10月10日(水)

 1週間ほど前の土居ちゃん(土居孝幸)との会話。
「土居ちゃん! そろそろ石巻(いしのまき)の石ノ森萬画館に行かない?」
「石ノ森章太郎さんの記念館ですよね。そういえば夏ぐらいにオープンした
んでしたっけ?」
「オープンと同時に行く予定が、『桃太郎電鉄X』のせいで、ずっと行けな
かったら、田森庸介さんに先を越されちゃったよ〜!」
「田森さんなら行きそうだなあ」
「来週ぐらいに行こうよ! 仕事の打ち合わせを兼ねて! 柴尾英令くんも
誘ってさ!」
「1日目の夜は、やっぱり『大胡椒』で、仙台牛かな?」
「行きたいねえ!」

「さくまサン! 仙台に夜着くとして、昼間はどこかに寄って行けませんか
ねえ!」
「う〜ん。最近、鳴子温泉を視野に入れているんだけど、温泉に行って、
お湯に浸からず、仙台に戻るのもねえ!」
「温泉入りたいですよねえ!」
「山形は去年の11月にいっしょに行ったしねえ!」
「1015段の山寺に登りましたねえ!」
「本当は、いちばん行きたいのは、米沢なんだ。上杉鷹山(ようざん)の新
しい博物館が、9月の末にできたはずなんで!」
「それいいじゃないですか! 上杉鷹山(ようざん)って、次のゲームに登
場させる人でしょ?」
「うん。でも米沢の名物というと、米沢牛なんだよ! お昼に米沢牛で、夜、
仙台牛っていうのもねえ! 狂牛病の真っ只中というのに…」
「おもしろいじゃないですか!」
「土居ちゃんらしいなあ!」
「だってねえ、なんかあの報道ってちょっとねえ…」
「う〜む。過剰報道な気がする。でも狂牛病というより、1日2回、牛を食
うことのほうが問題のような気もするけど。一応、柴尾英令くんにも聞いて
みるよ!」
「そうしましょう!」

 午前9時30分。現在、世間の関心事といえば、アフガンの空爆か、狂牛
病である。
 しかし、ここ東京駅には、肉骨粉(にくこっぷん)ならぬ、肉肥粉(にく
こえふん)のような4人が集まっていた。やっぱり狂牛病報道の真っ只中、
米沢牛、仙台牛を食べに行くツアーになってしまったのであった。

 柴尾英令くんとの会話。
「柴尾く〜ん。土居ちゃんが、お昼、米沢牛を食べて、夜に仙台牛を食べる
という話をおもしろいというんだよ〜!」
「当然でしょう! こんなときこそ、ボクたちが和牛を食べてあげなきゃ!」
「ダメだ、こりゃ!」
 今回の旅行で、柴尾英令くんには、ミスター・スタマック(胃袋)の称号
を与えることになる。いや、土居ちゃんと合わせて、胃袋兄弟と呼んだほう
がいい。そういえば土居ちゃんは、ちょっと前まで、宮路一昭くんと、夜食
ラーメン兄弟というユニット?を組んでいた。
 いろんな人と、ひそかによく食べる男だ。

 午前10時16分。新幹線つばさ119号は、どういうわけか異常に混ん
でいた。行楽の秋のせいかな。
 基本的に、飛行機で行ける場所が、3時間以内で電車で行けるようになる
と、飛行機のお客さんを電車に取られるらしい。このつばさは、山形行きで、
山形まで3時間以内になったとたん、飛行機のお客さんがいっせいにこの
つばさ新幹線に鞍替えしたそうだ。以内、ずっと好調のようだから、順調に
混んでいるだけなのかもしれない。
 13号車に私、14号車に、嫁。15号車に、土居ちゃん、柴尾英令くん
と分かれて乗る。別々の乗車になっても行くことをやめない。この人たちは、
牛肉至上主義のようである!
 思い思いに勝手なキャッチフレーズを考えている。
「がんばれ! 和牛!ツアー」
「VIVA! 狂牛病ツアー!」
「朝から晩までは無理だけど、和牛ツアー!」
「ぎゅうぎゅう(牛々)詰めツアー!」

 私の日記を熱心に読んでいる人は、あるジンクスを思い出してほしい。
 私は取材の仕事ででかけたとき、90%以上の確率で快晴になる。ところ
が遊びがメインで行くと、雨天になってしまうのである。
 そんなわけで、きょうは朝から雨である。
 牛のことしか頭にない男ふたりのオーラのほうが勝っているようだ。
 しかも新幹線の座席が離れているから、仕事の打ち合わせができない。
 嫌なジンクスだ。

