6月7日(金)

 午前11時30分。嫁と、麻布十番の「浪花家(なにわや)総本店」へ。
 きょうは、焼きそばに、小倉アイス。
 かつて40数年ほど前。荻窪駅の北口に、市場のような商店街があって、 そこのいちばん駅寄りの甘味屋さんの小倉アイスが、小学校にあがる前の 私には、ごちそうだった。  その後、日本じゅうの小倉アイスを食べ歩いているが、あの味と盛り付 けに出会ったことがない。  味の点では、この「浪花家(なにわや)総本店」の味がいちばん近い。  盛り付けは、円錐形で、マッターホルンか剣岳のようだった。  あの盛り付けの小倉アイスを、もう一度食べてみたい。  最中ではさんだ小豆のアイスではなく、鉄製の腰高のお皿に乗った美味 しい小倉アイスが食べたい。  小倉アイスの食べ歩きもいいな。  やっぱり、上野の「みつばち」かなあ。  銀座というよりも、京橋の「あづま」の小倉アイスもなかなかだ。  根津「芋甚(いもじん)」の小倉アイスも美味しかった気がする。  インターネットで調べても、ほとんど「みつばち」しか出て来ない。大 正4年「みつばち」の創業者がたまたま氷小豆を、アイスクリームの桶に 貯蔵していたところ、美味しいのがわかって、工夫して出来たくらいだか ら、小倉アイスといえば、やはり「みつばち」抜きでは考えられない。  ちなみに、小豆なのに、小倉アイスというのは、小豆の羊羹のことを、 「小倉羊羹」というところから名づけたそうだ。  小倉アイスの美味しいお店を開拓したいので、情報ください!    午後1時。築地のハドソンへ。 「浪花家(なにわや)総本店」で買って来た鯛焼きを、みんなで食べる。  鯛焼きも、15枚並んでいると、壮観だ。
 きょうの会議のメンバーは、土居ちゃん(土居孝幸)、柴尾英令くん、 井沢どんすけ、札幌開発チームの川田忠之くん、佐藤裕さん、田中俊介 くん、込山勉くん。  ハドソン宣伝部の梶野竜太郎くん、石崎仁英くん。  いきなり、井沢どんすけが「さくまサン! 昨日の日記に書いてあった 最新ロムが非常に気になるんですけど…」 「ふっふっふ。井沢! やはり気になるか?」 「気になりますよ?! すごそうですよね! 銀河鉄道カードとか!」 「銀河鉄道カードとかって、よく覚えているなあ!」 「ムチャクチャ楽しそうに書いてあるのが、伝わって来ましたよ!」 「見たいか?」 「見たいですよ?!」 「見せてあげない!」  はっはっは! まるで近所の子どもをいじめているみたいだ。 「井沢! 昨日みんなでチェックした画面を、君だけのために、わざわざ 札幌から来てくれている人たちの時間を割いてまで、見せるわけにはいか ないのだよ!  きょうの会議の打ち合わせが早く終了したら、見せてやるよ!」 「え〜〜〜! でも、きょうの会議って、重要だって言っていたから、長 くかかるんじゃないですかあ!」 「その通り!」 「ひ、ひ、ひどい…」 「何がひどいだ!」 「あっ。すみません! みなさん、がんばりましょう!」 「でも、井沢はまた今夜、打ち合わせででかけるんじゃないのか?」 「今夜は…、イングランド×アルゼンチン戦があるんで…」 「アホか!」 「8時20分になったら、見せてやるよ!」 「試合開始まで、10分しかないじゃないですか!」 「どこでもドアで、帰れ!」  というわけで、井沢どんすけは放置して、会議を始める。  ゲーム作りのなかでも、いちばん重要な、PS2のスイッチを入れてか ら、30分間をいかに、お客さんにとって、ストレスが少なく、スムーズ に、夢の世界へ違和感なく誘導できるかについて、侃侃諤諤(かんかんが くがく)、議論を繰り替えす。  すでに、この部分は、今年に入ってから、何度もやっている。  決算画面の表組み、グラフなども、『桃太郎電鉄X(ばってん)』とは まったく違ったものにする。  あらかじめ、札幌のスタッフが、何種類も作って来てくれたので、予想 された議論百出はなく、すんなり選んで、完了してしまった。  