7月21日(日)

「菅沼真理(通称:すがねまチャン)さん! 京都で観光するなら、どこに行き
たい?」
「長浜城!」
「長浜城って、京都じゃなくて、滋賀県だよ!」
「ひえ〜、すみませ〜〜〜ん!」

 というわけで、きょうは長浜(ながはま)城に行く!
 おい! 本当に行くかい!

 ちなみに長浜城は、豊臣秀吉が出世するきっかけになった、非常に縁起のいい
お城だ。私は秀吉マニアだから、4〜5回登っている。
 だから長浜には、何回でも行きたい。
 ちょうどそろそろ『桃太郎電鉄』用の追加取材をしたいところでもあった。

 午前10時。すがねまチャンが、京都の仕事場に到着!
 昨夜、特に名を秘す極上の暴力(バイオレンス)割烹「M」のご主人がお土産
にくださった、鱧(はも)寿司を、朝食として3人で食べる。
「うめ〜!」。  すがねまチャンは、昨夜とは一転して、今朝は快調に、擬音を発する。  丹波の黒豆珈琲も飲む。 「うめ〜!」  午前10時30分。ヤサカタクシーの宮本さんが到着して、琵琶湖路へ!  午後12時。あっというまに、車は彦根インターチェンジを降りて、琵琶湖沿 いを走る。左手に彦根城、琵琶湖、右手にを長浜ドームが現れたり。    ほどなく、「旧長浜駅舎・長浜鉄道文化館」に着く。  むわ〜〜〜っ! 気温は、早くも30度を軽〜く突破! 限りなく人間の体温 に近づいている。 「サウナか?」と思えるほど、アスファルトから熱気が上昇している。  昔はこの暑さなら、アスファルトが溶けて、靴の裏がにちゃ〜!となったもの だ。そのくらい暑い。あぢぢ…。あぢぢ…。
 この「旧長浜駅舎・長浜鉄道文化館」は、鉄道博物館。  長浜駅というのは、かつて東海道本線の終着駅だった。  いわゆる交通の要所。  明治時代のころだ。  長浜から、大津までは、鉄道連絡船が就航していた。  私の記憶では、汽車はそのまま、連絡船に乗って、琵琶湖を渡ったと記憶して いたのだが、資料をひもとくと、貨車を船で運び、乗客は船に乗ったとある。  記述が微妙だ。  私が子どものころの絵本には、蒸気機関車がそのまま船に乗り込む姿が描かれ ていたような気がする。  その絵は、青函連絡船だったのかも。  私は本格派の鉄道マニアではないので、ちょっとあやふや。
 とにかく、長浜駅が由緒ある駅であることに変わりない。  だからこそ、こうして現存する最古の駅舎として、この地に残したのである。  中庭には、D51形蒸気機関車も展示されている。  で、で、でかい!  いつも思うが、蒸気機関車は、でかい!
 すがねまチャンは、歴史好きで、鉄道ファンで、プロ野球ファンという、私に とっては、飛んで火にいる夏の虫のような嗜好の人なので、私も心置きなく、私 の悪趣味をごりごり、ごりごり押しつけることができる!  午後1時。長浜市の北にある「国友鉄砲の里資料館」へ。 「おお〜! 火縄銃だ〜! すご〜い!」。  こんな場所に連れてきて、喜んでくれる女性は珍しい。  鹿児島県の種子島に、日本最初の鉄砲が伝来したことは、ほとんどの人が知っ ているだろう。  でもその1丁の鉄砲を参考に、この国友村の人が、わずか1年後に、国産初の 鉄砲を作り上げてしまったことを知っている人は、少ない。  その後は、戦国武将が、競って、国友村の鉄砲鍛冶に、鉄砲を発注した。  なかでも織田信長は、一度に500丁もの鉄砲を発注して、天下を取った。  今でいうと、一度に500台のコンピュータを発注して、IT産業で勝利する ようなものだったんだろうなあ。  まさに国友村の鉄砲は「時代を変えた」のである。  スライドで国友村の歴史を、12分間見る。  いまどき、スライドかよ!  カチャカチャ、後ろで、スライドがずっとうるさいのだが、鉄砲伝来の様子が よくわかるスライドであった。
