9月19日(水)

 午前9時30分。しまった。高松空港行きのバスに乗り遅れた。
 やっぱり飛行機に乗るのが嫌いなせいだなあ。
 きょうはこれから、高松空港から、関西国際空港経由で、香港に行く
ことになって…いるわけがない。はっはっは。3人ぐらいは驚いてくれ
たかな?

 午前10時。高松空港。
 到着ロビーに向うと、柴尾英令くんと、うちの嫁が向こうからやって
来た。
 桃太郎チームのおもしろいところは、集合時間とかが実にアバウトで、
きょうも高松空港にお昼ぐらいに集合といういい加減さなのだ。
 たまたまうちの嫁と柴尾英令くんが、おなじ飛行機を予約したので、
私がこうして迎えに来た。
 土居ちゃん(土居孝幸)はこのあと1時間後の飛行機で来るようなの
で、3人で空港の喫茶店でお茶を飲んで待つ。
 もちろん、桃太郎チームはいつでもどこでも仕事の打ち合わせに入れ
るので、この喫茶店で柴尾英令くんと仕事の打ち合わせをしながら、土
居ちゃんを待つ。
 けっこう仕事上、重要なことが決まったりする。

 午前11時。到着ロビーで、土居ちゃんを待つ。
 背広姿の人に混じって、ラフな格好で長身な土居ちゃんはよく目立つ。
「あれ? さくまサンも来てるの?」
「オレが空港にいちゃ、悪いか!」
「何か変ですよね」
「飛行機に乗っていたら、変なだけで、空港は好きだぞ! 観光物産の
お店も多いし!」
 土居ちゃんの大学時代の同級生で、FMマリノ社長の酒井秀樹くんも
到着する。
 FMマリノの大谷くん(横浜ベイスターズ・ファン!)もいっしょ。
 これでまず第1弾のメンバー6人が揃う。

 午後12時。今年、二度高松に来て、すっかり讃岐うどんマニアにな
ってしまった私と土居ちゃんは、噂の「山越(やまごえ)」に向う。
 仲間うちでは、いちばんのうどんマニアである、岸本好弘(きっしい)
さんからの「さくまサン、山越(やまごえ)だけは一度行っておいたほ
うがいいですよ!」という言葉がずっと頭にこびりついていた。

