4月27日(火)


 午前10時10分。東京駅新幹線19番線ホーム。
 きょうは珍しく、こだま号に乗る。
 東京駅から、新幹線こだまに乗るなんて、ひょっとしたら初めてじゃないかな。
小田原とか熱海だったら、小田急とかJRで行ってしまうし、静岡だと、ひかり号
のほうが早い。

 というわけで、きょうはこだま号で、浜松に向かう。
 終着駅は、京都なのだが、いつもの寄り道小旅行だ。
 浜松といえば、うなぎと、徳川家康の浜松城だ。
 学生時代に、車で浜松に行ったことはあるが、どうせすっかり変わってしまって
いるだろう。25〜6年前だからね。
 それにしても新幹線は、のぞみ号と、ひかり号ばかりで、こだまは1時間に3本
ぐらいしか走っていない。悲しい電車になってしまったものだ。新幹線自体は3〜
5分おきに1車輌発車しているのに。
 みどりの窓口でキップを買ってから、30分も東京駅構内をうろうろするハメに
なってしまった。
 しかも浜松まで、相当時間がかかるだろうと思っていたら、2時間10分で着く
そうだ。ちょうどのぞみ号で、京都に着く時間とおなじだ。
 それは気が楽だ。空も青い。
 
 車輌も二階建て新幹線なので、ゆったり乗り心地もいい。
 例によって、車内はアイデアが一番出る快適なスペースなので、『さくま式人生
ゲーム2(仮)』の仕様書の下書きを始める。
 やっぱり新幹線はアイデアが出るなあ。
 快適、快適。天気もいい。
 アイデアが出たことに安心して、富士山が見えるあたりで、うとうとする。静岡
駅は発車してから気づく。
 こだまは、駅に停車していると、ひかりとのぞみに追い越されるが、この風圧が
すごくて、目が覚めることが多い。

 静岡駅の次は、掛川駅で、その次が、浜松駅か…。
 掛川? 掛川といえば、掛川城があったな。
 新幹線の車内から見える駅というのは、博多までにいくつかあるのだが、東海道
ではこの掛川城はけっこう目立つ存在だ。
 しかも掛川城といえば、山内一豊(やまのうちかずとよ)の妻のエピソードで有
名な、山内一豊の居城である。
 山内一豊の妻で有名というのも、変な言いまわしだよなあ。
 何か、バカボンのパパみたいだよなあ。 
 歴史マニアからいえば、立派な武将なんだけどなあ。
 なんてことを思い出すと、アナウンスが「まもなく掛川駅に着きます」。 
 いつもの悪い癖が始まった。
 掛川駅で降りよう。

 午後12時。やっぱり掛川駅で降りてしまった。
 さっそく掛川城へタクシーで向かう。
 あとで知ったのだが、新幹線側からだとタクシーは大回りで、在来線側からだと、
歩いて10分の距離だそうだ。
 なんだかもったいないことをした。