 火縄銃を持つこともできる。  重い。ずしりと重い!  こんなものをかついで戦国時代の足軽たちは、走っていたのか。  すごいなあ。そういえばコンピュータも最初は、体育館一部屋分くらいの大き さからスタートしている。  戦さとはいえ大変だっただろうなあ。 「国友鉄砲の里資料館」の前の通りは、かつで栄えた町を髣髴させるような美し い町並みだ。  道路も整備され、白壁の町並みが続き、国友の刀鍛冶がどの家だったかを示す 石碑が、あちこちに建っている。  美しい。実に美しい。  町並み保存地区の鉄則である、電柱を地中に埋める方式を、ちゃんと実行して いる。これは素晴らしい。  これだけでも、レトロな町並みベストテンの3位か4位に、いきなり初登場ぐ らいの価値だ。
 あとは、おいしいものを食べさせてくれる場所が、何軒かあったら、倉敷とか 竹原のような、観光客でごったがえすような町並みになるのに。まったく飲食店 がないのが、もったいない。  鉄砲そばとか、鉄砲あぶり餅、鉄砲まんじゅうと、名前もつけやすいのに。  火縄丼というのもいいぞ。「かやくごはん」だ。  鉄砲鍛冶の町並みの家には、銃口のマークがあしらわれている。  倉敷という町が、人造の匂いが強い美観地区なら、この鉄砲鍛冶の町並みは、 自然の町並みだし、「鉄砲鍛冶」というほかにない独特のの町並みなのだから、 観光地としての潜在的なパワーは、恐るべきものがある。
 もともと「国友鉄砲村」という文字だけで、濃い歴史ファンなら「何!?国友 村が保存されているとな! それは一度行ってみなきゃ!」と、あわてて腰をあ げる場所だ。  でもまだ、あるのですよ、ここには。  だめ押しホームランのような、歴史ファンが泣いて喜ぶ場所へと、この鉄砲鍛 冶の町並みは続いているのである。 「では、行ってみることにいたしましょう!」と、NHK風に敬語。  それはどうでもいいけど、大きく目を開けていられないほど、暑い。まぶし い! あぢぢ…。  鉄砲鍛冶の町並みを歩いて行くと、そこは、川。  川の名前は「姉川(あねがわ)」どぅぁわ〜〜〜!
 あの織田信長・徳川家康連合軍が、浅井・朝倉軍を撃破して、織田信長の天下 統一を不動のものにした、姉川の合戦の古戦場へと続いていたのであ〜る。
こんな天然のアイ・キャッチがあるのに、なぜこの国友鉄砲鍛冶の町並みは、 観光客を呼ぼうという気もなく、ひっそりと、着物姿の女性のように、声を発す ることなく佇(たたず)んでいるのだろうか?  あちこちの用水路には、鯉まで放流されているんだよ! 島根県の津和野みた いだ。    ・国友鉄砲の里資料館。    ・用水路の鯉。    ・姉川の古戦場。    ・東洋のエジソンと呼ばれた国友一貫斎(くにともいっかんさい)屋敷。    ・『街道をゆく』の司馬遼太郎文学碑。    ・鉄砲鍛冶の町並み。    ・町並みのあちこちに建つ、オブジェ。    ・美人の産地(宮本説)。
 これだけたくさん売り文句があるのに、なぜ沈黙しているのか。  どのパンフレットにも、国友鉄砲の里資料館しか載っていない。  だいたい何度も、長浜を訪れている私が、今回初めて来たぐらいなのだから、 よほど宣伝不足だ。  でもひょっとすると、宣伝する気がないのかも。  自分たちが、昔の栄華を偲ぶためだけに、こういう町並みにしただけなのかも しれない。  いや、きっと、舞台の幕の横で出番を待つ、名優なのだろう。  これからなのだ。  3年後くらいに、ここを訪れると、観光客でごった返しているのだろう。  そんな気がする。  幻の遺跡を発見した探検家の気分。  午後2時。長浜市最大の観光スポット「黒壁(くろかべ)スクエア」へ行く。  ここは、ガラス工房、オルゴール館、雑貨屋などが集まる、小樽とか函館のよ うな若い女の子が大喜びするような場所。  きょうは日曜日だから、観光客はドッとくリ出している。  これだけ計画的に、観光地にしようと努力していて、成功している町も珍しい。
