7月25日(金)

 昨夜、うっかり寝る間際にDVDで『ミスタールーキー』を見てしまったので、夜更
かしになってしまったよ。

 長島一茂さんが、会社員のまま、覆面リリーフエースとなって、阪神タイガースを優
勝に導くという漫画のような設定。
 長島一茂さんは、本当に役者に向いているねえ。
「お父さんに比べて、一茂は…」という言い方が定着しているけど、長島一茂さんって、
すごいと思うよ。立教高校、立教大学で4番を打って、ちゃんとドラフト1位で、ヤク
ルトに入団しているんだから。
 甲子園球児の数を考えたら、プロ野球選手になれる確率なんて、東大に合格するより
難しい。
 親子2代、プロ野球選手だって、圧倒的に少ない。
 政治家なら、地盤を引き継げるけど、スポーツは実力のみだからね。
 おまけに引退してから、キャスター、役者として成功しているんだから、お父さんと
すっかり肩を並べていると思うなあ。

 ラスト・シーン近くでの、ランディ・バース選手の登場は、阪神タイガース・ファン
でなくても、うるうるするものがある。

 午前10時。嫁と、東京駅へ。
 そのまま長野新幹線に乗ろうとしたら、2本先まで、満席。
 しまった! 夏休みだあ!
 1時間後の新幹線を予約。がっくり〜!

 午前10時30分。「資生堂パーラー」の銀座カレーパンとコーヒーのセットで、胃
袋を満たす。

 かなり予定がくるった。  午前11時28分。東京駅から、あさま515号に乗車。  VAIOを開いて、あれこれ書類を眺めている間に、あっという間に、軽井沢に着い てしまった。東京から軽井沢まで1時間8分。本当に早い。  長野新幹線は、軽井沢と長野にしか停まらない新幹線を1日何本か走らせれば、「軽 井沢まで59分。長野まで90分!」というキャッチフレーズが作れるのに。  午後12時36分。軽井沢駅で下車。  そのまましなの鉄道に乗ろうとすると、次の電車は30分後。  うーーん。ほとんど30分に1本の電車だからな。  駅構内の喫茶店「フェルマータ」で、コーヒーを飲んで発車を待つ。  午後1時8分。軽井沢駅から、しなの鉄道に乗車。

 いまいちばん元気な第3セクターの鉄道路線だ。  いいねえ。年輪を感じさせる列車がホームで待っていた。  ローカル線なのに、3両編成は立派!  走り出した。  速いね!  第3セクターだから、のろのろ走るのが売りなのかと思った。  景色がいきなり山間部のものになった。  たしかに日本一標高の高い所を走る小海(こうみ)線と、交わる路線だから、この景 色は、当然か。  ほとんど『高原へいらっしゃい』に出てくる景色の連続。  午後1時32分。小諸(こもろ)駅で下車。

 思ったより、駅前に商店が多い。  小諸市は、人口4万人ちょっと。  古い城下町で、北国(ほっこく)街道の宿場町としても、栄えた。  小説家の島崎藤村ゆかりの地でもある。  駅のコインロッカーに、キャリーバッグを預けようとしたら、大型用がすべて埋まっ ていた。小型用には、ぎりぎり入らない。うーーーん。 「観光案内所」で、ほかにコインロッカーとか、一時預かり所はないかと尋ねると、 「ここに置いていいですよ!」とやさしいお言葉。  何だか申し訳ないけど、ご好意に甘える。  嫁と、古い商店街を歩く。  北国街道にぶつかるまで、ずっとゆるやかに登り道になっている。  ひそかに、しんどい。  曇り空なのに、じっとり汗ばむくらい、きつい勾配だ。  けっこう商店街は、シャッター商店街にならずに、がんばっている。  北国街道の交差点を左折して、古い町並みのほうへ。

 どの家にも、昔の写真や、古文書、銭箱、醤油の瓶などが並べてあって、書いてある 文字を見て行くだけでも楽しい。  骨董品屋さんも多い。

 旅館なども改築して、白壁の土蔵の町にしようとしている意識が、伝わってくる。ま だまだ徹底できていないようだけど、このまま整備が進んだら、いい町になりそうだ。 「塩川銃砲塗料店前」というバス停があったりして、風情がある。  でも、この塩川銃砲塗料店が見当たらず。  あれ。「日本ペイント」と書かれたお店が、塩川銃砲塗料店だったのか。古いまま残 しておいてほしかったなあ。

