3月28日(金)

 午前11時30分。嫁と、歩いて麩屋町夷川の「はふう」へ。
 そろそろおいしいお肉が食べたい気分になって来たようで、「はふう」のステ
ーキ丼と、カツサンド。

 このお店のお肉は、口にほうばったとたん「ぬほほほほ…」と、笑いがこみあ げるような柔らかさと、肉汁のジューシーさだ!  ステーキ丼を半分食べて、嫁のカツサンドと交換。  カツサンドは、パンの部分までおいしい。  デミタスコーヒーも、実にうまい。  食後、お肉を食べて、すっかりご機嫌の私は、嫁の「御所まで歩いてみる?」 に、ホイホイと乗る。  調子に乗ってはいけなかった。  午後12時。京都御所へ。

 京都はまだ桜の咲き始めなのだが、京都御所にはすでに満開の枝垂(しだれ) 桜があるというので、来てみた。  でも、地図を見ると、御所の最北端であった、桜のある場所は。  ええい、ここまで来たら、ままよ!と、歩き出す。  しかし、御所は、足の不自由な私、最大の敵である砂利道のオンパレードだ。  ザックザックッザック…。  ふい〜〜〜、早くもつらい。  おお! いきなりもう桜が1本咲いていたぞ。

 ザックザックッザック…。  ザックザックッザック…。  砂利道を行く。  ザックザックッザック…。  ザックザックッザック…。  京都御所には、梅林と桃林もある。  ザックザックッザック…。  ザックザックッザック…。  梅はそろそろ終わりだけれど、それでもまだ何本かは咲いていた。  桃を愛でるより、足のじんじん!の度合いのほうが、問題になって来た。

 ザックザックッザック…。  ザックザックッザック…。  京都御所は、東西700メートル、南北1300メートルの広さなのだよ。面 積にして、65ヘクタールだって。想像がつかない。  その1300メートルをほうを歩いているわけね。  しかも、長方形の土地を「C」の字に北上しているわけだから、2キロメート ル近くを歩いていることになる。

 ザックザックッザック…。  ズズッズズッ…。  つま先が上がらなくて、砂利を蹴飛ばすことが増えて来た。  おお! あそこに見えるのは、桜なり。  ザックザックッザック…。  ズズッズズッ…。  最後の力を振り絞る。  ついに努力する者には、幸せが!  見事な枝垂桜だ。

 でも、もう歩けない。  ハアハア…。 ハアハア…。  ベンチに腰掛けて、桜を眺める。  すでに午後1時だ。京都御所の南門から、ここまで1時間もかかってしまった。 途中、桃のところで、けっこう長いこと、ピットインしてしまったからなあ…。 「桜の前で、日記用の写真撮る?」 「ダメ…。へとへとの顔しか出来ない。微笑むことが出来ない…」

 この枝垂桜は、近衛邸址として、桜マニアに名前がとどろいているようで、カ メラを持った人たちが、多数押しかけていた。  テレビの撮影隊も来ているが、どの局か確認する気力もない。  近衛池に枝垂れる桜もきれいだ。

 ああ! またこうして、桜の季節が来たなあ…。  8年前に病気してから、桜を見る余裕のないような生活はもうやめようと言っ て、仕事量をセーブするようになった。  おかげで、こうして毎年、桜を見ることができるようになった。  幸せなことだ。  京都御所の今出川門から出たところで、体力ゼロ。  このまま大阪に向かう予定を中止して、タクシーを拾って、自宅へ。  午後1時30分。マンションに戻って、ベッドにひっくり返る。  仮眠するために戻ったのに、疲労しすぎて、眠れない。  高校野球のテレビ中継を耳で聞きながら、5〜6分は、寝たようだ。  午後3時24分。嫁と、京都駅から、ひかり103号に乗って、大阪へ。  春休みで、自由席は超満員。  デッキで、立ったまま行くことに。  午後3時36分。新大阪駅へ。  駅前のタクシー乗り場に向かうところで、読売広告の岩崎誠から電話が入る。 「いま、梅田駅に着きました。これから毎日放送に向かいます!」。  おお! 向こうのほうが、ちょっと早かったな。  午後4時。茶屋町の毎日放送に到着。  岩崎誠に電話する。 「岩崎〜! いまどの辺?」 「今ですか。阪神百貨店の前です!」 「あれ? さっき梅田駅で、何でまだ阪神百貨店の前なんだよ! ああっ! 岩 崎! また阪神百貨店の阪神タイガース・グッズ屋に行ったなあ!」 「えへへへ…!」  岩崎誠の阪神好きは、尋常ではない。  まず岩崎家は、親子3代、月島という、江戸っ子としてはサラブレットの家に 生まれたにもかかわらず、阪神ファンというのが、変だ。  しかも岩崎家は、みな巨人ファンというのだから、岩崎誠は異端児中の異端児 だ。  それだけに、阪神ファンになり方も、尋常でない。  禁断の恋ほど、燃え上がるようなものか?  ただでさえ、きょうはプロ野球の開幕戦だ。  相当ドキドキしているのだろう。  私だって、新生・横浜ベイスターズの立ち上がりは気になる。  午後4時15分。毎日放送1Fの喫茶ルームで、岩崎誠と待ち合わせ。 「前回、あれだけ阪神グッズ買ったのに、何、まだ買いもらしてたの?」 「阪神百貨店オリジナルTシャツを買ってなかったんで…」  わかるなあ。野球馬鹿の気持ちが…。  私なんぞ、「ベイスターズ・ショップ」で、もう買うものすらない。全部買っ てしまっているからだ。  午後4時30分。毎日放送の中井保さんと、放送作家の小林仁くんが到着。  この間から、二度目の毎日放送である。  何かをしようとしているのか、さすがにこの日記を読んでいる人にも、想像し やすくなって来ていると思う。

 あれこれ、小林仁くんにお願いして、あとは雑談。  それでも電波媒体というのは、なかなかゲタを履くまでわからないものだか ら、あまり期待せずに、続報をお楽しみに。  午後6時30分。中井保さんも、小林仁くんも、夜の予定が入っているという ので、私、嫁、岩崎誠の3人で、どこかで食事をしていこうと、毎日放送を出る と…、なんとそこには、プロ野球・阪神対横浜戦の開幕試合を、特設ステージを 作って、放送しているではないか!  岩崎誠は、熱狂的な阪神ファン。  私は、熱狂的な横浜ベイスターズ・ファン。  呉越同舟だが、見るしかない!

