6月26日(土)


 午前8時。グルメ・バカ娘が家の階段を何度もドタバタ登り降りする音で目が覚
める。
 そうか。きょうは娘のWデートの日か。ひっひっひ。
 青春でいいなあ。何かを忘れては、また戻っているんだろうなあ。うらやましい。
がんばれよっ。

 目が覚めてしまったので、ぽつぽつ仕事を始める。
 もちろん『さくま式人生ゲーム2(仮)』だ。
 昨日アイデアが出すぎたので、パワーブック2400にまとめきれない。

 午前11時。グルメ・バカ娘が作っていったお弁当を食べる。
 玉子焼き、うまいこと作ってるなあ。
 ただ美味しい物だけを食ってるわけじゃないんだな。

 元『チョコバナナ』投稿者の渡空燕丸さんから、原稿が届く。
 来月からここで連載を開始する『つばくら草紙』の原稿だ。
 3本入っていた。
 いいなあ。どれもいい。どれを選ぼうかなあ。
 よ〜し。勝手に予定変更だ。
 毎月1日、15日に1本ずつ連載にしよう!
 1本はストックになるから、単行本用にしよう。
 この調子で好評なら、うちで単行本にしてもいいな。
 おっと、甘やかしてはいけない。
 がんばったら、ごほうびにしよう。

 漫画家のいしかわじゅんサンのホームページに、4コマ漫画について素晴らしい
ことが書いてあった。4コマ漫画という言葉をそのまま、漫画と置き換えてもいい
し、ゲームでも、映画とでも置き換えてもいい。
 ここに再録しようかと思ったけど、自分で探し当てたほうが、頭に入るから、教
えない。努力しましょう。

 午後3時。『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書作りが煮詰まって来たので、
嫁と散歩にでかける。
 北青山の喫茶店兼小物雑貨屋さん「F・O・B COOP」まで歩いてしまった。
ちょっとがんばりすぎて、へばった。
 トースト・サンドイッチに、カフェ・オレ。
 おしゃれなお店で、しかめっ面して、『さくま式人生ゲーム2(仮)』にも登場
する、えの子のアイデアを考えている様は異様だ。
 
 雑貨のほうは、スチール素材のしたものが多いので、趣味に合わない。
 店を出て、青山墓地のほうから、外苑西通りに出て、そのまま家まで歩いてしま
う。汗びっしょり!
 くもり空で、そんなに暑くないのになあ。

 午後7時。原宿駅のすぐそばの国立代々木競技場。
 きょうはここの第一体育館でコンサートがあるのだ。
 TVで大宣伝している、デイリー・ヤマザキ・プレゼンツ「シャングリア」だ。
 要するに、ユーミン(松任谷由実)のコンサートだ。
 ユーミンのコンサートを見に行くのは、なんと26〜7年ぶり。
 何たって、前のコンサートで歌った一番新しい曲が『ルージュの伝言』というく
らいだ。
 以来、象が登場するだの、スペクタクルだの、いろいろ言われるようになってい
たので、一度見てみたいと思っていた。

 で、どうだったか?
 見なきゃよかった! 見るんじゃなかった!

 ひどい? ひどいんじゃない!
 その反対なのだ。

 吉野家だと思って入ったら、京都三嶋亭のみなさんが扮装して、とびきりの近江
牛を、新潟県魚沼郡のコシヒカリで炊いた牛丼が出て来てしまったようなものだ。
 その高級な牛丼が美味しいかどうかは別としてね。

 とにかく凄すぎて、イヤになってしまったのだ。

 まずステージの真ん中に、大きなプールがある。
 ホテルのプールより大きいぞ!
 まさかここで、映画『ザッツ。エンタテインメント』に出てくるような、シンク
ロナイズド・スイミングなんかやるってことじゃないだろなと思っていると、やる!
 しかも2曲目から。
 てっきりコンサートの最後のほうで、最高の盛り上げのときに、飛び道具として
つかうのだとばかり思っていた。
 こんなに早くシンクロなんかやっちゃったら、あとはサーカスでもやるしかない
じゃないの!
 やったよ。
 やったなんてもんじゃないよ。
 イリュージョンあり、空中ブランコあり、何でもあり。
 花火が鳴る! レーザー光線が飛び回る! ユーミンが『スター・ウォーズ』の
スピーダーバイクのようなものに乗って、空中をしずしずと進む。その空中バイク
からは、深海艇のように、サーチライトがいくつもいくつも光る。
 ローラー・ブレードのダンサーたちが踊る。スケートをはいたダンサーたちも優
雅な演技を見せる。
 人が飛ぶ。
 そんなバカなと思うかもしれないが、2人飛んで、その人たちはそのまま空中ブ
ランコを始めた。
 シンクロナイズド・スイミングは、その後もずっと、何曲も何曲も踊っていた。
 
 そして、ユーミンは、今年45歳なんだよ。
 私は浪人して、大学に入ったので、私の同級生が、高校時代ユーミンと同級生だ
ったという女の子が多かった。
 そういうこともあって、ユーミンは私のなかで常に視野に入れて来たつもりだ。
 私よりひとつ年下なのだ。
 なのにあのプロポーションに、熱唱。

 ユーミンが人目につかないところで、どのくらい努力しているかを想像して、気
が遠くなった。
 やっぱり見なきゃよかった。
 同世代でこんなにがんばってる人を見なければよかった。
 私もがんばらなきゃいけないじゃないか!
 やばいよ。やばい、やばい、やばい!
 張り合ったら、命落とすかもしれない。
 でも命落としてもいいから、張り合ってみたい。

 今回ロシアのサーカスの人たちと、シンクロの人たちが総勢50人ぐらい出てく
る。
 このメンバーをユーミンはラストで、ひとりずつ呼び寄せる。カンニングペーパ
ーも見ずに!
 アレクサンドリアだの、ピョートルだの、アトクロイだの、セルツェだの、ツァ
リーツァだの…このへんもちろん適当に私が言ってるだけだよ。とても私には50
人分のロシア人の名前なんて覚えられませんぜっ! ましてや、私は外国人の顔を
覚えられないことでも有名だ。

 とにかく、『スター・ウォーズ』と、デビッド・カッパーフィールドのイリュー
ジョンを足して、2で割った以上のコンサートだよ。
 明日、ダフ屋さんからチケット買ってでもいいから、グルメ・バカ娘にこのショ
ウを見せようと思う。
 そのぐらい凄い。

 午後10時。代々木競技場から、歩いて帰って来てしまった。
 興奮が静まらない。


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