8月8日(金)

 台風10号が近づいている。
 天気図を見ても、巨大なのがよくわかる。
 すごいねえ。

 午前8時。昨夜、消えてしまった仕様書の原稿を推敲して、札幌に送る。
 思ったより気に入った文章になったので、わざわざ京都まで来た甲斐がある。
 もちろん、負け惜しみである。

 台風10号は、四国に豪雨をもたらしている。
 何だ。京都も近いじゃないか。
 外でセミが鳴いているから、まだまだ先のことと思っていた。

 そうと決まれば、夕方の東京行き新幹線のぞみを取っておいたけど、いまから帰る!
 そのとき、織田信長は湯漬けを一気に飲み干し、出陣を決めた!
「馬、引けいっ! 藤吉郎!」
 パカラッ! パカラッ! パカラッ!である。

 午前10時。京都駅へ!
 パカラッ! パカラッ! パカラッ!
 むあああっと、蒸し暑くて、とても台風が来るような風景ではないのだが、夕方、
ちゃんと新幹線が動く確証はない。

 在来線側の「みどりの窓口」で、乗車券の変更をしてもらう。

 またしても、夏休みのせいで、満員である。  2本後の乗車にする。  午前10時30分。伊勢丹B2で、「はつだ」の特選和牛弁当を買う。

 B1の「アンデルセン」へ。  ここはイートインのスペースがあって、食べられる。  クラブハウスサンドに、ビシソワーズ、コーヒー。

 何だか、やっとホッとする。  昨日からずっとあわただしい。

 午前11時9分。京都駅から、のぞみ10号に乗車。  くそっ。500系だった。  仕事をするには、揺れない700系のほうがいい。  VAIOを取り出して、札幌の開発スタッフが作成してくれたテスト・プレイの報告 を読みながら、返事を書き、仕様書を直す作業。  絶対信じてもらえないだろうが、17年間の『桃太郎電鉄』の歴史のなかで、札幌の 開発スタッフから、テスト・プレイの報告がこっちに届くのは、初めてである。  誰が悪いのか知らないが、17年間ずっと言い続けてきて、初めて実現したのである。  よくこんな状況で、ゲームをつくり続けてきたものだ。  ヤサカタクシーの宮本さんから電話が入った。 「さくまサン! もう新幹線に乗りはった?」 「ちょうどいま乗ってます!」 「そらよかった。京都が大雨なんで、京都駅まで送りにいこう思いまして!」 「えっ? 雨降ってなかったけど…」 「台風のせいで、すっごい雨ですよ!」  まさにタッチの差で、私は新幹線に乗り込んだようだ。  でも、ヤサカタクシーの宮本さんのやさしさって、たまらないよね。  1日で帰るから、宮本さんにはまったく連絡してなかったのに、私の日記を読んで、 ここまで想像力を働かせてくれるんだよ。  想像力だよ、想像力。  人間に大事なのは、想像力だよっ!  どこぞの会社に爪の垢でも煎じて飲ませてあげたいよ。  って、どこぞの会社って、いわなくもわかるわな。  私のまわりには、こういうやさしさを持った人たちが多いので、私は他人に対する見 方は厳しいのかもしれない。  大リーガーの目線で、甲子園球児を見てしまっているのかもしれない。  でも、やっぱりやさしい人に会いたいよ。やさしさを持った人たちに出会って、もっ と、もっと学びたいし、驚きたいよ。  やさしさのない人と会ってると、引き込まれちゃう。  だって、やさしさのない人は、みんな楽をするから。  誰だって、楽をしたい。  午後1時26分。東京駅に着く。  嫁がいるときは、私はまったくお金をつかわないので、たった1日ひとりで行動した だけで、あっさりお金が尽きた。はっはっは。  あんまり現金を持ち歩いていないのだ。  クレジットカードは、小箱のなかだし。  たまには、自分の通帳から、お金でも下ろすか。  …と思って、鞄のなかのキャッシュカードを取り出そうとして、ない!  キャッシュカードがない!  あっ! 前に、カードがあまりにも多いので、どんどんゴミ箱に捨ててしまったこと がある。あのときいっしょに!?  富士銀行のキャッシュカードだったから、どうせいらないんだろうと思ったのかもし れない。でも、みずほ銀行のキャッシュカードも持っていないような気がする。もとも と銀行には貯金しかしに行かないので、通帳くらいしか必要がない。  午後4時1分。東京駅から、横須賀線に乗車。  とりあえず、電車に乗って、鞄をひっくり返す。  ない! やっぱりない!  キャッシュカードは、どこにもない!  でも別にあわてていない。  紛失したとううより、私が捨てた可能性のほうが、高いからだ。  横須賀線でも、VAIOを広げて、お仕事。  前のVAIOをより、充電がよく持つね。  3時間くらいつかえるみたい。  