「トラッキーだあ!」  岩崎誠が、阪神タイガースのマスコット着ぐるみ、トラッキーがいるのを見つ けて、昂奮して、寄って行く!  あれあれ! 携帯電話のカメラで、無理やりツーショットを撮ってもらって、 喜んでいるぞ。  とても、40歳の男のする所業ではない。  2回表。横浜ベイスターズは、走者、一塁、二塁のピ〜〜〜ンチ!  がんばれ! 吉見投手!  ふうっ! なんとか2回表を、0点に抑えたぞ!  2回裏。 「岩崎誠〜、悪いが、オーラを送らせていただくぞ〜! 届け、私の応援オーラ よ、横浜球場まで〜〜〜!」 「うわ〜〜〜、嫌だなあ」と、岩崎誠。  すると、まんまと、T・ウッズが四球を選び、続く小川選手の当たりは、一塁 ゴロ。しかし、井川投手と、檜山一塁手が交差。記録はヒットで、ノーアウト一 塁、二塁。  ここでいつもなら、「よっしゃあ!」と雄叫びをあげるところだが、なにしろ ここは阪神ファンしかいない大阪だ。  口を「へ」の字にしながら、眼だけ微笑む。  あ〜、古木克明選手が、三振。  期待の和製大砲も、プロ入り5年目で、初めて開幕1軍、開幕先発出場だから ね。かわいそうなくらい顔が強張(こわば)っている。  うひょ! 昨年まったくダメだった金城選手が、タイムリー・ヒット!  横浜ベイスターズが先制点だ! 「あ〜、あ〜、さくまサンのオーラが本当に飛んでるよ!」 「うふふのふ…」  右手で、小さくガッツポーズ。  中島捕手は、一塁ゴロ! 走者は、三本間でタッチ・アウト!  2死一塁、三塁だ。  岩崎誠が、次の打者が吉見投手なので、ちょっと微笑む。 「悪いけど、岩崎誠! 吉見投手の昨年のバッティングは、金城選手よりも確実 性があるといいわれたくらい、強打者だよ!」 「ええ〜〜〜、嫌だなあ…」  さっきは、阪神のチャンスで、井川投手のために0点で終わったのを、岩崎誠 は、横浜ベイスターズにも期待していたようだ。

 ほら、打った! 吉見投手、三遊間を破る、タイムリー・ヒット!  ああ! もう人目をはばからず、ガッツ・ポーズだ!  うひょひょひょひょ!  この調子だと、試合終了までここを動けなくなるので、後ろ髪を引かれつつ、 阪急地下のグルメ街へ。  午後7時。B2の串かつ料理専門店「活(かつ)」へ。  地上でどこからか匂ってきたソースに誘われて、急に串かつが食べたくなった。  次々に串かつが出てきて、ストップをかけるまでいろんな串かつが食べられる 方式は、東京でもおなじみだ。

 でもソースの種類が、5種類もある方式は初めて。  マスタード、ポン酢、塩など、ソースだけではない。  さすが、串かつの本場、大阪だ。  実においしい。  牛かつ、シイタケかつは、わかるが、りんごまでかつで出てきた。  偶然見つけて入ったお店だけど、ちょっとこのお店はキープだな。  梅田駅の近くで、食事をする機会は多い。  午後8時。「じゃあ、岩崎誠、私と嫁は、この上の阪急電車で、京都に戻るか ら…」 「じゃあ、ボクは、戻って…」 「えっ? 戻ってって、これから新幹線で東京に帰るんだろ?」 「ええ。最終ののぞみ号を取ってあるので、8時30分過ぎまで、毎日放送の前 の特設テレビで、阪神ー横浜戦を見て行こうかと思って…」 「うわあ! 本当に濃い阪神ファンだなあ…」  午後8時15分。阪急梅田駅から、京都河原町行き特急列車へ。  iモードのベイスターズ情報で、3対2と接戦なのを知る。  携帯電話に、岩崎誠から、ワンアウトで、救援デニー投手との報告が入る。  岩崎誠、本当に、毎日放送まで戻って、中継見ているよ!  午後8時45分。四条大宮駅で下車。  タクシーに乗り、iモードでベイスターズ情報を見る。 「やった! 1点入った!」 「わっ! びっくりした!」と、タクシーの運転手さん。 「あっ、すみません!」  いかん、いかん。運転手さんを驚かせてしまった。  岩崎誠は、野球馬鹿だが、私も野球馬鹿だ。  午後9時。帰宅。  しばらくして、横浜が4−2で、逃げ切ったことを知る。  あ〜〜〜、よかったあ…。  去年は開幕から、5連敗だったからなあ…。  今年は、明るい横浜ベイスターズを見ることができそうだ。  それにしても、岩崎誠がきょう、日帰りで東京に戻るのは、明日、横浜球場ま で阪神の試合を見に行くためだというのだから、恐れ入る。  馬鹿の上には、馬鹿がいくらでもいるものだ。

 

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