3月1日(木)

 ありゃま、雨か。
 昨夜はかなり音を立てて降ってた。
 いまは霧雨程度だから、まあ、ましか。
 雨が降っているのに、花粉が飛んでいるようで、鼻腔がむずむずする。
 嫁のほうが重症で、目がかゆい!を連発している。
 あと1ヶ月以上、花粉症に悩まされるのかあ。やだなあ。

 午前9時30分。嫁と東京駅八重州口地下の「資生堂パーラー」で、
ミックスサンドにコーヒー。

 午前10時。東京駅銀の鈴前。待ち合わせで有名な場所なだけに、
ベンチは満員で、座ることができない。
 きょうはここで、あの遅刻アーティストとして名高い、成沢大輔くん
と待ち合わせをしている。ほかにも、忘れ物アーティストの柴尾英令く
ん、野安ゆきおクンも来ることになっている。

 午前10時15分。これが正式な待ち合わせ時間。柴尾英令くんと、
野安ゆきおクンはもちろん来ているが、遅刻アーティストの成沢大輔
くんが来ていない。
 5分経過…。順調、順調!  10分経過…。順風満帆?  15分経過…。吉例!   予定通りの行動だから、誰も驚かないが、困るのは、きょうこれから 乗る電車の特急券のすべてを成沢大輔くんが持っていることだ。  たまたま銀の鈴は、携帯が圏外ではないようなので、電話する。 「もう来ない、だって!」と嫁。  いや、聞き違えた。 「もう構内だって!」  柴尾英令くんが「遅刻アーティストなら、もっと派手な登場の仕方を しろよ!」と文句をいう。東京バナナとか、下品ないかにも東京土産な ものを人数分買って、あせった顔で来いということらしい。  このふたりは、どうもいじめあうことで、愛情と友情を確かめ合って いるようだ。
お約束のヤラセ画像
 午前10時45分。しおさい3号で、銚子駅に向う。  いきなり、柴尾英令くんが発車と同時に、鯵の押し寿司弁当を食べ始 め、列車が錦糸町の前で地上に出る頃には、すでにお弁当を食べ終え、 ビールを飲んでいる、お気楽さんぶりを発揮だ。  いいのか、仕事そっちのけで、ビール飲んでて!  実は、成沢大輔くん、私と嫁、柴尾英令くん、野安ゆきおクン、阪巻 カメラマンの6人のうち、本当に仕事で来ているのは、成沢大輔くんと 阪巻カメラマンのふたりだけなのである。
 私は、成沢大輔くんが『桃太郎電鉄』の銚子駅の物件にある「ぬれ煎 餅」の取材に行くというので、それはおもしろそうだと着いて来た。例 のムック本『桃鉄ファン』で、ゲームに登場するおもしろ物件を取材し て回っている企画のうちのひとつだ。  じゃあ、柴尾英令くんは何で来ているのかというと、成沢大輔くんに 呼ばれたからというだけで来ているのである。さすが人付き合いのいい 柴尾英令くんだけのことはある。野安ゆきおクンも『桃鉄ファン』のラ イターをやっているようなのだが、先日のゲーム関係者オフ会で、しゃ べり足りなかったという理由で来ている。  そんなわけで、3分の1の人だけお仕事、3分の2の人は、遊びとい ういい加減な珍道中となった。雨が降るのも、無理はない。槍が降らな かっただけましだ。  それにしても、いつ来ても、総武線の車窓というのは、地味である。  行けども行けども、畑が続いて、新興住宅地が点在して、適度に森や 林があって、大きな山があるでなし、渓谷があるでなし、海は見えない。
 九十九里浜の方面を走ってはいるのだが、海の近くは走らない。  どうせなら、沿線に日本一高い観音様とか作ってほしいものだ。  この路線で、ちょっと変わった建物を建てようものなら、相当目立つ はずだ。  安そうな土地でも買って、キングボンビーの像でも建ててやろうかなあ。  午後12時30分。銚子駅着。  思い切りひなびたホームが、旅情を誘う。  中途半端な雨の降り方も、遠くに来た感じがしていい。  銚子駅には降りずに、そのまま跨線橋を渡り、隣りのホームのそのま た端っこに向って歩く。
 ここに、プラレールのような電車が走る、銚子電鉄のホームがある。 「うわあ! 一両編成だあ!」 「何なんだ、この意味のない風車の駅舎は!」  とにかく、電車に乗り込む。  ごとごとごと…。苦しそうに、電車が走り出す。  ほとんど都電とおなじような動きである。  キャベツ畑と、菜の花の間をすり抜けて行く。  ひとつめの駅「仲ノ町駅」で降りる。  すごい駅舎だなあ。
 銚子電鉄は、大正12年の創業だから、大正時代の駅舎かもしれない なあ。  駅自体が、骨董品のようだ。  この駅に、ぬれ煎餅販売の事務所がある。  ぬれ煎餅担当の、神原さんに話を聞く。  何でも、4年前から、ぬれ煎餅を発売するようになって、赤字にあえ いでいた銚子電鉄の経営が上向いたそうだ。すごいね。ぬれ煎餅の力は。
 銚子には、ヒゲタ醤油と、ヤマサ醤油、宝醤油といった醤油工場が多 い。このなかで、ヤマサ醤油と組んで、銚子電鉄がぬれ煎餅を売り出し たそうだ。  しかしこういう風に『桃太郎電鉄』に採用した物産について、取材に 来れるようになるというのは、うれしいことだ。  銚子電鉄の犬吠(いぬぼう)駅で、ぬれ煎餅の実演発売をしていると いうので、みんなでまた銚子電鉄に乗って、犬吠駅まで行くことに。  午後1時。犬吠駅へ。  おお! 何ともエキゾチックな駅舎だこと。
