7月27日(土)

 井沢どんすけ、ストロウ・ドッグスのすとろう小泉くんと石川キンテツくんの
3人による、『桃太郎電鉄11(仮)』15年モード対決は、午前5時まで続い
たそうだ。

 結果は、井沢どんすけの大勝利!
 な、な、なんたる驚天動地!
 あの井沢どんすけが勝利するとは!

「ストロウ・ドッグスのふたり! テスト・プレイヤー志願で来てくれたのは、
うれしいけど、井沢どんすけに負けるようじゃ、失格だよ!」
「す、す、すみません!」
「このままじゃ、福本リーグに落ちてもらうしかないよ!」
「えっ? 何ですか、福本リーグというのは?」
「日本一、自分は『桃鉄』がうまいと思い込んでいて、作者の私が頭を抱え込む
くらい、下手ぴいな、放送作家の福本岳史(福ちゃん)くんのリーグだ!」
「そのリーグは、何人ぐらいいるんですか?」
「福ちゃん、ただひとりだ!」

 午前10時。菅沼真理(通称:すがねまチャン)さんが到着。
 以前、よくわからず終いだった、鎌倉ケーブルのLAN接続の再チャレンジに
わざわざ来てくれた。ありがと!
 すがねまチャンが、チャレンジしている間、井沢どんすけと、ストロウ・ドッ グスのふたりが、「桃鉄公式戦」で対決!  朝起きてからも、外を散歩するでもなく、胡麻だれそうめんをさっさと食べ て、プレイステーション2に向かう若者たちであった。  目の前には、ぎらぎら照りつける海辺が待っているというのに…。  ゲーム・スタート!  またしても井沢どんすけが幸先きよく、目的地に入る。 「ストロウ・ドッグス! 何をしている! 進退伺いだぞ!」 「井沢さん! 強いですよ!」  その後も、井沢どんすけ、独走!  とうとうそのまま、首位でゴールしてしてしまった! オ〜・マイ・ガッ! 「えへえへえへっ!」  勝ち誇る、井沢どんすけであった。  どうも最近、井沢どんすけは、他人が何のカードを持っているか気にするよう になってしまったのだ。これは由々しきことだ。  かつて、クリスマスカードを持っていたのに、12月に3年連続で使い忘れた 男とは、思えない進歩である。 「井沢どんすけ! 『桃鉄』上手くなったら、君の役目は終わりなんだから!  長いことお疲れ様!」 「そ、そ、そんなあ!」 「長いこと、ご愛読ありがとうございました!」 「ひ〜〜〜!」 「さくまサン! もう一度やらせてくださいよ!」と、ストロウ・ドッグスのす とろう小泉くんが叫ぶ! 「このままでは、ちょっと終われないんで!」  石川キンテツくんもうなずく。  石川キンテツくんは、今回ゲームボーイ版の『桃太郎電鉄』を2個も持ってき たぐらいの『桃太郎電鉄』好きだ! 「僕は、99年を3年ぐらいやって、えんまとかにも勝ってるんすけど、人間と 対決すると、全然違いますね!」 「基本的に、コンピュータは人間よりも強くてはいけない!というのが、私の思 想でね! 人間は驚くほど、強いよ!」  午後12時。「桃鉄公式戦」第2回戦開始!  メンバーは、井沢どんすけ、ストロウ・ドッグスのふたり、そして私。  井沢どんすけが、そわそわしている。 「井沢! どうしたんだ?」 「いえ。さくまサンがいると、どうも何されるかわからないんで、気が気じゃな いんですよ!」 「そうか。じゃあ、次、目的地入ってみるか、ほれ!」 「うぎゃあ! 入った〜〜〜!」  別に私は、ズルをしているわけではないのだが、集中力が増してくると、だい たい目的地に入れてしまう。むろん。6マス以内の話だ。 「ほ、ほ、本当に入ってしまうんだあ!」 「ホントなんだよ、さくまサンは!」と、井沢どんすけが、ストロウ・ドッグス のふたりに説明している。 「井沢さん、僕たちと戦っているときは、あんなに堂々としていたのに、ずいぶ ん弱気じゃないですか!」 「えへえへえへっ!」 「井沢〜! それじゃ私が恐怖政治を敷いているみたいで、人聞きが悪いではな いか!」 「そ、そんなことはないんですけど、想像のつかない手を打ってくるから!」  というわけで、ハワイに入ったすとろう小泉くんと、最後の年に大阪に、虎に つばさカードを持って入った石川キンテツくんには、勝てなかったものの、見事、 井沢どんすけをボコボコのベコベコにへこますことに成功せり! 井沢どんすけ は、一度も目的地に入れなかった。  このあと、いろいろバラエティゲームのほうをいくつかチェック!  その後、すがねまチャンは、鎌倉ケーブルさんと悪戦苦闘!  何がどうなっているのかわからないけど、どうも鎌倉ケーブルの対応がわかり づらいようだ。いろんなあれこれを試しているらしい。私にはよくわからん。  午後3時。井沢どんすけ、ストロウ・ドッグスのすとろう小泉くんを連れて、 鎌倉六地蔵の「こ寿々」へ。石川キンテツくんは所用で、そのまま東京へ。  