6月9日(土)

 午前9時。ゴムぞうりをはいて、鎌倉由比ヶ浜の海岸へ。
 もはや全国のお城を登れるまでに回復した足も、まだゴムぞうりが
うまくはけない。去年までまったくはけなかったのに、歩けるように
なったのだから格段の進歩。
 でも、もどかしい。6年もリハビリを続けて、こんなものかと思う
気持ちと、まったく動かなかった足がここまで回復する人間の力と精
神力の脅威と、両方を感じる。

 わずか数分で、海岸での日焼けを断念。
 家に戻って、庭で日焼け&読書。
 きょうのBGMは『ウォーカー・ブラザーズ・ベストアルバム』。
 30年以上も前に『スタンド・バイ・ミー』を歌っていたグループ
だ。『ダンス天国』と『孤独の太陽』のヒットで知られるグループ。
日本に来て、学生服を気に入り、ステージで学生服を来たことから、
日本じゅうでミリタリー・ルックが大流行となった。

 こっちの鎌倉の家には、昔のアーティストのCDばかりおいてある
ので、どうも選曲が古い。
 
 太陽が雲に隠れると、急に寒くなる。
 雲から出ると、顔がちりちりするほどの暑さになる。
 ただ日光浴しているだけだと、飽きてしまうのだが、読書とCDの
組み合わせはいいねえ。
 きょうもビジネス書を1冊読めたし、CDが終わるのを限界点とし
ている。CDは長くても90分。サーモスタットのように、CDが終
わったら、日焼けをやめる。でないと、日射病になる。
 過去、2回も沖縄で、日射病になったことがあるので、用心、用心。

 さて、昨日、土居ちゃん(土居孝幸)に電話したら「あれ? さく
まサン、まだ鎌倉にひとりでいるの? 怪しいなあ。愛人でも来てい
るんじゃないの?」と大きなお世話。
 土居ちゃん、愛人をわざわざ家に入れるようなヘマはしないよ。
 これから愛人に会いに行くのだよ。ふっふっふ。

