一度は乗りたい鉄道1999年度版』(松本典久・並木書房)
  ・『たべあるき京都2000年版』(昭文社)
  ・『スター・ウォーズ写真集』(ソニー・マガジンズ)

 別におもしろくないか。ははは。

 まったくマヌケなことに、『スター・ウォーズ/エピソード1フ
ァントム・メナス』のヒロイン・ナタリー・ポートマンが『レオン』
に出ていたあの女の子だということを写真集を見て知った。
 私の外国人覚えられない病は、昔からひどいものがあるが、さす
がに情けなかった。
 今回の『スター・ウォーズ』は事前にまったく情報を耳に入れず、
自分の目で作品を見たかったからだけど、そろそろこうして制作者
側の立場から、いろいろ分析してみようと思う。

 午後6時。読者のあんくるクンから、最近オムライスの専門店「ル
フ」に行く回数が減っているといるとの指摘があったので、行く。
 こういう指摘があると、意地っぱりなので、晩御飯をどこに食べ
に行くか決めやすくていい。
 食べたのはもちろんカレーオムライス。
 でもやっぱり風邪を引いていると、味わいが弱くなる。
 健康じゃないと、料理は美味しくないねえ。
 
 午後7時30分。頭がふらふらするけど、なんとかそこらを疲れ
るくらい歩いて、ゼスト地下街のクイック・マッサージ「ナチュラ
ル・ボディ」に行く。すっかりもう顔なじみ。
 でも顔なじみというのは、相手の従業員が立派だということ。
 何回行ってもお客の顔を覚えないお店はいくらでもある。
 一流店は、3回も行けば、必ず覚えてくれる。
 
 風邪で後頭部がぼうっとするほど、凝っていたので、マッサージ
されて、すっきりした。

 午後8時。マンションに戻る。
 もう少し本を読んでから寝るつもり。
 やっぱり本を読むと、充電した気がして、心がやすらぐ。
 今夜こそちゃんと寝て、風邪が直ってくれるとうれしいんだけど
なあ。年取るとなかなか風邪が直らないもんだなあ。
 


7月20日(火)


 京都滞在4日目。
 昨夜も眠れなかった。
 胸のあたりだけ汗をかく妙な症状で、気持ち悪くて寝付けない。
 咳き込む。鼻をかむ。
 眠くなるとこれの繰り返しだ。
 寝付いたのは『めざましテレビ』が始まってしばらくのこと。
 軽部真一さんが何かしゃべっているのは覚えている。

 午前9時。早くも目が覚める。3時間ぐらいかな。寝ていたのは。
 少しだけ鼻水が昨日よりも、引いているような気がする。
 喉はまだあいかわらず痛い。

 午前11時。最古のさくまにあ・戸田圭祐が来る。
 戸田圭祐は昨日まで3泊4日で、札幌、小樽、稚内、帯広、釧路、
根室、函館と回って来た。
 北海道のお土産ですと、いろいろ持って来たのは、うれしいのだ
が、缶詰とか、パカッと開ける式の夕張メロンゼリーだったりして、
私が「私は手が不自由だからどれもひとりじゃ開けられないじゃな
いか!」と答えて大笑い。
 いつもながら戸田圭祐のやさしさは、横浜ベイスターズの投手た
ちのように、ボールひとつコントロールが甘い。はっはっは。

 午前11時30分。北野天満宮の近くの、もう毎度おなじみ「お
ひるや豆魂(とうこん)」に行く。
 鼻水少々。声はまだダミ声。
 このままご飯食べて風邪が引かなければ、戸田圭祐には帰っても
らう予定。
 このところこのお店はずっと満員が続いたまま。
 きょうもあいかわらず美味しい。
 豆腐百珍というだけあって、毎回豆腐をつかって、微妙に新しい
料理を出してくれれので、その変化が楽しい。
 きょうもマーボー豆腐風あり、梅風味あり、豆腐とジュンサイの
お吸い物ありと、目も楽しい。

 午後12時。食後。妙に身体の調子がよくなって来た。
 このところ続いていた頭のふらふらがない。
 喉がまだちょっと痛い。
 必死にイソジンの「のどフレッシュ」をつかいまくる。
 
 もう少し外を歩いてもいいかなと思っていると、戸田圭祐が「き
ょう京都駅で手塚治虫さんのショップがオープンするそうですな
あ」と言いだす。なんだ、戸田圭祐もチェックしていたのか。
 私も今回京都に来て、すぐ7月20日オープンをメモっておいた。
 まだ身体は本調子ではないが、手塚治虫ショップを見て行くこと
ぐらいはできるだろうと、京都駅へ向かう。

 午後12時30分。「KYOTO手塚治虫ワールド」は、ホテル・
グランヴィアの2Fであった。
 トランペット隊が手塚アニメの主題歌などを演奏して、けっこう
京都駅は手塚さん一色。やたら看板が多い。力入ってる。

 なかにはけっこう広くて、アトムやブラックジャックの等身大の
彫像があって、けっこう来たかいがある。
     ただグッズ・ショップが少し小さい。それと初日なので、グッズ の並べ方がまだ下手。あやうく間違えてチビTシャツを買ってしま うところだった。  子ども用のTシャツと大人用のTシャツをおなじ棚で売らないで ほしい。とかなんとか言いながら、しっかり鉄腕アトムTシャツを 3枚買う。  しかし40数年前にPTAから目くじらを立てられまくった手塚 治虫さんの漫画が今、こうして京都駅にひとつのモニュメントとし てお店を持つまでなるのだから、隔世の感ありだ。  はたしてゲームもいつかこのような格別な扱いを受けることがで きるのだろうか?  キングボンビーTシャツなんか売られるようになったら、うれし いけど、そうなるときに私が生きているのかどうか、あやしいもの だ。手塚治虫先生だって間に合わなかったのだから。  午後1時。何だかどんどん身体の調子が良くなっていく。いわゆ る風邪気味程度までに回復して来ているようだ。  そうなると、また悪い虫が騒ぎ出す。  3日も籠城していたから、片雲の風に誘われてまたどこかへ行き たくなって来た。  しかも、門弟・曽良のような戸田圭祐がいっしょである。  即座に私の頭の中のコンピュータは「ここからなら水口城跡がそ んなに遠くないのでは?」とはじき出していた。    午後2時。JRで草津駅へ。草津駅からJR草津線で、貴生(き ふ)川駅へ。  車中、『さくま式人生ゲーム2(仮)』のアイデア出しができる までに風邪が回復し始めた。  貴生(きふ)川駅に降り立つと、柘植方面とか、信楽鉄道の文字 がイヤでも目に入り、さらに遠くまで行きたくなる。  貴生川駅から近江鉄道に乗り換えて、水口というところまで行く 予定だが、いよいよローカル線の旅になって来て、次の電車が発車 するまで50分待たないといけない。  どうせ次の水口城南駅までなのだから、タクシーで向かう。  この駅の北に、水口城の跡があるのだ。  城址といっても、しっかり城郭になっている。小さくてかわいい お城だ。これならいつものお城巡りのように、難行苦行にならなく ていいと上機嫌だったのだが、門の前に立って、がっくり。  何てこったい。休みだ。祝日なのにか?  張り紙を見ると、月曜、祝日、年末年始、お盆、第3日曜が休み という、あまりにも中途半端な休み方だ!  やる気あるんかい!
 でもまあ、よっぽどの歴史マニアじゃないと、このお城の存在を 知らないわけだから、結果は出ているわけだ。  それにしてもなあ。遠路はるばる来たのになあ。  小さい城なんだから、せめて門を開けて、なかが歩けるぐらいの ことはしておいてほしかった。  何でここまで戦の真っ最中のように、固く門を閉ざすのだ。  私と戸田圭祐は、退却を決意する。  休館日には勝てぬ。  だいたい企業努力というものがなさすぎるよ。  徳川3代将軍・家光という有名人の居城、しかも作事奉行が、有 名な建築物、造園、茶道のことになると必ず登場する、戦国時代の T・K(小室哲哉)と呼ばれる、小堀遠州。  これだけ材料が揃っていて、観光資源になるように出来ないのは、 この町が怠け者なだけだと思う。    しかも私の記憶では、この水口城は、たしか豊臣秀吉の家臣であ る、関ヶ原の戦いで有名な石田三成が最初に建てたはずなのである。  秀吉マニアの私にとっては、徳川家光よりも、石田三成である。  とにかく、もったいない。  小さいながら、お堀もちゃんとあって、紫陽花(あじさい)が咲 き誇っていたあとが今も見える。  これならいくらでも観光客を呼べるではないか。  えてして地元の人にその気が無いんだろうなあ。  マスコミ業界でも、私達から見るとものすごく才能があると思う のに、当人にその気がなくて、けっきょく消えて行ってしまう人は 本当に多い。それとおなじなんだろうなあ。  午後2時55分。水口城南駅まで歩く。蒸し暑い。  単線の片側しかホームが無い駅にしては豪華な駅舎だ。  券売機も無い改札を通って、ホームで電車を待つと、貴生川駅で 乗るはずだった電車が向こうからやってくる。  50分も待って、この電車に乗って来て、お休みの張り紙見たら、 どうなっていたかと思うとぞっとする。    電車が近づいて来た。  1両編成だ。ローカル線の旅は、やっぱり1両の電車でなきゃ。  ありゃりゃ? ずいぶん新しい車輌だ。塗料も新しい白色だ。  あれ〜? この近江鉄道は何度もこの日記に登場している、30 年前ぐらいの西武鉄道が今も走っているから風情があるのだが、き ょうの電車はかなり新しい。  電車の先頭に、西武ライオンズのレオマークがあるから、間違い なく近江鉄道だ。
「後乗前降」と書かれてあるドアから乗り、ローカルバスのように 整理券を引く。  電車はごとごとゆっくりゆっくり走り出す。  行けども行けども、水田のなかを電車はごとごと走る。  見渡す限りの水田の鮮やかな緑色を見ていると、身体から毒素が 抜けていくようだ。  やっぱり水田を走る電車というのは、ニッポンの景色という気が する。  それにしても遅い。カール・ルイスやベン・ジョンソンなら楽々 抜いていくような速度だ。  あげくに、日野駅につくと、さも当たり前のように「この駅の発 車は午後3時20分です」のアナウンスが流れる。  乗客は慣れているのか、誰も驚かない。  午後3時20分発はいいのだが、今、午後3時ちょうどなんだよ。  ってことはここで、20分も待つんだよ。  いくら単線だからって、20分も待つかい?  郷に入っては郷に従おう。  電車を降りて、プラットホームからの景色を楽しむ。  やっぱりここもまわりは全部緑色の水田。  深呼吸が美味しい。  ここではのんびりしていることのほうがあたりまえなのだ。  線路を渡って、改札口のところまで行っても、ご老人の駅員さん が「電車来ないから見に来たの?」という。 「はい」と答えると、「この町はな〜んもないよ」とぽつり。 「日野駅って、たしか昔日野一族がいて、日野というお城もあった んですよね」とお世辞を言ったつもりなのだが、「ここ(この駅) は日野のはずれにあるだ。前は日野とも言っていなかった」とつれ ない返事。決して自慢しない。  でもこういうやりとりができるからこそ、ローカル線の旅はやめ られない。  本当に20分停車して、何事もなかったように、また電車はごと ごと自分の足どりを確かめるように、ごとごと走り出す。  ちょっと走ると、すぐ次の駅に止まる。  どれも片側しか無いホームだ。  しかも駅の前には人家が無く、水田が広がる。  誰も降りない。    午後3時40分。1時間ぐらいかけて、電車は終点の八日市(よ うかいち)駅に着く。  でかい! 町がでかい! なんじゃこれは!  水田のバス停のような駅を見慣れていた私と戸田圭祐にとって、 八日市駅はでかすぎる!   本当は地方中都市にありがちな大きさなのだが、今までが今まで だったので、メガロポリスに到着したような気分になる。  しばらく町を歩く。  市神神社とかいうのがあって、額田王(ぬかだのおおきみ)立像 銘という石碑みたいなものがあったのだが、どうも万葉集はそれほ どくわしくないので、感動が薄い。  八日市は、大凧を作ることでも有名らしく、畳100枚分の大き さの大凧が展示してある博物館があるというので向かうが、田舎の 案内図は近いようで、とてつもなく遠い。  けっきょくとてもたどりつけないことがわかって、商店街を引き 返す。この商店街が、昭和初期から時間が止まったような町並み。 もう10年か20年ぐらいこのままだと、レトロ街とか言われてブ ームになることだろう。  午後4時。6階建てのデパートのような規模のアピア1Fでお茶 を飲む。  午後4時30分。八日市駅に戻り、そのまま近江鉄道で近江八幡 駅へ向かう。雨がぽつぽつ降ってきた。遠くの山の切り立った崖が、 水墨画のように美しい。  午後5時。近江八幡駅着。  近江八幡駅からJRの快速で、山科駅に向かう。  午後6時10分。山科駅。この駅から、おなじみ和食の「忘吾(ぼ あ)」に電話を入れるが、誰も出ない。休みの日は月曜日のはずな のになあ。  午後6時30分。山科駅から地下鉄で、京都市役所前駅まで行く。  地上に出て、もう一度「忘吾(ぼあ)」に電話するが、誰も出な い。もうここまで近くに来たのだからと、直接「忘吾(ぼあ)」に 行く。  戸田圭祐が2Fに駈け登る。  張り紙もなく、ただドアが閉まっているだけだそうだ。  どうなってしまったんだろう?  明日確認してみるかな。  そのまま木屋町を下り、先斗町を下る。  適当なお店が見つからないので、四条通りまで出て、そのまま祇 園まで歩いてしまった。  風邪は相当よくなって来ていて、これだけ歩いてもちっとも疲れ ない。  午後7時30分。ひさしぶりにかつてのイチ押しの和風割烹の店 「由良之助(ゆらのすけ)」に行く。  4〜5年前から、すぎやまこういち先生ご夫妻にグルメの指南を 受けてから、ほかにも美味しいお店をたくさん知ってしまったので、 この「由良之助(ゆらのすけ)」に行く機会がめっきり減ってしま った。  どの料理も美味しいのだが、けっこう引退間近のベテラン投手の ような風情で、ついつい「忘吾(ぼあ)」のように切れ味のいい料 理を連発するお店をひいきしてしまうものだ。  でもやっぱり老舗には老舗のよさがある。  手の込んだ料理だし、接客のみごとさは伝統のなせる技だ。  ついこっちの口も軽くなって「たしかこのお店の前に、久露葉亭 というお店がありましたよね」と聞く。 「はい、今はほかの人に貸しておりますが、前はうちがやっており ました」  うんうん。この「由良之助(ゆらのすけ)」が経営していたのは 知っていた。  この「久露葉亭(くろーばーてい)」は、すぎやまこういち先生 ご夫妻と何回か来て、ものすごく気に入ったのに、突然名前だけお なじで居酒屋っぽいお店になってしまったのだ。  そのことをいうと、閉めたことをお客さんからずっと苦情を言わ れ続けているという。  私も「本当に美味しいお店で行くのを楽しみにしてたんですよ。 とくにおじいちゃんが作る料理が美味しくて…」というと、「それ なら社長ですわ!」。  えっ? あのおじいちゃん、社長だったの? 「今も、そこにおりますよ。今の話聞いたら喜びはりますよ」。  ありゃりゃあ。何でお店を閉めてしまったのか聞きたかったんだ けど、とてもそんな雰囲気ではなくなってしまった。  名刺をいただけますか?と言われ、その話題のおじいちゃんが顔 をくしゃくしゃに破顔一笑して現れて「ありがとうございます!  ありがとうございます!」と繰り返す。  あっ。たしかにあの時のおじいちゃんだ!  何だかとっても会いたかった人に会えた。 「美味しかったんですよ、あのお店」。  言葉にしたら、10文字ちょっとのことを言ったおかげで、こっ ちまでうれしくなれた。  思っていることは人に話して初めて伝わるもんなんだなあ。  しきりにランチのことを言っているので、今度家族で来てみよう。  午後9時30分。マンションに戻る。  戸田圭祐が大阪に帰る。       どうやら風邪は8割方、直ったようだ。  でも夜になると、ぶり返す風邪は多いから、油断せずにきょうこ そちゃんと寝ないと。
 