特大のぷるぷるわらび餅を食べるが、私の頭脳は朝から、ぶすぶす煙を吐いて、 焼ききれんばかりだ。  別に、プレイヤー・レベルの視点から見れば、どうとも思わないことが、作者 としては、『桃太郎電鉄』シリーズが、もっとおもしろくなりそうな切れ端に見 えてしまうおだ。  うんうんうめきながら、頭を絞っている。  ゲームで負けが込んで、マイナスに低迷している人がいかに希望を持って、ゲ ームで挽回を夢見ることができるようにするかというのは、永遠の命題だ。  負けている人に、リニアカードや、のぞみカードをあげてしまえば、弱者救済 はカンタンだ。でも、それでは今度は、勝っている人が、どうしても勝ちたいと う気持ちがうせてしまう。  勝ったとき、うれしくないようなものは、ゲームではない。  でも、負けたときに、後味の悪いようなものは、もっとひどいゲームだ。  このさじ加減が、ゲーム作りではいちばん難しい。  午後4時。鎌倉長谷の仕事場に戻って、昨夜3人がプレイした15年モードの データを、25年モードにして、井沢どんすけ、すとろう小泉くん、私、娘の4 人で続きから始める。  すがねまチャンが、私の誕生日にと、松本から送って来てくれた、下原スイカ を食べながら…。  このスイカを食べながら、テスト・プレイをするために、この鎌倉を購入した のだ。昨年このパターンがまったく出来なかった。やっと溜飲が下がった。  まだまだこの夏、鎌倉でスイカ食べながら、テスト・プレイしまっせ! 「私は、昨夜、ビリだったキャラを受け持つよ!」 「ハンデ付きですね!」 「じゃあ、石川キンテツくんのですね!」 「げっ! な、何だよ、これは! 最後のデータで、石川キンテツくんのは、キ ングボンビーがついているのかあ! ひでえの残して行ったなあ!」
 それでも必死に、挽回策を講じたのだが、どうもきょうはタイミングが悪い!  次のターンで、キングボンビーを連れたまま、目的地に入れるぞ!というとき に、ボンビラス星に飛ばされる。  井沢どんすけに、ぴったり特急カードで、キングボンビーをなすりつけてあげ られるというときに、キングボンビーにすべてのカードを捨てられた!  だいたい、長い私の『桃太郎電鉄』の歴史のなかで、デバッグ・モード以外で、 ボンビラス星を歩くのは、初めてである。 「井沢どんすけは、毎回、こんなつらい思いをしていたのか?」 「さくまサンも、やっと弱者の気持ちが…」 「こんなにボコボコにされても、井沢どんすけは『桃太郎電鉄』はおもしろいと いってくれるのだから、うれしいことだな!」 「今度こそ、1位になれるような気がするんですよ、『桃鉄』は!」  午後7時。さすがに、キングボンビーを何度も喰らっては、最下位脱出も無理 だったなあ。もう少しだったんだけど。私が着々と、作戦を練り始めただけで、 井沢どんすけがぷるぷる震えてくれただけでも良しとしなければ。  昨日の特訓の成果が実って、うちの娘が、1位を走る井沢どんすけにあと、数 億円というところまで追い上げた。  あと1年続けてやればよかったかな。  家族3人、井沢どんすけ、すとろう小泉くんの5人で、鎌倉に出て、「仲の坂」 へ。最近登場回数の多い、お魚料理の定食屋さんだ。  ここでも、私が必死に頭を悩ませていると、井沢どんすけとすとろう小泉くん が「『桃太郎電鉄X(ばってん)』に比べる、むちゃくちゃおもしろいですおよ!  もうじゅうぶんじゃないんですか?」 「『桃太郎電鉄X(ばってん)』の何倍もおもしろくするというのは、達成した んだけど、私にはまだまだ改良の余地が見つかってしまったのだよ!」  井沢どんすけが、珍しいことをいう! 「ボクは今回の『11』が、『桃太郎電鉄』の完成形に思えるんですけどね!」  井沢どんすけは、お世辞がいえるような男だから信憑性は高い。  しかし、山のように、気になる点を見つけてしまった。  因果な商売である。  とことん満足してしまったら、次回作を作る必要がない。  しかし、不満な点が見つかると、いますぐ直したくなる。  午後8時30分。家族3人で、鎌倉長谷の仕事場まで戻る。井沢どんすけ、す とろう小泉くんは、東京へ。  さっそく、2日間、テスト・プレイを見て、ノートにメモしたことの検討に入 る。貧乏神の悪行確率やら、カードの値段やら、イベントの発生確率やら、☆印 カード売り場で売るカードのメニューなど…。  ここが私の腕の見せ所だ。  しかし、この作業、死ぬほどつらく、腕時計の裏を外して、顕微鏡のようなも のを目にはめて、直すような、神経の疲れる作業だ。  でも、ここが今回の『桃太郎電鉄11(仮)』のおもしろさのすべてになる。  今夜は、仕様書をひっくり返して、検討、また検討で、健闘するのだ!
 

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