その代わり、バッテリーの充電にも、3時間くらいかかるようになっちゃったけど。  午後2時55分。鎌倉駅で下車。  駅前のみずほ銀行に行く。  印鑑で、お金を下ろせることを思い出したのだ。  そのくらい銀行に縁がない。  閉店1分前だった。  すぐ外のシャッターが降り始めた。  いきなり何度も、窓口に呼ばれる。  キャッシュカードを無くしたことを、嫁にメールで伝えたら、さっさとキャッシュ カードを停止させてしまったのだ。  メールで、実は自分が捨ててしまったという長い文章を書く気がしなかったので、事 実だけ伝えていた。  窓口で、自宅の住所、電話番号を聞かれる。  最近、住所をいう機会も少ないし、自宅の電話番号なんか、忘れ始めている。  たどたどしく、住所、電話番号をいう。  ますます怪しいじゃないか!  ひとりで行動すると、本当に日々の生活は、すべて嫁まかせだということがよくわか る。感謝! 感謝! 「何か、本人であることを証明できるものは、ございますか?」  免許証を見せようとして、取り出したのは、横浜ベイスターズのファンクラブ会員証 である。キャッシュカードを捨てて、横浜ベイスターズの会員証を何年分も持ち歩いて いるなよなっ!  待っている間、テレビでは、台風10号の情報が流れている。  四国のマリンライナーが運休になってしまったのか。  大分県の佐伯(さいき)が、暴風域に。  不謹慎だけど、佐伯(さいき)=?駅と、すぐ思ってしまうよ!  しかし、本当にいい時間に京都を脱出したものだ。  夕方の新幹線だったら、帰れなかったかもしれない。  けっきょく、何度も、何度も、住所と、電話番号と、通帳の番号を書かされる。 「すみませんね〜、何度も、何度も!」と、銀行はいうけど、悪いのは私だ。  キャッシュカードを再発行する手続きもしてもらう。  へ〜〜〜、届くまでに10日もかかっちゃうの。  まあ、私はつかうことがないからいいや。  しかし、こういう紛失物の手続きをテキパキできる柴尾英令くんって、すごいねえ!  それだけ何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度 も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、い ろんなものを紛失しているんだろうねえ!  午後3時30分。悔しいので、トイレに行きたいので、疲れたので…という言い訳は 全部嘘で、「不二家」に行って、ショートケーキを食べる。はっはっは。 嫁がいない と何もできない!と感謝しておきながら、いないとすぐに「不二家」に行くのが、子ど もだよなあ!  年を取ると、だんだん子どもになってくるというのは、当たっているかも。  50歳過ぎたら、肩の荷が下りて、自然体になっちゃった。  イタリアンショートケーキが、品切れで、お土産用のショートケーキしかないといわ れる。  ひとりで、ホールケーキを食べちゃいけないだろうしなあ。  うへっ。お土産用のショートケーキは、ちっちゃい!  こんなの昔なら、ひとくちだよっ

 午後4時。鎌倉長谷の家に着く。  部屋が暑いので、エアコンをつけて、海を見に行く。  台風の影響なのかな。  いつもより白い波が多い。  水かさも増している。  水位が2メートル上がったら、長谷の家も床下浸水になりそうだ。  なかなか2メートルも上がらないらしいけどね。  10メートル上がると、世界の4分の1が、埋没しちゃうんだってね。  誰がそんな計算してるんだろう。 『桃太郎電鉄12〜西日本編もありまっせー!』のチューニングの直しを仕様書にする 作業の続き。  テスト・プレイも引き続き。  65年、66年、67年と『桃太郎電鉄12〜西日本編もありまっせー!』のテスト ・プレイは続いている。  まだ柴尾英令くん(COMキャラのあしゅら)、石川キンテツ(COMキャラのらい じん)と戦っている。  COMキャラを、あしゅらと、らいじんに格上げしてあげた。  とたんに忙しくなった。  進行系のカードの使い方が豪快になった。  こっちも、のんびりしていられなくなった。  午後7時。台風情報を見ながら、京都駅伊勢丹で買ってきた「はつだ」の特選和牛弁 当を食べる。  日本じゅう旅行しているので、台風の現地がちょっと映っただけで、「ああ、駅から 右に向かったところだ!」だとか、「あっ。後ろは玉藻(たまも)公園だ!」とわかる。  わかるだけに、素晴らしい景色を破壊しないでくれよ!と思う。  今夜は、ずっとテスト・プレイ。

 

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