7月21日(水)


 京都滞在5日目。
 昨夜はよく寝た。
 身体はまだ万全ではないが、とりあえず8時間近く寝ることがで
きたのは、めでたい。

 午前10時。『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書作り。
 遅れを取り戻そうと、必死になるも、今から書くところより、ほ
かのイベントのところのアイデアが出て仕方が無い。
 困ったもんだ。音声入力コンピュータがほしいくらいだが、今だ
と咳き込むと、その音も入ってしまって、音の部分を消す作業のほ
うが面倒な気がする。

 午後1時。高倉蛸薬師のカレーのお店「更紗亭(さらさてい)」
に行く。牛すじカレー。
 サフランライスにしては薄い黄色のご飯。
 甘口もあるのが、親切。
 味はまあまあ。ローテーションの谷間ぐらいにはまた登場しそう
な店だ。

 それより暑い! 京都の夏、全開だ!
 マンションの玄関を出たとたん、「ぶほっ!」という音が聞こえ
たかと思ったほど、暑い。むせかえる。
 まさにサウナのなかに入ったようだ。
 10分歩くのが限界なところも、サウナとおなじだ。

 午後1時30分。イノダ・コーヒ四条店。
 この店のクーラーの効き方は定評があるのだが、けっこう歩いて
来た私の身体を冷やすまでには、かなり時間がかかった。
 それにしてもイノダ・コーヒの机は、仕事をするのに最適だ。
 黙って座れば、ぴたりとアイデアが出る。
 きょうも『さくま式人生ゲーム2(仮)』のアイデアがぽんぽん
出る。

 午後2時30分。暑い中を命からがらマンションまで戻る。
 とてもじゃないけど、日中は歩けるものではない。
 TVで、夕方散歩しなさいと言っていたが、なるほどうなづける。

 こんな日は、部屋で仕事をするに限る。
『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書作り。
 書いては消し、書いては消しの孤独な作業。
 海辺で砂の山を作っては、耳掻きで少しずつ形を整えていくみた
いな作業だ。
 けっこうイライラする。

 気がついたら、午後7時すぎ。
 けっこうはかどったつもりだけど、文章量にしたら、たいした分
量ではないなあ…。ぐっすん。

 午後7時30分。下賀茂本通り北大路の餃子のお店「泉門天(せ
んもんてん)」に行く。
 ときどき無性にここの餃子は食べたくなる。
 小さな餃子10個の定食を食べる。650円。
 量が少なかった。15個のほうにすればよかったと後悔する。
 
 食後、北大路通りを散歩する。
 涼しくなったとはいえ、けっこう汗をかく。
 さらに北大路を西のほうに進んでも何もなかった。
 京都もここまで北に来ると、大きな通りなのに、まったく街路灯
が無い。京都は灯りが無いと、本当に闇が深い。シンとした怖さだ。

 けっきょく川端通りまで歩いてしまい、タクシーでしか帰るしか
なくなる。あ〜あっ、何しに来たんだろう。

 午後9時。マンションに戻る。
 再び『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書作り。
 もくもく。もくもく。もくもく。もくもく。
 もくもくと原稿を書くしかない。
 


7月22日(木)


 京都滞在6日目。
 昨日の東京の雨は相当すごかったようだ。
 こっちのニュースでも時間を割いて報道していた。

 私の風邪はというと、あと少し。
 ここまで回復したら、天気もいいことだし、出かけながらアイデ
ア出しをしたい。近畿地方はきょう梅雨明け宣言が出た。
 ひさびさのバカ旅行開始だ!

 答えから先にいう。
 今回のバカ旅行の目的地は、宮本武蔵駅!
 間違えではない、宮本武蔵駅である!
 そんな駅が…あるのである。
 こんなおもしろい駅を、『桃鉄』の作者である私が放っておくは
ずが無い。

 というわけで、まずは京都駅へ。
 どこに宮本武蔵駅があるかは、まだ内緒。私といっしょに旅をし
ましょう。
 
 午後10時。京都駅のみどりの窓口。
 窓口はガラガラ。どの駅員さんからチケットを買ってもいい状態。
こういうときはまず、窓口の駅員さんたちの顔をながめる。
 いた! 太っていて、身体が大きくて、銀ブチのメガネをかけて
いる、いかにもアニメおたく風の駅員さん。
 こういう人は、アニメおたく兼鉄道おたくのはずだ。

