7月13日(土)
 
 きょうは、昨日に引き続き、柴尾英令くんと、『桃太郎電鉄11(仮)』の手直
し作業である。

 でも、きょうほど、堪忍袋の緒が切れ、怒髪天を衝き、はらわたが煮えくり返
った日はない!

 柴尾英令くんとの作業は、延々11時間にも及んだのだ。
 11時間だよ! 休むことなく…。

 しかも、その手直し作業は、すべて昨年の『桃太郎電鉄X(ばってん)』のゲ
ーム・ディレクターが、仕様書をぐっちゃぐちゃにして行った箇所なのだ。
 これが憤懣(ふんまん)やる方ない怒りの原因だ。

 ゲーム業界では、プログラマーの失踪というのは、よくある話だ。
 でも失踪のほうが、最初から作り直せる分だけ、まだましのような気もする。
 まあ、当事者にとっては、「まし」も何もあったものではないだろうが…。

 大掃除した部屋を、「私がもっときれいな部屋にいたしましょう!」と善人面
して入って来て、空き巣強盗のように部屋をぐちゃぐちゃにして行ったようなも
のだ! 

 この『桃太郎電鉄X(ばってん)』のゲーム・ディレクターは、解任されたも
のの、今でものうのうとほかのゲームを作っている。
 なのに、私と柴尾英令くんは、何で台風6号のように、仕様書をずだずだにし
ていった傷跡の復旧作業をしなければいけないのか?
 柴尾英令くんなんか、『桃太郎電鉄X(ばってん)』には正式なメンバーとし
て加わっていなかったんだよ!
 柴尾英令くんにとっては、ゼロからのスタートではなく、マイナスからのスタ
ートになってしまったのだ。
 なのに、私といっしょに復旧作業をやってくれているんだよ。
 復旧作業などという言葉をつかったら、美しすぎる!
 他人の不始末の尻拭いをさせられているのだ。
 瓦礫の山を、手作業で、飛び散った瓦をどけ、家屋の倒壊を阻止しながら、さ
らにリフォーム作業を始めているようなものだ。

 正直な話。ゲーム作りと、まったく別の作業をさせられているのだ、私と柴尾
英令くんは。
 世の中の不祥事件でも、責任をとって辞任というケースは多い。
 でも本当に責任を取るということは、ぐちゃぐちゃにしたものを、元通りにし
てから辞任すべきと思わないか?

 本来なら、私と柴尾英令くんがこうして作業している脇で、『桃太郎電鉄X
(ばってん)』のゲーム・ディレクターは直立不動で、ずっと立ち続けていてほ
しいぐらいだよ!
 土日で、家でのんびりしているのかと思うと、よけい腹が立つ!

 まいった。本当にまいった!
 肉体的な疲れより、精神的な疲労のほうが、つらい。
 ズタズタに引き裂かれた仕様書を、ピンセットで丁寧に集めて、セロテープで
修復しているような、むなしさだ。

 憂愁なり…。

 きょう1日の行動は、午前11時30分。嫁と赤坂見附駅へ。柴尾英令くんと
待ち合わせて、「皆美(みなみ)」で、鰻まぶし。

 午後6時。赤坂の「津つ井」で、ビフテキ丼。

 もはや濃い味のご飯を食べないと、「やってらんねーよ!」状態。
 くそ〜〜〜!

 1日じゅう、ご飯を食べる以外、自宅にて、柴尾英令くんと、座りっぱなしで
11時間の難業、苦行の連続だ。
 午前0時。大方の復旧作業が終了したときには、ふたりとも、まっすぐに立て ない状態である。股関節は開きっぱなしになり、壁に身体をこすりつけていない と、階段から転げ落ちそうである。  藤子不二雄さんの名作『魔太郎がくる』のセリフ「こ・の・う・ら・み・は・ ら・さ・で・お・く・べ・き・か」を思い出した。  意地でも『桃太郎電鉄11(仮)』は、『桃太郎電鉄X(ばってん)』の人間味 を失った部分を一掃してやる!  昨年のゲーム・ディレクターへの恨みは、作品で返すしかない。 「おまえがいなかったおかげで、こんなに素晴らしい作品になったよ!」  このひとことを投げつけてやる!  今のテスト・ロムでも、おまえが「それはできません! これもできません!」 といったイベントが数え切れないほど入っているぞ! 『桃太郎電鉄11(仮)』を見て、恥じ入るがいい。  どうせ何も感じないだろうが。  感じるようなら、あんな人間とは思えないような行動は取らないはずだ。 <あとで絶対バレるような嘘を平気でつく人間>が、私は心の底から嫌いだ。  そんな人間を好きなやつもいないだろうが…。  11時間、私に付き合ってくれた、柴尾英令くんには、申し訳ない気持ちがあ ふれすぎて、堤防決壊状態である。  本当にありがとう!  最後に、ギャグのひとつも言って、この日記を終えたいが、さすがにきょうは いう気にもなれない。
 

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