2月4日(水)

 昨夜、この日記を読んだ柴尾英令くんから、電話が入る。
「まずは、佐々木投手の横浜ベイスターズ入り、おめでとうございます!」
「うんうん、ありがとう!」
「で、井沢どんすけサンは、本当はどういうことを言っていたんですか?」
「はっはっは! やっぱり、わかっちゃったかあ!」
「わかりますよ〜!」
「あいかわらず、感のいいやつだなあ! はっはっは! 土居ちゃん(土居孝幸)と
柴尾英令くんが、2月4日から札幌雪祭りに行くから、ゆっくり雪祭りを楽しんでも
らって、ふたりが帰ってきてから、井沢どんすけの爆弾発言を伝えようとおもったん
だけどなあ…」

 人間の能力とは、本当にすごいとおもう。
 いろんな人がいる。
 この日記の文章を、そのまま素直に読んでいる人。
 柴尾英令くんのように、私の言葉の裏を読む人。
 すぎやまこういち先生の奥様のように、私が平生を装って文章を書いたのに、
「あの日の日記、さくまサン、怒ってらっしゃいましたわね!」と、当ててしまう人。
 ほとんど名指しで、ダメ男の行状を書いているけど、まったく気がつかない本人。
 私はいまだに、脳内出血の後遺症で、かなり回復しているものの、手足がまだ不自
由と書いているのに「料理しないんですか?」といってくる人。
「今年でもうゲーム作るのやめちゃうんですんね!」と、早とちりする人。
 日記を書いていても、反応は様々だ。

 話がそれた。

 柴尾英令くんに裏を読まれてしまった、昨日の私の日記だ。
 
 実は、井沢どんすけはとんでもない爆弾発言をしていたのだ。
 それは『桃太郎電鉄U(仮)』の基本システムを真っ向から否定するような大爆発
だったのである。
 そのことを伝えると、柴尾英令くんも、電話の向こうで呻いた。
『桃太郎電鉄12』でいえば、『西日本編』の高速道路は必要ない!というようなレ
ベルだ。

 井沢どんすけの意見を退けることは簡単だ。
 ましてや、ここまで完成してるシステムをひっくり返す開発チームは、まずいない
と思う。
 しかし、井沢どんすけの言い分は、つねにお客さんにとって正しい意見だから、怖
いのだ。

「で、さくまサンはどうするつもりなんですか?」
「まあ、ひとつふたつは、井沢どんすけのいうとおりにするけど…」
「ひとつめは、ボクも納得ですね!」
「でも…、たぶん…、すべて…、井沢どんすけのいうとおりにすることになると思う…」
「ひえええええっ! 井沢どんすけサンの意見って、そこまですごいんだあ!」
「あいつの言ったこと無視すると、お客さんがおなじ文句を言い出すんだよ!」
「ひえええええっ!」

 午前10時30分。外はいい天気だ。
 嫁と、東京駅へ。

 午前10時56分。新大阪行きこだま413号に乗車。

 車中、VAIOを広げて、井沢どんすけの全供述をまとめる作業。  井沢どんすけの罪状…いや、大変更の一部始終を、札幌の開発スタッフに送らない といけない。  きょうからのんびり温泉旅行の私も嫁も、井沢どんすけの爆弾発言で一変、驚天動 地である。  でも発売前に気づいたのは、大正解だ。 『桃太郎電鉄12』では、まったく文句ひとつ言わずに、絶賛ばかりしていたので、 「文句を言わない井沢どんすけは役に立たないぞ!」とプレッシャーを与えていた矢 先だけに、ざっぱーーーん! 井沢どんすけ、参上!  面目躍如である。  おそらくこのまま発売したら、マイナス10万本の売り上げ下方修正を強いられた ことだろう。  コンピュータ・チップの商品管理の精度のように、井沢どんすけの「他人に厳しく、 自分に甘い」目線は、1処理当たり99.8%以上の精度だ。  午前11時48分。熱海駅で下車。