「宮本武蔵駅まで行きたいんですが…」
「はい」。
 ほうらね、驚かない。
 でなければ「そんな駅あったかなあ?」と時刻表を広げるか、ほ
かの人を呼びに行くはずだ。
 かつての鉄道少年はていねいに、道順を選んでくれる。
「こっちからも行けますが、私としてはこっちのほうが連結がいい
ので、おすすめですね!」
 見事なものである。
 あげくにちょっと前に新幹線ひかりが出てしまったので、次の新
幹線まで30分近く空いてしまうのを、ものすごく申し訳なさそう
にする。
 こっちはそうなることは予想していたので、もちろん「次の新幹
線でいいですよ」と言って、とりあえず希望通り、乗車券を京都─
宮本武蔵駅と印字してもらう。
 一応、このチケットをデジカメしてみたけど、ちゃんと写ったか
な? きょうは私がデジカメするので、非常に心許ない。
 写っていたら近日中に、ここに載る予定。
 午後11時。京都駅伊勢丹デパート地下の「アンデルセン」で食 事。ハンバーガーにコーヒーで朝食兼昼食。     午後11時24分。ひかり131号で、姫路に向かう。  このあいだ姫路城に行ったばかりである。  ただ宮本武蔵は姫路城に仕官していた時期もあるのだから、姫路 から近くても、不思議ではない。  それにしても本当にいい天気だ。  青空の色が鮮やか。  思わず『サザエさん』の♪サザエさ〜んは、ゆかいだな〜という 歌が頭の中を流れるくらい天気がいい。    仕事をするのがもったいないけど、新幹線に乗るともう、条件反 射のように、ぽんぽんアイデアが出てきて、止まらない。  思わずメモする右手が痛くなったほどだ。  なんときょう1日だけで、30ページもメモしていた。  腕が痛くなるはずだ。  途中、新幹線の電光ニュースで、文芸評論家・江藤淳さんの自殺 を知る。たしか『漱石とその時代』だったと思う。若い頃初めて必 死になって読んだ、難しい本だ。 『2コマ漫画』の中尾淳よ!   君の「淳」は実は、江藤淳さんの「淳」から名付けたのだ。江藤 淳さんの難しい本を読んで、若き日の私のように苦しみなさい!  午後12時12分。姫路駅着。  せっかくのいい天気をあまり見ることができなかった。  それほどメモしっぱなしだったのだ。  もちろん『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書のアイデアな んだけど、先日横山智佐ちゃんが家に来たとき、『さくま式人生ゲ ーム2(仮)』への出演を快諾してくれたので、イベント関係のメ ッセージが俄然書きやすくなった。  イベントのきっかけキャラが私。いいことが起きると、横山智佐 ちゃんが登場して、悪いことが起きそうだと、榎本45歳が出てく る。かつての『ジャンプ放送局』のパターンがつかえるとなると、 やっぱりメッセージが浮かびやすい。  キャラは大事でんなあ!  午後12時34分。姫路駅の新幹線ホームからJR山陽本線に乗 り換える。  けっこうホームで待たされる。  上郡(かみごおり)行きの電車に乗る。  沿線は、網干(あぼし)、新幹線の駅でもある相生(あいおい) 駅、赤トンボのふる里・龍野駅といったところを通る。  地図でいうと、姫路駅から左へ、岡山駅に向かって進んでいる。  午後1時6分。上郡(かみごおり)駅に着く。  さて。一体何番線に乗り換えればいいのかな?  そういえばさっきアナウンスで「大原方面は、ホームの前寄りに おこしください」とかなんとか言っていたような気がするなあ。  どういうことだろう?  乗り換えるような線なんて無いではない…、あっ、あれか?  おなじプラットホームの先のほうに、小さな屋根が見える。  あっ、あった、智頭(ちず)行き。そうそう。智頭方面に行きた いんだ。  おろ? 智頭(ちず)急行? たしかに京都駅のみどりの窓口の お兄ちゃんは、上郡駅から智頭急行に乗ると言っていた。  急行というのに、そこに止まっているのは、1両しかない電車で ある。急行が1両かい?
 どうやら、この電車は急行ではなくて、路線の名前が智頭急行線 というのであった。  なんじゃそれ? 山陰本線と言いながら、単線というふとどき路 線はけっこうあるけど、鈍行のくせして、急行線とはけっこう大ほ ら吹きであるな。  あっ。東京にも、京浜急行という路線があった。  あれとおなじか。でも京浜急行は、料金がおなじなのが申し訳な いような特急が横須賀方面に向かって走っている。  やっぱりこの智頭急行は、ちょっと大言壮語。JAROに言って やろ!に近いものがある。  もちろん私は旅をしてるだけで楽しいので、JRの不利になるよ うなことは極力訴えない。  むしろ鈍行なのに、智頭急行という名前なのは、切手のミスプリ ント版を手にれたみたいで、うれしいかぎりだ。  こんなうれしい電車は無いので、一度乗降りて、駅舎と電車をカ メラにおさめておきたい。  と思って降りかけると「まもなくこの電車は…」のアナウンス。  おっと、やばいぞ!  こんなローカル線で、1本乗り過ごしたら、次はいつ来るかわか らない。  ローカル線に次は無い!  午後1時16分。大原駅行き、智頭急行線は、ごとごと走り出す。  日本地図でいうと、中国山地に向かって、北上するようだ。  ディーゼルカーだな、これは。  ぐごごごごごっ、と身体をぶるぶる振るわせて必死に走るから、 ディーゼルカーは好きだ。  昔は蒸気機関車亡きあとは、ほとんどディーゼルカーになってし まって、ディーゼルもいっとき花形だったのだが、今やディーゼル も田舎のほうに行かないとお目にかかれなくなって来ている。  順番というものなのだろう。  ああ、いい景色だなあ!  山の緑が目にしみる。目薬のサンテEXをさしたばかりなくらい、 くっきり緑色だ。  電車の脇を流れる小川の水のきれいなこと。  透明度が何メートルなんてもんじゃない。丸見えの水だ。  手を伸ばして、水をすくってみたいなあ。  乗客はバラバラ。OL風もいれば、鉄道おたく風もいる。ローカ ル線には絶対ほしい、皺の中に顔がある赤銅色のおばあちゃんもち ゃんといた。もちろんこのおばあちゃんは、牢名主のようなものだ から、見慣れぬ私を見つけると、話しかけてくる。 「どこ行きなはる?」 「宮本武蔵の生家があるって聞いたもんだから…」。 「だったら、宮本武蔵駅で降りりゃええ!」  実はそうはいかないのだ。  たしかに宮本武蔵駅はこの先にある。  しかし、宮本武蔵駅で降りても、その生家や資料館まで、歩いて 30分ぐらいかかるはずなのだ。 「近いがね」  騙されないぞ。田舎の人の「近い」は絶対ウソだ。  この暑いときに、30分も歩いたら、絶対日射病になるに違いな い。ただでさえ私は皮膚が弱い。  しかもどうせタクシーなど無い駅のはずだ。  宮本武蔵駅を乗り過ごして、次の終点である大原駅まで行く。  大原駅なら、タクシーがあると、さっきのおばあちゃんも言って いた。  午後2時9分。大原駅着。  この駅の奇妙さを何と表現すれば、わかってもらえるだろう。  駅のホームは高架にあるから、2Fと表現していいのだろう。  ホームに降りて、階段を下りて行く。  この先はふつう、改札があって、ヒマそうな駅員さんがキップを 受け取るために待っているはずだ。  ところが、この智頭急行は、ワンマンカーであるから、すでに電 車の中で改札(検札)をすませてしまっている。  だから、階段を下りると、そこはもう道路なのである。  道路といっても、畑の中を舗装した程度の道である。  その道を右に曲がると、駅舎がある。  改札口の無い駅舎も妙なものである。  自動券売機と、ヒマで死んでしまいそうな売店があるだけだ。  ここからタクシーでいろいろ回ってもらおう。  おんや? 駐車場はあれども、タクシー乗り場が無い。  もちろんタクシーもいない。  おばあちゃんも、若い親切な運転士さんも大原ならタクシーがあ ると言っていたのになあ。  目の前に1軒、喫茶店があるだけである。  喫茶「モナカ」。ちょっと大胆なネーミングだなあ。  ああっ? 何だ、あれ?  その喫茶店の壁に「タクシー呼出し」の看板が!  しかも「河野タクシー」の文字も。  そうか、喫茶店とタクシー会社を同時に経営しているのか。  えっ? またしてもふしぎな張り紙が。  ふつう家を訪問したときに、呼び鈴を押しますよねえ。  その呼び鈴のところにも「タクシー呼び出し」と書いてあるのだ。  どうやらこのベルを押すらしい。  おもしろいので、押してみる。  2Fの喫茶店から、おばちゃんが顔を出す。 「タクシー? 今、津山のほうに出ていってて、当分帰ってこれん わ。そこの電話で、大原タクシーさんに電話したらええわ!」  親切なのか、適当なのか、よくわからない応対だ。  言われた通りにしてみるか。  電話する。 「あ〜、きょうは予約でいっぱいで、タクシーありまへんのや。も うしわけございません。ガチャン!」  言葉はていねいだけど、電話を切るのが早いこと!  えっ! ってことは恒例の遭難? いつものにっちもさっちもい かなくなるパターン? それはイヤだよ。  どんなピンチでもタクシーがあるからこうして無茶なバカ旅行し ていられるのだから。  私にとって、タクシーは生命線だ。  もう一度さっきの喫茶店のベルを押してみよう。  おばちゃんが顔を出す。  説明しようとする間もなく「ダメやった? ほなら、あわくらタ クシーに電話してあげるわ!」と奥に引っ込む。 「5分ほどで来るようや!」   田舎の人はだいたい親切だ。  なんとものんびりした、やりとりであった。  しばらくして、タクシーが来た。  話し好きの人であった。 「この町はそんなにタクシー利用が多い町なんですか? それとも 何かお祭りでもあったとか?」 「いいや。どこもタクシーといっても1台しか無いんですよ」  なるほど。1台出払ってれば、予約がいっぱいなわけだ。  すごいことになって来た。  まずは宮本武蔵駅まで戻ってもらう。 「宮本武蔵駅」の看板を写したかったんだけど、ホームが高架にあ るので、写せない。駅前のモニュメントだけ写す。デジカメに全部 は入りきらない。  デジカメには、広角レンズとか無いのかな。あったとしても私は もちろん使い方などわからんが…。  午後2時37分。クアガーデン武蔵の里というところに着く。  武蔵の里・五輪坊、武蔵の里・交流館、武蔵資料館、武蔵道場と か、武蔵ずくしで何がなんだかよくわからない。  宮本武蔵温泉というものもあるようだ。
     ただ広い敷地に、川も流れていて、非常に気持ちいい。  公園と呼んでは失礼なぐらい広い。  これはけっこう力が入っていていい。  できることなら春先に来たら、花もきれいで、もっとよかっただ ろう。ちと暑すぎる。
     とにかく橋を渡って、資料館に入る。  ほう。画家でもあった宮本武蔵の絵が多数展示されている。  へ〜。海北友松(かいほう・ゆうしょう)さんに弟子入りしてい たのか、宮本武蔵は。  海北友松(かいほう・ゆうしょう)さんは、安土桃山時代の有名 な画家さんである。  受験勉強のとき、覚えづらい名前だったから、今でも覚えている。  宮本武蔵が得意としていた、だるまの絵が多い。  雅号の「二天」は、父親の「無二斎」から来てるのかな?  へ〜〜〜。晩年宮本武蔵は、熊本藩ですごしたのか。  そこで有名な『五輪の書』を書いたのか。  50歳でねえ。私もあと3年で50歳。  まだ悟りも開けず、ギャグばかり書いている。  おや、15代細川家当主の揮毫(きごう)がある。細川元首相の 祖先である。  やっぱりなあ。宮本武蔵は、細川さんみたいに今も有名な人の後 ろ盾があるから、今日こうして資料館なんかも作ってもらえるんだ なあ。  何でこんな人が、歴史上の人物として今も伝わっているのか、不 思議に思うことは多い。  けっきょくその後の弟子とか、後ろ盾になっている政治家、企業 家が立派でないと、こうして歴史に残れないようだ。  おそらくものすごい業績があっても、後ろ盾がなかったり、弟子 に恵まれなくて、無名に終わってしまった歴史上の人物って、たく さんいるんだろうなあ。  そうなら、私も歴史に残れるかも…。ちょっと無理か。  すでに政治家の知り合いは失脚してしまったし、弟子はなあ…。  みんな、がんばってくれ!  おっと、忘れちゃいけない。名物探しもしておかないと。  山いもとろろまんじゅう。ちょっとこれでは名物にはほど遠いな あ。ひとつ美味しかったものがあった。 「くろまめとうめとうまい水」という名の缶ジュースだ。  平仮名じゃピンと来ないよ。 「黒豆と梅とうまい水」。なぜこれにしない!  梅がさっぱりとした味で、実に美味しい。  ただ缶ジュースだしなあ。ネーミングも長すぎる。『桃鉄』の物 件は9文字以内でないと登場することができない。  でもこのジュースを作ってる会社の名前がいい。  ムサシ食品工業。所在地は大原。出来過ぎの名前だ。  まあ、ここに来たら、忘れず飲んでみてください。  美味しさは保証する。  午後3時。さてとそろそろ帰るか。タクシーの運転手さんが「ち ょうど今、特急が出てしまったところです!」という。  えっ? 特急なんて無いでしょ? 智頭急行には。  知らなかった。「スーパーはくと」という特急があって、京都ま で直通なのだそうだ。  ひえ〜〜〜。ってことは電車1本で来れるのに、私は何本も電車 を乗り継いでやって来たってわけ? がび〜〜〜ん!  しかも聞けば、ここは兵庫県姫路市に近いのではなく、なんと、 鳥取県のほうが近いのだそうだ。  と〜〜〜っとりけ〜〜〜んんん? ほげっ。  鳥取県。そんな遠くまで私は来ていたの? けっこうとんとん拍 子で来たなあと思っていたのに。  へ〜。鳥取県の倉吉(くらよし)に近いし、その先は鳥取駅だと いう。  ほえ〜。倉吉駅といえば『桃鉄』の岡山駅から3つ上に上がって 行った赤マスの駅の右隣りの、カード駅だ。  ふんぎゃあ! そんな遠くまで!  話を戻そう。けっきょく京都まで直行できる特急には乗り遅れた。  タクシーの運転手さんの会話があまりにもおもしろいので、その ままJR山陽本線の上郡(かみごおり)駅まで走ってもらうことに した。  智頭急行に乗り換えた駅である。  おかげで山を越えたり、平福(ひらふく)という宿場町を見せて もらったり、盛りだくさん。  平福(ひらふく)というところは、京都の伏見のように、家から 川に降りて、そのまま高瀬舟に乗れるようになっていて、町並みが きれい。何より保存もされず、そのまま残っているのが、すごい。  もうちょっときれいにすれば、立派に観光地となることだろう。  それにしてもどうしてどこの宿場町も、道は曲がりくねっている のだろう。城下町は防御のために、わざとカクカクされているのは 有名だが。不思議だ。  長い道のり、タクシーの運転手さんの話題で楽しむ。  PC88、PC98時代のコンピュータにやたらくわしくて、こ っちはコンピュータのことがまったくわからない。1文字変換しか できないワープロ・ソフトの話ぐらいしかできなかった。  それならと歴史の話題にと、こっちの得意分野に引き込むが、私 より何倍もくわしい。  この近辺の赤松氏の話や、岡山池田公の話も、くわしい、くわし い。世の中には、在野の人で、これだけ博識の人がいるのだから、 私なんぞも偉そうに、歴史の話をしてないで、もっと勉強せなあか んと思う。  まだまだ井の中の蛙だ。  午後4時11分。上郡駅に着き、すぐ山陽本線が来た。どんぴし ゃりの連結! 電車がもう来ていたので、タクシー運転手さんの名 前を聞くのを忘れた。  このあたりに来れば、また会えるだろう。  午後4時44分。姫路駅着。またまたナイス・タイミングで、新 幹線がすぐ来るようだ。  午後4時58分。ひかり172号で、京都に向かう。  実にムダの無いバカ旅行であった。  宮本武蔵駅の武蔵の里は、けっこう行って損の無い場所だと思う。  とにかく宮本武蔵駅までの車窓がすがすがしい。  一面何ヘクタールものひまわり園とかあるし、ローカルな景色を 満喫できる。  また来てもいいと思ったほどだ。  今度は京都から特急で直接来てみよう。  午後5時49分。京都駅着。早い!  午後7時。四条河原町界隈をうろうろして、布袋寅泰のビデオ・ クリップと、浜崎あゆみのマキシ・シングルを買う。  何で私は京都に来ると、必ず浜崎あゆみを買ってしまうのだろう。  そんなにファンじゃないはずなのに。曲が好きってことは、けっ きょくファンなんだろうけど。  そうそう。最近曲のことを「楽曲」という言い方をするけど、あ れはどうも気に入らないので、私はつかわない。  人が「楽曲」という言い方をするのは、かまわない。  TVやラジオの人たちが夜でも「おはようございます!」という のも、ちっともかまわないけど、私は極力「こんにちわ」と言うよ うにしている。  ちょっとしたこだわりなだけだ。  さて。お腹も減った。先斗町の入口の洋食屋さん「開陽亭(かい ようてい)」に行く。  おお。たしかにこのお店も、鴨川沿いに面しているのだから、あ たりまえなのだが、きょうはお店を川にせり出させて、川床(かわ どこ)料理のお店になっていた。  この季節、鴨川沿いのお店は、海の家のように、よしず張りの簀 の子を突き出して、お店の敷地面積が広がる。  この川床料理。川に面するので、風情があっていいのだが、京都 は盆地で暑くて、風もまったく無いから、私はあまり好きではない。  一度ほかのお店で、大量の蚊の大群に襲われるやら、まったくの 無風に汗だらだらで気持ち悪くなったことがある。  以来、川床料理のお店は敬遠している。  でもきょうはこの時期にしては珍しく、風が少し吹いていて、け っこう涼しい。  これなら大丈夫だろう。川床の席にしてもらう。  ちょうど四条大橋と歌舞伎の南座が見える絶景である。  なんだか得した気分。  このお店自慢の洋食弁当を食べる。  この店自慢の料理がほとんど入っているので、この洋食弁当が大 好きだ。量も少ないところが私にはいい。  ビーフシチュー、えびフライ、ほたてフライなど、どれも美味し い。もちろんこのお店もグルメの師匠・すぎやまこういち先生ご夫 妻に教えていただいた。  恐ろしいのは、ほかの「開陽亭(かいようてい)」のお店を美味 しいお店と看破していた食い道楽がもうひとりいた。  もちろんグルメ・バカ娘である。  この1週間ぐらい、グルメ・バカ娘のいない食事は何やら静かだ。  午後8時。家の近所の喫茶店「カフェ・パリス」でコーヒー。  美味しくないのだが、何よりマンションに一番近い。  コーヒーにチョコレートが1枚ついてくるのが、いいところかな。  ちょうど嫁から電話が入る。  原宿の自宅の工事が終了したそうである。  実は自宅の2階の壁を改造した。  作りつけの引き出しばかりにして、本の背や、むさ苦しい紙類を 見えないようにした…はずである。まだ私は見てないのだから。  この工事もあって、私は京都にこもっていたのである。  あいかわらず手が不自由なので、こういうときにまったく役立た ずなのだ。情けない。  まあ、明日東京に戻るので、どうなったか楽しみ。  よければ私の部屋の仕事スペースも改造する予定。  今は押入を改造して、仕事机を入れている。  さあて、帰り支度もしないとなあ。  ほとんど風邪で終わってしまったのが、心残りだけど、きょうの バカ旅行は楽しかった。  その証拠に、横浜ベイスターズが22点取って快勝したようであ る。京都にいるあいだじゅう連敗していた。  何も1試合で22点も取らなくていいのに!  ローズが1試合10打点。す、す、すごい!  引退はやめてくれい!  さて、明日は東京の予定。
 


7月23日(金)


 きょうは東京に帰る。
 東京に置いてあるパワーブック2400の調子が悪いので、京都
に置いてあるパワーブック2400を持って帰る。
 手が不自由なので、重たいこと、重たいこと。
 基本的に右手しかつかえないので、バッグに入れようにも、バッ
グの口を左手で開けることができない。
 右手で開けて、開いた瞬間、また右手に持ったパワーブック24
00をぐいっとバッグに押し込む。
 まるで盗みに入った泥棒のような動作だ。

 昨夜ずっとプロ野球ニュースをはしごして、横浜ベイスターズの
22得点を見ていたものだから、布袋寅泰のビデオクリップを見る
ことができなかったので、持って帰る。
 これに、『さくま式人生ゲーム2(仮)』関係の書類がたくさん
あるから、本当に重い。
 鉄腕アトムのTシャツをバッグの中にしまうことが出来ない。手
が不自由なので、たためない。
 管理人さんと世間話をして、暑い日射しの中、重い荷物を持って、
京都の町をよろよろ歩く。

 午前11時。四条烏丸の大丸デパート8F。ここに「さぬきうど
ん讃兵衛(さんべい)」がある。
 もう「さぬきうどん」と書いてある看板を見つけると、とりあえ
ず入る。
 東京国際フォーラムにある店とおなじ系列である。
 国際フォーラムのほうの店は、乾いた大根おろしの生じょうゆう
どんを食べさせられて、びっくりしたが、さすがにこっちはそうい
うことが無いだろうと思って入った。
 京都にも、さぬきうどんのお店があると、急造讃岐うどんマニア
の私としても、非常に助かる。
 プロ野球の投手陣とおなじで、美味しいお店は何軒あっても困る
ものではない。

 まずい…。美味しくない。すだちが入っていない。お店がガラガ
ラなわけである。ショック。
 京都シリーズ最後のお店がこれでは、何だか完封ペースで進んで
た試合の最終回に満塁ホームランを打たれて、1点差まで追い上げ
られたような気分だ。
 う〜ん。すだちを入れれば、この味でもけっこういけると思うん
だけどなあ。麺はそれほど悪くない。

 思い足どりで、タクシーに乗らず、思わず地下鉄に乗る。
 重い荷物を持っていたことを忘れていた。
 手足が不自由な人間にとって一番つらいのは、地下鉄とお城の階
段である。手足が不自由なのに、お城に行くやつが悪いんだけどね。 
 地下鉄は階段が長いし、通路も長い。
 けっこうこれがこたえる。

 午前11時30分。京都駅。新幹線のキップを買って、伊勢丹デ
パート地下で、時間をつぶす。スタンドのコーヒーが350円なの
に、やけに美味しかった。

 午後12時10分。のぞみ12号で東京へ。700系だ。乗り心
地いいぞ。でも寒い。クーラーが効きすぎだ。
 Tシャツに、半袖のシャツ着て、さらに長袖のシャツをはおって
も、まだ寒い。こんなに寒いのにほかのお客さんたちは平気な顔を
している。かつては、寒いのなんかへっちゃら組のデブだったのに
なあ。
 デブの頃、クーラーで寒いなんて思ったこと、一度もなかった。
 これが寒いってことなのかあ、などと思いながら、うとうとする。
 たまに起きては、ゲームのアイデア出し。

 午後2時24分。東京着。
 午後3時。帰宅。急に疲れが出てくる。緊張が解けたのだろう。
 きょうはパワーブック2400を壊さずに持って帰らないと仕事
にさしつかえるので、けっこう気をつかっていたようだ。

