6月27日(木)

「最近、雨が多いですけど、ひょっとして梅雨ですか?」
「井沢どんすけ! すでに2週間ぐらい前から梅雨入りしているぞ!」
「えへえへえへっ!」
 昨日の井沢どんすけとの会話である。
 井沢どんすけ。まぎれもなく、大物である。

 午前11時。嫁と、近所の「ワンズ・バーガー」で、スペアリブ・ライスにコ
ーヒー。
 何だか海軍の兵隊さんが演習のときに食べるプレート・ランチのようである。
スペアリブも骨にわずかながら肉がへばりついている感じ。

 午後1時。築地のハドソンへ。
 昨日の続き。札幌ハドソンのスタッフと『桃太郎電鉄11(仮)』の打ち合わ
せだ。
 きょうのメンバーは、プログラマーの田中俊介くん、企画担当の川田忠之くん、
込山勉くん。オープニング担当の吉見直人さん。
 メンバーがおなじようでいて、毎回ひとり、ふたりの増減があることはおわか
りだろうか? わかると進捗(しんちょく)状況が想像できてしまうという話が
ある。だったら、書くな、かも。

 東京スタッフは、土居ちゃん(土居孝幸)。柴尾英令くん。
 土居ちゃんが、だいぶイラストの進行状況が回復して来ている。
 ハドソン宣伝部の梶野竜太郎くん、石崎仁英くん。

 というわけで、吉見直人さんがいるので、オープニング・アニメの打ち合わせ。
 すごいね。絵コンテよりもはるかに克明な画面がすでに、ゲーム実機上に入っ
ている。これはわかりやすいね。
 音楽も入っている。
 コンピュータ上ではすでに見ているんだけど、やっぱりTV画面上で見ると、
雰囲気が微妙に違う。
 いい出来ですぞ! 土居ちゃん、柴尾英令くんといっしょに取材に行った場所
の成果が見事に出たという感じ。気分いい。

 このあと、ゲーム作りにおいて、最も大切な、ゲームのスイッチを入れてから、
20分間の流れを真剣に討議する。
 映画も、ゲームも、漫画も、最初が肝心である。
 お客さんは、最初で躓(つまづ)くと、そのあといいことをいくらしても、疑
惑の目で見てしまう。だいたい80%の人が、第一印象でそのゲームの良し悪し
を決めてしまうといっても過言でない。
 
 なのに、この15年間。『桃太郎電鉄』は、人数決め、名前入力、COM選択
の画面の作業がいつも最後にされて来た。
 正直言って、毎回ここを後回しにされた鬱憤が、昨年『桃太郎電鉄』シリーズ
をもう終わりにしようと思った最大の場所だ。
 昨年などは、文書に残して、早い段階で見せると約束したのに、ゲーム・ディ
レクターに最後まで隠し通されて、最大のピンチを迎えた。

 だから今回は、とにかく最初の20分間の仕様を本当に何回も、何回も、何回
も討議して、さらにそれを修正して、それが本当にいいのかを粘り強く打ち合わ
せた。 おかげで、ついに『桃太郎電鉄11(仮)』で、念願のオープニングの
流れが実現しそうである。
 発売版まで見届けないと、どんな不測の事態が起きるかわからないので、安閑
とはできないけれど、とにかくスタッフ全員がめざすゲーム作りの方向が一致し
たことは確かである。

 かといって、『桃太郎電鉄11(仮)』のオープニングから20分間が、ガラ
ッと大きく変わるわけではない。
 でもお客さんの気づかないところで、「あれ? そういえば、ここって前より
便利になったなあ!」と思えるはず。

 私は、TVのスリープ・タイマーをよくつかう。
 切。30分。60分。90分という表示が出るやつだ。
 このスリープ機能は、だいたいリモコンの表についている。
 ところがたまに、小さなメニューを押して、ウィンドウを開いて、オン・タイ
マー、オフ・タイマーを選ばせるTVがある。
 こういううっとおしさを、ゲームのなかから、とにかく無くしたいのだ。

 そういう意味では、大満足!
 あまりにも頭をふりしぼったたために、激しく疲労して、自ら「きょうの会議
をここまでにしてほしい!」と言ったほどだ。
 
 ゲーム作りというのは、ずっとそのシリーズを続けてやってくれている人も満
足させないといけないし、生まれて初めてそのゲームをやってくれた人でも、わ
かりやすく、楽しいと思ってもらわないといけない。
「二兎追う者は、一兎を得ず!」ではなく、「二兎」を公然と、追いかけないと
いけないのだ。

 この決定が反映された『桃太郎電鉄11(仮)』が早くみたいよ。
 でも、完全に残りの打ち合わせをする気力は、まったくない。
 わざわざ札幌から4人も来てもらったのだから、遅くまで打ち合わせしたのだ
が、自分でもわかるくらい目がうつろ。

 午後4時。会議を終了してもらう。
 
 午後4時30分。帰宅。着替える気力もなく、洋服を着たまま、ベッドに倒れ
こむ。あとは寝ているのか、起きているのか、自分でもわからない状態。
 わかるのは、寒いということだけ。

 そういえば、SONYのTVのリモコンって、「電源」っていうところ押さな
くても、画面を出せるって知ってた? 「8」のボタンを押せば、フジテレビを
そのまま映し出してくれるのだ。
 これはどのリモコンも同じかもしれないが、「5」のボタンのところに、小さ
なトゲのような突起物が出ている。
 だから、朝起きて、眠い目のまま、リモコンを握って、「5」のポッチを指で
探して、その下を押せば「8」が映る。
 こういう便利な機能って、目立たないけど、本当にお客さんのことを考えてい
ると思わない?
 
 SONYのTVのような『桃太郎電鉄』をめざしたい。

 午後6時。四谷の「オーベルジーヌ」のカレーを出前してもらって、家族3人
で食べる。朦朧としながらも、テレビ神奈川で、「横浜ベイスターズ対阪神」戦
を見ることだけは忘れない。
 1回裏。2対0でリードしている。
 負け根性のしみ込んだベイ・ファンは、2対0を、「少しだけ勝っている」と
表現する。

 午後9時。薄氷を踏みながらも、三浦番長が、2対1で、完投勝利を収める。
 これで6月、横浜ベイスターズは、勝ち越しが決定した。
 ゴールデン・ウィークの頃の13連敗を思うと、夢のようである。

 とにかく、きょうはぐったりする。
 今夜はぐったりするのが、仕事!

 でも『桃太郎電鉄11(仮)』で、念願のオープニングが実現しそうでうれし
い。ぬか喜びをしてはいけないのは、わかっているけど、あいつと、あいつと、
あいつに「ざまあみろ!」と叫びたい気持ちでいっぱいだ。
 

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