「茂美志(もみじ)や」という郷土料理のお店に入る。  最近、長浜の郷土料理は、のっぺいうどんであることを入手した。  長いこと私は、長浜は鴨なべ料理屋の町だと思い込んでいた。  今も、鴨なべのお店は多いんだけどね。  ただでさえ、長浜というと、豊臣秀吉が出世するきっかけとなった長浜城、ま たは石田三成の出生地のほうに、目を奪われ、うっかり、のっぺいうどんの存在 を見落としていた。  100年近く続くお店なだけに、店内は古めかしい。  本当は、嫁とすがねまチャンが注文した、大きな生の近江牛を乗せて、トロト ロのだしで肉の旨味を汁に伝える近江牛の「しゃぶのっぺい」というメニューの ほうを注文したかったんだけど、のっぺいうどんを食べるのが、きょうの私の仕 事だ! 『桃太郎電鉄』の長浜駅の新物件になるかもしれないので、味を確かめないとい けない。  つるつる。熱っ! 熱っ!  む。む。む。  こ、これは、美味しい!   なんて大きな、椎茸なんだ!   駄菓子屋のソースせんべいの大きさの椎茸が乗っているというか、音楽CD (コンパクトディスク)の大きさの椎茸が、どででで〜んと、どんぶりを隠すか のように乗っているのだよ。  スープは、サバぶしなのだそうだ。  長浜は、北国街道が町の真中を通り抜けている。  北国街道は、通称「鯖街道」と呼ばれていた。  名物をつかって、初めて、郷土料理だ。  この椎茸が、スープと、見事に合っている。  ショウガも入った、あんかけっぽいスープなので、本来は、冬に食べると、も っと美味しいのだろうけど、こんな真夏に食べても、抜群にうまい。
『桃太郎電鉄』的にいうと、収益率25%→30%→50%の物件ではなくて、 50%→60%→70%の物件として、登場確実の美味しさだ。  臨時収入物件に入れても、いいな。  もう『桃太郎電鉄11(仮)』には、間に合わないけどね。はっはっは。 『桃太郎電鉄12(仮)〜地方編』まで待たれよ!    ふむふむ。シルクパウダーという、繭の糸を練りこんだ麺なのか。それで、の どごしがつるつるして、美味しいのか。ふーん。  繭の糸であって、蚕(かいこ)が一匹練りこんであるのではないぞ!  間違えないように。  私は、蚕が入っていると思った。断言!  嫁の「しゃぶのっぺい」も、つまみ食いするけど、美味しい!  食後、腹ごなしに、黒壁スクエアから、大通寺(だいつうじ)の参道に向かっ てよろよろ、寄り道しながら歩く。 「あ〜、おいしかった。お腹苦しい!」と叫ぶ、ご一行の前に、「手作りパン工 房いしがま」が、立ちはだかる。  パンを焼く釜の匂い。  釜を焼く、薪の匂い!  焼き上がったパンの匂いが、ぷーーーん!  なんと! 氷上競技のカーリングのあの名前のわからないやつののように大き なパンではないか! 「食べる?」 「ちょっと大きすぎる!」 「あ〜、でも匂いが!」 「買って帰るにして、でかすぎる!」  ああ! でも、この匂いをかいでしまったら、食べるっきゃない!  この大きなパンを、4人で分けて、道端で食べる! 「う、う、うみゃ〜!」 「これは、たまらん、おいしさだ!」 「うーーん。バターがほしい!」  今度、長浜に来るときは、バターを持ってこよう。マジだ。
 午後3時。大通寺(だいつうじ)にたどり着く。  豊臣秀吉を、豊国大明神として祀り、狩野派、円山応挙などの襖絵がある、由 緒正しきお寺のようだ。  境内も広し、お寺も立派だ。
 でも、この蒸し暑い炎天下を歩いてきた、われわれには、もう残りHPが少な い。しかもほかの3人のHPが、10なら、私は3である。  宿屋はないか! 宿屋は…。  薬草でもいいぞ。  あっ、薬草を売っているぞ!  午後3時30分。叶正寿庵(かのうしょうじゅあん)へ。  薬草を売っていたのは、いまや全国各地のデパートの地下に進出する和菓子の 叶正寿庵(かのうしょうじゅあん)であった。  ひ〜〜〜! クーラーが、うれひひひい! 涼しい〜! 生き返る〜!  ケーキの甘さに、HPがぐんぐんぐーーーん!と増える。
