9月1日(日)

 午前5時に起きて、昨日の日記を書き上げる。
 旅先のことが書きたくて、日記を始めたのに、旅行中は疲労が激しく、日記を
書くのが、つらい。
 でも一度でも、締め切りを守らず「作者急病のため」という嘘をついた作家
は、その後も、二度、三度と、締め切りを破ることを知っている私は、書き続け
るしかない。

 午前7時。二度寝。

 午前10時30分。家族3人で、御池地下街の「カスカード」へ。
 もはや恒例のモルトくるみパンを買いにいく。
 
 午前11時。土居ちゃん(土居孝幸)、柴尾英令くんが泊まる京都ロイヤルホ
テルへ。早いな。もうふたりともチェックアウトをすませていた。

 午前11時30分。一条通り御前の「おひるや豆魂(とうこん)」へ。
 えっ!? 7月、8月中は、お休み?
 何てこったい。

 幸いなことに、近くの系列店「豆腐カフェ」のほうで、「おひるや豆魂(とう
こん)」の豆腐料理が食べられるというので、そっちまで歩く。
 北野天満宮の西だ。
 おなじ料理が食べられるなら、こっちのほうが広くて、店内も「スターバック
ス・コーヒー」風で、気持ちがいい。
 納豆嫌いな柴尾英令くんが、豆腐料理に納豆が出ないかということを、しきり 心配していたが、出なくてよかった。  たまに、黒豆納豆が、4〜5粒出たことはあった。  しかし、柴尾英令くんの納豆否定論というのは、日蓮の『立正安国論』並みに 素晴らしい。 「納豆なんてものを食べる人間は、1%にも満たないんですよ!」 「ええっ? 何で1%なの?」 「だって、世界の人口を63億人として、そのうち日本の人口が、約1億人。 1億人のうち、半分しか納豆なんて食べないわけですから、5000万人。納豆 を食べる人間は、わずか、0.07%ですよ!」 「日本人以外を人数に加えるなっ!」  午後12時30分。京都駅へ。  うちの娘は、ひとりで東京に戻る。  ふつうなら「かわいい子には旅をさせろ!」の場面だが、うちの娘は、特に名 を秘す京都「M」の料理を食べたら、さっさと帰ったという言い方のほうが、ふ さわしい。  午後12時47分。京都駅から、私、嫁、土居ちゃん、柴尾英令くんの4人は、 ひかり119号に乗車。岡山をめざす。  新幹線のニュース速報でも、高知県が大雨で、住民が避難したとか言っている。  京都を出たときは、晴れていたんだけど、岡山に近づくにつれて、空が曇って きた。 「さくまサンが、仕事モードに入らないと、雨が降ってきそうですよ!」と、土 居ちゃん。 「さすがに、すでに大雨な場所までは晴らす力ないよ!」  私は、本当に仕事で行くと、必ずピーカンになる「晴れ男」と呼ばれている。  でもその「晴れ男」も、遊びの気持ちのほうが強いときに行くと、雨が降った り、豪雨に巻き込まれるので、有名だ。  四国地方が、すでに豪雨ということは、ますます私の頭から、仕事気分が薄れ ているということではないか!  実は、あながち嘘ではない。  京都を出てから、ずっと『桃太郎電鉄12(仮)〜地方編』のアイデアを考え ているんだけど、ちっともアイデアが出ない。 「きょうは無理だ。出ないや!」と、トイレに立ったら、本当に雨が降って来た。  単なる偶然と思うのだが、あまりにもこのジンクスが一致すると、気持ち悪い。  午後1時57分。岡山駅着。  岡山駅構内で、いつも売り切れの表示が出ている幻の駅弁「桃太郎電鉄まつり ずし」を探す!  おお! あった!  ついにあった!  あと2個しかない!  満腹なんだけけど、とにかく買う。  本当に売れていたんだ!  わざと「売り切れ中」の札を出していただけなのかと思っていた。  鉄道マニアでも手に入らないことで話題になっているということが、話題にな ればなるほど、本当は売っていないのかあと思う気持ちのほうが強くなってい た。  午後2時11分。快速マリンライナー35号に乗車。  さっそくみんなで「桃太郎電鉄まつりずし」を試食してみる。  ふむふむ。  おお! このお弁当のもとになった「祭りずし」自体が美味しいことでも有名 だが、子ども向けに作っているせいか、「祭りずし」よりも酢が薄い感じで、美 味しかった。  身びいきかもしれないけれど…。  これは自信を持ってみなさんに勧められますぞ!  ぜひとも、岡山駅にお寄りの節は、「桃太郎電鉄まつりずし」をお買い求めく だされ!
 さて、のんびり寝ながら、高松に向かってもいいのだが、みんなで仕事をした ほうが、晴れるかもしれないとリクエストが出たので、座席をひっくり返して、 アイデア会議。