 午前11時30分。江ノ電で鎌倉へ。
「不二家」で食事。ハンバーグのせオムライスという、不二家ならで
はのお下品なメニュー。ハンバーグとオムライスというお子ちゃまの
大好きなメニューの共演は確かに、ありそうでなかった。見事なり。
「まずい!」ち言いたいけど、やっぱり美味しいや。  午後12時01分。鎌倉駅から横須賀線に乗って、横須賀に向う。  鎌倉から横須賀まで、わずか4駅。近い!  愛人の家まで、タクシーで。  午後12時30分。追浜の横須賀スタジアムへ。  へっへっへ。愛人の名前は、湘南シーレックス。横浜ベイスターズ の2軍チームだ。わっはっはっは。私の愛人は、横浜ベイスターズに 決まってるでしょ? 「愛人だけに、魅力的だけど、日陰(下位)にいて、表に出てこない」。 大喜利やってんじゃねーだよ!
 何でもいいや。とにかく鎌倉長谷の家を買って、いちばん最初にや りたかったのは、この湘南シーレックスの試合を見に行くことだった のだ。  きょうは、西武ライオンズの2軍との試合だ。  おっと。本妻の嫁から電話だ。町で着メロが鳴っても、まず気づか れることがないのだが、ここで着メロが鳴ると、ちょっと恥ずかしい。 だって、横浜ベイスターズ応援歌が着メロだから。  横須賀スタジアムは、しっかりしたコンクリートのスタンドのある きれいな球場だ。バックネット裏と内野までに、マリーンブルーのシ ートがあって、外野が芝生になっていて、入ることができない。  両翼98メートルと決して狭い球場ではない。  しかし、2軍の試合だというのに、観客が多い。  球団の発表では、1038人だそうだ。えっ、そんなにいるんだ。 西武側は別として、湘南シーレックス側が、びっしり満員だからね。
 グランドでは、スピードガン・コンテストをやっている。  お客さんに混じって、湘南シーレックスのマスコット・レックくん も投球する。  へろへろの山なりの遅いボールを投げて「ただいまのレックくんの スピードは、148キロでした!」のアナウンスに場内大爆笑。  やっぱり2軍戦ならでは、のどかさかな?  選抜されたお客さん全員が投げ終わったあとも、アナウンスは「き ょうのスピードガンによる最高速は、レックくんの148キロでした!」 と駄目押しをいうのが、笑える。  午後1時。試合開始。  西武ライオンズ側の攻撃。1番…あれ? 高木大成なの? 高木大 成って、2軍にいるような選手じゃないでしょ。  すかさずスタンドから「高木大成〜! 横浜に来てくれ〜〜〜!」  わ・し・も・そ・う・思・う。  湘南シーレックスの投手は、ホージマー。  今年いちばん期待されていた外国人選手だったのになあ。  おっと。いきなりファーストのエラーで出塁されて、点が入ってし まった。あっけない。  1回表。西武ライオンズ1点。  1回裏。湘南シーレックスの攻撃。  この日記を読んでいる人には、ほとんど知らない名前ばかりだけど、 影のオーナーである私が、生まれて初めて横浜ベイスターズ2軍の試 合を見た記念に先発メンバーをここに記載する。       (遊)内川       (中)田中充       (左)古木       (三)宮内       (右)ズーバー       (一)七野       (捕)鶴岡       (ニ)小池       (投)ホージマー  西武ライオンズの先発投手は、大沼投手。知らないなあ。  あとで調べたら、どうも昨年のドラフト1位投手らしい。どおりで いい球投げるわけだ。150台のスピードが出るらしい。  何たって、4回裏まで、湘南シーレックスは、この大沼投手から、 安打0だからねえ。やだよ〜。初めて見た2軍戦が、ノーヒット・ノ ーランだったなんて!  しかし、いい投手に当たると、まったく音なしの構えになってしま うところは、1軍譲りだなあ。せめて、3安打に抑えられてならわか るんだけど、ゼロとはあまりにも無為無策。       西武101 30       湘南000 0  順調にホージマーが、打たれて、すでに4対0。おまけに無安打の まま。  ヒマなので、1軍の選手と2軍の選手の違いを考える。  ひとつには、身体つきが違う。  西武の高木大成は本来なら1軍にいて当然の選手。がっちりした身 体をしているし、ムードを持っている。うん。これだ。1軍の選手は ムードを持っている。  と思った瞬間、湘南シーレックスの選手がアウトになったとき、後 ろで子どもが「あ〜あ〜。惜しいなあ。いまの石井琢朗だったら、セ ーフだったね!」。  そうだよなあ。1軍の選手は必ず、特徴をひとつ持っている。    土居ちゃん(土居孝幸)に顔が似ているといわれる小桧山投手が出 て来た。  小桧山投手は、2軍戦だと、伸び伸びとした球を投げる。  いつもの四球病が出るものの、次の打者をあっさり、三振に切って 取る。1軍の試合だと、四球から自滅して、連打を浴びるシーンしか 見たことがないのになあ。2軍なら、大エースだ。  何が違うんだろうなあ。  1軍と、2軍の間には、得体の知れない「スターゲート」がそびえ 立っているんだろな。  4回裏。ようやく湘南シーレックス側は、内川内野手のヒットで点 が入った。  4対5とまで追い上げたのだが、実は内川選手の安打が1本だけ。 エラーがらみで入れた点だ。  内川選手は、昨年のドラフト1位選手。横浜ベイスターズには珍し く大きな身体の遊撃手だけに、将来が期待されている。  打席に立ったときも、独特のムードを持っている。  ◎をノートに記しておこう。  