「ほんまち町家館」というのが、小諸(こもろ)の古い町並み保存地区の中心のようだ。 大きな味噌蔵、醤油蔵、六角形のお神輿などが、展示されていて、いい雰囲気。

 ただちょっと解説をしてくれるおじさんのしゃべるテンポが、ちょっと私には苦手。 悪い人ではないのだが、大きな声で、抑揚がないのは、ダメだしをしたくなる。流暢過 ぎて嫌味な人よりいいのだが。  小諸の町おこしは、努力のさまが伝わってきていい。  もうちょいだ!  惜しむらくは、食べ物だ。  古い町並みもいいけど、その町をもう一度訪れる動機は、絶対食べ物だと思う。 小 諸そば振興会ががんばっているようだけど、信州でお蕎麦だと、ほかの場所との差別化 がつかない。  何か、一品でも変わったものがあれば、小諸(こもろ)の町並みは、大いに栄えると 思う。町おこしの人たちが、伊勢のおかげ横丁に視察に行くといいんだけどなあ…。  次第に、雨雲が近づいてきた。  例によって、私が取材をしているときは、雨が降らない。  でもいまにも雨が降りそうだ。  取材は、ほぼ終了。  小諸城址である「懐古(かいこ)園」がまだ残っているけど、時間のほうが無くなっ てきた。  午後4時15分。「ここでおそば屋さんに入って、おそばを食べていたら、雨が降っ てきたりして…!」と言いながら、創業1808年の「丁子(ちょうじ)庵」へ。その まま時代劇のセットとしてつかえそうなほど立派な店構えだ。

 せっかくなので、おそばを食べる。  信州そば(ざる) 800円。  鴨の鉄板焼き   600円。 

 なかなかいい味。  鴨もおいしい。  もう一度、小諸に来ることでもあれば、ここに寄ると思うな。  さて、でかけるかと思ったら、急に激しい雨。  足止めを喰らう。  喰らうついでに、さっきからずっと気になっていた、魅力的な文字「おそばのソフト クリーム 280円」を注文する! へっへっへ。 「またソフトクリームですかい?」と、みなさんお思いでしょうが、私はソフトクリー ムがこの世で、いちばん好き!

 えっ! コーンにとぐろタイプじゃなくて、お皿の上に乗ってくるんだ。  楽しい趣向だね。  んんっ。これはおいしいぞ!  そば粉の味が、しっかりしている。  お蕎麦っぽい味ではなく、まさしくお蕎麦の味!  これは、うまい!  ちょっとメタルスライムを倒して、レベルアップしたときくらいの感動だ。  この「お蕎麦ソフト」を、古い町並みで盛大に売り出せばいいのに!  絶対売れるし、また食べに来たくなるぞ。  子供がこのお蕎麦ソフト食べたさに、休日に「小諸(こもろ)に行こうよ!」という はずだよ!  午後3時。「丁子庵」で、タクシーを呼んでもらう。  駅前に行ってもらって、預けていた鞄を受け取って、そのまま軽井沢方面へ。  きょうの本当の用事は、こっち。  軽井沢の西に位置する御代田(みよた)町というところに行く。  昨年、『亜麻色の髪の乙女』を歌う偽者が、村祭りに出没したというニュースは、み なさん覚えていると思う。おの偽者が現れた町が、この御代田(みよた)町なのだ。  あれから、もう1年。  実はきょう、これから御代田(みよた)町が、本物のヴィレッジ・シンガーズを呼ぶ のだ。  おもしろいでしょ?  そんなおもしろいライブを思いついたのは、もちろん『亜麻色の髪の乙女』の作曲者 である、すぎやまこういち先生である。  何しろ昨年、ヴィレッジ・シンガースの偽者がニュースで歌っている姿を見て、「音 は外していないし、上手い!」というような人だ。 「今年、本物が御代田町に行くっていうのは、おもしろいだろ、さくまクン! もし決 まったらいっしょに行こう!」とおっしゃっていたのだ。  私もこういうバカげたことは、大好きなので、二つ返事で「行きます! 絶対行きま す!」と、やってきたというわけだ。  元より、私は、GS(グループサウンズ)時代のレコードの98%を収集していると いうくらいのマニアなので、偽者がどうのというより、ヴィレッジ・シンガーズの再結 成というだけで、御代田町だろうと、北海道だろうと、行ったと思う。  ところが、御代田(みよた)町に向かうにつれて、雨足は早くなり、台風のときのよ うな激しさになって来た。  野外ライブだから、中止になってしまうのかなあ!  午後4時。いったん、会場の「竜神の杜公園」へ行くも、どしゃぶりの雨。  仕方が無いので、まずはホテルにチェックインしようと、「エクシブ軽井沢」へ。  ロビーが広い。  このホテルは、会員制のホテルで、すぎやまこういち先生ご夫妻に予約していただい た。今回のライブ関係者用らしい。  私は、ただのんきにヴィレッジ・シンガーズを見に来ただけだ。  あっ。しまった!  私は基本的に晴れ男なのだが、仕事モードで地方に行くと晴れるけど、遊び気分で行 くと雨が降るジンクスがあったことを思い出した。  この雨は、私のせい?  困ったなあ。晴れてほしい。  でも、ヴィレッジ・シンガーズはどう考えても、仕事じゃないしなあ。  ホテルに入ったものの、雨が激しくて、動けない。  雨がやむまで待とうと、私は仕事を始める。  午後5時になっても、雨はやむ気配無し。  午後6時。すぎやまこういち先生の奥様と連絡を取って、「竜神の杜公園」の脇にあ る公民館へ。  すぎやまこういち先生の控え室へお邪魔する。

