2月17日(日)

 私は、何が苦手といって、「ぼ〜〜〜ッとしていろ!」と言われること
が、いちばんつらい。なにしろ「さくまサンは、せっかちだからなあ!」
と言われることがやたら多いからだ。
「ぼ〜〜〜ッ!」っとは、私にとって反対語に近い。

 その苦手にきょうはチャレンジする。
 温泉に浸かって、TVも見ずに、ひたすら「ぼ〜〜〜ッ!」としようと
思っているのだ。 
 これはかなり難しそうだ。

 午前10時30分。嫁と、東京駅の「資生堂パーラー」へ。旅の始まり
はいつもこのお店だ。ミックスサンドにコーヒー。これもいつも通り。
 午前11時04分。東京駅。新幹線こまち11号で、仙台に向う。  車中、のんびり本を読むことから始める。  しかし、新幹線に乗ると、もうパブロフの犬のように、仕事のアイデア が浮かんで仕方が無い。きょうは仕事はしないのだ!…と、決めても、浮 かんでしまうものは仕方がない。けっきょくノートを取り出して、メモる。 すでにアイデア・ノートを持って来ていること自体、ルール違反である。    午後12時45分。仙台駅着。けっこう暖かい。雨の予報は外れたのか な。  こんなに早い時間に仙台に着いたら、いつもなら博物館、民族館など、 3つ、4つ、疾風のように巡ってしまうものだが、きょうのテーマは 「ぼ〜〜〜ッ!」とすることと、骨休めだ。  そのまま、タクシーで、目的地である「秋保(あきう)温泉」に向う。  バスだと約1時間ぐらいかかるそうだが、タクシーだと25分ぐらいだ そうだ。こういう場合も、バスでのんびり行かないといけないのだろうが、 私はせっかちだ。しかもバスだと、途中で寄り道ができない。    午後1時30分。途中、林野に、忽然と長崎のハウステンボスみたいな ものが見えて来た。聞けば、マンションとショッピングセンターだという。  おもしろいので、寄ってもらう。  スパ。スポーツジム。ゲームセンター、大型スーパー、フィットネス、 薬局、飲食店などが集まった、小さな町のようだ。それにしてもマンショ ン群とショッピングセンターが隣接しているように見えて、けっこう離れ ている。
 土地があまりすぎちゃっていて、大雑把に作った感が強い。  この場所は、鉄道クイズの難読問題によく登場する「愛子(あやし)駅」 がいちばん近いようなのだが、こんな何も無いところにこんな大型ショッ ピングセンターなど作ってしまって、採算が合うのだろうか?  午後2時。目的地である「秋保(あきう)温泉」のチェックインが、午 後3時からなので、秋保温泉を通り越して、秋保大滝へ。  密かに、豪雪を期待していたのだが、遠くに見える山にちょっと雪が積 もっている程度だった。山形に入ると、豪雪だけど、このあたりは、そん なに雪が降らない地帯らしい。
 大滝へは、秋保(あきう)不動尊野分を通って、凍った石段を降りて行く。  ここがいちばん恐かった。日陰で、雪が石段で溶けずに、凍っている。 ただでさえバランスが取れない身体なので、よちよち歩きで降りて行く。
 大滝は、幅6メートル、落差55メートルの日本三大名瀑らしいのだが、 初めて聞いた名前だ。景観は立派で、雄大だが、滝を上から覗き込むとい うのはね。  滝は、やっぱり見上げて「おお〜〜〜ッ!」と声を上げたいものだ。  午後2時30分。秋保温泉近くの「工芸の里」へ。  伝統こけし、仙台タンス、独楽(コマ)、埋もれ木細工、染織といった工 房が並んでいるのだが、だだっ広いだけで、しーーーん!としている。  とても日曜日の風景ではない。
 どの工房も開いているか、いないのか、わからないほど、覇気が無い。   里の中央は、青空駐車場なので、シンボルも無い。  喫茶店も無い。  道の駅のような、総合販売所も無い。  こんなに広い敷地に、ゆったり、工房が10軒ほど点在しているだけな ので、よけい淋しい。淋しいを通り越して、せつない。  時代劇で、主人公がたどり着いた村で、村人に話し掛けても、答えてく れなかったり、あわてて逃げたりするシーンがよくあるけど、あんな感じ だ。  やろうとしていることは、有益だと思うのだが、伝統工芸の凋落ぶりを 思い知らされた気分。  午後3時。きょうの目的地「茶寮宗園(さりょうそうえん)」へ。  最近、日本旅館は「どん底」の底に足が届いて、一気に底を蹴ったかの ように、新しくて、豪華で、接客の見事な旅館が立て続けにオープンして いる。  3000坪の敷地に、客室がわずか10室といった、ゆったり旅館が増 えているのだ。  この「茶寮宗園(さりょうそうえん)」も、そんな新しい和風旅館のひ とつ。    玄関広く、畳が敷かれた廊下を歩き、離れの客室へ。  部屋が広い! 部屋数も多い!  まるでここで『赤穂浪士』の映画ロケが出来そうだ! 「吉良殿はいずこに!」 「吉良殿! 出ませいっ!」 「吉良殿は、まだ見つからぬか?」  窓を開けば、あれま! 熊本の水前寺公園の庭園のような築山が目の前に 広がる。これは見事な開放感だ。  さあ! ここで、きょうはこれからひたすら「ぼ〜〜〜ッ!」とするので ある。意気込んでどうーする!
 でも、本当に「ぼ〜〜〜ッ!」としてしまった。
 部屋についている露天風呂は、タタミ2畳ほどの広さなので、小さいなあ と思ったのだが、入ってみると、広い、広い! 広大な庭園を眺めながら、 「は〜〜〜、極楽! 極楽!」。  お風呂を出て、夕飯まで、本を読みながら、仮眠!  午後6時30分。料理が美味しいと聞いてはいたけど、新宿伊勢丹デパー トの「正月屋吉兆」にそっくりな料理に、一品だけ、「プティポワン」の洋 風な料理が加わったような感じの噂どおりの美味しさだった。  夕食を食べたら、また露天風呂で「ぼ〜〜〜ッ!」。  ライトアップされた庭を眺めながら「ぼ〜〜〜ッ!」。  指先がふにゃふにゃになるまで「ぼ〜〜〜ッ!」。  お風呂を出たら、マッサージさんに身体を揉んでもらって「ぼ〜〜〜ッ!」。  マッサージがすんだら、また露天風呂で「ぼ〜〜〜ッ!」。  泉質が、ちょっとしょっぱいなあと思いながら「ぼ〜〜〜ッ!」。  リューマチ、神経痛に効くのかと思いながら「ぼ〜〜〜ッ!」。  本当に「ぼ〜〜〜ッ!」としちゃったよ〜〜〜!  TVもとうとう見なかったよ〜〜〜!  いやあ! いいねえ! 「ぼ〜〜〜ッ!」っとするのも!  せっかく旅行用の枕を持って来たのに、なんとここの枕は、家でつかっ ている枕とまったくおなじものだった。  これなら、ぐっすり眠れる。    こういう楽しみ方もいいね。  くかー、くかー!
 

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