「『桃太郎電鉄』なんだから、うんち怪獣みたいなの出したいですね!」と、柴 尾英令くん。 「また、うんちかい!」 「こういう攻撃方法なのかな?」と、土居ちゃん。 「いや、こういうほうがいいだろう!」と、つい、つられる私。 「こういう演出はどうです?」と、柴尾英令くん。  平均年齢45歳のおっさんたちが、「うんち怪獣」という言葉をキーワードに 延々議論する様は異様である。  でも、これが私たちの仕事だ。    ついには「うんち怪獣ポトリン」という名前までついて、大爆笑。  あくまでもアイデア段階だから、早く登場したとしても、3年後だ。  その頃には、この名前をみんなは忘れているだろう。  だから平気で、ここに名前書けちゃうんだけど。 「うんち怪獣ポトリン」に笑いこけていると、外の景色が明るくなってきた。 
 トンネルを抜けたのではない。  晴れ間が出てきたのだ。  まだ地面が濡れているのだから、先ほどまで雨が降っていたのだろう。 「さくまサンが仕事すると、本当に晴れてくるなあ!」と土居ちゃん。 「偶然にしても気持ち悪い!」  鬼無駅が近づいてきたので、必死に「桃太郎電鉄石像」を見ようとするが、さ すが快速マリンライナー、あっというまに通り過ぎてしまった。  午後3時8分。高松駅着。  駅構内のコンビニに寄ったのち、全日空ホテルクレメント高松に向かう。  ホテルに近づくと、読売広告の岩崎誠が向こうから笑いながらやってくる。 「本当にさくまサンが来ると晴れちゃうんだもん。すごいなあ!」 「仕事しただけなんだけどなあ!」 「本当にさっきまで、豪雨だったんですよ!」 「へ〜、そうなんだあ!」  部屋に荷物を置いたのち、ホテル1Fの喫茶店で、10月から始まるTV番組 『桃いろ』の打ち合わせ。  高松のおもしろい風習やら、おもしろい食べ物を、岩崎誠に紹介して、岩崎誠 が私たちのデータを元に、番組企画を考えていく。  明日、明後日のスケジュールを検討する。  岩崎誠が、明後日、朝起きたら、すぐ飛行機で帰らないといけないことが判明 した。  ってことは、岩崎誠の実質の時間は、明日1日だけである。  ところが、明日は朝からびっしり、人に会い、石像を見に行って、TV番組用 のロケハンまでしないといけない。 「じゃあ、岩崎誠は、65円のさぬきうどんを食べる時間ないじゃない!」と私。 「ええ〜〜〜っ! 今回のロケハンで、絶対食べるつもりで来たのに〜!」  この「65円のさぬきうどん」という名前で定着しているうどんとは、今年の 3月31日の「桃太郎電鉄石像」のときに行った、うどん屋さんのことだ。  もともと、今回のTV番組企画も、私が岩崎誠に、この「65円のさぬきうど ん」を話したことが、きっかけでスタートしている。 「本当に食べられないんですかあ!」と、岩崎誠が淋しそうな顔をする。 「だって、午前10時50分〜11時40分までの50分間と、午後4時40分 〜午後5時までのわずか20分間。合計1日70分間しか営業しないんだよ!」 「ええっ? 明日はどうやっても時間がないよ〜!」 「残る道はただひとつ!」 「なんですか?」 「きょう行ってみる!」 「ええっ!」 「さくまサン、きょうは日曜日ですよ! やっているんですか?」と、柴尾英令 くん。 「私の資料では、年中無休ということになっている!」  ガイドブックや、インターネットの情報で、いちばんいいかげんなのは、定休 日と営業時間だ。さぬきうどんに限らず、飲食店はけっこう頻繁に営業時間と定 休日を変える。 「電話番号は?」と柴尾英令くん。 「65円のさぬきうどんを売るお店に、電話番号などない!」と、私。 「店の名前は?」 「池上製麺所とはいっているけど、俗称で、お店の名前はない!」 「住所は?」 「住所は、調べてきた!」 「行けばわかりますか?」 「鬼無駅と高松駅の間ということしか、わからん!」  それでも「65円のさぬきうどん」を探し求めて向かうのであった。 「岩崎誠〜! 期待しないでね〜! きょうは日曜日だから〜!」 「うーーーん!」と岩崎誠は、不服そう。  柴尾英令くんが「岩崎さん、このチームは、美味しい物を食べに行って、休業 だと、榎本(48歳)さんみたいと言われ続けますよ!」 「え〜〜〜、それは嫌だなあ!」  タクシーの運転手さんも案の定、池上製麺所といっても、まったく知らない。  知らないはずだよ。お店の名前がないんだもん。 「鶴市(つるいち)は、この辺ですよ!」と、運転手さん。 「もう少し進んでください。たしかスーパーみたいなのがあったんだけど…」 「何ていう名前のスーパーですか?」 「マルなんとかって、いってたなあ。マルナカだったか…?」 「あれですか?」 「あっ、あれだ、あれだ! いや違う! 駐車場がない!」 「もう少し行ってみますか?」 「はい! あっ! ここだ! ここを斜めに入ってください!」  午後4時45分。見事なまでに、午後4時40分〜午後5時までの20分間の 営業時間に着いた!