 車は、のどかな田園風景を抜けて行く。ときおり大きな溜池を脇を通
る。どこまでもどこまでも田園が続いて、大きさの概念がくるい始めた
頃に、綾南(りょうなん)町に到着。
 もっと田んぼのなかの一軒家みたいな、とびきり辺鄙(へんぴ)な場
所を想定していたのだが、意外な住宅街のなかにあった。それどころか
第一駐車場、第二駐車場まであった。
 さらに驚くべきは、本来、製麺所であるこのお店に、平日だというの
に、30人以上もの行列ができていることだ。東京杉並区の住宅街の一
軒に、30人以上の行列ができているようなものだ。異様な雰囲気。
 しかし、この町は、この混雑を我関せずのように静かだ。  お客さんたちも静かに並んでいる。  誰も初めて来た感じではなく、サンダル履きで来たような気軽さだ。  何かに似ている。そうだ。学校のバザーや、文化祭の模擬店に雰囲気 が似ているのだ。  製麺所に入って、さらに一列に並んで、遠くからおばちゃんに「その 後ろの人は?」と注文を聞かれるところなど、まさに学食のようだ。妙 になつかしい。  各自、バラバラに注文。  私と嫁は、冷やし月見うどん、ふたつ。釜たまうどん、ひとつ。天ぷ ら2枚を注文する。すごく量の多い注文でしょ。要するにふたりで、3 人前だ。さて、このお値段は? 600円なのだ。拍子抜けする値段で しょ? 東京なら、うどん1杯の値段だもんねえ。  その値段のうどんが、感動するほど美味しいのだから、困ってしまう。  うどんの麺のぷりぷり度なら、前回来たときの「あたりや」のほうが、 まるでイカを噛んでいるような食感で上だ。でも、ほどよい弾力、甘味 のある醤油だれのうどんを食べていると、歌唱力、リズム感、表現力の バランスの取れたベテラン歌手のように、りりしい。
 なるほど、「キング・オブ・讃岐うどん」と呼ばれるだけのことはあ る。  トッピングの天ぷらも、昆布の天ぷらだったり、1本丸ごとゴボウの 天ぷらだったりして、豪快&野性味たっぷり。  ますます讃岐うどんの奥深さに、感嘆せざるをえない。  しかし高松市内からも相当遠いこの讃岐うどんのお店に、東京の人間 が何度も来るのは至難の業である。今後どうしたらいいのだろう。  午後1時。「源平屋島(やしま)の合戦」でおなじみの屋島に程近い、 庵治(あじ)の石材屋さんへ。  そろそろ何度も、こうして1年間に3度も四国高松を訪れている理由 の種明かしをしようと思っている。きょうの日記と合わせて、過去2度 の高松行きを丹念に読み返してもらうと、「な〜るほど!」という私の 不可解な行動に意味があったことがわかるはず。当時は、本当に意味の 無い行動だったんだけどね。  それでは、発表します!  ダラダラダラダラダラダラッ、ストンッ、ジャ〜〜〜ン!  実は、1.5メートルぐらいの桃太郎の石像を作って、高松市内の鈍 行が停まる駅に寄贈しようという大それた計画が深く静かに、進行して いたのであった。  ワーーー! ワーーー! ワーーー!  パチパチパチパチッ!  ワーーー! ワーーー! ワーーー!  パチパチパチパチッ!  というわけで、きょうは石材屋さん探しの旅がメイン。 何たって、私と土居ちゃんが中心になって、自腹で石像を作って、駅に 置いてもらうつもりなので、値段によっては、断念しないといけない。 値段が高ければ、手のひらサイズの石像を作って、自分の家の机の上を 飾って終わりになってしまうかもしれないのだ。
 その第1弾が、この「マルサ・センター」さん。  私がたまたま平賀源内記念館に行ったときの帰りだったかに見つけた お店だ。  お店に入って行くと「あれ?」。どっかで見たようなデザインがある ぞ!?  あれ? おいおい!! こ、これは!
 黒ヒゲ危機一髪ぐらいの大きさの貧乏神と桃太郎の石像ではないか!?  えっ? 土居ちゃんが送ったラフ・デザインを元に、サンプル用の小 さな石像を作ってくれちゃったってわけ〜? 部分、部分で色が違うの は、色見本のためにわざとやってくれたの? 何だかモーレツに感動!  最近こういう人の情に飢えているので、いきなりこのお店に決めたく なってしまう。  午後3時。今度は、もう一軒の石材店「三好石材」さんへ。  値段を安くしてもらうために、いろいろ見積もりを立ててもらってい るわけよ。家を買うときより、よっぽど慎重に動いている自分が笑える。  ここのお店の人は、『ジャンプ放送局』世代だったり、店員さんが 『桃太郎電鉄』世代だったりするので、提案まで出してくれた。  私と土居ちゃんは一生の記念だから、桃太郎と貧乏神さえ石像になれ ば、まあ、満足だなあと思っていた。しかも貧乏神の頭の上に、サルを 乗っけて、貧乏神を触ってから、サルを触ると「貧乏が去る!」になる というアイデアを自画自賛していたのだった。  ところが、三好石材さんのほうから「『桃太郎電鉄』なんですから、 汽車も入れたほうがいいと思いません? 客車の部分がベンチになるタ イプのデザインがあるんですけど?」と、以前作った汽車の石像写真を 見せてくれるではないか!  眠っていた、私の頭脳が急速回転し始める! 「土居ちゃん、土居ちゃん! 横から見た絵を描いてくれない? 汽車 の前に、桃太郎がこっちを向いて立って、敬礼しているの。でさ、汽車 の後ろに、貧乏神がこっちを向いて立っているの!」 「ん! 貧乏神の上にはサル。汽車からイヌと、キジが顔を出していれ ば…」 「そうだよ! まさに、『桃太郎電鉄』のゲーム内容そのままの石像に なっちゃうんだよ〜!」 「これを駅に置いたら、家族連れで来てくれて、子どもを汽車に乗せて、 記念写真を撮ってくれますよね!」 「そうだよ、そうなんだよ!」  まるで金田一耕助の最後の種明かし場面のようにスラスラ、謎解きが 解けて行く。その場で土居ちゃんに絵を描かせると、『桃太郎電鉄』世 代の店員さんのほうが、今度は驚く。土居ちゃんが目の前で絵を描くと ころを見ることができるチャンスなんて、そう簡単にあることじゃない からね!