 午後4時。読売広告の岩崎誠と、ニュートサテライトンジャパン
の平根さんが来る。
 インターネット・ビジネスについて、いろいろ話す。
『月刊デジタルさくまにあ』がスタートして続いて行けば、平根さ
んともいろいろいっしょに仕事ができそうだ。
 今後このインターネットというものが、どう変貌して行くのかわ
からない。でもまわりで見てるうちはそのままずっと、何もわから
ないと思う。少々熱くても、やはり火中の栗じゃないけど、いつも
熱いところに手を突っ込んでいないと、何も浮かばないと思う。
 もうすぐ始まる『月刊デジタルさくまにあ』はそういう意味でも
何が起きるのかとっても楽しみである。
 っと言っても、すぐファンファーレが鳴るような派手さでは、ス
タートしないからね。
 様子を見ながら、そ〜っと、そ〜っと始めて、おもしろくなるよ
うだったら、盛大にティンパニを打ち鳴らすだろう。

 午後6時30分。昼間のさぬきうどんが美味しくなかったので、
銀座の「さか田」に行きたくなる。昼間の敵を夜で討つ!
 と思ったら、グルメ・バカ娘が銀座に行くなら、資生堂パーラー
に行きたいと言い出す。
 ご飯のことを言い出したら聞かないのが、グルメ・バカ娘。
 あまりにもうるさいので、ジャンケンにする。
 グルメ・バカ娘が勝ったら、資生堂パー…、しまった。こいつ食
い物を賭けたときのジャンケンは連戦連勝、無敵の敵ちゃんだった
ことを思い出す!
 負けた…。やっぱり負けた。
 本当に強い。
 憎たらしいほど強い。
 鼻の穴っっぴろげて、自慢のポーズを取るな! たかがジャンケ
ンぐらいで。

 午後7時。銀座「資生堂パーラーで食事」。家族3人バラバラの
コース料理を注文。お店が超満員なので、料理が出るテンポが遅く
て、イライラする。味はいつも通り、けっこう切れ味がいい。
 グルメ・バカ娘がジャンケンしてでも行きたいお店というだけで
も、相当評価は高い。

 午後10時。帰宅。さすがに疲れた。
 きょうはゆっくり寝よう。
 明日、元気だったら、あそこへ行こう、ここへ行こうというアイ
デアはあるのだが、さてどうなることやら。
 天気と私の体調次第。
 


7月24日(土)


 まだ鼻声。あ〜んど、空咳が続く。
 夏風邪は本当に長い。

 朝からずっと『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書作り。
 2日前の岡山県宮本武蔵駅行きの電車のなかで、書きためたアイ
デアを清書する。
 これだけでも、2〜3日はかかる量だ。
 ただ清書するだけでなく、不都合が無いか、もっといいアイデア
に変えたほうがいいのか、チェックしながら清書するから、アイデ
ア出しより、もっと時間がかかる。

 とにかくずっと『さくま式人生ゲーム2(仮)』ばかり作ってい
るようだが、その通りである。そうせざるをえない。

 その大変さは、とってもわかりやすい。
 現在システムのほかに職業別メッセージも書いているのだが、単
純計算で、ひとつの職業に付き、40種類ぐらいのメッセージが必
要になる。最低ね。
 これが現在メインの職業の数が54あるから、2160通りのメ
ッセージを作らないといけない。
 じゃあ、2160通りのメッセージを書けば終わりかというと、
つかえるメッセージが浮かぶまでには、ボツ・メッセージを多めに
作って選ばないといけない。その数は約3倍。
 戦国時代の兵法でも、敵の3倍の数の兵で攻めよ!である。
 ってことは、6480通りのメッセージが必要になる。

 これ以上の計算はやめよう。このメッセージ量には、突発イベン
トも、カード・メッセージも、ミニゲームのメッセージも含まれて
いない。

 今回の『さくま式人生ゲーム2(仮)』の途中経過を人に話すと、
とにかく反応がいい。でもそのゲームのメッセージ量が多すぎて、
書いても書いても、ちっとも進まないのだ。

 午後12時。麻布十番の洋食屋さん「EDOYA(えどや)」に行
く。最近グルメ・バカ娘がめっぽう気に入っているお店。
 どこかの本に「正しい洋食屋さん」と書かれていたが、まさにそ
の名はふさわしい。
 きょうはあまり食べずにおこうと思っていたのに、グルメ・バカ
娘の豪打爆発!
 ヴィシソワーズ、パンプキンスープ2、スペアリブ、ハンバーグ、
ハヤシライス、ビーフバター焼き、紅茶のアイスクリーム、洋梨の
シャーベット、ブラマンジュを注文して家族で突っつき合いながら
食べる。
 仲のいい家族だ。食事のときはいつも。
 でもはっきりいって食べ過ぎ。

 食後。きょうはしっかり仕事をしたいので、麻布十番のピーコッ
クで買い物をして、そのまま家まで帰る。

 午後2時。帰宅。脇目もふらず『さくま式人生ゲーム2(仮)』
の仕様書を書きまくる。

 午後6時。ぶっ通しで仕様書を書き続けて、右肘と右手の指先が
痛くなってくる。
 京都から持って来たパワーブックの調子がいいので、仕様書作り
もはかどるが、腕の方が悲鳴を上げてしまった。

 午後6時30分。食事をして、少し腕を休ませる。
 麻布十番で買って来た食材で、昨日京都で食べてまずかった生じ
ょうゆうどんを作る。
 十分昨日京都で食べた生じょうゆうどんより美味しかったのだが、
ちょっと麺にこしがなくて、ふにゃっとしてたのが、残念。
 その分、家庭だと、すだちをかけ放題、大根おろしたっぷりなの
が、うれしい。
 …と思いきや、グルメ・バカ娘の食がまったく進まない。
「く、苦しい…。お腹いっぱい…」
 苦しいではないだろ! 「まずい」だろが!
「ううん。苦しい…」
「じゃあ、スイカは食べないな?」
「食べる」
 やっぱりである。ま〜〜〜ったく! 麺がダメなだけで、食べ残
すもんなあ、こいつは! どこの貴族の生まれだ!

 食後。TVで『オールスター戦』を見る。
 昨年横浜ベイスターズが優勝したので、セ・リーグの監督は、権
藤さんだ。だからわざわざ家で食事してまで見るんだけどね。
 いいねえ。スターが集まるオールスターってのは。
 一流選手ばかりだ。
 あいかわらず長島さんがインタビューで「夢のドリーム…」と平
然と発言してくれて、笑わせる。 
 
 松坂くんが先発投手。
 ひえ〜〜〜〜〜。いきなり横浜ベイスターズの石井琢朗、鈴木尚
典が連続三振! そんなわざわざ松坂くんをスターにするような行
動を横浜ベイスターズの選手が取らんでいいのに!

 TVを見ながら、再び『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書
作り。手首が痛い。
 このあと鍼灸師の弓削くんが来ることになっているから、腕も折
れよとばかりに、キーボードを叩き続けるぞ〜!
 パチパチパチパチ…。
 


7月25日(日)


 風邪直んないよ〜。
 1週間を越えてしまった。まだ空咳が続いている。
 
 午後12時。南青山根津美術館の脇の「アフタヌーンティ」で食
事。鶏とゴボウのサラダ風サンド。
 サラダボウルに、刻んだパンも入っていて、ふしぎに美味しい味。
 へ〜。こんな美味しいお店があったのかと、店名を見たら「アフ
タヌーンティ」ではないか! これってチェーン店で、自宅のすぐ
そばにもあって、そっちのお店はあんまり美味しくなかったぞ。
 店によって違うのかな。

 食後、青山の裏道を散歩しながら帰ろうとするが、暑い、暑い、
暑い! みんなに暑さがもっと伝わるように、暑いをペースト、コ
ピーだ。暑い、暑い、暑い、暑い、暑い、暑い、暑い、暑い、暑い、
暑い、暑い、暑い、暑い、暑い、暑い、暑い!

 10分も歩かないうちに、ケーキの美味しそうな喫茶店を発見!
「キルフェ・ボン」という名前のお店か。あっ、この店って、代官
山にある美味しいケーキのお店とおなじやつだ!
 ちょうど今朝、お昼ご飯、どこ行こうかという会話をしていたと
き、このお店の名前も候補に出たけど、ケーキだけのお店なので、
断念した。
 もうお昼ご飯は食べ終わっているから、迷うことなく、入る。

 家族揃って、フルーツのタルト、フルーツのババロア、フルーツ
のクレープを注文。ここのケーキ、ホントに美味しいでっせ!

 表参道の交差点まで出てしまったので、この暑い炎天下のなかを
歩いて帰ることを決意する。風邪引いて、あまり歩いていないので、
少しは歩いておかないと。
 でも道路って、木が植わってるだけで、けっこう涼しいもんなん
だねえ。表参道のケヤキ並木は少しだけ風が吹いていて、ここちよ
いとまでは言えないけど、ガマンできる暑さに緩和される。
 表参道の露店をのぞきながら帰る。
 路上芸術家が描いたバッグとかアクセサリーを買っていく。

 午後2時。ふう。炎天下を歩き抜いて、帰宅。汗びっしょりだ。
 そのまま『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書作り。
 いよいよシステム関係がまとまりそうだ。
 少しずつだけど、確実にゴールに向かっている。
 やっとそういう気になれて来た。
 なんてことを思うと、まだミニゲームがほとんど手つかずだなと
か、よからぬことに気づいてしまう。
 終わらないねえ、このゲーム。
 おもしろいのになあ。おもしろいからこそ、こうして粘ってメッ
セージを書いてる。
 今回の作品はとにかく代表作にしたいので、粘るぞ。

 午後5時。新宿歌舞伎町の「シアターアプル」に行く。
 きょうはホリプロのお笑いライブ『芸腕グランプリ』の日。
 ホリプロの若手芸人さんたちが、甲子園野球のように、16組出
場して、トーナメント方式で、毎回持ち時間2分間で対決して行っ
て、決勝をめざす。
 このトーナメントに、アリtoキリギリスも出場するのだ。
 ほかには、坂道コロコロ、ポプラ並木、号泣といったところ。
 ほかにもたくさん出てたけど、初めて聞く名前ばっかり。
 ひとつだけダブル・ブッキングというコンビが将来性があって、
チェック。将来性はあっても、将来を作るのは本人たちだから、今
後どうなるわからないけどね。

 結果からいうと、あれ? こういうのって発表しちゃってかまわ
ないんだよね。どこかでTV放映するとかってないよね? ラジオ
も。もしあったらゴメンなさい。今のうちに謝っておく。
 もとい。結果からいうと、アリtoキリギリスは惜しくも準優勝。
ネタはよかったんだけど、坂道コロコロのふたりの勢いに負けてし
まった。こういうステージはやっぱり身体を張ったギャグのほうが
受けやすいな。
 グルメ・バカ娘は最後まで、アリtoキリギリスのふたりのほうが、
ネタがよかったとぶつぶつ文句を言っていたけど、勝負の世界は笑
いが多いほうが勝ちなので、仕方がない。

 このトーナメントは、司会がバカルディのふたり。ゲストがつぶ
やきシローに、イジリー岡田、審査員に、フォークダンスDE成子
坂、優花。
 こういっては何だけど、早いところ、アリtoキリギリスのふたり
はこっち側の立場
になってしまったほうがいいなと思った。

 トーナメント終了後、楽屋に行って、アリtoキリギリスのふたり
と、放送作家の福本岳史くんに挨拶。
 優勝賞金は20万円だったけど、準優勝には1円も出ないのだと
いう。そりゃかわいそうだけど、まあ、芸の世界はオール・オア・
ナッシングのほうがいいことはたしかだな。

 午後9時。伊勢丹前の映画館裏の「航海屋ラーメン」で、毎度お
なじみ清流麺を食べる。

 午後9時30分。帰宅。もう少し仕事をして、布袋寅泰のビデオ・
クリップを見て寝る予定。
 このビデオ・クリップ、格好いいと思えば、格好いいし、笑える
と思ったら、笑えてしまう、不思議なビデオ。
 このスレスレな危うさがとっても気持ちいい。
 昨日半分まで見たので、きょうは残り半分を見るつもり。
 


7月26日(月)


 午前10時。ハドソンの梶野くん、宮路一昭くんが来る。
 新作『桃太郎電鉄』のついての打ち合わせ。

 午前11時30分。打ち合わせが長引いてしまったので、お昼ご
飯が食べられない! 私にとっては、朝食兼昼食なのに〜と言いな
がら、赤阪TBSへ。
 TBSの1F喫茶ルームで、アリtoキリギリスのふたりが取材を
受けている。おお、それならまだ少し時間があるなと、サンドイッ
チとコーヒー。
 あとで聞いたら、ふたりはこの取材のせいでご飯食べられなかっ
たそうだ。石塚義之くんは録音中に「お腹へった」を連発していた。
 まあ、そういうことはよくある業界だ。

「早飯、早糞、芸のうち」という言葉はこの業界では本当に生きて
いる言葉で、都内の吉野家、立ち食いそばの場所をしっかり覚えて
いる達人は何人もいる。

 午後12時。TBSラジオ『有限会社 桃太郎商店』の録音。
 吉野紗香ちゃんが大人っぽい服装をして来たものだから、石塚義
之くんがよろこぶ。
 石井正則くんはここ1ヶ月以上「パソコンがほしい、パソコンが
ほしい!」を連発している。いよいよiMacを買う気になって来て
いる。
 などという雑談から入って行って、きょうはどんな話を膨らませ
て行こうかと、お互いの距離を測って行く。
   