 駅も建て替えたばかりのようで、きれいだ。  駅の改札を抜けると、なるほど、ぬれ煎餅を実演販売している。
 醤油味、うすむらさき味、唐辛子味、甘だれ味など、以前銚子を訪れ たときより、ぬれ煎餅の種類が増えていた。  当時、ぬれ煎餅の難点は、味が濃すぎて、しょっぱすぎたことなんだ けど、うすむらさき味は、しょっぱさを落としたマイルド味にしたので、 このうすむらさき味が人気だそうだ。  やっぱり、偶然売れたわけじゃないんだな。 「ぬれ煎餅がやわらかいのは、なぜなんですか?」 「ふつうのお煎餅は、醤油を塗ったあと、乾燥させるんですが、ぬれ煎 餅の場合は、醤油を塗って、そのままにしておくからやわらかいんです」  何だ。もっと「それは企業秘密なのでお教えすることができません」 とでも言われるのかと思っていた。あまりにも、予想通りの答えすぎる。  甘だれ味と、唐辛子味を試食させてもらう。
 甘だれ味は、みたらしっぽくて、甘さは控えめ。唐辛子味は、際物 (きわもの)をめざしたものではなく、純粋に唐辛子の美味しさを加え ただけなので、そんなに辛くない。  いずれも、焼きたてをいただいたので、美味しいことこの上ない。  けっきょく、全員ぬれ煎餅を買いまくる。  犬吠駅駅前のロータリーに出る。  犬吠駅の前に、野安ゆきおクンが立つと、まるでロシアにいるみたい に見えるなあ…と思ったのもつかのま、後ろから柴尾英令くんが、ドア を開けて出てきたら、一気に雰囲気が南方風になってしまった。
 駅舎に隣接する「犬吠電車レストラン」で、お茶することに。電車を 改造したレストランだ。入るなり、「究極かれいぱん」の文字が躍る。 食べねばなるまい。
 野安ゆきおクンが「かれいぱん」と「い」の字が「かれー」と伸びて いないというのは、ちょっと気がかりだと言い出す。 「まさか、場所が場所だけに、魚のかれいが入っているパンじゃないで しょうね」 「それはそれで、おもしろそうだ!」
 げげっ! 何だ、この大きくて、長いものは! なまこか!?  これが、究極かれいぱん? でかいなあ。  さすがに、みんなふたりで1本ずつ食べる。  おお! おお! カレーも美味しいけど、このふかふかなパンが美味 しいなあ。これで350円は安いぞ。  せっかく、犬吠駅まで来たのだから、犬吠崎の灯台を見に行くかとな った。  雨まじりの寒い道を、よろよろ「寒い! 寒い!」を連発するおっさ んたちが進む。  おお! 遠くに灯台が見えてきた。ちょっと遠いなあ。  一応、犬吠崎の海は眺める。  有名な東映映画の冒頭に出てくる、波が岩に打ち付けるシーンの撮影 場所は、この犬吠崎である。  きょうは波が高いそうなので、まさしくあの冒頭シーンの景色そのも のである。
「この辺で帰りません?」 「帰りたいねえ!」 「寒いもんなあ!」  見事に意見一致が一致する怠け者たちである。  午後2時。タクシーに分乗して、観音町のお寿司屋さん「千弥(せん や)」で、遅い昼食。  マグロのなかおち太巻きが、豪快で、うっとり。
 私と嫁は、お寿司屋さんというと、大リーグ級しか最近食べていない ので、味覚に対して厳しすぎるのだが、なかなか美味しかった。  私と嫁の「なかなか」は、ふつうの人にとっては「相当」レベルだと 思う。  話し好きの御主人の感じもよい。  午後3時30分。観音駅まで歩いて行って、本日3回目の銚子電鉄乗 車!  なんだか、とっても銚子電鉄に協力したようで、うれしい。  ちなみに、銚子電鉄の略称は「銚電」だそうだ。「超伝導」とか「超 電」みたいで、格好よく聞こえる。  午後3時34分。4分ほどで、銚子駅へ。  L特急しおさい12号の発車時間まで、まだたっぷり時間があるので、 銚子駅を出る。目の前に、興味を引くものがない町であることを確認し て、駅の待合室のような喫茶店で、カフェオレを飲みながら、電車を待つ。  午後4時38分。しおさい12号で、東京に向う。  1号車の乗客は、この6人だけ。貸切状態。
いや〜、仕事のあとのビールは美味いね!
 発車して、しばらくすると、もはや恒例の成沢大輔VS柴尾英令の、 夫婦喧嘩のような泥試合トークが始まる。 「おーおー! そこまで言うか!」 「成沢大輔ほど、僕はひどい男ではない!」  夫婦喧嘩は、犬も食わないので、あえて具体的には書かない。  私は、この泥試合トークを子守唄に、うつらうつらと、熟睡する。ふ たりの会話が次第に遠くで聞こえるのが、心地よい。  午後6時24分。東京駅着。  成沢大輔くんたちは、まだ『桃鉄ファン』の打ち合わせがあるような ので、東京駅に残る。  私と嫁は、大丸お弁当公園で、娘のためのお弁当を買って帰る。  午後7時。帰宅。  遅い昼食だったので、私はチキンサンドで、夕食。デザートに買った、 伊予柑(いよかん)ゼリーが、やたらと美味しかった。伊予柑をくりぬ いた天然もの。これはもう一度食べたいものだ。  明日は、ハドソン。
 

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