6月11日(金)


 さすがに昨日の讃岐うどんツアーは、へばった。
 天気予報もきょうは雨と言っていたので、寝くたばることを決め込む。

 午前10時。まだ眠いが、お腹が減って仕方が無い。
 身体がどんより重い。
 ご飯を食べたら、また寝よう!

 午前11時。マンションの1本隣りの道にある、おそば屋さん「うえだ」に行く。
 昨日のフランス料理で、ひさびさに病気以来の体重記録を更新してしまったので、
とにかくおそばにしたかった。
 この「うえだ」は、3年ぶりぐらいかな。
 不思議なことに、今の麩屋町三条のマンションに移る前、四条大宮のマンション
だった頃、しょっちゅうこのお店まで足を運んだぐらい美味しかった。
 引っ越して、道1本隣りになると、いつでも行けるという頭から、すっかり行か
なくなっていた。人間適当なものだ。

 で、美味しかったおそばの名前も忘れてしまったので、お店の人に聞く。
 おろし。おろし? そんな単純な名前じゃ忘れるはずだ。
 小さめのお椀の小鉢に、炒りごま、大根おろし、天カス、わさび、ネギがたっぷり
盛られていて、かき混ぜて食べる。
 そばは冷えた田舎そば風の細目の麺。
 天カスのしゃりしゃり感が、歯切れよくて、美味しい!
 こんな美味しい物を忘れてたなんて、もったいない。
 これから暑い京都には、絶品の味だ。
 値段も安いよ!
   午前11時30分。イノダ・コーヒ三条店でコーヒー。本店は焼けてしまったけど、 どうも京都滞在中に、1回はここのコーヒーを飲まないと気がすまない。  しかし、天気予報が大きく外れて、抜けるような青空。  何だかこのままマンションに戻って、ぐーすか寝るのがもったいない気がしてきた。 でもまだへばっている。  いいや、やっぱり青空が私を呼んでいる。  でかけるぞ!  さすがにグルメ・バカ娘は残って、マンションの近所を散歩してるという。そうだ ろうなあ。  午後12時31分。京都駅。ひかり157号で、嫁といっしょに姫路駅へ向かう。  姫路といえば、そう! 世界遺産の姫路城だ。  このあいだ好きなお城ベスト5のときに、姫路城を入れなかったのが、非常に心残 りだったのだ。  10数年前に行ったとき、あまりの回廊の長さにたまげて、途中リタイアしたっき りなので、どうも評価を下せるだけの実績が無い。  やっぱりお城は天守閣まで登って、初めてああだこうだ言わないとね。  午後1時20分。姫路駅着。  この町ぐらい、お城を中心にすべて考えられている町も珍しい。  駅からまっすぐ太い道が、お城に向かって伸びている。  そのくせタクシーは、大手門の前に横付けできず、ちょっと手前で降りて、歩いて 行かないといけない。  どうも、人間よりお城を大事にしてしているようで、ちょっと気になる。  さらに大手門を抜けると、公園が広がっていて、右に市立動物園と、とにかく縮尺 の感覚がくるうぐらい、バカっ広い!
お城があんなに遠いぞー
    大手門から入口まで、私が生まれ育った西武新宿線なら、隣りの駅まで行けそう な距離だ。  早くもめげて、よっぽどこのまま帰ろうかと思ったのだが、白鷺が羽を広げて舞っ ていることから「白鷺(しらさぎ)城」と呼ばれるその美しさは尋常ではなく、いつ ものように無理をすることに。  本当にこのお城の美しさと来たら、もう別格である。  格子窓、鬼瓦、軒裏、どれを取っても、均等なシンメトリーで、A型人間のように 何でも揃えたがる種族には、ホレボレする端正な佇まいである。  午後2時。とはいえ、受付で500円払って、いきなりの「順路」の看板は、かつ て途中で断念した西の丸の俗に「百間廊下」と呼ばれる場所を示している。  きょうの目標は、天守閣登頂だ! 「順路」を無視して、行き止まりで戻らなければいけなくなったら、そうしようかと 心配だけど、ショートカットを狙う。  まんまと「百間廊下」を渡らずに、本城のほうに向かうことができた。  本当に案内の悪い城だ。「近道」とか書いておいてよ。  全部見たら、絶対嫌いになっちゃうよ、この広さは。    それでも1段1段が高い石段に難儀する。 「順路」通りに行くと、約2時間かかるそうだ。  2時間かかるお城はちょっとつらいぞ〜。     いよいよ天守閣のある大天守に向かう。  5階まであるそうだ。5階の上が最上階。  うっ。いきなり気が重いぞ。  