 まだ雨は降り止まない。  そのうち、東京から「プティ・ポワン」の北岡さんご夫妻と、知り合いのご夫婦が到 着。  北岡さんも、もちろんGS(グループサウンズ)世代で、とくにヴィレッジ・シンガ ーズのファンだという。  昼間のカラオケ大会の審査委員長を務めた、元ワイルドワンズの鳥塚しげきサンも控 え室に。昨年、ヴィレッジ・シンガーズの偽者が務めた役だ。もちろん、本物の鳥塚し げきサンだ。  学生時代、生まれて初めて、生のコンサートを見たのが、ワイルドワンズだし、いち ばんコピーしたバンドが、鳥塚しげきサンがいたワイルドワンズだったので、感激。  すぎやまこういち先生ご夫妻のお手伝いをよくしている学生さんの右田くんも到着。 何だか控え室で、世間話モード。  午後7時。すぎやまこういち先生に「出番です!」の声がかかったので、私たちも 「竜神の杜公園」へ。  でも、雨はさらに激しさを増すばかり。  すり鉢状の芝生に、少しずつ雨がたまり始めている。  ステージというよりは、テントのなかで、町長さんの挨拶が始まる。  もう少しステージが高ければ、舞台が見えるんだけど、ステージの前には、雨にもか かわず集まったお客さんの傘がいっぱいで、ほとんど顔が見えず。

 町長さんの挨拶に続いて、すぎやまこういち先生の挨拶。  いよいよヴィレッジ・シンガーズの登場!  ちょっとここから私は、若い人の気持ちを無視して、話を進めるので、読み飛ばして ください!  40代以上のみなさん! しみじみなつかしい曲をバシバシッ書くので、しみじみ思 い出に浸ってください! 「♪あまいろのォ〜〜〜!」  いきなり、1曲目から、『亜麻色の髪の乙女』だ!  1曲目から、やっちゃうかあ! 『バラ色の雲』から、来ると思ったけどなあ!  いいなあ。なつかしいなあ。  いっしょに歌いだすと、まだ私は覚えていたよ、『亜麻色の髪の乙女』の歌詞を全部。  どうして、10代に歌った曲の歌詞って、30数年経ったいまも覚えているんだろう ねえ。数学の公式は、すっかり忘れても。  ドラムの入り方から、バックコーラスの入るタイミングまで、覚えているよ。  1曲目の『亜麻色の髪の乙女』を歌い終わったあとに「ボクたちが、本物のヴィレッ ジ・シンガーズです!」の挨拶に、大歓声。  わかっちゃいるけど、うれしい言葉だよね。  2曲目は、『虹の中のレモン』。うひょ〜! この曲、好きだったんだあ!  生で 聴けると思わなかったなあ…。  ヴォーカルの清水道夫さん、あいかわらずいい声してるなあ…。  ヴィレッジ・シンガーズがすごいのは、全部で20曲歌ったのに、自分たちのオリジ ナル曲は、たった4曲しか歌わなかったこと。  あとは、ビージーズの『マサチューセッツ』とか、レターメンの『涙のくちづけ』、 エンゲルベルト・フンパーディンクの『愛の花咲く時』とか、クリーデンス・クリア・ ウォーター・リバイバルの『プラウド・メアリー』といった、いまでも自動車のCMで 流れているようなスタンダード・ナンバーを歌うじゃありませんか!  入場料無料なんだし、ヴィレッジ・シンガーズのオリジナル曲だけ演奏して帰ったっ て、誰も文句言わないのに。  少しでも、多くのお客さんに楽しんでもらいというサービス精神は、やっぱり古い芸 能界の人たちならではだな。  お客さんたちは、けっきょく座席もないまま、傘を差して立ったまま聴くことに。途 中から、立っていてつらいから帰るお客さんが続出すると思われたけど、最後までお客 さんは増える一方。  野外ライブというのは、こういう悪天候のほうが盛り上がるし、一生忘れないコンサ ートになるからいいんだなあ。  演奏だけの『涙のギター』、『ワイプ・アウト』もよかったよ〜〜〜!  あとどんな曲があったっけなあ。  曲順が書かれたシートをもらってくればよかった!  最後の曲が、『バラ色の雲』!  アンコールでは、カラオケの審査委員長を務めた鳥塚しげきサンが登場して、ヴィレ ッジ・シンガーズをバックに、『思い出の渚』を歌ってくれた! 『思い出の渚』は、イントロが12弦ギターから、始まるのは、40代以上の人はみん な知ってるよね。あの曲が弾きたくて、うちの親を騙して、12弦ギター買ってもらっ たんだよ〜! どうしても学校の音楽の時間に12弦ギターが必要だって! 親が私の 同級生が問いただすのは予測できていたから、友人にはちゃんと「ええ! 音楽の時間 に必要なんです!」と練習させておいたからね。  私が人生のなかで、いちばん何回も弾いた曲が、この『思い出の渚』で、いちばん模 写した自動車が、ニッサン・シルビアで、いちばんいたずら描きしたのが、『鉄人28 号』だ!!  最後に「この曲は、もう御代田(みよた)町の曲と言ってもいいと思います!」と いって、もう一度、『亜麻色の髪の乙女』を歌いだした。

