1月5日(金)

 午前10時。京都相互タクシーの宮本さんが、ドライブに誘って
くださった。

 私の風邪は、仕事を始めたおかげで、良好になって来たのだが、
娘のほうは、ずびずび、くしょん、くしょん! まだ直らない。い
つも1〜2日で直るのに、今回は長いな。
 
 午後12時30分。奈良の南の桜井とか、橿原神宮などを東に曲
がったあたりに、大宇陀(おおうだ)という町がある。
 私はまったく知らなかったのだが、江戸時代、織田家の4代目が
このあたりを治めていたそうだ。
 織田信雄(おだのぶかつ)が、初代藩主と聞くと、戦国時代マニ
アは「おお!」と声を上げたくなるでしょ?

 近くには、昨年のNHK『葵・徳川三代』のオープニングに流れ
ていた大きな桜がある。あの桜は、又兵衛桜といって、後藤又兵衛
から名づけられた由緒ある桜だ。

 ほかにも古代の皇族たちの狩猟場だったりもするので、どことな
く品のいい町並みなのだ。
 さらに吉野杉で大儲けしたのか、お城のような豪邸が多い、不思
議な町だ。吉野杉と並ぶ名産は、吉野葛で、全国の生産量の半分を
占めているそうだ。 
 まさか、吉野葛で、豪邸を建てたのではあるまい。  話としては、「葛(くず)で建てた豪邸」というほうが、おもしろ いが。  道の駅「宇陀路大宇陀」というところに着く。
『桃太郎電鉄』の作者としては、道の駅を推奨しづらいが、昨今の 道の駅の充実ぶりを見ると、地方活性化に一役も二役も買っている ので、今後は率先して、道の駅も塗りつぶして行きたいと思う。  吉野葛など買う。最近の吉野葛は、コーヒー味とか、ブランデー 味といった変り種がある。     この道の駅はお土産屋さんが充実しているし、レストラン「甘羅 (かむら)」の宇陀牛フィレ焼肉定食は、やわらかいお肉で、美味し かった。伊賀上野が近いだけに、味も伊賀牛に似ている。
 このあと大宇陀の歴史的景観の町を通ったのだが、古びた和菓子 屋さんに、造り酒屋、吉野葛のお店、創業100余年の老舗醤油店、 日本最古の薬草園などがあって、歴史の重みを感じさせる家ばかり だ。
 古い町並みといっておきながら、3〜4軒しか無い観光地が多い なか、これほど歴史的景観が揃っている町並みも珍しい。  もっと交通の便がよければ、一大観光地として発展しただろうが、 交通の便がよければ、もっと早くこの古い町並みは崩れたことだろ う。吉野葛を売るお店の人と話したら、別にこの町並みは規制があ るわけでなく、建て替えもまったく自由だそうだ。
 だから唐突に、へーベルハウスっといった感じの最新型の家が建 っているのか。もったいない。  ちょっと山並みに目をやれば、東山魁夷さんの絵のような杉林が 並んでいて、これほどまでに自然に美しい町というも珍しい。  町の人は、まったくこの町並みの美しさに気づいていないようだ から、この町の美しさはあと10年持たないと思うなあ。
 今年の春、または新緑の頃にまた来ようと、宮本さんと約束して、 次の目的地に向う。  午後3時。こっちは有名。女人密教で有名な、室生(むろう)寺。  このお寺は、女人禁制の高野山に対して女性の参拝を認めたため に「女人高野」として古くから万人に親しまれてきた。  一昨年だったか、台風で大木が倒れて、五重塔を破壊してしまっ たことがニュースとして大きく取り上げられた、あの室生寺だ。  宮本さんの車を降りた瞬間から、待ってましたとばかりに、雪が 降り始める。  演出効果は満点なのだが、寒い!  雪が舞うほどなので、風が強くて寒い。  あまり寒い所に長時間いられる身体ではないので、困る。
 太鼓橋を渡って、山門を抜けて、お堂までの急な石段を見て、あ っさり登ることをあきらめる。国宝とか、重要文化財とかたくさん あるようなのだが,ここで疲労して風邪を悪化させたら、新年早々 何をしに京都に来たのかわからない。  風邪がひどいはずの娘は、さっさと720段ある石段をどんどん 登り始めている。おいおい、大丈夫かい? 元気なやつだなあ。
     
 宮本さん、嫁、娘が奥の院まで行って帰って来る間、お堂の屋根 に徐々に降り積もる雪を眺める。  少しずつ積もって行く雪が美しい。  屋根に降り積もるほどだ。気がつくと、私は笠地蔵のように、私 の頭にも雪が降り積もっていた。    なかなかみんなが戻って来ないので、五重塔まで行く。  修繕された五重塔が、きれいだ。
 何でもこの五重塔は、世界最小の五重塔なのだそうだ。  だから台風で倒れた木のせいで、あそこまでことごとく壊れてし まったのか。倒れた木の切り株が今も残っていて生々しい。
 午後4時。帰路に着く。  宮本さんの安全運転に、ぐーすかぐーすか熟睡。    午後6時30分。家族3人と、宮本さんといっしょに和風料理の お店「忘吾(ぼあ)」に行く。  きょうから営業開始だそうだ。
 宮本さんのおかげで、今回の京都旅行がようやく充実したものに なった。宮本さんが誘ってくれなかったら、きょうも1日マンショ ンで寝ていて、年末年始は、京都に寝に来ただけになってしまうと ころだった。  そんなわけで、明日、東京に戻る!
 

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