すでにここまで来る間に、相当体力を消耗してるからなあ。  でも、行くぞ!  姫路城を攻略せずして、数多のお城を語るなかれだ。  けっこう急な木造の階段を登る。  手すりがついているので、登るのは楽なんだけど、右手がどんどん痛くなってくる。  しかしこのところ、彦根城、安土城跡、掛川城、浜松城と、エレベーター無しのお 城を次々に攻略している自信は、かなりのパワーになっている。  しかもこの姫路城は、格別な感慨がある。  もともと姫路城は、私が一番大好きな武将、黒田官兵衛の居城だったのだ。   黒田官兵衛というのは、豊臣秀吉の参謀格で、知謀の人と呼ばれた人。  豊臣秀吉が中国攻めをしたとき、この黒田官兵衛がお城ごと、豊臣秀吉に譲ること によって、豊臣秀吉の傘下に入ったのである。  いかんなあ。黒田官兵衛さんのことになると、わかりやすく解説することができな くなる。  ファンだからなあ。  とにかく黒田官兵衛ゆかりのお城ということ。  その後、姫路城は、織田信長が本能寺の変に倒れた時、中国から速攻で戻って来た 豊臣秀吉が、中継地点としてつかったことでも、歴史に登場する。  しかもこのお城にあった金銀財宝を全部武将に分け与えたエピソードで有名。弔い 合戦に行って、負ければお金はいらなくなる、勝てばあとからいくらでもお金は入っ てくる。  この思い切りのよさが、豊臣秀吉の真骨頂だ。    ほかにものちにこのお城をもらった池田家が、剣豪・宮本武蔵を召し抱えたとか、 播州皿屋敷の話が城内にあったりと逸話の多いお城だ。  そんなお城に今、登り切る。  昔の人は、毎日こんな急な階段を登ったのか。私はイヤだなあなどと思いつつ…。  うんしょ、うんしょ、うんしょ…。  午後2時30分。登頂成功!  窓から涼やかな風が大天守に入り込んできて、心地よい。  達成してなお、暑いお城は最悪である。  しばらく天守閣で、じっと外を眺める。  姫路駅までまっすぐな大通りが美しい。  下り階段がかなりきつい。  急な階段だけに、私にはまだ右足で一段、左足でその先の一段という降り方がまだ できない。  右足を降ろして、左足を降ろして、両足が揃って初めて、一段降りるといった、よ ちよち歩きだ。  真下がずっと下まで見えるのも、けっこう怖くて、よけい腕が縮んで、身体が思う ように動かない。    さらに後ろから、修学旅行の学生たちの大群が押し寄せて来るのが何より怖い。 1階降りると、大群を行き過ごさないといけない。  若者はこういう場面で、ぶつかって来ても「あ、すみません」ですまそうとする動 物だから、ケガでもしたら、こっちが損するだけである。  降りきった頃には、右足の足首が痛い。  ベンチで休み休み進むが、地面を擦ってしまう。  足首が上がらない。  それでも兵庫県立歴史博物館と書かれた矢印のほうへ行きたい。  この大きな姫路城の裏を、ぐるっと回り込んだ先にそれはある。  遠い。遠すぎる。  午後3時30分。兵庫県立歴史博物館。  手前の美術館あたりで、もうリタイアしたかったのだが、この先に素晴らしいこと が待っているような変な予感がする時がある。  しかし、歴史博物館の門から、受付までがまた遠い。  しかもゆっくりゆっくり足をいたわりながら進んで行っても、誰も出口から出て来 ない。  見学する人が全然いないってこと?  新しくてきれいで、センスのある建物なのになあ。  受付で200円払って、なかへ。  天井が高い気持ちのいい博物館だ。  館内に見学者はほとんどいない。  新築したばかりのようで、博物館特有の暗くて、じめじめした雰囲気はまったくな い。  これはバブル景気がもたらした、唯一の恩恵のような気がする。  日本じゅうのお城の模型が展示された部屋があって、これだけ疲れているのに、さ らにあそこへ行きたい、ここへ行きたいと思ってしまう。現存するお城をすべて登頂 達成も夢では無いような数になって来つつあるだけに、心躍るものがある。  1階に無造作に置かれた、ガラス細工の姫路城は、大きさといい、美しさといい、 目を見張る。  もっと田舎のお城なら、このガラス細工のお城を部屋の中央に置いて、メイン展示 物とすることだろう。
