9月19日(金)

 昨夜、ようやくヒッチコック監督の『汚名』を見ることができた。
 ケイリー・グラントとイングリット・バーグマンの競演というだけで、わくわくする
ものがものがある。
 ところがこの作品が売っていなくてねえ。
 地方でもDVDを売っているお店に入ったら、必ずこの作品がないか、ずっと探して
いた。

 ところが、2週間前くらいに嫁に頼んでヤフー・オークションで調べてみたら、あっ
さり見つかったあげくに、落札して、すぐ届いてしまった。
 最新技術であるインターネットが、古い物を探すのに最適なものになるなんて、不思
議だなあ…。

 作品のほうは、もうお見事としかいいようがない。
 ラストの絶体絶命のピンチを、私はDVDを一時停止にして、私だったらどういうシ
ナリオを書くかと、何種類か考えた。
 でもそれはいずれも、仲間が助けにくるとか、主人公のアクションで逃げ出すという
ものだった。
 ところが主人公がたったひとことで切り抜けてしまうのだよ。
 ピストルも一発も撃たずに。
 トリックよりも、セリフが大事なんだねえ。
 しみじみ…。

 ヒッチコック監督研究の第一人者であるフワンソワ・トリュフォーがこの作品を、
ヒッチコックの白黒映画作品のナンバーワンと推す気持ちがわかるような作品だった。

 午前7時。『桃太郎電鉄U(仮)』のマップを大幅に手直しする。
 マップの青マス、赤マスの配置と数が、実は『桃太郎電鉄』シリーズのCPUのよう
なものなので、集中力120%で、エクセルデータを変更していく。

 午前8時30分。お風呂工事が始まる。
 ガガガッ、ガガガッ、ベリベリッ!
 ガガガッ、ガガガッ、ベリベリッ!
 でも『桃太郎電鉄U(仮)』のマップの手直しに集中しているので、騒音がまったく
気にならない。ちょうど私の部屋の壁越しに工事しているのだが、途中から音がしてい
ることすら忘れてしまった。

 なにしろ、気づけば午前11時。4時間まったく机から動くことなく、トイレにいく
ことも忘れて、マップ作りに集中していた。

「井沢どんすけがここに停まって、サイコロ1が出ても、3が出ても、ズボッ!と冬の
赤マスに入るのだ…」
「この辺は青マスだらけにして、鳥にエサをあげるように、井沢どんすけを赤マス連続
地帯にとっとっとっと引っ張り込んでやる…」
「画面上から、ひとマス下を地域マップで調べれば、☆印カード売り場があるんだけど、
井沢どんすけは線路をまっすぐ進むだけだから、この☆印カード売り場には気づくまい!」

 こういう仕掛けが決まったときには、最高にうれしい。
 私にとっては、つねに井沢どんすけが、仮想敵なのである。
 井沢どんすけにとっては「今度こそ勝てそうな気がする」と思い、私にとっては
「へっへっへ。井沢どんすけは勝てると思うかもしれないけど、ほうれ、このマスの配
置ならドボンと一発だ!」というのが、理想である。

 午前11時30分。四谷のパン屋さん「ボンドール」から、「志乃田寿司」、本屋さ
んの黄金コース。

 午後12時30分。帰宅。
 お風呂工事中で、家を動けない嫁と、「志乃田寿司」のおいなりさんを食べる。
 このお店のおいなりさんは、日本一おいしい!
 さすがに、「おいなりさんベストテン」は、難しいけど、おいなりさんは大好き。ベ
ストテン候補のお店としては、この四谷「志乃田寿司」、北鎌倉「光泉」、横浜「泉平」、
博多「河太郎」のタコいなり、人形町「志乃多寿司」、京都夷川の「末廣寿司」……、
けっこう多いじゃないか、はっはっは。

 昔、京都にべらぼうにおいしいおいなりさんを売っているという噂を聞いて、訪ねて
いったことがある。
 狭い路地を幾重にも曲がり、道に迷ったら、歩いていたお婆ちゃんが、そのお店まで
連れて行ってくれたことがあった。そこは個人宅で、外に看板すらないお店だった。た
しか京都の南座に仕出しをしている家だったのかな。
 いずれにしても、いまだにおいしいおいなりさんの印象としては残っているんだけど、
二度と行けないお店だ。

 午後1時。『桃太郎電鉄U(仮)』の仕様書の手直し作業。
 2日間の会議で決めた変更点をまとめていく。
 この作業が時間がかかる。

 昨日、土居ちゃん(土居孝幸)に「さくまサン、少し休んだほうがいいよ!」といわ
れたので、ベッドにひっくり返りながら、読書。
 土居ちゃんは「真実大魔王」とか、「はだかの王様の少年」といわれるくらい直感で
本質を見抜く力を持っているし、人が遠慮していいにくいことも言ってのける人なので、
土居ちゃんのいうことは正しいと思って素直に聞くようにしている。

 午後4時。録画しておいた『世にも奇妙な物語』を少しずつ見る。
 私のように50年にわたって、多くの本を読んできて、文章を仕事にしてきた男には、
このシリーズのオチに、驚くことはもうないけど、15〜17歳のいちばん感受性の研
ぎ澄まされた年齢の頃には、思い切りこの番組で「へ〜〜〜、そういうオチになるのか
あ!」と、驚いてほしいものだ。
 たまに驚かなかったふりをする若者がいるけど、もったいない。
 そんなやせ我慢は、何も生まない。

 午後6時。嫁と、近所の宮崎の郷土料理のお店「きばいやんせ」へ。
 霧島鶏の皮焼き、肉じゃが、ゴボウサラダ、シイタケのホイル焼き、カレーうどんな
ど…。
 ちょうど鹿児島放送の撮影クルーが、お店を取材していた。
「鹿児島だけの放送なんですが、テレビに写ってしまってかまいませんか?」というの
で、快諾する。
 鹿児島でテレビを見た人が「あれっ? あれってひょっとして、さくまサンじゃない
の?」と気づく人がひとりでもいたら、笑える。
 テレビに出るのは実は好きではないけど、こういう冗談で出るのは、とても大好き。
 日記にすら顔を見せない嫁も、写るかも。

 午後7時。帰宅。
 テレビ神奈川で「横浜VS中日」戦。
 きょうはひさびさに拙攻の連続。
 それでも4時間以上かけて、延長12回、引き分け。

 今シーズン、いつもの調子なら、あっさり負けたのに、延長12回まで粘れるように
なったのは、投手陣が整ってきた証拠。
 来年が、実に楽しみ。

 今夜は、読書。
 クールダウン、クールダウン…。

 

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