 午後12時25分。米沢駅着。
 雨はずっと降り続けている。
 タクシーで、「登起波(ときわ)」へ。
 米沢牛のなかでもいちばん美味しいお店とホームページ上に書く人が多い。
「看板に、『すき焼きの登起波』って書いてある。でも昼間っから、すき焼
きとはきついなあ!」
「すき焼き! いいじゃないですか!」と、柴尾英令くん。
 マイクロ・ダイエットで痩せたはずの柴尾英令くんであるが、最近お腹が
ぽっこり出始めている。リバウンドが始まっているな。
 
 お店は老舗というわりには、庶民的な感じ。
 創業明治27年というから、100年以上か? 
 米沢牛のすき焼きを注文する。
 さすがに、ステーキコースと網焼きコースは却下!
 おお! 来た! 来た!
 おや? ここのすき焼きには、白菜が入っていないのか。関東ではすき焼 きに、白菜を入れるけど、九州から近畿にかけての西日本では、白菜の代わ りに、タマネギを入れる。  関東以北は、白菜を入れるだろうと思い込んでいただけに、ちょっと意外。  ひさしぶりに、みんなの地方は、すき焼きの具に何を入れるのか教えてほ しくなる。  ほかにも、ここのすき焼きには、しらたきのほかに、木くらげが入っている。  そういえば、しらたきも関東特有で、関西は、葛きりを入れる。 「あれ? これってミートボールですか?」 「そうですよ! じっくり火が通るまでじっくり煮込んでくださいね!」  すき焼き用の肉のなかに、おでんのつみれみたいに丸まったお肉の玉が 4つあったのだ。おもしろい趣向だ。このミートボールの味をお伝えしたか ったのだが、空腹だった4人はまんまと、じっくり煮込む前に食べてしまっ たので、正しくお伝えすることができませなんだ。面目ない。  でも、すき焼きのお肉のほうが…。  も〜〜〜う〜〜〜.思わず、身体がふわ〜っと5センチほど浮いてしまう ような美味しさ! 天にも昇る思いとは、まさにこのこと。  割下(わりした)が特性のたれって書いてあったけど、たぶんこれは醤油 に味噌を加えているな。この甘さは味噌の甘さだ。これが秘伝だな。  お肉の量も半端じゃない。食べども、食べども、お肉のお皿から、お肉が 消えない。このまま調子に乗って、食べ続けると、お腹が危ない。 「ふい〜〜〜! もうダメ! 柴尾くん! 私の肉を君にあげよう! 肉の 領地はすべて切り取り次第じゃあ!」 「わっはっは。じゃあ、いただきま〜す!」  食べる、食べる、柴尾英令くん。 「う〜〜〜ん。本当に美味しいなあ、これ!」  本当に、柴尾英令くんは、「牛肉を美味しそうに食べるコンテスト」って のがあったら、文句なしでぶっちぎり1位になるだろうなあ!  ただでさえ、顔の造作がぜんぶ丸いのに、さらにぐるぐる丸くなっている。
 げっ! 土居ちゃんと、柴尾英令くんは、ご飯をお代わりしているぞ。こ の人たちの胃袋はどうなっているんだ? 柴尾英令くんは、卵もお代わりだ。 もちろんビールもお代わりだ! す、すごい人たちだ!  いったいこのお店の一人前はどういう尺度なんだろう。  この胃袋兄弟たちが一人前で「苦しい!」と言っている。
 東京の美味しいすき焼き屋さんは、お肉がちょこっとで、追加注文しない と、お腹がいっぱいにならない量というのが、通例だ。  とにかく美味しいものをたらふく食べたんだから、満足、満足!  食後、ザーザー降りの雨のなか、上杉神社に向って歩く。  さすがに、みんな食べ過ぎ!  少しでも腹ごなしをしないと。  地図で見て近いと思っていた上杉神社は、けっこう遠い。  でもたまに立派な蔵などあって、美しい町だ。
 雨が降っているせいもあるのか、なにやら神聖な風がこの町に流れている ような気がする。空気がひんやり涼しいのだ。    午後2時30分。上杉史跡苑に着く。  ここは、広大すぎる土地に、お土産品を売る建物と、上杉博物館、上杉神 社といった施設が全部揃っている。間違いなく東京ドームより広い。  米沢という町が、いかに上杉鷹山(ようざん)を大切にしているからが、 ここにいると、ひしひしと伝わってくる。  本来なら、米沢というのはあの伊達政宗が切り開いた町でもあるのだから、 伊達政宗関係で埋まっていてもおかしくないのに、それ以上に、上杉鷹山 (ようざん)をフィーチュアしているのは、ちょっと感動的。
