2月7日(土)

 午前11時。嫁と、渋谷のお粥専門店「香港ロジ」へ。
 国道246の渋谷駅前歩道橋のあたりの小さなお店だ。
 先日、代官山から渋谷まで歩いたときに、このお店から出てきた初老の会社役員風
の男性ふたりが「いやあ! おいしいお店を紹介してくださいました!」、「いえい
え!」と語り合っていたのを、私たちは盗み聞きしていたのだ。
 こういう生情報は、とっても貴重。

 お店に入って、レタス粥ランチを注文。  レタスと、春巻と、小鉢と、杏仁豆腐のデザートがついたランチだ。  あちち…。  ちょっと急いで、食べ過ぎた。  お粥だけに、熱い。

 でも、レタスがやさしい味でいいなあ。  食べ過ぎた翌日に、胃を休めるのにもいいなあ。  あぢぢ…。  今度は、春巻を急いで、食べ過ぎた。  う〜む。春巻もおいしいぞ。  春巻が油っぽくなくて、あっさりしているのがいい。  大きさも小さくて食べやすい。  午前11時からお店をやっているというのも、けっこう便利だ。  夜に来ても、香港タクシー飯とか、ちょっとどんな食べ物か知りたくなるような名 前のメニューが多い。  ひさびさに気に入ったお店だ。  難点は、渋谷駅前の歩道橋を渡らないと行けないことだ。

 私は高所恐怖症。  なるべく歩道橋を渡りたくない。 <もう一度私が行くためのメモ> 「香港ロジ」 住所:渋谷区桜丘町2の3 堀ビル1F 電話:03(3464)1866 定休日:日曜 営業時間:11:00〜15:00      17:00〜23:15  食後、東急本店近くの「ブック・ファースト」まで歩いて、本を買いまくり。  旅関係のガイドブックを大量に買い込む。  仕事柄、毎日旅関係の本は、最低1冊は読む。  一度行ったことのある町に、どんな新しいお店や、記念館が出来ているかわからな いからだ。  午後12時46分。帰宅。  午後1時。渦中の人・井沢どんすけが到着。  続いて、石川キンテツが到着。  ほどなく、岩崎誠も到着。  先週の「テスト・プレイ」のときとおなじメンバーだ。  あの井沢どんすけのテスト・プレイ中の挙動不審な態度に端を発して、今週火曜日、 「代々木今半」に誘い出して、尋問。その尋問の根底にあるものを柴尾英令くんに気 づかれ、柴尾英令くんを唸らせ、札幌開発チームを震撼させた、あの「どんすけちゃ ん誘拐事件」ではなく、「井沢どんすけ爆弾発言事件」の発端となった組み合わせで ある。  テスト・プレイ開始前に、私がここ数日間、悩みに悩みぬいた改良案を、井沢どん すけに提示する。 「これこれこれは、廃止して、これはこういう風に生かしたイベントに変更する。こ こではなんと! ダイヤモンドカードが取り放題だっ! どうだ? 井沢どんすけ!」 「ひえええええっ! ダイヤモンドカードが、取り放題!」 「××××だけ残して、あとは全廃! どうだ!」 「へ〜。そこまで。う〜ん。いいですね!」  ここでこっちも井沢どんすけの返事を納得してはいけない。  井沢どんすけが本気でそう思っているか、もうひとつ質問する。 「で、井沢どんすけ! ××××システムをひとつ残して、あとは全廃しちゃうんだ から、こっちの××マスの数は、ここの3ヶ所だけでいいよな!」 「えっ? ××マスって、マップの真ん中に固まってあるじゃないですか! できれ ば…、マップの左右にひとつずつくらいあるといいんですけど…!」 「井沢どんすけ! 虫が良すぎる!」 「えへえへえへっ。そうですよね〜!」  …というように、井沢どんすけは、なんでもイエスマンではないのである。  人前では、私に歯の浮くようなおべんちゃらばかり言っていて、影に回ると、自分 の仕事の失敗を人のせいにするようなやつとは、全然違うのである。  私はイエスマンが大嫌いだ。  だって、イエスマンは絶対「イエス」だと思っていないんだもん。 『桃太郎電鉄U(仮)』は何度もいうように、野心作なので、いままでと、まったく 違うシステムを入れると、どうしても違和感が出てしまう。  開発スタッフにとっては、新システムは魅力的だし、新システムは、シミュレーシ ョン・ゲームにあるような凝ったシステムになる場合が多い。  このシミュレーション・ゲームのような要素は、私を含めて、開発者たちというの は、たいがい魅惑の言葉なのだ。  でも、『桃太郎電鉄』は、ボードゲームである。  パラメータで遊ぶゲームである。  小難しいシステムを増やすくらいなら、「もう一匹、ゲスト・ボンビーを出せ!」 というのが、井沢どんすけの揺るがない持論なのである。  結果的に『桃太郎電鉄U(仮)』は、斬新なシステムを捨てることになったけど、 こっちのほうがいいような気がした。  発売してから、このときの謎解きはすると思うけど、RPGみたいな要素のシステ ムだったんだ。 『ドラゴンクエスト』でいうと、最後のカギを買わないといけないシステムでね。  RPGだと、ストーリーのなかで、1回だけ最後のカギを買えばいいんだけど、くり かえしプレイするボードゲームで、毎回、毎回、何年目かに最後のカギを買わないと いけないのはつらいよね。  まあ、これに近い話だといまは思っていてほしい。  というわけで、岩崎誠、井沢どんすけ、石川キンテツの3人で、テスト・プレイ開 始。  先週12年目までやっていた『桃太郎電鉄U(仮)』の続きだ。  おっ! さっそく、岩崎誠の小言爺(じじい)が出た! 「石川キンテツ! 目的地まであとい12マスなんだから、急行カードなんてつかわ ずに、特急カードをつかえよなっ!」  岩崎誠は、自分が負けることになっても勝利のための努力をしない男は、許せない のである。  さすが、3代続いて、月島生まれのちゃきちゃき、つるつるの江戸っ子である。