 私は私で、まだ風邪が直らないので、声が風邪声にならないよう に、咳き込まないようにと、イソジンののどフレッシュを多用する。  実際きょうの録音は非常につらかった。  でも嫁のチェックでは、風邪声で聞き取れないということはなか ったと言っていたから、ひと安心。  番組のほうは、アリtoキリギリスのファンにはなつかしいネタら しいんだけど、石井正則くんが、愛の伝道師というキャラを披露。  石井正則くんの声がいいので、こういう「ラジオの兄貴分」のパ ロディ・ネタがみごとにヒットする。  こういうツボにはまった時の石井正則くんはやっぱりすごい。  自分でも笑いをこらえながら、愛の伝道師キャラを演じていた。  石塚義之くんはいつも通り、元気、元気! 憎めない男だ。  午後3時。録音終了。雑誌『アニラジ・グランプリ』の取材。  番組始まってから、2回目の取材だ。  取材があるってことは、反響があるってことだからとてもうれし い。先日の聴取率調査でも同時間帯1位を獲得したそうだ。  ピンと来ないけど、すごいことだ。     午後3時30分。ムサシノ広告の伊東正義とTBS1Fの喫茶ル ームで近況報告&打ち合わせ。    午後4時。帰宅。新人漫画家の汐崎隼さん、空月くらげサン、高 内優向(たかうちゆうが)さんが来る。  もうすぐ始まる『月刊デジタルさくまにあ』での『当方見聞録』 の原稿を見る。  空月くらげサンの沖縄シリーズは、『沖縄・チムワサ紀行』とい うシリーズ名になりそう。チムワサは、沖縄の方言で「どきどき」。 「沖縄どきどき紀行」ってことになる。  ただ『当方見聞録』でスタートして、よかったら渡空燕丸さんの ように完全連載になる予定なので、みなさんの応援がほしいそうで す。私も人気があると、連載にしやすい。  でも『当方見聞録』が始まるのは、8月15日ぐらいからの予定。  高内優向さんとは『さくま式人生ゲーム2(仮)』のイラストと、 読売広告の岩崎誠がチャンスをくれている、あるキャラクター・デ ザインの打ち合わせ。  よかったら採用されるという約束。  もう3〜4回ぐらい書き直しを命じているんだけど、ようやく及 第点が取れる作品になって来た。  汐崎隼さんとは『月刊デジタルさくまにあ』用の連載漫画『SIDE WINDER』の打ち合わせ。かつて『チョコバナナ』に載った作品を 最初から描き直している。  これは9月か、10月ぐらいから連載の予定。 『月刊デジタルさくまにあ』は「だらだら始めるよ!」と言ってお きながら、日程を考えると、もうこうして3ヶ月先の仕込みをして おかなければいけないのだから、大変だ。  午後7時30分。近所のスパゲティ屋さん「ロートロ」で食事。  きょうの私は、ナスとしめじのスパゲティだ。  食後、ふたたび自宅に戻って、みんなと打ち合わせを続ける。  といってもほとんど業界のしきたりについてのお話。  もう素人扱いしないのだから、たったひとこと失言しただけで、 業界から去らなければいけなくなるんだよという話。  逆にたったひとこと素晴らしい言葉をいったおかげで、出世街道 をまたたくまに駈け登ることもできるんだよという話をする。  インターネットの時代になって、電話でするような会話が誰にで も聞かれてしまう。そこでうっかりした発言をしたら、どれだけの 人を敵に回さないといけなくなるかについて、もっと脅えないとい けない。  もう読んだ人も多いと思うが、柴尾英令くんの7月24日の日記 に登場した男のことだ。面識は無いけど、うっかりとか、悪気はな かったではすまされないことだ。本当にゲーム業界にはこういう勘 違い人間が多すぎる。  余談になるけど「悪気はなかった」って言葉もすごく怖いと思わ ない? 「私は何も考えずにやってしまったんだから許してくれ よ」という意味でしょ。これって私は頭が悪いですよと宣伝してい るようなものだ。  午後10時。みんなが帰って、『月刊デジタルさくまにあ』用の 『2コマ名作劇場』の選考。  豊作だ! 応募枚数も倍増! うれしい悲鳴の連発だ! 「過去最高の16枚一挙掲載!」を決めたのに、どれを落としたら いいのか、悩みまくる。  この調子が毎回持続してくれたら、おもしろくなるんだけどなあ。  午後1時。選考終了。うはっ。これから風呂入って、『ヘイ!ヘ イ!ヘイ!』の録画見たら、どんどん時間が遅くなる。  以前だとここから朝の8時すぎまで仕事を始めたものだ。  動かなかったDVDも動くようになったから、映画も見たいのに なあ。DVDの『TAXI』も買って来たんだぜいっ。  ビデオの『古畑任三郎10』も買ったんだぜいっ。SMAPが出 たやつというより、石井正則くん初登場のスペシャルだ。  う〜ん、でもまずは寝ないと。
 


7月27日(火)


 午前中、『さくまあきら・バラエティ・ブック(仮)』の完全年
表の製作。
 この年表もあと少しで完成する。『ジャンプ放送局』のスタート
と終了月。『ヘタッピまんが研究所』『まんがカレッジ』『おもし
ろMAP』といった出版関係と、『ジャングルウォーズ』の発売月
がわかれば完成する。
 倉庫に行けば、本はあるので、わかるはずなのだが、倉庫の本の
数が尋常じゃない。しかもこの暑さの中、とても倉庫まで歩いて行
く気になれない。横着になったもんだ。

 午後11時30分。青山「穂積」へ行くぞ〜!と言ったにもかか
わらず、グルメ・バカ娘はベッドにうつ伏せになったままぴくりと
も動かない。
 青山「穂積」で起きないということは、本当に眠くて仕方が無い
のか。こりゃ相当眠いのだろう。置いて行こう。
 わかりやすい子どもだ。
 今月休刊の『楽』という本に、「穂積」のお昼のお弁当というの
が載っていて、ものすごく美味しそうなので、行ってみたかった。
 それにしても休刊する本の多いこと。
 確実に本の時代の終焉は近い。

 で、「穂積」のほづみ膳。3000円と値段が高いけど、これと
おなじぐらいの量で1万円取る料亭なんか、京都だったらいくらで
もあるから割安だ。
 なんたって、ずいぶん分厚い牛舌が2枚入っているなあと思った
ら、これがあわび!
 あわびなんて、薄〜く、薄〜く、フグのようにスライスしたもの
が、2枚でも1000円取るお店だってあるのに、この分厚さは、
値段の3000円の何分の1を占めているのかと心配になる。
 しかも夜のコースを、ダイジェストにしたようなコンパクトさで、
味のほうは夜のグレードそのまま。
 これは私向きだ。
  
 午後1時。帰宅。『週刊朝日』に話題の東芝インターネット問題
が載っていた。
 週刊朝日の記者立ち会いのもと、東芝の副社長が、インターネッ
ト制作者に謝罪しているのだが、惜しいねえ、東芝さん! 信用を
回復する絶好のチャンスを逃した。
 謝罪の仕方が下手だなあ。でもたぶん部下からの情報が甘かった
からそこまで謝罪する必要がなかったと思っていたんだろうなあ。

 午後2時。きょうは『さくま式人生ゲーム2(仮)』の打ち合わ
せ。タカラの高田さん、VR─1の本山博敏さん、荒堀明弘くん、
宮路一昭くん、福本岳史くんが来る。

 遅れを取り戻すために京都に行ったのに、風邪を引きに行ったこ
とをまず詫びる。
 でもきょうから細かい打ち合わせに入れたのは、ついにこのゲー
ムが始動し始めたんだなあという実感をつかめてうれしかった。
 スタート時の名前入力、コントローラの選び方など、みんなでひ
とつひとつ、ああでもない、こうでもないと議論する。
 こういう盛り上がりは、ゲーム作りで絶えてなかったことなので、
とてもうれしい。
「こうしたい!」「できません」。
「ああしたい!」「できません」。
「こういことやってたゲームあるんだけど…」「できません」。
 ここ数年こういうやりとりの連続だった。

 反応があるとゲームデザイナーなんてものはお調子者だから、ど
んどんおもしろいことを思いつくものだ。
 そのたびに仕様書の製作が遅れてくるので、大変申し訳ない。
 でも今回は納得行くゲームにしたい。
 
 午後7時30分。会議終了。
 午後8時。私、嫁、グルメ・バカ娘、福本岳史くんと食事にでか
ける。
 グルメ・バカ娘が突然「資生堂パーラーのカレーライスが食べた
い!」と言い出す。
「このあいだ行ったばかりなんだから、ダメ!」と嫁。
 ぎくっ。実は私も資生堂のパーラーのカレーライスが食べたかっ
たのだ。何で子どもとおなじ感性なのだろう、私は。
 
 けっきょく嫁を説得して、銀座の資生堂パーラーに行く。
 うちがお気に入りのカレーライスに飛騨牛フィレ肉添えというの
はとうとうメニューにない料理になってしまっていた。
 でも料理することができるというので、注文する。
 
 福本岳史くんも今度の『月刊デジタルさくまにあ』に参加したい
と言ってくれた。
 放送作家なのでやっぱり日記のほうがおもしろいんじゃないかと
いうことに。漫画の原作もやってみたいとも。

 午後9時30分。そのまま4にんで、新宿野村ビルの近くのロイ
ヤルホストへ。
 ひさしぶりに弟子の原口一也と会う。
 お互いインターネット日記では書けない部分の近況報告。

 午前0時。原口一也と福本岳史くんと残して、私たちは帰ること
に。最近どんどん寝る時間が遅くなっているので、なるべく早く寝
ないところなのだが、今から帰ってもやることが多いから、寝るの
は午前2時すぎぐらいになりそうだ。
 


7月28日(水)


 午前10時。高円寺の整体さんへ行く。

 午後12時30分。荻窪タウンセブン7F「森永ファミリーレス
トラン」で、土居ちゃん(土居孝幸)と待ち合わせ。
 新作『桃太郎電鉄』について打ち合わせ。

 午後3時。帰宅。
『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書作り。
 ついに職業数を減らすことを決意する。
 最初の54種類を、32種類までに減らす。
 というのも、男女機会均等雇用制度といったものがジャマして、
男性の職業と女性の職業の種類をおなじ数にしないといけない。
 だから男性の職業を50種類浮かんだら、女性の職業も50種類
にしないといけない。
 ところが実社会でも、女性の仕事の数は驚くほど少ない。
 美容師なんかは非常に女性が多く働く職場ではあるが、今の話題
の中心は、スーパー美容師である。
 となると、美容師は男性用の職業ということになってしまう。

 これがずっと『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書の完成を
遅らせている一番の原因なので、ついに大英断。厳選の32種類に
することにした。といっても、結婚相手がすでに40種類、その子
どもの職業が32種類、転職専用職業が、現在の段階でも10種類
以上、けっきょく100種類以上の職業は登場する。

 これで少しは遅れは取り戻せるかもしれない。でも内容を充実さ
せるとまた時間がかかるんだろうなあ。

 というわけで、再び『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書作
り。はっはっは。面倒なことにあんまり変わりなかったなあ。

 午後6時。新宿オペラシティB1の「手塚治虫ワールド」に行く。
『ほんのチョイ係』のほうで、×××××サン(本人の希望により
削除)が教えてくれたお店だ。
 うほ〜。京都駅のお店より全然広い。
「ミニ・なんじゃタウン」といった感じ。
 アトム商店、お茶の水研究所という飲み物スタンド、ハム&ラン
プ・カフェ、がちゃぼい市場、その他ファンシー・グッズやフィギ
ュアを売る店がたくさん。
 フィギュアがまた、インフレっていて、2万、3万円あたりまえ! 100個限定8万円、小学生ぐらいの大きさのやつが、18万円、 お腹が開いて、ハートにランプが付くやつが45万円と来たもん だ!  片っ端から買いまくってやろうかとも思ったのだが、最近どうも フィギュア熱自体は醒めてしまっているので、実用的なTシャツと かトイレットペーパーなんかを買って来た。  嫁がレジの人の会話を聞いたらしく、きょうここで20万円買っ て行った人がいたそうな。  あやうくその人パート2になるところだった。冷静に、冷静に。  午後7時。おなじオペラシティのB1のひとくち餃子のお店「西 安(しーあん)餃子」で食事をして行く。  ニンニクがひとつぶ入った、ひとくち餃子なんかがあって、まあ まあ美味しい。わが家族がまあまあといった場合は、みんなにとっ ては美味しいほうの部類に入るから、チェックしておいたほうが いいよ。でもちょっと居酒屋風ね。  午後8時。帰宅。  食事をしていたときも、次から次へと『さくま式人生ゲーム2 (仮)』のアイデアが浮かんできていたので、さっそく仕様書作り を始める。  きょうはこれからずっとこの作業を続ける予定。
 


7月29日(木)


 さくまあきら47歳の誕生日に、お祝いのメール、FAX、手紙、
プレゼントなどなど…、名前をここに書けないけど、ありがとう、
ありがとう、ありがとう!
 今回びっくりしたのは、プレゼントにDVDのソフトをもらった
ことだ。インターネットの日記の情報のすごさを思い知らされると
同時に、DVDがもうこんなにポピュラーものであることを知って
あせった。
 とくにハドソンの梶野くんが、DVDで『ウルトラセブン』を贈
ってくれたのには、これまたびっくり!
 なんとこの1週間ずっと買おうか、買うまいか、悩んでいたソフ
トだったのだ。この悩んでいたことは家族にもいっていなかったこ
となので、まるで合格しそうもない学校の入試に偶然番号を見つけ
たぐらいうれしかった。
 ポニーキャニオンの鵜飼くんにも『ディアボロス』ほか3枚いた
だいた。いつもいつも鵜飼くん、すみませんねー。

 といううれしい日なのだが、生活はふだんと変わらず、朝も早く
から『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書作りを午前中はずっ
と書きっぱなし。
 昨日の決断でいよいよエンジンがかかって来た。

 そうそう。昨日の晩から『月刊デジタルさくまにあ』もスタート
した。けっこういきなりのわりには充実してるでしょ?
 まだこれからいろんな企画をスタートさせるからね。

 でも早くもアンケートに書き込みが出来ないなどのトラブルが発
生しているようだ。
 宮路一昭くんから、自分の『ミュージックファクトリー』の部分
の音が聞こえないという情報も入っている。
 何かトラブルがあったら、どしどしメールください。
 少しずつ直していく。

 午後12時。原宿駅で新人漫画家の汐崎隼さんを拾って、赤坂見
附の和風料理屋「皆美(みなみ)」で食事。
 今朝、急にまたグルメ・バカ娘がこの「皆美(みなみ)」の鯛茶
漬けが食べたいと言い出した。
 このお店は、夜になると、1万円とか2万円する高級料理屋。
 一度行ってみたいのだが、ちょっと行く勇気が無い。