 最新の上杉博物館がよかった。 「洛中洛外図」の3D映像がいい。  今回の『桃太郎電鉄X(ばってん)〜九州編もあるばい〜』でも、こうい うCGの使い方をしたかったんだよ〜! CGって、イメージをこうしたい! って、伝えるのも複雑なのが、やっかいだ。紙の上で書いても、受け手が勘 違いしていることがわかるまでの潜伏期間が長すぎる。しかも気づいてから では、手遅れになることがほとんどだ。  でもこの映像のこういう使い方なら、ゲームでも使いたくなるなあ。  背景の建物を3Dにして、手前の人物を2Dの板ポリゴンで描く。この手 法なら、日本的な画面でも合うと思うんだあ。ぶつぶつ…。
 鷹山(ようざん)シアターでの、上杉鷹山(ようざん)の生い立ちビデオ もよかった。3面あるスクリーンを使って、上杉鷹山(ようざん)役の役者 さんが、西村和彦さん、奥方役に、紺野美沙子さんと豪華。  こういう記念館の生い立ちビデオっていうのは、売れない役者さんをつか っていかにも安易に作りましたというのが多いのだけれど、この映画はよく 出来ていた。     駆け足で見たはずなのに、すでにこの博物館に1時間以上いた。
 あと少ししか時間がないので、必死に、上杉神社まで行く。  好例、土居ちゃんの「小銭をお賽銭箱にありったけぶちまけ〜! ドンガ ラガッシャ〜〜〜ン!」の儀式を見る。  いつもながら豪快で、ほかの観光客の耳目を集めていた。  旅行中って、面倒だからお札をつかってしまうから、小銭がたまってしま うんだよなあ!  午後4時30分。米沢駅。  土居ちゃんと柴尾英令くんが、胃薬を飲んでいる。
「胃薬を飲んでまで、牛肉を食べるなよなあ!」 「いやあ、お昼のすき焼き、美味しかったから、食べ過ぎた!」 「量が多かったもんなあ!」  午後4時50分。米沢駅から、つばさ140号に乗って、福島駅に戻る。  午後5時29分。3分遅れで、福島駅に到着。  午後5時45分。福島駅から、MAXやまびこ207号で、仙台に向う。 日本地図にくわしい人なら、米沢から福島へ、さらに仙台へV字ターンで行 く愚挙がご理解いただけると思う。  午後8時16分。仙台駅着。  いつも思うのだが、仙台駅ぐらい、駅前が美しいところはない。  目の前のビルがすべて新しくて統一がとれている。 「歩行回廊」と呼ばれる、2Fの遊歩道もきれいだ。  駅構内も、随所にエスカレーターが配されているので、歩きやすい。広いし。 「美しい駅大賞」なんていうのがあったら、私は仙台駅を推薦したい。  地下街のお土産品売り場は、間違いなく日本一の豊富さだ。  午後7時。やって来ました。「大胡椒(だいこしょう)」!  私の日記のなかでも、とくに反響の大きい牛肉屋さんだ。
 すでに10人近くの人が、私の日記を読んでから、初めてこのお店を訪れ ている。いつものように、佐々木さんが…おや、いない。顔なじみになった 佐々木さんがいない。  お店の人に聞いてみると、この近くの支店のほうをまかされたようだ。そ っちのほうは、イタリアンとはフランス料理のお店だとか。    やっぱり顔なじみの人がいないお店の味というのは、1割から、2割減だ なあ。  いつものガーリック海苔巻も小さく見えてしまう。  お肉はいつもながらのいい味を出していたんだけどねえ。  最近、1万円以上の和食屋さんだと、いくらいい味でも、おしゃべりの上 手いご主人がいないお店は、ほとんど閑古鳥が鳴いている。  もはや、値段だけの不景気ではないのだ。  人間も不景気になったのだ。 「味+話芸」の時代ですなあ。飲食店も。  けっきょく、佐々木さんがいたときはいつもガーリック海苔巻をお土産に くれたんだけど、今回は無し。かなり、くやしい。  午後8時30分。仙台国際ホテルの1Fで、ちょいと仕事の打ち合わせ。  でもみんなお腹が苦しくて、目の覚めるようなアイデアが出るわけもなく、 各自の部屋へ。  私は旅行好きのくせして、枕が変わると、眠れないほうだと以前書いたこ とがある。実は先週の松本のホテルから、枕を持参することにしたのだ。大 人の腕の肘から手首ぐらいの大きさのまさに、腕枕になるような小さなうた た寝用の枕だ。ただ、畳(たたみ)が巻いてある。  どうもホテルの枕って、ふっかふかで、耳がふさがるくらい潜ってしまっ て、居心地が悪いのだ。家でつかう枕は固いので、ホテルの枕はとくに馴染 めない。  今回で、この枕をつかうのは2回目なのだが、すぐ目が覚める癖は直らな いまでも、眠りが深いので、疲労度が少ない。このパターンはけっこういけ るぞ!と思うのだが、ちょっとかさばる。コンピュータよりも楽だけどね。 今回、VAIOを置いてきたら、気持ちも身体も楽!  明日は、石巻!
 

-(c)2001/SAKUMA-