 東京から、わずか50分だ。  熱海は、最近かつてのどん底状態を脱出しつつあって、リゾートマンション・ブー ムが来ていた。老舗旅館が潰れた跡地に、次々とリゾート・マンションが建設されて いる。 「熱海に住もう」というキャッチフレーズは、たしかに新幹線で50分なら、じゅう ぶん通勤圏だ。鎌倉よりも近い。  熱海より東京寄りの小田原などは、最短で東京まで、35分だそうだ。  品川駅もできたから「小田原から品川まで最短28分」のポスターが貼ってある。  小田原はもはや、都内だ。  熱海も、駅に隣接する「熱海駅デパート」という古いビルが、全改築されたら、イ メージが変わっていいだろうねえ。  どうにもあのビルが、熱海の斜陽を守ってしまっている。  午後12時。平和通り商店街を抜けたところにある「雑魚(ざこ)屋」へ。

 活魚料理、ひもの料理のお店だ。  実は、お目当てのお店が3件とも、水曜日定休。  まあ、伊豆で、ひもののお店なら、そんなに差がないだろうと、このお店を選んで みた。  鯵のひもの特大と、なめろうを注文。  なめろうは、鯵のたたきを、味噌とネギで合えた漁師料理だ。  ひものは、ほんとに「特大」!

 じゅうぶん、おいしかった。  午後1時。来宮(きのみや)駅の先にある「熱海梅園」へ。

「第60回記念熱海梅園梅まつり」が開催中。  1万坪の敷地だというのに、入場料無料というのが、えらいね。  こんなにたくさん人が来ているんだから、ひとり100円でも取ればいいのに。  ここは日本でもいちばん早く梅が開花することで知られている。  でも、まだ全体的には、三分咲き、四分咲きって感じかなあ…。  赤い梅が少なくて、ポップコーンのように白い梅ばかりだ。

 嫁は、梅の匂いがいいといっているが、私は子供の頃、蓄膿症だったせいで、ほと んど匂わない。  おっ! やっと匂ってきたぞ!と思ったら、売店で売っている梅干の匂いだった。

 きょうは天気がよかった。  これで寒かったら、このなだらかに傾斜していて、どこまでも上り坂の梅園をてっ ぺんまで登りきる気には、絶対ならなかったとおもう。

 梅園のてっぺんには、韓国庭園があった。  2000年だったか、当時の森首相と、韓国の金大中大統領が、熱海で会談したの を記念して作られたそうだ。  梅園を登りきったところにこういうのがあるのは、おもしろい。  ひとつのご褒美だ。

 この韓国庭園のあたりは、まだ造成中だ。  まだ梅園を広げるようだ。  ほかにも、『カチューシャの唄』や、『東京音頭』の作曲で有名な中山晋平さんの 住居が移築されていて、入場料無料。

 この「熱海梅園」、入場料無料なわりに、盛りだくさんだ。

 おっ! 登り坂より、下り坂のほうは、梅はきれいだね。

 桜みたいだなあ!とおもったら、ほんとに桜だ。  もう桜が咲いていた。  やっぱりこの辺は、温暖なのかな。

 ややっ? 黄色い梅があるぞ。 「蝋梅(ろうばい)」っていうの?

 井沢どんすけにふさわしい花だな。 「キングボンビーに、すぐ狼狽(ろうばい)!」  漢字が違いまっせー!  ちなみに、井沢どんすけは御年36歳。  かの佐々木主浩(ささき・かずひろ)様と、おない年。  他意は、たっぷりある。  えっ? 蝋梅(ろうばい)は、梅の仲間ではないの? 「梅」という文字まで入っているのに。  インドマグロのようなものか?  花弁にロウ細工のような油を含んでいるんだ。へ〜!