 でもグルメ・バカ娘お勧めの鯛茶漬けは絶品!
 お昼料理金1500円だから無理すれば、みんなでも行けないこ
ともないでしょ?
 お勧めだから、写真も載せておこう!
 私と嫁は、このあいだ嫁が食べて美味しそうだった、鰻まぶしを 食べる。先日名古屋の熱田神宮脇の「蓬莱」で食べた、ひつまぶし とおなじ形式だ。  このあいだからもう一度、ひつまぶしを食べたかったので、こっ ちを食べることにした。  思ったとおり、名古屋のより上品な味。  ご飯の量が多いので、半分残すぞと決めて、汐崎隼さんにいつも のように業界のしきたりを教えながら食べていたら、ない! な い! 私のおひつにご飯が無い! 誰が食べたんだ!  私だ! わっはっはっは。  あまりにも美味しいので、すっかり残すことを忘れて食べてしま ったよー! そのぐらい美味しかったー!
 食後、地下鉄赤坂見附駅ビル2Fの喫茶店で、汐崎隼さんの『当 方見聞録』の原稿を見る。  この作品は非常にいい出来なので、インターネットに載せるか、 『さくまあきら・バラエティ・ブック(仮)』に載せるかで、悩む。  別にインターネットに載せて、さらに本のほうに収録してもいい んだけどねえ。  午後2時。帰宅。速攻で『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様 書作り! エンジン全開だ!  気持ちが楽になった分、執筆も楽になって、筆が進む。  午後5時30分。ぶっ通しで原稿を書いていたものだから、酸欠 状態になる。  午後6時。銀座の讃岐うどん「さか田」へ行く。予定では午後6 時前に着かないといけない予定だったので、大急ぎで、生じょうゆ うどんを食べる。ゆで時間10分。食事時間3分。猛スピードとは このことだ。  きょうはこれから、すぎやまこういち先生、企画・構成のコンサ ート「朝枝信彦“クライスラーの魂に迫る”」を見に行くことにな っている。  開演時間は、午後6時45分。ひょえ〜。時間が無い!  …と思ったら、さか田の時計は少し進んでいた。  さか田のご主人もせっかちなようで、いつも時計進ませているそ うだ。嫁の時計も必ず5分進んでいる。  午後6時40分。お茶の水カザルスホール。  ふう〜っ! 映画の時限爆弾のスイッチを切るシーンほどギリギ リではないけど、なんとか間に合った。  きれいなホールだ。  すぎやまこういち先生の奥様に、オペラ劇場の2階席みたいな席 を取っていただいた。すごく見やすい席。しかもゴージャス。  私もさすがにクラシック・コンサートというと、限りなくわから ないに近い。  朝枝信彦さんのヴァイオリンと、シュテファン・ブルニエさんの ピアノだけで、コンサートというシンプルな構成なのもびっくりし たし、何より素人耳の私にもわかるくらいヴァイオリンの音色が美 しく、やさしさに満ちあふれているのには、心底驚かされた。  ちょうど陶器についてまったく知らなかった私が、有田まで行っ て、柿右衛門の器を見て、その美しさを素人目でもわかってしまっ たようなものだ。  などとのんきなことを思っていたら、朝枝信彦さんという方は、 私の想像なんかよりもっとすごい人だそうで、マンハイム国立歌劇 場管弦楽団コンサートマスター…と、書いても実はまだ私にはすご さがわからない。  ここはやはり師匠のすぎやまこういち先生の弁をお借りしよう。  まずマンハイムというのが、まずドイツだということもわからな かったのだが、とにかくドイツ音楽を野球でいえば、大リーグで、 そこでコンサートマスターをしているのだから、日本から行った野 茂投手ではなく、ソーサ、マグワイア級なのだそうだ。  そりゃわかりやすい!    やっぱりいつも『ヘイ!ヘイ!ヘイ!』に出てくるような人たち の音楽を聴いているだけじゃ、いかんね。  ヴァイオリンというと、私なんか、さだまさしに、チャップリン に、寛一お宮に、葉加瀬太郎ぐらいしか思い浮かばないもんなあ。  もっとギャグとしていうなら、川上音次郎の『オッペケペー節』 なんだけど、さすがにこれは若い人にわかってもらえないギャグだ しなあ。  とにかくたまにはこういうコンサートにも来ないと。  さらに驚いたのが、途中の休憩時間。  ロビーに出ると、コーヒー、ワイン、チーズ、ケーキなどが置い てあって、自由に飲んだり、食べたりしていいのだ。  へ〜、クラシックコンサートっていうのは、こういうことをする のがふつうなのかあと感心していたら、すぎやまこういち先生に「ふ つうじゃないよ」と笑われてしまった。 「音楽を聴いたら、ワインでも飲みながら談笑できるようにと思っ てね」というお答え。やっぱりすぎやまこういち先生がこのアイデ アにからんでいるようだ。
 午後9時。コンサート終了。すぎやまこういち先生ご夫妻にご挨 拶して帰る。ヴァイオリンのここちよい音色がなかなか頭から離れ ない。  すぎやまこういち先生が最後におっしゃっていた「2億円の楽器 でも、へぼが弾けば、音は悪いのよ」という言葉も頭から離れない。 けっきょくは人間が作り出す音ってことなんだろうなあ。  どんなにいいハードのゲーム機器でも、作るのは人間性ってこと だろね。  午後9時30分。帰宅。  さて、明日からわが家族は東北方面に旅行に出る予定。  一応、家族的には夏休みであるが、どうせ電車のなかで仕事をす るだけである。  グルメ・バカ娘がお肉ランキング2位に入れているお店に行くの がメイン。 「夏休みにどこ行きたい?」 「仙台牛の店!」  こういうことをいうガキも珍しい。  もちろんグルメ・バカ娘だってディズニーランドも好きである。 ただしディズニーランドよりお肉が好きなだけである。  というわけで京都に行くのではないので、日記を書いてもインタ ーネットに載せることができない。モバイルとかってこともできな いからね。  だから、2、3日、日記はお休み。  緊急連絡のある方は、嫁の携帯電話まで。  なんだか天気が悪そうなのが、ちょっと心配。  それじゃ、また!
 


7月30日(金)


「夏休み、どこ行きたい?」
「仙台牛!」
 娘との短い会話で決まった、夏休み。
 バカ家族は、仙台に向かっている。
 3人で、合計21枚ものキップを持って…。
 そうカンタンにわが家族が、仙台へ直行などするわけがない。

 午前9時30分。東京駅B1「資生堂パーラー」で、サンドイッ
チとコーヒー。
 さすがにまだ眠い。遠足の朝みたいに、午前6時くらいに目が覚
めてしまった。こういう時あらかじめキップを買っておくと、時間
に縛られて面倒だ。

 午前10時08分。やまびこ37号。
 北へ向かう新幹線乗るのはひさしぶり。10年前は毎月2回ハド
ソンへ向かう通勤電車だった。車窓からの眺めが懐かしい。

 午前11時32分。郡山駅着。ここで磐越西線という鉄道マニア
にけっこう人気の路線に乗り換える。
 とはいえ私は鉄道マニアというほどではないので、これから乗る
「ビバあいづ1号」という電車の名前で笑ってしまう。
 いまどき「ビバ」と堂々と言われてしまうと、ちょっとこっちが
恥ずかしくなる。パフィーあたりの新曲が『ビバあいづ』なら、そ
れもまた一興なのだが。

 午前11時40分。何の特徴も無い、ビバあいづ1号が出発する。
 天気のほうは雨が降るという予想がまったくウソのように、白い
雲ぽっかりの青空。憎たらしいぐらい天気がいい。
 ただ車窓からの景色がどうもつまらない。
 山があったりして起伏には富んでいるのだけれど、中途半端に人
家が点々とある。
 グルメ・バカ娘に言わせると、電車の脇に道路があって、けっこ
う自動車が走っているのがよくないという。
 言えている。
 まったく人を見ることができない景色が続くと、もの悲しさが景
色の調味料となって、詩のひとつも浮かんで来ようというものだ。
 畑と山の繰り返しで、どうにも単調。