けっこうゲーム作りって、ウインドウ・デザインは1種類しか作ってく れなくて、「これでいいですね!」で終わらす会社が圧倒的に多い。 「これでいいですね!」では、単なる念押しでしょ。 『桃太郎電鉄X(ばってん)』のときも、このパターンの連続で、はらわ たが煮えくり返る思いをした。  今回、あれほど、『桃太郎電鉄』を作ることをやめるつもりだったのが、 一転してまた作ろうという気になったのは、この何種類も、プレゼンテー ション用のデザインを作ってくれるようになったからなのだ。  午後3時30分。あっというまに、とんとん拍子で多くの議題をこなし、 きょうの時点までの問題点はすべて解決してしまった。  そうなると、にやにや、ほくそ笑むのは、井沢どんすけである。 「井沢! そのもう、今から見る画面を創造して、にやにや笑っている顔 をなんとかしろよな!」 「えっ、あっ。早く見たいですねえ!」  もう完全に、ディズニーランドで、あと5〜6人で、アトラクションに 乗り込めそうなお客さんの顔だ。    最新ロムから、まず銀河鉄道カードを見せる。  じっと画面を見つめる、井沢どんすけ。 「おっ? おおっ。おおおおおっ。す、す、すげえ〜!」 「回ってる! 回ってる!」 「ひぇ〜〜〜! 銀河だ!」 「かっこいい〜〜〜!」 「うわっ。うわっ。汽車が小さくなって行くう(作者註:ちょっとバラし すぎたか?)!」  ふっふっふ。井沢どんすけよ。帰り道もすごいのだよ。 「ひえ〜〜〜! す、すごい!」 「『×』と、ぜんぜん違うじゃないですかあ!」 「ふっふっふ。だから昨日の日記が嘘じゃないって言っていただろ!」 「すげえ〜〜〜!」  このあと、ボンビラス星を見せる。 「ええっ? MAPが××××(守秘義務)××××になってますよ!」 「それだけじゃない!」 「井沢さん、右、真中、左、どこがいいですか?」と、込山勉くん。 「左!」 「気合い入っているなあ、井沢どんすけ!」 「さあ! ボンビラス星から帰れるかなあ!」  ガ〜〜〜ンッ! 「くそ〜〜〜! 失敗かあ!」 「は?っはっは! さすが井沢どんすけ! ハズレを当てるのが、実にう まい!」 「しかも、井沢どんすけよ! 失敗すると、今回はこうなる!」 「あ〜〜〜! 列車が、××××(守秘義務)××××ってますよ〜!」  その後も、キングボンビーや、ゲスト怪獣や、『桃太郎電鉄』初の1兆 円の物件のイベントやら、決算画面を立て続けに見て、井沢どんすけ、へ とへとになる。 「すごいっすよ! 『桃太郎電鉄X(ばってん)』とまったく違うじゃな いですか!」 「井沢さん! 『桃太郎電鉄X(ばってん)』とまったくおなじものを売 るわけにはいかないじゃないですか!」 「それにしても、違いすぎるじゃないですかあ! このあとどうするんで すかあ! ここまでやっちゃったら!」 「2〜3本は、マンネリだな。わっはっはっは!」 「まあ、そのときはまたみんなで、何か思いつくでしょう」と、柴尾英令 くん。 「井沢くん、テスト・プレイやりたい?」 「やりたいです!」 「負けるのに!」 「ははははは。決めつけないでくださいよ!」  午後4時。テスト・プレイ開始!  メンバーは、物件データを頭に叩き込み、『ターミネーター』のように、 黙々と物件を買いまくる、込山勉くんと、『桃太郎電鉄』を作った私が頭 を抱え込むほど、戦術が読めない…というよりも、戦術のない、石崎仁英 くん。目的地に入ることよりも、人を凋落させることに命をかける土居ち ゃん。  そして、万年最下位男・井沢どんすけである。  4年モードでスタート!  最初の目的地は、ハワイ!  いきなり、井沢どんすけが3ターン目くらいで、リトルデビルカードを 引いて、満場を笑わせる。  黙々と、目的地をめざした込山勉くんが、ハワイに到着!  