 もう、最高に、し・あ・わ・せ!  午後9時。ライブ終了。  嫁と、「エクシブ軽井沢」へ。  ホテルのルーム・サービスで、カレーでも食べようと思ったら、ルーム・サービスは やっていないと、言われる。が〜〜〜ん! 腹減ったあ!  すると、ロビーにいたのが、「プティ・ポワン」の北岡さんご夫妻と、知り合いの方。 「いまから、このホテルのフランス料理を食べに行こうと思うんだけど、いっしょに行 きませんか?」と誘ってくれるではないか! 「まさか、このホテルの料理長も北岡さんの知り合いだったりして?」 「うん。恵比寿のタイユバン・ロブションにいた相馬さんが、ここに移ったんですよ!」

「まったくもう!」  北岡さんって、本当にきさくで素晴らしくて、いまだに携帯電話がちゃんとつかえな くて奥様を困らす人なんだけど、京都ホテルの料理長だろうが、全日空ホテルクレメン ト高松の料理長だろうが、日本じゅうの名料理長さんは、みんな知り合いなんだよ〜〜〜。  だいたいさあ、「恵比寿のタイユバン・ロブション」と聞いただけで、びびる人がい るのにね〜。 「クマハッツァン」というから、誰のことだと思ったら、熊谷喜八さんのことだったり するのですよ、みなさん。  井沢どんすけには、「熊谷喜八さん」といっても、「映画監督ですか?」と言われそ うだけど。それは「岡本喜八さん」! 『美味しんぼ』の海原雄山みたいな人は、本当に実在するのだよ。  北岡さんは、海原雄山みたいにえらそうにすることがまったくないけど。  そんなわけで、午後9時でもうお店は終了だというのに、北岡さんご夫妻と、北岡さ んのなかよしのご夫妻の食事に、ごいっしょさせていただいてしまった。 ほんとに、 いたれりつくせりな1日でごわすよ!  このうれしさをどう表現したら、よかですたい。  信州牛フィレ肉のグリエ トリュフ風味ソースとか、オマール海老とか、食べまくっ ちゃったですよ、ふんとに! ふんふん。  デザートも、たくさんいただいちゃったよ〜! おいしかったよ〜!

 午後11時。お腹がはちきれそうだよ! くるしい!  ホテルの部屋に戻るのに、ゆっくり、ゆっくり、「く」の字の姿勢のまま歩かないと たどりつけないくらい食べ過ぎた。  わずか1日の出来事なのに、旅行3日目くらいの密度だ。  バタンキュー!  まだ外は、雨。 「♪亜麻色の〜、長い髪を〜、♪バラ色の雲と〜 思い出を抱いて〜、♪君をみつけ た〜、この渚で〜!」  いつまでも、青春時代の曲が、頭のなかでずっと演奏中!  幸せな男だ、私は!

 

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