 午後4時。もっと叶正寿庵(かのうしょうじゅあん)で体力を回復させたいの だが、長浜城の閉館時間が、午後4時半。 「長浜城が見たい!」といった、すがねまチャンに長浜城を見せずに帰るんか い! あわてて長浜城に向かう!  なんとか、午後4時15分に、長浜城に着く。
 もはや私に、長浜城の天守閣まで登り切る体力は残っていない。  嫁とすがねまチャンだけで、長浜城に登ってもらう。  長浜城の天守閣からの眺望は、琵琶湖を一望できる絶景中の絶景で、何度見て も飽きないだけに、行きたかった。  待っている間、宮本さんの車のなかで、仮眠。  スー、スー。疲れた。
 午後5時。再び、黒壁スクエアに戻って、嫁とすがねまチャンは、ガラス工房 へ、ショッピングにでかける。
 女は、元気だ。  とくに買い物にでかけるときは、元気だ。  私はなおも、宮本さんの車のなかで、待つことにする。  間違いなく、きょう、日に焼けた。  顔がてかてか、ひりひりする。
 午後6時。名神高速道路で、京都をめざす。 「あーん、もう。長浜、よかったです〜!」 「楽しい町だったです〜!」 「長浜があんなに見る場所が多い町だとおもわなかったですよ〜!」と、すがね まチャン、喜ぶ、喜ぶ!  私としても、鉄砲鍛冶の町並みの発見と、のっぺいうどんは、大収穫! 「すがねまチャン! 夜は何食べたい?」 「昨日、『M』であんなすごいものをたくさん食べちゃったから…」 「きょうは、三嶋(みしま)亭か?」 「ぎゃあ。そ、そんな、いや、その、あの!」 「嫌か?」 「いえ、あの、その…、あたふた、あたふた!」 「昨日に続いて、ふたケタ安打を浴びてみるか! わっはっは!」  午後7時30分。京都寺町三条へ。  「本当に、三嶋(みしま)亭に行くんですね!」 「行くよ!」  すがねまチャンは、三嶋(みしま)亭も初めて!  仲居さんにお肉を1枚だけ焼いてもらって、「あとはこちらでやります!」と いって、引き下がってもらう。  こういう明治時代の建物の小部屋で、仲居さんにずっと付いていてもらうと、 気をつかって、笑いながら食べることができない。 「すがねまチャン、これでもうどんな擬音を発しても、大丈夫だよ!」 「んー! んー! はふーん! はふーん!」 「おお! もう擬音を発している!」 「これは擬音じゃなくて、感嘆符ですう!」 「すがねまチャン、昨日の『M』では、すっかり沈黙の艦隊だったけど、『三嶋 亭』では、何で快調に、擬音が出るの?」 「あのね。三嶋亭は、牛肉でしょ。牛肉の最高峰として、この美味しさは想像で きるじゃないですか、比較できるお店がたくさんあるから!」 「ふむふむ!」 「でもね。『M』の場合、何がどうなるか、わからないんですよ!」 「どういうこと?」 「あわびを炙るなんて料理をいままで食べたことないでしょ? トウモロコシも ふつうなら、茹でて食べるだけじゃないですか! それが、トウモロコシを天ぷ らでしょ!」 「なるほど。『M』は知ってる素材をまったく違う料理方法で出してくれるから ね!」 「『M』の料理は、異次元の食べ物なのですよ。三嶋亭は、このお肉がどのくら い美味しいのか、自分で点数をつけられるじゃないですか!」 「うまいこというねえ! はふーん! はふーん!」  午後9時30分。京都の仕事場に戻る。  すがねまチャンは、我が家のコンピュータ環境を整える作業の続き。  昨夜、午前1時まで作業してくれて、ほとんど完了していたのだが、あと少し だけ、やることが残っていたようだ。  私は、きょう仕入れてきた長浜の最新情報を、『桃太郎電鉄』シリーズの台帳 にメモする作業。  明日やればいいのだが、ほかにもやらなければいけない仕事がたくさん残って いる。あとに伸ばせば、かかる時間は倍になる。できるときにやっておけば。早 くすむ。ミスも少ない。  ああ! もうTVで、Fー1レースが始まってしまった。  もうそんな時間か。  寝ないと!
 

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