2月16日(金)

 もう聞き飽きたでしょうが、本当に京都は、寒いんですっ!

 午前10時30分。イノダコーヒ本店に、集合。
 土居ちゃん(土居孝幸)、柴尾英令くん。
 タマゴサンドにコーヒーなど食べながら、ゲーム談義。

 げらげら笑いながら、次第にあるゲームの大いなる撤退をこのメ
ンバーは、決意しようとしている。
 昨日、電撃的に浮かんだゲームではない。
 昨年からいつくつか進行してるゲームのうちのひとつだ。

「せっかくここまで作ったんだから、最後まで完成させましょうよ!」
という言葉は、桃太郎チームにはない。
 判断基準は、つねに、お客さんにとって、楽しいゲームになるか
どうかである。

 午前11時。京都相互タクシーの宮本さんが来て、本日、京都市
内観光がスタートする。

 午前11時30分。まず最初に行ったのは、東寺(とうじ)。
 東寺といっても、冗談好きの殿方用にいうと、デラックスなほう
ではない、弘法大師様の東寺である。
 私はいつもこの東寺に、お線香を買いに来るのだが、思えば、本 堂に入るのは、きょうが初めて。巨大な薬師如来像に、一同、感動 する。  若い頃は、仏像なんてものは、辛気臭いもの以外の何物でもなか ったのだが、年々、造形から入って、そのフォルムの美しさに気づ くようになるものだ。  でもまだ仏像の美を理解できる自分と、理解できないままでいる 自分がいる。
 東寺の宝物殿も初めて入る。  じっと仏像を眺めつづける拝観者の人が、うらやましくもあり。  RPGの敵キャラとしてつかえないかという目線で、仏像を見つ める、濁った目のおじさんが3人ほど。  午後12時30分。あまりの寒さに早くも、ティータイムがほし くなるおじさんたちは、壬生寺の隣りの「鶴寿庵」で、抹茶と和菓子。  壬生寺といえば、新撰組。柴尾英令くんが壬生の屯所を見たこと がないというので、見学しようとするが、抹茶と和菓子付きで、 1000円の拝観料と言われてしまう。むむむっ。今、抹茶と和菓 子を食したばかりだよ。  土居ちゃん(土居孝幸)と、私は、この壬生の屯所は何度も見て いるので、柴尾英令くんには泣いてもらうことに。  お金が惜しいのではない。茶腹なのである。さらに茶腹を膨らま せるのは、ちょっと辛いものがある。  午後1時30分。金閣寺に向うが、雪が激しくなって来て、横殴 りの雪になって来た。宮本さんの解説によると、京都というのは、 碁盤目の四角を北に行けば行くほど、海抜が高くなって行って、碁 盤の目の上と下とでは、五重塔の高さ分ほどの高低があるそうだ。  てっきり、京都市内は、まっ平らなのだと思い込んでいた。  高さだけでなく、碁盤の目の上下で、温度差は、3度ほども違う そうだ。  だから、北にある金閣寺に向えば向かうほど、雪が激しくなって 行く。  金閣寺は境内が広いので、見物を諦め、洛北鷹が峰「しょうざん」 の庭園へ。  もはや「しょうざん」は、すっかり雪景色態勢に入っている。
 それでも、東北に降る雪は、一種の恐さがあるが、京都の雪景色 は、やっぱり美しい。京都の美しい写真集をよく見ているそうだろう。    長いこと、京都を訪れているが、これだけ激しい雪を市内で見る のは、初めて。  雪だるま体型の柴尾英令くんが、本物の雪だるまになってしまわ ないか、心配する。しない。しない。  午後2時30分。宝ヶ池のケーキ屋さん「アンジェ」に移動。  ここでもまだ雪は激しく降っている。
 覚悟を決めて、観光を断念。クレープモンブランにコーヒーで、 仕事の打ち合わせを開始する。  今朝ほどから、暗礁に乗り上げそうなゲームについて、本格的に 議論する。  中途半端に妥協しない柴尾英令くんは、えらい。  私のようなベテランと仕事する人は、とかく私が右といえば「そ うですよね、右がいちばんですよね」と言い、「いや、やっぱり左 かも知れない」と悩むと、必死に「そうですよ、左が正しいですよ!」 と慌てて言い直す。  いわゆる阿諛追従(あゆついしょう)というやつである。  イエスマンなら、いらない。自分の家で、ひとりで考えたことを、 みんなの前で発表すればいいだけだ。  土居ちゃん(土居孝幸)、カズ坊(関口和之)が、10数年間 桃太郎チームのパーマネント・メンバーとして、不動なのは、ふた りともイエスマンではないからだ。  午後4時30分。マンションに戻って、さらに議論。けっきょく、 懸案のゲームは、みごと暗礁に乗り上げた。  別に惜しくはない。納得づくの暗礁だ。  今後再び潮が満ちてきて、舟が暗礁から離れるときがあるかもし れない。  こんなときいつも私は若いスタッフに「さくまサンは、このゲー ムを作るって言ったじゃないですか! なぜやめるんですか!」と 罵倒されたものだ。 「言ってることがころころ変わるからついていけません!」とまで 言われた。    でもつねに私の基準は、お客さんにとって、おもしろくなるか、 ならないか?である。  今のままで、進めても、そこそこおもしろい作品にはなるだろう。  でも私はお客さんが「とってもおもしろい作品ですね!」と言っ てくれるレベルまでに押し上げたいのである。  そんなわけで、『桃太郎大全集(仮)』は、一時撤退が決まる。  午後6時。喫茶店で、ケーキを食べたせいか、軽い食事がしたく なって、新京極の「田毎(たごと)」で、にしんそば。 「こんな軽い食事だと、あとですぐお腹が空いちゃいそうだなあ!」 と、土居ちゃん。  さて、このあと、土居ちゃん(土居孝幸)は、東京へ。柴尾英令 くんは、明日午前7時から、放送作家の福本岳史くんと、紀伊半島 一周旅行記を書くための取材旅行にでかける。  柴尾英令くんと、福ちゃんという顔合わせは、実におもしろそうだ。  私もついて行きたいのだが、今回だけは私はついて行ってはいけ ないことになっている。  なぜなら、私がなぜ『桃太郎電鉄』で、南紀の新宮駅を、ずっと 昔から目的地にしているのか?ということを当ててみよ!というの が、私の指令なのだ。  この柴尾ホームズと、福本ワセリン、いや福本ワトソンのコンビ が、解き明かした謎は、3月末発売予定の増刊号『桃鉄ファン』 (メディアファクトリー)に掲載される予定である。  この本を編集しているのが、最近遅刻アーティストという美しい 称号をいただいた、成沢大輔くんである。  おなじみのメンバーが勢ぞろいのこの『桃鉄ファン』というう増 刊号。ちょっとどころか、とっても楽しみな本である。  午後7時。土居ちゃん、柴尾英令くんと別れて、マンションに戻る。  早朝、『ポケモン金』をめでたくクリアしたので、今夜はおとな しく読書など。  たぶん、明日東京に戻る予定。
 

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