 しかし、石川キンテツ、急行カードで12が出なかったどころか、岩崎誠の小言に うろたえて、うっかり、ズボッ!と赤マスに入る。 「ああああああっ! 失敗したあああっ! やっやっやっや…!」

 凡ミスをくりかえす石川キンテツに比べて、井沢どんすけがきょうはやけに慎重 で、お得意の大爆笑凡ミスが全然出ない。  それどころか、ラッキー運の連続だ。 「どうしたんだ、井沢どんすけ! いつものおまえらしくない!」 「えへえへえへっ! どうしたんでしょうね!」 「おまえが、そんなにたくさんいいカードを持っているなんて、初めて見た」 「えへえへえへっ! 気持ちいいですねえ!」  きょうの井沢どんすけは何かが違う。  キングボンビーをなすりつけられても、自分の番が来ると、貧乏神に戻ってしまう し、特急系のカードをつかうと大きな出目が出る。 「いやあ! きょうは調子よすぎますねえ! えへえへえへっ!」

 う〜ん。困った。  井沢どんすけが快勝するということは、戦略性が薄い味付けになっているという判 定になってしまう。  井沢どんすけの言うとおり、万人受けにはしたいが、ある程度の人たちには、戦略 性があって、麻雀の強い下手がわかるような結果になるチューニングにはしたい。  きょうの井沢どんすけは、裏ドラが乗りすぎである。 「井沢どんすけ! 『桃太郎電鉄U(仮)』発売中止!」 「ひええええっ! このままでもう発売OKですよ!」 「何言ってんだ。新システムがまだ入っているロムで発売できるか!」 「こんな快勝は、めったにないんで、ぜひこのままで発売してほしいと…」 「だったら、新システムを残したままにするぞ!」 「そ、そ、それはちょっと!」    午後4時。柴尾英令くんが到着。 「柴尾さん! 雪祭り、お疲れ様でした〜!」 「お疲れ〜〜〜!」 「すごかったですよ、8メートルもあるキングボンビーの雪像!」

 柴尾英令くんに、井沢どんすけが私の改良方法で納得したことを伝えて、柴尾英令 くんと、『桃太郎電鉄U(仮)』のマップの青マス、赤マス、黄色マスを変更する作 業を開始する。  井沢どんすけのクレームにより、マップを変える必要が出てきたのだ。  大幅な変更なので、1分1秒でも早く、札幌の開発スタッフに送ってあげたい。  私たちが必死に作業している脇では、井沢どんすけの連戦連勝の報告ばかり聞かさ れるはめに。 「岩崎誠〜! 井沢どんすけの圧勝は見たくないよ〜!」 「いやあ! きょうの井沢どんすけサン、引きが強すぎて!」 「井沢どんすけ! 『桃太郎電鉄U(仮)』のシステムを潰して、天狗になってるな あ!」 「えへえへえへっ! そ、そんな…」  本来、井沢どんすけなんて目ではない実力の持ち主である岩崎誠が、実はきょうボ コボコに負けているのが、何を隠そう新システムの弊害なものだから、爆笑するやら、 ホッと胸をなでおろすやらだ。  やっぱり、井沢どんすけがクレームをつけたシステムは、前向きなシステムではな かったことが、もう証明されてしまった。  これだから、怖いのだ。  井沢どんすけという男、敵に回すと恐いが、味方にするともっと恐い男である。  午後6時。岩崎誠が退席。 「さくまサン! 柴尾英令さんに入ってもらって、この続きをテスト・プレイしたほ うがいいですか?」と、井沢どんすけ。 「しなくていい! 井沢どんすけが快勝するってことは、私のチューニング・ミスだ!  このロムはもういらない! はっはっは!」 「えへえへえへっ! せっかくこんなに勝ってるのに!」  午後7時。岩崎誠に「きょうどのお店に食べに行ったら、悔しい?」と聞いて、 うっかり岩崎誠が答えてしまった、スペアリブのお店「ハイ・ダディ!」へ。 「岩崎誠さん、ごめんなさーーーい!」

 おいしいスペアリブを食べながら、井沢どんすけの恋愛論を聞く。  いや、井沢どんすけに、全然恋愛論がないってことが、わかっただけなんだけどね。 予想通りの答えに、がっくり。  井沢どんすけ! 少しは、恋愛しなさい!  好きなテレビを見ているときに、女の子からの電話を嫌がらないように。  午後8時。「ハイ・ダディ!」前で、解散。  帰宅。  さっそく『桃太郎電鉄U(仮)』の内容を、井沢どんすけと話し合った結論に沿っ て変える作業を開始する。  当初恐れていた、大幅に製作期間が伸びてしまうほどの大事には至らなかったので、 ホッとしている。  このほうが、たしかにシンプルで、心地よさそうだ。  う〜ん。井沢どんすけの超能力、すさまじき。  マニアックの陰り、一点も無し!  今夜は、この作業に没頭する。

 
さくまNEWS


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西日本編もありまっせー!』(集英社)も、絶賛発売中!

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!のはず…。

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登場! 「見た!」の通報よろしく!

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