 でも私の場合、決してもったいないことはなかった!
 お城の大手門をくぐると、いきなり掛川城についての解説が。
「本丸から天守閣への登城路は、敵の侵入に備え、何度も折り曲げ登りにくくして
あります」。
 登りにくく…! それはやめてくれー! わざわざそんなことするなー! 登り
やすくしてくれ〜〜〜!
 あははは。目の前に、石段が立ちはだかっているぞ。
 お城の入口までで、早くもへばる。
 今年一番の暑さに、かなり汗をかく。
 このお城は、平成4年か、5年に完成したばかりで、さらに現在もお堀とか、城
下の屋敷などを続々建設中だ。
 クレーンとお城が並ぶアングルは、ひそかに笑える。
   係りの人たちもすこぶる親切。  入口で、入館のチケットを渡すと、「カバン置いていかれたらどうですか?」と いってくれる。  これは幸いと預ける。番号札も無いところが、いかにも地方に来たなあという感 じでうれしい。  でも城内の階段が、急だ〜。  あのよじ登るかのようだった彦根城ほどではないが、十分急だ。  新築のお城なんだから、登りやすい階段ににしてよー。  でも昔のお城を忠実に再現したいらしい。  あんまりがんばらんでほしい。
   しかし新築のお城というのは、妙な雰囲気だ。  なんでも青森のヒバの木をふんだんにつかっているので、木の香りがぷうんといい 匂いなのだ。  青森ヒバというのは、あすなろと呼ばれてる木ね。  青森では、このヒバの木の入浴剤を売っているぐらい、いい香りなので、まるで住 宅展示場に来てるような気分になる。  世話好きな係りのおじさんが登って来て、聞きもしないのに、こっちが見る先を解 説してくれる。  あそこが西郷道で、そっちが国道で…。  そういわれても、国道はどうでもいいよなあ。  と思っていると、そのおしゃべり好きなおじさんは、この天守閣の建設費は、10 億円かかったと言いだす。  しかも10億円のうち、4億円が寄付金からで、掛川市が出した費用は、1億円で、 残る5億円を東京のおばあちゃんが、ひとりで出したそうだ。すごいおばあちゃんが いるもんだなあ!  5億円なら東京で、ビル1軒ぐらいの値段なもんだから、お城を建てるのもおもし ろい話だなあ。  もっと安い値段で、お城を建てられないもんかなあ。  2〜3000万円とかで。  歴史好きの会で、お城を建てるのって、おもしろくないかな?    それにしても青森ヒバの上品な芳香を嗅ぎながら、おじさんの話を聞いていると、 新築一戸建ての家を買いませんかと言われているような気分になってくる。  とにかく奇妙だよ、新築で木の香りがぷんぷんするお城というのは。匂いが定着し てしまう前に、このお城を訪れることをお勧めするなあ。    午後1時30分。なるほどお城から、掛川駅まで、歩いて10分ぐらいだった。で もすでに天守閣への階段で、相当消耗してしまって、思うとおりまっすぐ歩けない。  掛川駅に「天竜浜名湖鉄道」という魅力的な看板がかかっているではないか。聞い たことの無い路線だな。駅の人に「この鉄道は浜松駅の近くを通りますか?」と聞く。  どうやら浜名湖をぐるっと乗り越えるように走る路線らしく、それはそれでまた乗 りたくなってしまったのだが、きょうは浜松が目的地。やっぱり浜松で、うなぎを食 べたい。  お昼に食べる予定がすでに、午後1時30分だ。腹が減った。  午後2時。掛川駅から、東海道本線で、浜松駅に着く。  さすがに有名な町だけあって、大きな街だ。  アクトシティと呼ばれる、けたはずれに大きなテナント&ホテルができていて、案 の定昔の面影など、まったく残っていない。  駅の前は大きなバス・ターミナルになっている。  全長200Eのうなぎのモニュメントでも横たわっていてくれると笑えていいのだ が、どうもマジメに発展しようとしているようだ。どちらかというと、うなぎの町の イメージを消したがってるような気もするなあ。  午後2時30分。肴町の「八百徳(やおとく)」といううなぎ屋さんまで歩いて行 く。場所がわかりづらくて、ちょっと迷った。  繁華街の路地を入ったとろこにあった、ちょっと古めかしいお店だ。午後3時で、 昼の部が終了してしまうらしく、カウンター席をひとりで独占する。  このお店の名物「お櫃(ひつ)うなぎ茶漬け」2200円が食べたかったのだ。  まずお櫃(ひつ)に入った、蒲焼きを茶碗に移して、食べる。  お腹が減っていたから、うなぎのタレがもう甘くてジューシーで、うんまい! う んまい!  2杯目は、お櫃(ひつ)の蒲焼きを、また茶碗に移して、今度はこれに、わさびを 乗せ、ネギを入れて、お出しをかけて、お茶漬けにして食べる。  これがまた美味しい。わさびが効いて美味しいねえ。  お店の人が「わさびをたっぷり入れるといいですよ!」という。  そうか。浜松は、静岡県であった。  やっぱり食べ物って、その土地の名産が加わることによって、味が完成して行くも んなんだなあ。  お店の人から名古屋のほうが、うなぎをカリカリに焼くといった話まで聞いて、満 腹、満足。 「浜松城まで行くんですか?」 「はい」 「浜松城まで、歩いてすぐですよ」と道順まで教えてもらう。  しかし私は大切なことを忘れていた。  地方の親切な人の「近いですよ」は、絶対遠いことを!  うははは。確かに直線距離にしたら、近い。  