「お店やってる?」  みんなでおそるおそる覗いてみる。 「店は開いているけど…やっているかは…」 「たぶん、やっていると思う!」  帰り道にタクシーなど拾える場所ではないので、運転手さんに待っていてもら う。  やった! 開いてた!  伝説のおばあちゃんが、大きな釜で麺を茹でている。  また食べに来ることができた!
 柴尾英令くんなど、3月31日にここで「65円のさぬきうどん」を食べて以 来、何10回「もう一度食べたい!」と言い続けていたかしれないほどだ。  美味しい物は、値段じゃないね、味だよ!  65円のうどんに、30円の生卵で、95円。  ネギを入れて、生卵を溶いて、ずるずるずるずるッ!
「うわあ! この味! また食べることができて、幸せだあ!」と、私。  昨年からずっと、高松に来て、10軒以上のお店で、さぬきうどんを食べてき たけど、やっぱりここの味が、いちばんだなあ!  2番目が、「あたりや」。  3番目は「山越」かな?  FMマリノの酒井秀樹くんにごちそうになった「松下」も捨てがたいなあ。  岩崎誠が、感動している。 「ボクは、どちらかというと、やわらかめの麺が好きだから、ここは本当に美味 しいですねえ!」 「だったら、『あたりや』行くよりも、よかったね!」  でもよく考えると、岩崎誠はいま、悲劇を味わっているのかも。  うちの家族が初めてちゃんとしたフランス料理を食べたのが「プティ・ポワン」 だったように、岩崎誠も、さぬきうどんをこの池上製麺所から食べてしまった。  これから何軒食べても、池上製麺所のほうが美味しいと苦悶の日々を送ること になるだろう。  つい先日、漫画家のいしかわじゅんサンもこの池上製麺所を訪れて、すっかり さぬきうどんブームが始まってしまったようだ。いしかわじゅんサンもまた悲劇 の人だ。
 午後5時30分。日本一長い商店街と呼ばれている丸亀商店街へ。  このアーケードをつかって、番組を作るかもしれないので、取材して回る。
 岩崎誠は、ハンディカメラで、気になるお店を見つけると、熱心にビデオをま わしている。  広告代理店の人間はいいかげんな男が多いイメージだけど、岩崎誠は予想以上 に真面目である。予想以上ということは、もっと不真面目だと思っていたのかと いわれそうだが、その通りである。わっはっはっは。
 アーケードで、私が洋服を買ったり、絶品の鳴門金時をつかった「芋きんつば」 を食べたりしながら、商店街を歩き通す。
 さすがに暑い。  雨があがったばかりなので、湿気も高い。  午後6時。高松駅の喫茶店「ステラおばさんのクッキー」に着く頃には、もう みんなへとへと。よく歩きました、働きました。
 午後6時30分。全日空ホテルクレメント高松2Fの「おばんざい」へ。  みんな疲れているので、日曜日でお休みの多い町に繰り出す気力がなく、ホテ ルで食べることにした。  明石のたこを石焼きにして、梅酢で食べるのが、美味しかった。  明石もおなじ瀬戸内海だ。  午後8時。私は、部屋に戻って、ばたんキューと行きたいところだが、TVを つけると魅力的な番組だらけ!  横浜ベイスターズの負けを見届け、ザ・ビーチボーイズのブライアン・ウィル ソンのドキュメント番組を衛星放送でやっていて、NHK教育テレビなのかなあ?  松尾芭蕉の忍者説を追いかける番組をやっていた。もちろん同時間帯ではNH Kで『利家とまつ』をやっている。  東京の家で見ていたら、1階と2階のビデオ内臓テレビをフル回転させて録画 したことだろう。  作家の田中康夫さんが、長野県知事に再選された。  県議会の決定は間違っていると、県民は判断したわけだ。  この判断は本当は間違っているかもしれないけれど、長野県民が密室政治の言 いなりにならなかったという点では、快挙だと思う。 「改ざん」「偽装」「隠蔽(いんぺい)」…。  この国はひどいことをし続けている。  今はその膿を出し尽くす時期なのかもしれない。  早く寝ないと、明日は1日びっしり仕事だ。
 
さくまNEWS

●9月21日(土)午後7時開演 浜離宮朝日ホール(築地)全席指定6000円
アマデウス・アンサンブル東京--バッハを弾くよろこび、聴くたのしみ--」


※業界の方で鑑賞希望の方は、うちの嫁まで、9月10日(火)までにご連絡ください。
 メールはこちら→sakumacb@za2.so-net.ne.jp

-(c)2002/SAKUMA-