 午後12時30分。♪あいづ〜ばんだいさんは〜のチャイムが流
れて、会津若松駅に到着する。あれ? ってことは猪苗代湖はどこ
行ったんだ? 日本で4番目に大きい湖じゃなかったっけ? 電車
のなかから見えないの?
 電車から見える湖って絶景なのに。
 嫁が「猪苗代駅」というのはあったという。でも見えなかったな
あ。まあ、そういうわけで、わがバカ家族は、会津若松駅に降り立
った。
 町は、白虎隊と鶴ケ城の文字でいっぱいである。  明治維新のとき、15〜6歳の少年剣士たちが、鶴ケ城から立ち 上る煙を見て、これはもうダメだと、そろって飯盛山で自決したと いうあの白虎隊である。  私は若い頃、この少年たちが見た煙はお城の火の手ではなかった、 勘違いで自決しえしまったという事実を聞いて、どうもこの白虎隊 というものに、ロマンを感じなかった。会津のみなさんには、大変 失礼かもしれないが。  そんなわけで、歴史好きの旅好きの男が、会津若松を訪れるまで に、47年間もかかってしまった。  じゃあ、なんでバカ家族が仙台まで行くのに、わざわざ会津若松 まで寄り道したかというと、もちろん食い物である。  きょうの変わった料理は、水(みず)そば。  おつゆもなく、お椀におそばとお水だけしか入っていない、水そ ば。これってすごく興味あるでしょ?  午後1時。というわけで、会津若松駅を降り立ったバカ家族は、 さっそくこの水そばの「桐屋(きりや)」に向かう。  ところが着いたら、水そばは支店のほうでしかやっていないとい う。本店でやっていなくて、支店でしかやっていない。それはやっ ぱり水へのこだわりなのだろう。  本店の店員さんも、このまま支店のほうに行っていいですよとい ってくれる。そこまで言われたら、行くしかない。車で8分ぐらい なら近いじゃないか!  しまった。またしても地方の人の「近いですよ!」にひっかかっ た。歩いてもすぐですよというウソには、だいぶ免疫がついて来た。 でも車ですぐという場合、タクシーが町を走っていませんよという お約束を忘れていた。  その場でタクシーを呼んでもらうべきだった。  暑い、暑いよ〜。  炎天下、タクシーが通らない会津若松の町を歩く。  思考回路が止まりそうなほど遅くなって行くのが、よくわかる。  それでもこのバカ家族は、蔵を改造したお店の「上菓子司・会津 葵南蛮館」という文字を見忘れない。  吸い込まれるように入って行く。そばはどうしたんだ?  花餅とかいうのを買い、ゆべしを食べる。
 クーラーが入っていないので、暑くてぼうっとする。  ここでタクシーを呼んでもらう。  午後1時45分。会津若松の予定滞在時間4時間のうち、1時間 をもうロスしてしまった。  で、やっとのことで着きました。町の郊外にある「桐屋夢見(き りやゆめみ)亭」。  おお、ここか、ここか。  作家の村松友視さんも絶賛する水そばだ。  観光バスが止まれそうな大きな敷地で、民芸風の家なのがちょっ と心配。  最近「観光バスの店の味」というのが、ちょっとした侮蔑用語に なっていて、大きな観光バスが止まるようなお店の味は大ざっぱで あるという鉄則が固定しつつある。  まあ、そんなに食い道楽でない家族には、民芸風の飛騨高山の家 を移築したようなお店のほうが旅行で食べる分には楽しいとは思う。   まあ、わがバカ家族のようにひたすら美味しさを追求するほうが 珍しいのだから。  まずは豆腐餅と、納豆餅から食べる。  お餅がやわらかくて美味しい。歯にくっつく〜。  そしていよいよ水そば。  つなぎをつかわない会津頑固そばを、飯豊(いいで)連峰の霊水 で、すすい込むと書かれてある。ふむふむ。  ちょっと大きめのお椀だ。  本当に、おそばしか入っていない。おっ、小さな薄紫色の花が一 輪、おそばの上に乗っているのが可憐じゃありませんか!  いただきましょう。  つるつる。つるつる。つるつる…。  グルメ・バカ娘と顔を見合わせる。  けげんそうな顔をしている。  たぶん私もおなじような顔をしているのだろう。  おそばの麺は悪くない。  味も悪くない。まずくはない。  ただ…どう考えても、お水につかっているおそばを食べているだ けのような気がする。  間違えではないのだ、お水とおそばしかつかってないのだから。  でもねえ。なんとも言えない気分。
 そうか、途中電車の窓からの景色とおなじ、中途半端なのだ。  水そばの水がキンキンに冷えていたら、それはそれで「清冽な味」 と形容できるのだろうが、いかにも井戸水が夏の暑さでぬるむ温度 である。  麺のこしがパンパンに張っていたなら、讃岐うどんのように絶賛 しやすい。  困った、おそばだ。ホメづらい。  まずくないから、ホメてあげたいのに、ホメてあげられる部分が 見当たらない。そりゃそうだ。おそばをお水に浸しただけなのだか ら。見た目には、2アクションしか無い。  タレがあれば、タレの甘さがいい、辛さがいいと講釈できるのだ が、水とおそばの2品では、相当の料理研究家でも呼んで来ないこ とにはどうにもならない。  あとは大きな滝の下に、毛氈(もうせん)でも敷いて、赤い傘で も射したところで食べるといった演出が無いことには、ホメづらい。  とりあえず評価を下すことなく去ろうということになった。  期待が大きすぎたのも確かである。 『ファミ通』のゲームレビューで点数が高いから買ったけど、なる ほど変わっているけど、ただ変わっているだけだったというみたい なものだ。  午後2時30分。ようやく鶴ケ城。
 明治維新の松平容保(まつだいら・かたもり)公の居城としての ほうが現代に近いのでポピュラーなのかも知れないが、全国のお城 めぐりに熱中する私にとっては、蒲生氏郷(がもう・うじさと)が 建てたお城のイメージが強い。  蒲生氏郷は、豊臣秀吉の末期に頭角を現して来た武将で、伊達政 宗と並び、もっと若くして戦国時代に生まれていたなら、天下を狙 えたかもしれないという人だ。  こういう天下を狙えそうで、狙えなかった武将がどういうわけか 私は好きだ。二流好きなのかなあ? 巨人より横浜ベイスターズ。 ビートルズよりビーチボーイズ、スピルバーグより、ジョージ・ル ーカス。ウルトラマンより、ウルトラセブン。何か共通点があるよ うな気がする。    さて、もうエレベーター無しの5層構造のお城も、今や何のその である。ゆるやかな傾斜の階段があるだけで、十分楽チンである。  駈け登るほど、まだ足のほうは自由じゃないけど、もはやお城と いうとペース配分ができるようになって来た。実学、実学。  ただクーラーが無いのには困った。暑い。  入口に塩蔵があって、入ったとたん、ひやっとするぐらい寒かっ たのに、階段を登るたびに、滝のように汗が出る。  ひ〜こら、ひ〜こら。ここでも白虎隊関連の絵や肖像画を見させ られつつ、めでたく登頂成功。これで今年に入って、いくつ目のお 城攻略になるのだろう。ものすごい数のお城に登っているような気 がする。  ゲームの『信長の野望』を実写版でやっているような気になって 来た。  天守閣には、飯盛山の位置について書かれた看板があるんだけど、 この文章がまたよくわからない。 「東北の方向に見える赤白のアンテナのうしろに見える三角の小さ な山が飯盛山です」  RPGの謎解きじゃないんだから! 三角の小さな山って言った って、いま見えているパノラマ状の景色のなかに一体いくつの山が 見えると思ってんだ。ほとんど山だらけじゃないか。しかも山の形 のほとんどは三角形だぞ。  ハリウッドの「HOLLYWOOD」の大きな看板ぐらい、山の 中腹に置いておかなきゃ!  なにしろ白虎隊の人気に依存しまくっている町なんだから、その くらいのことをしなきゃ。  さて。お城を見たあとは、猪苗代湖を見ておきたいと思ったのだ が、観光パンフレットに「蒲生氏郷(がもう・うじさと)資料館」 の文字がある。「野口英世青春通り」の文字も笑えるけど、私には 蒲生氏郷のほうが大切だ。 午後3時。何じゃ? この「レオ氏郷(うじさと)」という名前の お店は? 民芸品屋? 何だか「レオ氏郷」というと、占い師か何 かのお店だと思ってしまうよ。  でも「蒲生氏郷(がもう・うじさと)資料館は2階です」の文字 があってホッとする。  一戸建ての家の2階の部分だけぐらいにしか、資料が展示されて いないのだけど、どれも書かれていおる文字が平易で読みやすい。  およそ歴史資料館の説明の文章というものは、画数の多い漢字の 連続のあいだに、たま〜に平仮名が出てくるような難しい文字ばか りで、これじゃあ、歴史を好きになろうとする人を減らしてしまう ばかりである。  その点、ここの文章はわかりやすい。  蒲生氏郷(がもう・うじさと)が、お茶の千利休の弟子(利休七 哲のひとり)だったことも非常にわかりやすく書いてある。  おまけに蒲生氏郷(がもう・うじさと)が建てたとされる本来の 鶴ヶ城の模型まである。  現在の鶴ヶ城は5階建てだけど、蒲生氏郷が建てたお城は7階建 てで、あの私がやたらと行く安土城の6〜7階とおなじ様式で建て ていたそうである。
キリシタン大名の間でコント
 そういえば安土城が焼けてしまったときに、お城を守っていたの が、この蒲生氏郷だった。そうか、そうか、あのときの無念をやっ ぱりここで晴らしていたのだな。ますます蒲生氏郷くんを好きにな ってしまったぞ。  こういう意地っぱりは尊い。  このあと「野口英世青春通り」を見るが、パッとしない。  どうもどこも中途半端だ。  やっぱりこの町はそろそろ白虎隊以外のことを考えていい時期な のではないだろうか。今も会津の人間は、山口県(長州)の人間と は結婚させない、友好都市を結ばない、という頑固さを今も通して いる。会津の頑固者は、蒲生氏郷くん以来の伝統なのかもしれない けど、こと観光に対しては、やわらかい頭もなきゃね。  頑固だけでもダメ、やわらかだけでもダメ。そういうもんだよね、 人生は。  午後4時。猪苗代湖。きれいな湖だ。水が冷たそう。  マリーナなどもあって、別荘地なのだそうだ。  野口英世の生家をそのまま残した、野口英世記念館があった。  わらぶきの屋根の生家を保存するために、家の上に鉄骨の屋根を 作るという異様な景色。
 タクシーの運転手さんから、猪苗代湖で、イナッシーという恐竜 が一時期流行ったことがあって、イナッシーまんじゅうというのが あると聞いていたので、探したけど、どこにも無い。  どうも観光みやげも、中途半端だ。  喜多方ラーメンのセットが一番目立ってしまう。  会津若松から喜多方まで近いことがわかったので、そのうち日帰 りで喜多方ラーメン・ツアーに行ってもいいなと思った。夏の暑い 盛りに喜多方ラーメンはちとつらい。  午後4時30分。猪苗代駅。まだ電車が来るまで1時間近くある から、土産物屋と喫茶店で時間を潰そう。  と思ったけど、これがきょう一番の大失敗。  まず土産物屋は、駅前に2件だけ。品数も少ない。  喫茶店は3件。問題はここ。  どの店もクーラーが入っていない。  喫茶店なのにクーラーが入っていないとは、何事だ! わざわざ 銀行でなく、喫茶店に入るのは、堂々とお金を払ってまでクーラー を浴びたいから行くんでしょうが!   しかもこの暑い時にどの店にもクーラーが無いって?  ウソだろと思って、観光案内所に行く。 「クーラーが入ってる喫茶店はありませんか?」 「ここはみんな自然の風で…」  答えになっていないでしょうが。これじゃどんどん町が廃れて行 くわけだよ。  あぢ〜、あぢ〜。駅に行く。  もっとあぢ〜。逃げ場が無い。あぢ〜。  駅前のブロンズ像のあたりが少しだけ風がある。  仕方が無いので、立っている。  すると大きな観光バスから吐き出された若い姉ちゃんたちが、キ ャーキャー言いながら降りて来て、カメラのシャッターを押してく れという。  面倒だなあ。一応笑わないと失礼だ。  顔を作る元気が無い。  しばらくすると、そのお姉ちゃんたちも「暑い!」「暑い!」を 連発し始める。そうでしょ? そうでしょ?  電車までの1時間、喫茶店で仕事しようと思ったのに。この暑い なかではさすがにぼうっとして、アイデアも出ない。  よろよろ駅前を風の吹くポイントを探して、さまようがどこにも ない。  この町には二度と来ることはないなと思っていると、後年仕事で 来るハメになったりすることは多い。  もう何でもいいから、早く時間が経ってくれ!  午後5時20分。ビバあいづ6号に乗る。疲れた。足も疲れたけ ど、それ以上に猪苗代駅での、クーラー無し攻撃に疲れた。  乗ってすぐ、うたたね。  何だかもう1日水そばを食べただけだったような気がすると、早 くも1日を振り返ってしまう。  しかし、まだこれからメイン・イベント「仙台牛」が待っている。  午後5時51分。郡山駅に着く。  ここで新幹線に乗り換えるのだが、JR職員の乗り換えの不手際 さは筆舌に尽くしがたい。  新幹線の自動検札機に「キップを3枚重ねて入れてください!」 と口頭で言っている。聞こえない。大体何で3枚なんだ?  私は4枚キップを持っているぞ。  自動検札機の前で大渋滞が出来ている。10人や20人どころで はない。50人ぐらいだ。  乗り換え時間の少ないお客さんが怒っている。あたりまえだ。  自動検札機がすぐ壊れる。だったらあきらめて人間だけで検札す ればいいのに。  1日2〜3回の渋滞ですむから、たぶんずっとこの調子なんだろ うなあ。でもこの渋滞は利用客が減るということで解消されるだけ だと思う。いいのかな、それで。    午後6時09分。やまびこ209号で仙台に向かう。    午後6時54分。仙台着。ずっと電車のなかで寝っぱなしのグル メ・バカ娘がむっくり起きあがって、目が輝き始める。  イヤなガキだ。一匹狼が獲物をその独特の嗅覚で見つけたときの ようだ。    仙台駅は、来週から始まる、仙台七夕祭り一色。  TVのニュースではよく見ていたけど、こうして駅に吊られた巨 大な笹飾りを生で見ると、やっぱりいいねえ。笹飾りがこれほどま でに、上品なものだとは思っていなかった。垂れ下がった短冊にし ては長いが、吹き流しのようなものが、平安朝の模様だったり、和 紙の模様だったりする。  東北三大祭りのひとつにあげられるのがよくわかる。
 午後7時30分。東映映画館前でタクシーを降りる。  グルメ・バカ娘が、ずんずん私たちの前をのっしのっしと歩きは じめる。  始まった! 特に美味しいお店に向かうとき、グルメ・バカ娘の この「ずんずん歩き」が始まる!  もちろんおめあての仙台牛のせいなのだが、これは絶対おかしい。  これから行くお店「大胡椒(だいこしょう)」は、4〜5年前に 行ったきり、ずっと行っていないのだ。  ってことはグルメ・バカ娘が前に行ったときは、小学校3年のと きということになる。  中学生にもなって「イギリスの首都は?」「ヨーロッパ!」と言 ってるようなガキが、5年前に一度行ったきりのお店の場所を覚え ているかあ?  覚えているのである。3回ぐらい来ている私ですら忘れているの に。わかりづらい「大胡椒(だいこしょう)」への道の曲がり角を 見つけてしまうのである。    それにしても、来ました、来ました! ついに来た!  わが家族がこのお店のためにだけ、今回わざわざ来ているのだ。  会津若松が中途半端だったことはどうでもいい。  ここのお肉さえ美味しければ、すべて良しだ!  席に着く。グルメ・バカ娘の目がらんらんと輝いている。  ひさしぶりなので、お肉の注文方法を忘れている。  どのお肉もおなじグレードなので、取り立ててどれが最上級とい うことは無いそうだ。ってことはかつて至福の時を感じたあの絶品 のお肉は、特上ではなかったってこと? ホントかな。不安が残る。  まず前菜のサラダが来る。  そうだ、このサラダが美味しくて、前回来たとき、お代わりして しまったんだ。  基本的に炒りごまが乗っていて、リンゴ、キュウリ、キャベツ、 ワカメ、ニンジンといったものが入っている変哲もないサラダなの だが、ゴマの風味とバランスがよく、さくさく食べてしまう。
↑ クリック!
   ここはお肉を炭火の上で、お店の人が焼いてくれる。  焼いてくれるのはいいのだが、わがバカ家族は焼き上がるのが、 待ちきれない! まだ焼き上がっていないのに、箸を出して、本当 に嫌がられた。  でも嫌がられてもいいから、早く食べた…………………………… ……………………………………………………………、ん〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜、うまいよ、これは〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。  で・り・しゃ〜〜〜〜〜す!  頭のなかはハープの音色とポロポポロ〜〜〜ンのメロディでいっ ぱいだよ。 「おひさしゅうございました。どれほどあなたさまとお会いしたい と思っていたことか…」。  時代劇まで頭の中に流れる。  身体が浮き上がるよ、この美味しさは。  やわらかくて、ほんのり甘い。 「さくちゃん、サーロインより、フィレのほうがおいしいね!」  うるさいぞ、ガキ! もっとこのお肉の美味しさの余韻に浸れ!  わさび醤油で食べて、良し! 塩胡椒で食べて、良し! 「ああ、もっとどんどん網の上にお肉を乗せてくれないかなあ」。  家族3人の切なる願いはお店の人に届かない。  お店の人がほかの用事で席をハズしたときに、娘がお肉を網の上 に乗せようとしたのを発見されてしまって、ついにお肉の皿を隣り の席に遠ざけられてしまった。はずかし。すんまそん(宇多田ヒカ ルがこういう言い方してた)!  どうして、どんどん食べさせてくれないんだろう。  ゆっくり食べていたら、満腹中枢が働き始めて、追加注文が出来 なくなってしまうじゃないか! それじゃお店としても売り上げが 下がっていいことではないじゃないか!  わからんなあ! この肉なら何人前でも食べてやるぞ!  案の定、ヒマをもてあましたグルメ・バカ娘が調理場で、コック さんが「牛刺し」を作っているのを発見する。 「さくちゃん、頼もう!」  牛刺しが好きな中学生のガキというのも、みっともない。  嫁と娘は、この牛刺しが好きだ。牛肉のにぎり寿司も好きだ。  あ〜、お肉がとうとう焼き終わってしまった。さよ〜なら、お肉 ちゃん、また会う日までだ。  本当は追加注文したかったんだけど、このお店は最後の仕上げに もう一品素晴らしい物が出ることを知っているから、ガマンする。  ガーリックライスの海苔巻きだ!  これはいまだかつてどのお肉屋さんでも食べたことが無い。  物はステーキハウスなどの最後に出てくるガーリック・ライスな のだが、これを海苔巻き風に巻いて、炭火で焼く。    弾力のある海苔がなんともいえない食感をかもしだす。  そして炭火でついたおこげ。表面カリっと、なかがやわらかく!    う〜ん。こうばスィート!  ああ! またしても朝までずっとここでお肉を食べ続けていたい。    日本一の松阪牛「和田金」、「牛銀」、伊賀牛の「金谷」、京都 近江牛の「三嶋亭」、宮崎シーガイヤの「宮崎牛」、兵庫県の「三 田牛」「神戸牛」、「飛騨牛」…。  数々の牛肉を食べまくって来た、バカ家族にとって、このお店は 牛肉ランキングに登場してない名店である。  殿堂入りといっても過言では無い。  美味しいお店と認定したときは、名刺をいただくことにしている。  佐々木実さん。なんと、佐々木様!   ますますこのお店を神格化してしまうではないか! 横浜ベイス ターズの佐々木様は、この仙台の出身である。その仙台の佐々木様 では、私は絶対服従するっきゃない!  午後9時。寄り道せずに、そのまま仙台国際ホテルへ。  ロビーに向かいながら、グルメ・バカ娘が、 「さくちゃん、また大胡椒行こうね!」 「いま食べたばっかだろうが!」  ぬけぬけというガキだ。 「じゃあ、明日も大胡椒に行くかい?」と言って、グルメ・バカ娘 を虐めてやろうとして、嫁に止められる。 「あの娘がよろこぶだけでしょ」。  その通りである。絶〜〜〜〜〜対、2日続けて行くに決まってい る。そういうやつだ、あいつは!  あまりにも食べっぷりがよかったのか、佐々木様がガーリックラ イスの海苔巻きをお土産に包んでくれた。    午後11時。さすがに眠い。明日は秋田の角館に行くことになっ ている。早く寝よう。
 


7月31日(土)


 仙台国際ホテル。
 どうも旅先は早く目が覚めてしまう。
 
 午前8時30分。ホテルB1の「カスケード」で朝食。何周年記
念とかで、私にだけ朝食券がついていた。
 国際ホテルはなかなか快適なので、今後仙台はここのホテルにし
ようと決める。定宿にしたほうが身体のほうも楽だ。

 午前9時。仙台駅。みどりの窓口で秋田の角館までのキップを買
う。新幹線こまちに乗ってみたいのだ。
 ところが9時22分のこまち号は、角館には止まらないのだとい
う。1時間後の10時23分のなら止まるけど、満席だとも。
 えっ〜、まいったなあ。気分はもう完全に行く気になってしまっ
ていただけに、ショック!
 東北方面は電車の本数が少ないから、固まるときは終日満席とい
うことが多い。
 まさか、こんなときに満席にならないでよ〜。

 仕方がないので、角館行きを断念する。
 断念したあげく、石巻に向かうことにする。全然違うところじゃ
〜ん! もともと行き当たりばったりの旅だ、驚くほどのことは無
い。
 出発まで時間があるので、仙台駅の地下街を覗く。
 駅の地下はその地方の名産が一堂に会していることが多いので、
お土産を買うときは、便利だ。
 しかも『桃太郎電鉄』の作者としては、最近はどの品に比重が高
いのかチェックできるので助かる。
 このところ仙台は徐々に、牛たんの町になりつつあるのだが、今
回見てその傾向はさらに強まっているようだ。
 それとお土産品の品数が数年前よりも、はるかに多くなっている。
 おとうふかまぼこ、揚げまんじゅう、雪苺娘、ゆべし、なまどら
焼き、長なす漬、ズンタッタまめだっちゃ、ずんだ餅、萩の月、笹
かまぼこと、新作、老舗が入り乱れてとにかく豊富。
 試食しまくる。何たって試食は楽しい。
 昨日の猪苗代湖のお土産屋さんの試食の少なさはそのままお客さ
んの数に比例していたような気がする。
 おとうふかまぼこが、ちょっと甘味があって美味しい。