中盤から、湘南シーレックスは、1軍にいた投手が続々登場する。  森中投手、河原投手。谷口投手。  アナウンスされる度に、スタンドがドッと沸く。  豪華リレーを2軍戦で見たくないなあ。  観客1000人とはいえ、小さいスタンドなので、野次の声がよく 通る。  なかにはおもしろい野次もある。  河原投手のときだ。 「いいぞ、いいぞ、河原! その調子だ! 高木大成! 打てるもの なら、打ってみろ〜〜〜!」  このあと高木大成は、河原投手からヒットを打つ。 「河原〜〜〜! オレの立場を考えてくれ〜〜〜!」。  こういうやりとりは楽しい。  横浜ベイスターズ(湘南シーレックス)のファンは、味方を罵倒し たりすることが少ないから、野次を聞いていても嫌な気分にならない。  さすがにあまりにも連打されるホージマー投手に、赤ら顔のおっさ んが「ホージマー、帰れ!」と怒鳴ったが、すかさず「おっさん、ホ ージマーは日本語わからんよ〜!」と、のどか。      西武101 301 003│9      湘南000 040 002│6  午後4時。4対5と追い上げたけど、谷口投手が福本内野手のエラ ーから大量点を取られて、最終回、期待の内川選手がきょう3安打の 猛打賞を打つものの、反撃はここまで。  エラーした内野手の名前が悪いなあ。福本…。こういうところで、 ちゃんと福ちゃんをネタにしないと、福ちゃん、怒るからなあ。根っ からのコント作家だよなあ。福本選手…と何にも触れずに通り過ぎる のが、福ちゃんに対するいちばんの責め苦になる。  しかし、長い試合だ。ぴったり3時間だもん。  いいかげん、プロ野球って、いまの3ストライク4ボール制を、2 ストライク3ボール制にしないかなあ。  2ストライク目を取られたら、三振。3ボールを与えたら、四球の 扱いになるの。これなら試合のテンポは速くなりまっせ。  2―3制にすれば、大リーグともルールが違ってしまって、大リー グに行く選手が減って、いいかもよ。  あっ。でもこの制度、横浜ベイスターズの投手は四球が多いから、 3ボールで四球だともっと増えて時間かかっちゃうかも…と、負け根 性をいうのは、忘れない。好きで負け犬の遠吠えを言ってるわけじゃ ないんだけどなあ。いつも自虐的なギャグをいえる場面ばかり見て来 たもんだから。  さて、このあとインターネットの情報に従って、追浜(おっぱま) 駅まで10分ちょっとを歩いたのが、失敗だった。  3時間、炎天下で、鎌倉長谷の家の庭で日に焼いたよりも焼けてし まった身体で、京浜急行の追浜(おっぱま)駅までの道を歩くのはき つかった。商店街を丹念に覗きながら歩いたら、30分もかかってし まった。  午後4時30分。「駅すぱーと」だと、新逗子(しんずし)駅まで 行けばいいと書いてあったけど、新逗子駅が見当たらないぞ!  えっ? 隣りの金沢八景(かなざわはっけい)駅で、乗り換えない といけないの? ぎょえ〜〜〜! へばっているときの乗り換えはき つい。  午後5時。金沢八景(かなざわはっけい)駅で、金沢シーサイドラ インという路線に乗り換える。たった3駅しかない。  午後5時20分。新逗子駅。金沢シーサイドラインとかいいながら、 全然海なんて見えないじゃないか。  でもこういう風にいままで乗ったこともない、知識もない路線に乗 るのは大好きだ。  しかもこの新逗子駅。階段が多くて、もう足がへろへろ。  駅前からバスで、鎌倉駅に向う。  何だか山の中に入って行くぞ。狭い道ばかりだ。向こうから自動車 が来ると、停まって、通り過ぎるのを待つ。のどかなバス路線だなあ。  おお。ここが逗子マリーナか。  石原裕次郎さんのファンの世代が憧れた場所、逗子マリーナだ。  まだここには来ていないなあ。近いうちに来ようっと。  午後6時。やっぱりバスは遅い。けっきょく横浜スタジアムから、 2時間もかかってしまったではないか。横須賀駅から乗ったタクシー の運転手さんが教えてくれた「JR横須賀線の東逗子(ひがしずし) 駅から、タクシーで往復がいちばん早いですよ!」を実行すればよか った。  でも時間があるときは、こういうどこへ行くかわからない列車の旅 は楽しい。  午後6時20分。小町通りのカレーハウス「キャラウェイ」で、ビ ーフカレー。このお店は、小ライスにすると、値段を30円割引きし てくれる。もちろん、私は小ライスにする。  でも出てきたビーフカレーは、小皿に山盛りのご飯。お皿が小さく なっただけじゃないの? 300グラムのご飯って、少ないの?
 味のほうは、とびきり美味しいとはまでは言えないけど、かなり上 位クラスの美味しさ。小ライスのくせに、ご飯が多いけど、もっと多 いのが、ルー。これだけルーの量が多いお店は珍しい。  ご飯が進むわけだ。必死に八分目で残す。  午後7時30分。鎌倉長谷の家に戻る。  もうへとへとのばてばて。  本家・横浜ベイスターズがきょうは中日相手に、6対0と快勝した からいいけど、これで横浜ベイスターズまで負けてたら、落ち込んで、 自暴自棄になってしまったことだろう。  小宮山投手が、完封勝利だ! 完投できる投手さえいないのに、完 封とは。うれしいなあ。やっぱり野球は投手陣次第だなあ。   巨人―阪神戦を見ながら、熟睡。  疲れた。ほんとに。  でも、ふだん見ることのできない横浜ベイスターズ(湘南シーレッ クス)の選手を間近に見ることができる2軍戦はやっぱりいいなあ。  病み付きになりそうだ。  明日は、横浜国際競技場で、コンフェデ杯の決勝!
 

-(c)2001/SAKUMA-