でも浜松の道路はやたらと広くて、交差点はみんな横断歩道ではなく、横断地下道 になっているのだ。  金沢などはよくこの横断地下道があるのだが、金沢は寒いから、横断地下道にして るのだとばかり思っていた。  足の不自由な私には、横断地下道は拷問なんだよー。  ふつーの人が、ウサギ飛びで階段を上り下りするくらい、つらい。  次の交差点もまた、横断地下道だよー。  うひょ〜〜〜。  1日2箇所もお城めぐりなんか、しちゃいけなかったなあ。  って、まだ2つ目のお城にたどりついてないぞ。  何で、市街地から、お城に向かって、なだらかな坂道になっているんだよー。なだ らかは、こたえる。  おお、やっと、浜松城→の矢印が!  道を曲がれば、浜松城だ!  かの徳川家康が若き日、武田信玄と戦って、ぼこぼこに負けて、恐怖のあまり馬上 で、脱糞したというエピソードのある、浜松城だ。  ぐおおおおお〜〜〜〜〜ん! こ、この急坂は…!  またしても、高い!  この道を登れってか〜〜〜〜〜?  日本中のお城を保存したり、復元する人たち、もっとお城をみんなに見てもらいた かったら、もっと前向きなことを考えない?  浜松城の受付までの石段が短いのに、息も絶え絶え。  おまけにお城の係りのババアが、こっちを見て、ふうんという顔をしている。  骨張って、目がくぼんだ、憎々しい顔だ。  掛川城の係りのみなさんなら「大変なところをよく来てくれましたね」のひとこと もかけてくれただろうに。 「ふえ〜〜〜〜〜」。  死にそうな声を発して、受付に到着。  ババアは逃げるように、入館料売り場に戻り、ふんという顔つきで、早く金を出せ といわんばかりに唇をきっとさせる。  わずか150円ではないか。  やっぱり入館料の安いお城にいるババアは、絶対愛想が無い。  もっと値段高くて、掃除の行き届いたお城にしてほしいものだ。  あれだけ評判の悪かった国鉄だって、JRになったらサービスがよくなったんだか ら、お城だって、もっと居心地のいい場所になってもいいはずだ。  きれいな姉ちゃんのひとりもいたら、入館料が1000円でもいいぞ。領収書もら うけど。  4階の天守閣まで登り切ったはずなのに、何も覚えていない。  よっぽど疲れてたんだろうなあ。  けっこう展示物が多かったようなのに、便所が汚かったという悪い印象しか残って いない。  それでも徳川家康という歴史上のビッグ・ネームの城にしては、お粗末すぎると思 う。    午後3時30分。よせばいいのに、まだ歩く。アクトシティ前の「楽器博物館」に 行く。  もうまったく体力のかけらも残っていない。  受付で、カバンを預からせてほしいと言われる。  なるほど「カバンやハンドバッグが楽器に接触して壊れるといけないので、預から せていただきます」の表示があった。  旅行カバンは仕方ないにしても、いつも肩から下げている小さなカバンまで没収さ れてしまった。  文筆業がメモ帳を奪われてしまうのは、海水パンツを忘れてきた水泳の選手みたい なもんだ。  せっかく来たから、入館したものの、居心地が悪いったら、ありゃしない。  カバンやハンドバッグで楽器が壊れるといけないというから、楽器に触れるのかと 思ったら、どの楽器の前にも「さわらないでください」の但し書き。  だったら、ケースにでも入れて、こっちにカバンを持たせてくれよ!   地下一階にも展示物がある。もう降りる体力すらないなあと思っていると、旅行で 来ていたおばあちゃんが「階段はいやじゃあ!」と言っている。  さらに「どうせあたしには、ピアノなんて縁がないわよー。だから見ない!」。  おばあちゃん、あんたの言うとおりだ!  とうとう私は入館2〜3分で退場してしまった。 「カバンを預からせていただきます」といった受付の美人なお姉さんは「何かありま したでしょうか?」と聞いてくる。 「帰りたいので、カバンを」 「地下一階にも展示物がございますが…」 「あの、その、足が不自由なもので…」 「それでしたら、エレベーターがございますので、ご案内させていただきますが…」  体力がある時なら、こんな美人なお姉ちゃんの案内は大歓迎なのだが、もうとにか く帰りたい。 「電車の時間が…」とわけのわからないことを言って、カバンを受け取る。  電車の時間を気にするやつが、3分間しかないのに、わざわざ博物館を見に来るか?    そのまま、ひーひー叫びながら、浜松駅に向かって歩く。  どうも移動のタイミングが悪く、タクシーをつかうには近すぎて、歩くにはつらい ところばかり、歩くハメになってしまった。それ以前に1日2つのお城に登ることの ほうが、無謀であることはいうまでもない。  午後4時17分。1時間に1本あるかないかの、浜松駅停車のひかり号に乗って、 京都に向かう。  乗ったとたん、ぐーぐー眠る。相当疲れている。  午後5時30分。京都着。  午後6時。京都のマンションに着く。  ベッドに倒れ込んだまま動けなくなる。  とてもご飯を食べに行く気になれない。  ほげ〜〜〜〜と、TVで西武の松坂くんの投球を見ているのが、心地よい。  足がじんじん、音が聞こえるぐらい、じんじんしている。  京都駅で夜食用に買ったパンをかじって、『踊るさんま御殿』と『古畑任三郎』を見る。  もうダメ。きょうは何にもできない。寝る。


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