帰り道の赤マスの連続でお金を失うことまで計算に入れて、込山勉くん、 しっかり到着金の半分くらいを残して、次の目的地をめざす。見事な戦い 方だ。  しかし! 計算通りにいかないのが、『桃太郎電鉄』!  あわれ、込山勉くんは、帰り道の一発目に、スリの銀次を喰らい、全額 持っていかれる。あとは赤マスに停まるたびに、マイナスを増やすだけで ある。  といった大技がいきなり出たと思っていたが、その後も、レアなイベン トが発生しまくりで、激しく順位が変わる。  たったひとりの低迷を除いて…。  その男とは、もちろん井沢どんすけである。  井沢どんすけが博多近辺で貧乏神を引き連れると、ほかのプレイヤーは 雲の子を散らすかのように、次の目的地である釧路に向かって、ある者は、 ぶっとびカードで、ある者は、ワープ駅で、北海道に、井沢どんすけの元 を離れていく。 「ひ〜〜〜〜〜!」
 ちょっと変なメンバーを集めすぎたせいか、ゲーム展開がおもしろすぎ る感が否めないのは確かだ。いつもこんな展開になるようなら、毎回20 0万枚くらい売れてしまいそうだ。 「でも、序盤に××××××××が出る場合があるわけですから、いつも よりずっと、××××(守秘義務)××××の場面で、ハラハラドキドキ しますよね!」 「目的地も、ただの目的地じゃない場合がありますからね!」  どうも、予想したより、序盤でイベントが発生する確率が高くなってい るようだ。  今回は、30年目以降でも、初めて見るようなイベント作りを重視した んだけどなあ。 そういえば、ゲーム中、最初にこの駅に停まると、何か もらえるとか、最初に増資を××××すると、カードがもらえるとか、小 技もたくさん入れたことを思い出した。  まあ、まだ発売まで半年もあるのだから、あまりにも期待させてもいけ ないので、テスト・プレイの実況は、ここまで!  けっきょく、ゲームのほうは、物件を地道に買いまくった込山勉くんが、 買ったと思いきや、目的地に入った回数の多かった土居ちゃんがトップに!  途中、独走態勢に入ったはずの石崎仁英くんは、スタッフ全員が首をか しげた不可解な行動の連発で、いつしか3位に。  最下位は、何の解説の必要もない、井沢どんすけである。  もはや井沢どんすけに、「ミスター・サブマリン」の称号を授与するし かない。  午後7時。土居ちゃん、柴尾英令くん、井沢どんすけ、私、嫁の5人で、 新橋の「牛かつのおか田」へ。  オードブルのホタテと甘海老のすり身は、絶品!  お店の雰囲気とは裏腹に、このお店の料理は、上品で、フランス料理の ようだ。
 午後8時30分。帰宅。  W杯「イングランド×アルゼンチン」戦を見たり、「横浜ベイスターズ 対ヤクルト戦」を見て、落胆したり。密かにまた3連敗かい。  でも補強したヤング外野手が、初出場でホームランを打ったのは、うれ しいかぎり。  私が昨年言い続けた待望の太った黒人さんだ。  黒人さんはやっぱり、打たなくても、当たれば飛びそうな威圧感が相手 投手を疲労させていい。どうも横浜ベイスターズは、ハンサムな外国人選 手ばかり選ぶからなあ。  ヤング外野手は、かつてのブラッグス選手のようになってほしい。  W杯のほうは、やっぱり真打の試合は違うなあ。  イングランドのスピードは、すごい。  スルーパスまでの時間が短い!  ドリブルする選手に、ボールがまきついているみたいだ。  あの広いグランドが、バスケットの試合のように、攻守の位置がめまぐ るしく変化する。とてもイングランドが優勢とか、アルゼンチンが劣勢と いえないような展開だ。    W杯のせいで、予定していたことが、あれこれ遅れ気味だ。  これじゃ、土居ちゃんの絵の遅れを罵倒できなくなってしまうではない か。 『桃太郎電鉄11(仮)』の宿題を始める。
 

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