   早く休みたいので、喫茶室の場所を聞く。  長いスロープを登った先にありますとの答え。  ひ〜〜、博物館の内部にあるから、すぐのところだと思いこんでいた。  なるほどゆるやかなスロープがある。  坂道はつらいぞ。  それでも壁面全部1枚のガラスは、気持ちがいいなあ。  おっ、おお! これは〜〜〜!  全面ガラスの向こうに、姫路城の威風が見える!  な、な、なんて美しいんだ…。  見ているこっちがたじろくほどの美しさだ!  思わず嫁も私も足が止まった。  その先の「みゅうじあむ」という喫茶店に入る。  この喫茶店も四方全部ガラスに囲まれていて、姫路城の眺めは最高! まるで大金 持ちの別荘から眺めているような気分になれる。  博物館の喫茶店だから、飲み物も安い。  もう、このままずっとここにいたいぐらいだ。  もったいないねー! こんな素晴らしい景色をほとんどの観光客が見ないまま帰っ てしまうのだろう。  ここだけの話っていう言い方があるけど、これは絶対知られざるビュー・ポイント だよ。覚えておいてね。歴史博物館の喫茶店だ。  喫茶店のスロープを降りかけたところで、すぎやまこういち先生ご夫妻から電話が 入る。今夜の食事のお誘いだ。  すっかりここで長居してしまったので、急いで帰らないと。  午後4時58分。ひかり172号で、京都に向かう。  疲れ果てて、週刊誌を読みながら寝てしまった。  いびきをかいて寝ていたようだ。  午後5時49分。京都駅着。  まったく頭が下がる思いなのだが、京都相互タクシーの宮本さんが、わざわざグル メ・バカ娘を乗せて、駅まで迎えに来てくれたのだ。  きょうの宮本さんは非番なのに、自家用車で、すぎやまこういち先生ご夫妻、北岡 さんご夫妻とお付き合いした上に、さらに私と嫁が新幹線に1本乗り遅れたという連 絡を入れただけで、来てくれたのだ。やさしい人だ。  いたれりつくれりだよ、ホント。  こんなに恵まれちゃ、少なくともグルメ・バカ娘の将来はきっと哀れだね。  人間の一生はどんな人でも、プラス・マイナス・ゼロで終わるからね。世間の人は、 私がプラスだらけの人生を送っているように見えるだろうけど、それだけマイナスも 多いだけ。  でもグルメ・バカ娘はしぶとそうだ。  午後6時30分。先斗(ぽんと)町の「ひろ作」に行く。  すでにすぎやまこういち先生ご夫妻、北岡さんご夫妻が食事を始めずに、待ってい てくださった。  新幹線に乗り遅れたことを深く、反省。  下っ端が先輩を待たせてはいけない。  すぎやまこういち先生ご夫妻、北岡さんご夫妻、バカ家族、宮本さん、昨日に続き、 京都メンバーが勢揃い。  全員お酒が苦手なので、お茶とウーロン茶で乾杯!  唯一宮本さんが飲めるそうなのだが、いつも運転しているので、飲むことができな い。
左から すぎやま先生ご夫妻、宮本さん
   「ひろ作」は、京都の家庭料理のお店。いわゆるおばんざいを出してくれるお店だ。  しかも京都独特の一見(いちげん)さんお断りのお店。  またまた北岡さんご夫婦のおかげで、こういうお店に入ることができてしまう。一 見さんお断りのお店だからといって、値段が高いわけではない。むしろ安い。  京都の一見さんお断りは、お客さんによりよりサービスができるように編みだされ た最高のシステムだと思う。  紹介者がいれば、その日からもう、その店の常連になることができるわけだからね。  しかもこの「ひろ作」は、大当たり!  肉じゃがの美味しいこと! しみこんだ味は絶品。  グルメ・バカ娘は、特に肉じゃがには目がないやつだから、さぞや喜んでいるだろ うと見たら、なんと、追加注文して、3皿をたらげてしまったようだ。  にしんも、ナスも、こんにゃくも、だし巻玉子も、どれもこれもみんな美味しい!  またお腹がいっぱいになるまで食べてしまった〜〜!  いか〜〜〜ん! 食べ過ぎだ〜!  グルメ・バカ娘も食べ過ぎで、顔が青ざめていた。  青ざめるまで食うな〜〜〜!  午後8時。北岡さんご夫婦は、東京へ帰らないといけないので、ここでお別れ。  すぎやまこういち先生ご夫妻と、先斗町を歩いて、マンションまで帰る。    巨人の清原が1試合3ホームラン。  すごいな〜。  京都でうかれているまに、横浜ベイスターズはいつのまにかまた最下位に。  ゆっくりお風呂につかったけど、足のじんじんが抜けない。  明日もどこかにでかけそうなのになあ…。

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