 あとは、値段の折り合いさえつけばということで、三好石材さんを後 にする。  うれしいやら、苦渋やらだ。  最初に行ったお店の人のサンプル貧乏神には感動してしまった。でも 汽車付きの『桃太郎電鉄3点セット』も捨てがたい!  でも予定していた石造の規模よりも、倍の大きさになってしまうぞ。 大きさが倍になれば、お金もかかる。  そこまでの料金は考えていなかったぞ!  う〜む。どうしよう?  これから待ち合わせる予定の人間を辻斬りするしかあるまい…。  午後4時。「YOU ME タウン」へ。  今年5月にここで「桃太郎電鉄人形焼き」のお披露目イベントをやっ て、さくまにあの高木明光くんを始め、吉良孝二くん、杉田わいんサン 夫婦、草加伊織さん、もっこりスライムくんなどが来てくれた、あの 「マイカル」よりも巨大な大阪城のようなスーパーだ。  ここできょう最後に合流の人物と待ち合わせる。
 午後4時30分。大阪から、ハドソン桃太郎事業部の梶野竜太郎くん が到着する。実は来年の1月に、『桃太郎電鉄』の日本一プレイヤーを 決める全国大会を予定しているんだけど、その四国予選大会をこの「Y OU ME タウン」でできないかと?いうロケハンで来たのだ。  梶野竜太郎くんは、酒井秀樹くんを交えて、お店の人といろいろ打ち 合わせ。  打ち合わせが終了したところで、梶野竜太郎くんを呼ぶ。 「梶野くん! 梶野くん! **万円出してくれたら、いい物見せてあ げるんだけど、どう?」 「**万ッすかあ!?」 「100万円以上でもいいよ!」 「金額増えてるじゃないッすかあ!」 「ほうれ、ほれ、ほれ、ここまでだと5万円。ここから先は、10万円 ですぜ、お兄さん! ほうら、もっと見たいだろう?」と、土居ちゃん がデザインした石像3点セットのラフ・デザインを少しずつ見せる。 「ほうら、お金出してくれないと…、石像の後ろに、『土居孝幸氏、 さくまあきら氏、寄贈』の文字の後ろに、『ハドソンはお金を出してく れなかった!』と、彫っちゃうよ〜!」 「な〜んすか、その脅しは!」 「おとなげないぞ〜、こういうことになると、オレたちは!」 「はっはっは。まいった!」  なんとか、ハドソンの抱き込みに成功!  次ぎ、行ってみよう! いかりや長介さんか!?  午後5時。FMマリノ本社へ。  なんと、ここで、現在生放送中の番組に、突然、土居ちゃんと私が飛 び入り出演! ここで初めて、この「桃太郎電鉄石像計画」を発表して しまったのであった。さあ、これでもう引き返せないぞ〜!
 放送終了後、前回「桃太郎電鉄人形焼き」誕生のきっかけを作ってく れた、久本酒店の社長・佐藤さんが合流。この日記を読んでる人はもう、 いま誰がこの場にいて、誰がいなくなったのかわからなくなっていると 思う。ほとんど、朝から人数が増えているだけで、減っていない。  FMマリノ社長・酒井秀樹くんと、大谷くん(横浜ベイスターズ・フ ァン! えらい!)、土居ちゃん、柴尾英令くん、久本酒店の佐藤社長、 私、嫁、総勢7名で、いよいよ、石像計画の画龍点睛! 石像設置を希 望している駅へと向うのであった。  午後6時。高松駅から、ふたつめの駅「鬼無(きなし)駅」へ。  この駅の名前は正しくは「鬼無桃太郎駅」なのだ。  この駅の近くには、桃太郎神社もある。  というわけで、この駅のどこかに、桃太郎電鉄3点セットの石像を設 置しようと思っているわけだ。  ここなならどうだ、こっちならどうだ、と丹念にロケハンする。  JR四国さんが「やっぱりダメ〜!」と言ったら、この話はご破算に なっちゃうんだけどね。でも酒井秀樹くんを通じて、JR四国の梅原社 長さんにこの話をしてもらって、OKをもらっているのだ。こういうこ とにはぬかりが無いぞ、私は。
 全員、この駅に桃太郎電鉄3点セットの石像が立って、たくさんの人 がここで記念撮影している姿を思い浮かべて、にやにやしている。 除幕式にはぜひ榎本47歳も連れて来たいものだ。 そんなことを夢想しながら、電車に乗って、高松駅へと移動する。
 午後6時30分。全日空クレメントホテル高松にチェック・イン。  私は2泊目〜!  午後7時30分。酒井秀樹くんのご招待で、市内のお寿司屋さん「福 家(ふくや)」さんへ。  地のものの魚が食べられた上に、茄子田楽や、味噌漬の白身魚が抜群 に美味しい不思議なお店。前菜のアヴォガドには度肝を抜かれたが、美 味しい!  さすがお寿司マニアの酒井秀樹くんならではのチョイス!
 梶野竜太郎くんと、柴尾英令くんの酔っ払い対決あり、横浜ベイスタ ーズ・ファンの大谷くんと、私の治外法権的横浜ベイスターズ話あり、 酒井秀樹くんと土居ちゃんの漫画研究会昔話ありの、バトルロイヤル入 り乱れ! まるで幕末の勤王の志士たちの宴会騒ぎのように盛り上がる。  午後10時。ホテルに戻って、TV見て、風呂に入ったら、午前1時 を過ぎていた。1分の無駄のない、怒涛のような1日であった。 「桃太郎電鉄石像化計画」は、9分9厘実現の予定。あとは年末完成が 可能かどうか? 来年の1月ぐらいまでずれ込むかも。少々遅れてもい いから、ぜひ実現したいものだ。  ああ、またしても興奮して、眠れない…。
 

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