 嫁が「雪苺娘(ゆきいちごむすめ)」というお菓子が仲間うちで
評判になっているからといって買う。私は初めて聞いた。ヤマザキ
パンの製品だからどこでも売っているんじゃないのかなあ?
 午前10時。仙石線仙台駅。快速うみかぜ7号。どんなスマート な車体が来るのかと期待していたのに、まあ古ぼけた車体。  青い塗料は剥げ上がり、たぶん昔は白色だったのだろうというこ とを想像させるクリーム色だか、黄色だかよくわからない色。  座席も4人掛けのシートでなく、JR山手線などの一列シート・ タイプ。おもしろいのは、ドアは、ドア横の押しボタンで開けて入 る。入ったらお客さんは内側から今度はボタンを押してドアを閉め ないといけない。  これは雪国の電車にはごくあたりまえの仕様だ。  停車時間が長いときなど、雪が電車のなかに入ってくるのを防ぐ ためだ。今は冷房を守るためにつかってるけど。  まあ、私としてはローカル線の旅の条件が揃って来て、楽しい。  最近どのローカル線もジュラルミンの車体のきれいな電車が多く て、もうひとつ風情が無い。  この仙石線の電車のローカルっぷりはなかなか貴重だ。  でも仙石線自体は、来るたびに、大都市仙台のベッドタウンとし て発展して行く様がわかる。住宅が増え、いつも家を建築中である。  ただひたすら仙石線の車体だけが古ぼけて行く。    電車は多賀城、塩釜、松島海岸と止まっていく。  これだけ全国区の地名が並んでいるのだから、複線化すればさら に沿線は発展して行くと思うのだが、東北地方は整備新幹線のこと で頭がいっぱいなのだろう。  10数年前に乗ったときには、口紅がやたらと濃い女性がたくさ ん乗っていたのだが、その後何回も乗るたびに、化粧も薄くなって 行って、おしゃれな洋服を着た若者が増えて来ている。  なので、嫁は電車のなかで「雪苺娘(ゆきいちごむすめ)」を食 べようと思っていたのに食べられないとなげく。  食べればいいじゃんと、私とグルメ・バカ娘。  旅の恥は掻き捨てではないが、このぐらい古ぼけた車輌ならいい んじゃない? 一応もう何駅か停車して、窓から海も見えるように なったんだし。  というわけで食べる。美味しい!  大好きな不二家のショートケーキを、ロッテの雪見だいふくで包 んだような食べ物。でも製造元はヤマザキ。不思議だ。  白い粉が顔中にくっついて食べづらい。笑うからよけい粉を吹き 飛ばして大騒ぎだ。  こういう旅が楽しい。  どんどん駅が小さな町になって行く。  おや? これはひときわ大きな街だなあ。マイカル・グループの ビブレもある。7階建てぐらいの百貨店だ、すごいなあ。  と思ったら、石巻だ。  午前11時。終点石巻駅に着く。  駅前でものすごい音量。右翼のスピーカーが鳴っているのだと思 っていたら、これがなんと素人さんのカラオケ大会。  うるさい、うるさい! これにはまいった!  何でもきょうはちょうど「川開き」というお祭りの日にあたって いたそうなんで、この騒ぎのようだ。  でもいったい「川開き」って何? 川で泳ぎが解禁になるってこ と?  と思っていたら、この北上川を開拓した記念日なのだそうだ。  北上川といえば、岩手盛岡の駅の近くを流れていた川じゃないか。 春になると桜がきれいな川岸だった。その北上川は流れ流れて、こ んなところまでたどりついていたのか。  町はお祭り一色といいたいところだが、たいして屋台も出ていな い。これでも派手なほうなのかもしれないが。  京都でお祭りというと何百件も立ち並ぶ屋台を見慣れてしまうと、 どうも基準がくるう。  とにかく突然この石巻に来てしまったので、漁港の町ぐらいの知 識しか無いので、観光案内所に行く。  港町だからお寿司屋さんでいいところがあるに違いないと思って お姉さん2人に尋ねたのだが、どうしても地方の観光案内所という のは、人気のあるお店を勧めたがる。  いわゆる観光バスが止まるようなお店を紹介する。  いくら値段が高くてもいいからというのだが、ふたことめには 「このお店は値段も安くて…」とマニュアルどおりの答えしか返っ てこない。  この町の名産を聞いても、自信なさそうに「笹かまですかねえ…」 と答える。観光案内所なんだから、自慢たらたら講釈垂れてよ。  もうムダなので、ビブレ5Fの本屋さんで、お寿司屋さんを調べ る。確かにどのお店も値段が安くて、決めづらい。  銀座でトロを2個食べたら、それが1人前のような値段のお店ば かりだ。  一応目星をつけて、タクシーに乗る。  運転手のおじいちゃんと話しているうちに、お寿司屋さんでもな く、ここ石巻でもなく、10H先ぐらいの女川(おながわ)まで行 くことになってしまった。どっちみち女川まで行く予定だった。  いきあたりばったりの旅にふさわしい。  ついでに途中あちこち寄ってもらうことになった。  午後12時。石巻市郊外にありサン・ファン・バウティスタパー クに行く。
 サン・ファン・バウティスタパーク。思わず舌を噛みそうな名前 だ。いったい何なんだこれは?  正しくは「宮城県慶長使節船ミュージアム」というのだそうだ。  ほうほう。昔日本史の教科書で習ったことがあるぞ!  独眼流・伊達政宗がヨーロッパに遣欧使節団を送ったときの船を 再現して、原寸大で安置してあるのか。  それは見てみないと。  帆船の模型も多数展示してあるし、シミュレーションシアターも あるし、和製ゴジラのように、顔の表情まで動く人形で歴史を教え てくれる。  広さも東京ドームぐらいで、みごとな施設だ。  これもバブルの塔のひとつなのかな?  年間維持費が1億円以上かかって、今も盛大に赤字を吹き上げて いるようだ。いま日本中にこの「赤字の塔」がなす術もなく、放置 されるでもなく営業されている。  いずれも町から遠いから人が少ない。  で、このテーマパークの話に戻る。  受験のときの日本史で、読みづらいために、何度も何度も紙に書 いて覚えた支倉常長(はせくら・つねなが)さんが、このミュージ アムの主人公だ。  まさかあれほど苦しめられた名前の人に、きょうこうして対面す るとは思っていなかった。  せっかくヨーロッパに渡って、帰って来たら、輝かしい人生が待 っていたはずなのに、帰って来たときには、家康のキリシタン弾圧 令が出たあと。まったくその成果を伝えることなく、この支倉常長 (はせくら・つねなが)さんは帰国後2〜3年後に死去してしまっ たそうだ。なんともねえ〜、いろんな人生があるもんだ。  ここで横山智佐ちゃんから電話が入る。サクラ大戦歌謡ショウの チケットを用意してくれるとのこと。東京に帰ったら、FAXで連 絡しようと思っていたのに、あいかわらず横山智佐ちゃんのほうか ら連絡をくれる。  この心遣いには頭が下がるよ、ホント。  8月7日の昼の部に行くことにした。昼はサクラ大戦で、夜は アリtoキリギリスのライブってことになりそうだ。  午後1時。楽しいものだから、すっかり長居してしまった。  あんな小さな帆船に180人も乗って、太平洋、大西洋を横断し たことを想像すると、ぞっとする。  帆船のなかは、4階建てで船底まで見れるようになっている。  観光客のお約束として、グルメ・バカ娘と帆船の舳先で、映画 『タイタニック』のマネをする。  たまにこういう下品な観光客を演じたくなる。
 このあとコバルトラインと呼ばれる景色のいい道を走る。  月浦港というところで、支倉常長(はせくら・つねなが)さん の銅像を見る。ここから出航したらしい。  何で昔の人はこんなに勇敢なんだろう。  支倉常長(はせくら・つねなが)は、ヨーロッパをめざしたと き40歳を越えていたんだよ。私なんか豪華客船での世界一周で すら、面倒だなあと思ってるくらいなのに。
 再び車は牡鹿半島を走る。もうこのあたりもリアス式海岸なの だろうか。入り組んだ山道をものすごい勢いでぐるぐる回るもの だから目が回る。もう少しクッションの柔らかい車なら楽だった んだけど。運転も荒っぽい。  後ろの座席で、カーブのたびに、ドアのほうに叩きつけられる。 そこへグルメ・バカ娘がぶつかって来る。これのくりかえしには まいった。三半規管が悲鳴を上げている。  午後2時。女川に着く。  運転手さんが、女川の運転手さんたちに、おいしいお寿司屋さ んはどこかと聞いてくれる。  全員一致で「橘(たちばな)寿司」だという。少々値段も高い そうだ。 「橘寿司」で、特上を3人前。  びっくりするくらい大きな甘海老。こぼれ落ちそうなウニとイ クラ。しゃりはおにぎりみたいに大きい。  量が多いというのは、地方においては最大のサービスなんだろ うなあ。  十分美味しいのだが、死ぬほど美味しいお寿司を食いまくって るバカ家族にとっては「まあまあ」。  ふとどきな家族であることは百も承知だ。 「さくちゃん、いつも食べてる東京のお寿司屋さんのほうが美味 しいね!」  まったく金銭感覚の無いガキだ!  この「特上」のお寿司の値段は、3人前でわずか8100円。  グルメ・バカ娘! おまえがふだん食べるお寿司のひとり分に も満たないのだ、3人前が! しかもこのお店は値段が高いとい っていたのを聞いていただろうが! 「それならおいしかったよー、ここのお寿司!」。  あたりまえだ! わ〜ったか〜!  一度食事に対する金銭感覚を身につけさせたいのだが、どうも なあ。親からして狂いまくってるからなあ。     午後2時30分。マリンパル女川おさかな市場。  最近どこでもこういう観光用の市場が増えて来てうれしい。
 殻付きウニを1個300円で食べさせてくれるという。  海辺で食べるウニというのを一度味わってみたかったので、 さっそく食す。海の塩分だけが味つけなのだが、さっぱりした味 で、こりゃうまい!
 ほとんどTVの旅行番組のタレント気分。  どうもきょうはありがちな観光客をわざと演じているような気 がする。  さらにタクシーの運転手さんが、石巻やこの女川の笹かまぼこ じゃないと、美味しくないといっていたので、買うことに。  吉次(きちじ)、石持(いしもち)といった魚を材料にするの はここだけというから、一番ポピュラーな笹かまぼこは何を原料 にしているのだろう。  だいたい吉次(きちじ)、石持(いしもち)なんて魚の名前初 めて聞いたよ。何たって私の魚の知識はお寿司屋さんどまりだか らね。  ほう。笹かまは、鯛がポピュラーなのかあ。笹の形に焼いたの が笹かまのルーツか。なるほどね。  午後3時。石巻に戻る。ここで忘れちゃいけない行動。  きょう秋田県の角館を断念したわりには、すぐ石巻に行くこと になったのにはわけがある。  昨日ホテルの河北新報の夕刊で、この石巻で、あの故・石ノ森 章太郎さんのサイボーグ009の立像の除幕式があったことを伝 えていたのだ。  これを見ておきたかった。
 なにしろ私が最後に石ノ森章太郎さんと会って話した言葉が 「今度石巻に先生の記念館ができるそうですね?」「うん。そう なんだよ、楽しみでね」だったのだ。  あった、あった。交差点の真ん中に、大きな大きなサイボーグ 009だ! ほかのメンバーがいないのがちょっと淋しかったん だけど…、おっと、あやうく見過ごすところだった。丸い石の椅 子の下の部分に、001もいれば、003もいるじゃないか!  おお! 全員いるぞ! 
   
 今後石巻では、石ノ森章太郎さんの萬画館が完成する予定だし、 北上川の中州にマンガランドを作る予定らしい。マンガロードと いうのも作って、009みたいな立像も増やして行くそうだ。  漫画がこうやって語り継がれて行くことはいいことだねえ。  石ノ森章太郎さんの記念館が完成したら、また来よう。  仙台駅からわずか1時間で石巻まで来れるのだから近い。仙台牛 の「大胡椒(だいこしょう)」に行くいい口実にもなる。  午後4時02分。快速うみかぜ32号。夜、石巻で花火大会があ るというのをあとに、仙台へ戻る。きょうこのまま東京まで一気に 戻ってしまう予定だからだ。  これ以上旅を続けると、日記が長くなる。  帰ってから日記を書くことで1日が終了してしまう。  だから最近は強行軍をあまりやらなくなっている。  それでもたった1泊2日なのに、盛りだくさんだから書いても書 いても書ききれなくなるだろう。ちょっと不安。  午後5時。仙台駅着。再び仙台駅B1で、お土産を買いまくる。  この地下は絶対お勧めのポイントだね。  お寿司を食べたのが、午後2時。このまま東京に帰ってから食事 をしようとも考えたのだが、いつも仙台牛の「大胡椒」に行ってし まって、仙台といえば牛たんで有名な「太助」にまだ一度も行った ことがない。  これ以上「太助」の存在を知らないと、旅行王としては恥ずかし いので、タクシーを飛ばして行く。  午後5時30分。国分町の「旨味の太助」に行く。  牛たんのお店というと、私は「ねぎし」ぐらいしか知識が無い。  あっ。昔北海道で、牛たんとお酒だけしか出ないお店に入って えらい目にあったことがある。ウーロン茶はおろか、お水も出ない。  話を戻さないと。 「ねぎし」のつもりで入ってしまったので、思わずとろろが付いて いないの?と思ってしまった。麦めしなのはおなじなんだけど。  牛たんは、やけに分厚い。  味のほうは、まあまあ。たぶん美味しいほうだと思う。  なんたって昨日仙台牛の「大胡椒」で大リーグ級を食べてしまっ たのだから、きょう牛たんを食べるのは失敗であった。  ただスープは美味しかった。テールもやわらかくて、これはいいね。
 午後6時48分。こまち22号で東京へ。あれだけこまちに乗り たくても乗れなかったこまちに、予定してなかったのに乗るハメに なったのは皮肉なもんだ。  1列に2席、2席の構成だから、けっこう広くて乗り心地もいい。 緑色のやまびこシリーズは、前の席と後ろの席とのあいだにスペー スが無くてもうそろそろ旧式の部類に入ってしまいそうだ。 『美味しんぼ』の71巻を読みながら、寝る。  午後8時29分。あっというまに東京だ。  さすがに疲れた〜。とても1泊2日の旅行とは思えない。1週間 ぐらいどこかにでかけていたような気分だ。  でもこれで東北方面に1泊2日で、これだけ旅行できることを知 ってしまった。今後も土・日を利用して、あちこち1泊2日の旅に 出てみたいと思う、こりない家族であった。    午後9時。帰宅。  横浜ベイスターズが連勝してるのに、TVを見ていると、うとう としてしまって、ちょうど横浜ベイスターズ戦のところだけ寝てし まう。こりゃ相当疲れてる。寝る。
 

-(c)1999/SAKUMA-