 さすがに、梅園のてっぺんまで行って、降りてきたので、疲れた。  最近歩きすぎると、膝が痛くなる。  プチ老人には、ありがちな症状だ。  梅園は、おじいちゃん、おばちゃんばかりだなあ!とおもったけど、私もじゅうぶ ん、おじいちゃん新入生だ。  午後2時。熱海駅まで戻って、駅近くの喫茶店「藍花(あいはな)」へ。

 以前、熱海に来たときも、ここでコーヒーを飲んだ。  かなりおいしいのだ。ここのコーヒーは。  そういえば、熱海駅デパートのなかの「村上」という和菓子屋の和菓子がおいしい ので、きょうもばら売りで買った。お店の主力商品である「天の川饅頭」ではないほ うだ。

「垣穂」と「萬世の月」だ。  ここにメモっておくと、今度また熱海に来ることがあったときに忘れなくてすむ。  午後3時。熱海駅から、奥湯河原(おくゆがわら)へ。  湯河原と、熱海は非常に近いんだけど、湯河原が神奈川県で、熱海が静岡県。  世間の人には、どうでもいいことだけど、『桃太郎電鉄』の作者には、大問題なの だ。  ちなみに、小田原、湯河原、箱根が、神奈川県。  熱海、伊東、三島、御殿場が、静岡県。  神奈川県は、関東地方で、静岡県は、中部地方だから、わずか数キロで大違いだ。

 で、奥湯河原。  古色の商店街を抜けて、車はぐんぐん、山道を登っていく。  これじゃまるで登山列車だよ。  あとで、奥湯河原の商店街を散歩しようと思えないほど、山道を登っていく。  万葉公園というのを越えて、「白雲荘」にやっと着いた。  本館、新館とあると聞いていたから、巨大旅館を想像したんだけど、政治家の別荘 のようなこぢんまりとした旅館だ。

 部屋に通される。

 この旅館はこんな山の中なのに、LANケーブルが完備しているので、仕事にも便 利とおもって選んだんだけど、きょうだけ電話回線が工事中で、つかえないというで はないか!  がび〜〜〜ん! ロケハンにならない。  いきなり梯子を外された気分。  仕方が無いので、この旅館自慢の部屋付きのお風呂に入る。  もちろん、仕事もするけど、この温泉が魅力で来た。  完全な露天ではないけど、簾(すだれ)越しに外が見える。  お風呂も、ダブルベッドくらいの大きさで大きい、大きい。  自宅では味わえない広さだからこそ、来るわけだ。

 あっちちちちちっ!  熱い! 熱い! 熱い!  源泉の湯をお水でうめるのは、もったいないけど、お水をジャージャー!  やっと、ちょうどいいお湯になった。  ひのきのお風呂で、真昼間から入るお風呂は、最高だねえ。  指先がふにゃふにゃになるまで、浸かる。  気持ちいいねえ。  いつまでも入っていたい。  いかん、湯あたりしそうな気がしてきた。  お風呂を出たら、もうぐったり。  とても仕事をする気になれず。 『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の138巻を読みながら、ぐっすり。  妙に贅沢な時間でしょ?  午後6時。夕食。  凝った料理が次々に出てくる。  活け作りの伊勢エビ、ウニなどおいしかった。

 魚料理中心のところに、固形燃料で燃やすビーフシチューが出て、興ざめ…と思い きや、このビーフシチューがおいしかった。

 おいしかったのはいいんだけど、日本料理のなかで、ちょっとメニューから浮いて いた。  どうも日本旅館の料理というのは、量が多すぎる。  食後、またお風呂。  ざっぶーーーん!  ここのお風呂はいいよ〜。  ひさびさに気に入ったなあ!  泉質がまろやかだ。  無色透明だけど、家庭のお風呂で、どんなに入浴剤をつかってもこのまろやかだは 出ない。  ずっといつまでも入っていたいお湯だ。  この温泉めあてに、毎年何度もこの旅館に来る人が多いのが、わかるような気がす る。  眼下の川の音が、最初のうち、ちょっとうるさいとおもったけど、そのうち心地よ く感じるようになってくる。  うん。この「白雲荘」、かなり気に入った。  山中で遊びに行くこともできないから、ひとり合宿でここで仕事をしたらいいだろ うなあ!と思ったけど、ずっとお風呂に入ってしまって、仕事にならないかも。  まだ寝るまでに、もう一度お風呂に入ろう。

 
さくまNEWS


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西日本編もありまっせー!』(集英社)も、絶賛発売中!

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!のはず…。

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登場! 「見た!」の通報よろしく!

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