12月15日(金)

 私はフジテレビの『めざましテレビ』が好きなのだが、どうにも午前8時近くの「松任谷
由実選集五七五」がもどかしい。

 まずユーミンの声が暗いので、このコーナーに来ると急にテンションが落ちる。さらに
ユーミンが「五七五」を読み上げて、感想まで言ってしまうので、ユーミンの存在が安く
なってしまう。作品は声優さんに読み上げさせて、ユーミンが感想を言ったほうがいい。
 あとひとつ決定的なのが、選び方。
 あまりにも、五七五になっていない作品を選びすぎる。字余りという手法はもちろんあ
るのだが、いつも選ぶ5編くらいのうち、3編以上がこの字余りの句。きょうなど、とう
とう「2+10+6」という作品を選んでしまった。
「五七五」は、作品のレベルが下がってでも、「5+7+5」を死守しないと、ガラガラ
と定型が崩れていって、つまらなくなってしまうのだ。

 14年間、『週刊少年ジャンプ』で読者ページ『ジャンプ放送局』を担当してきた者と
して、元放送作家だった者として、毎朝ムズムズする。

 午後12時30分。神田須田町の「ぼたん」へ。このお店はグルメの文豪・池波正太郎
さんが通ったお店で、鳥のすき焼きを食べさせてくれるお店だ。
 前から一度行ってみたいと思っていたのだが、なかなか行く機会がなかった。

 この神田須田町というのは、半径200メートルくらいのところに、老舗のお店がひし
めきあっている不思議なエリアだ。
 有名な「神田藪蕎麦(かんだやぶそば)」に、「まつや」。「まつや」もまたお蕎麦が
美味しくて、天ぷらも美味しい。
 あんこう鍋の代名詞のようなお店「いせ源」もある。
 ひとつ食べると、1キログラムは体重が増えるような、揚げ饅頭と、あんみつで有名な
「竹むら」。
 さらにレトロ洋食の「松栄(しょうえい)亭」まである。この「松栄亭」には、グルメ
の師匠・すぎやまこういち先生が注文する、すぎやまスペシャルと呼ばれるメニューには
ない料理がある。
 まさにオールド・オールスター戦のような選手たちがひしめく一角なのである。

 きょうも、政治要人、はたまた大企業の社長さんのお帰りを待つ黒塗りの車が多く停車
していた。
 そんな場所である。

 で、この「ぼたん」も、看板を見ると「ぼ田ん」と、わざわざ書いてあるような明治30
年創業の古い家屋。

 お座敷に通されると、小さなおままごとのような朱塗りのテーブル。一瞬ぎょっとする
が、すぐに赤々と燃える備長炭を持って来てくれて、鉄鍋が乗る。続いて鳥肉、つみれ、
豆腐、しらたき、ネギが乗ったお皿をこのお店に何10年もずっと勤めているのと思われ
るおばちゃんが手際よく持って来る。
「なかには、こんなの頼んでないよ!と言い出すお客さんもいるんですよ!」と、そのお
ばさん。

 何のことかというと、このお店は鳥のすきやき鍋の一品しかメニューにないのである。
 実は、私も嫁も、鳥のすき焼きが有名というのは知っていたのだが、ランチタイムだか
ら、値段が安くて美味しい親子丼でも食べられると思って来たのだから、ほとんど「こん
なの頼んでないよ!」と言ったお客と変わらない。

 でも、そのお客の気持ちもわからないでもない。
 この鳥のすき焼き、ひとりの値段が、6400円である。
「ロ・ク・ヨ・ン!」
 思わず任天堂のCMの「ロ・ク・ヨ・ン!」という言い方をしてしまった。この値段を
真昼間からというのは、一般客にとっては、目が飛び出て、一回転して、また元にスポッ!
とおさまってしまうような金額だよなあ!

 私と嫁は基本的に、10万円の料理でも美味しくなければ、二度と食べに来ないし、
100円の食べ物でも、美味しければ何度でも行く。10万円の料理でも美味しければ、
何度でも食べに行くと断言したいが、さすがにまだ10万円の料理のお店には行ったこと
がない。

 というわけで、鳥のすき焼きを食す。
 しかし、古い家屋だ。歴史の教科書に「安愚楽(あぐら)鍋」というのが、挿絵入りで
載っていたのを覚えているかなあ? ザンギリ頭を叩いて見れば、文明開化の音がする!
などと言われた頃の話だ。
 たしか「安愚楽(あぐら)鍋」というのは小説で、作者は仮名垣魯文(かながきろぶん)
だったと思う。
 あんな感じのお店なのだ。
 気分はすっかり明治10年当時。
 濃いめのタレで、すき焼きとおなじ作り方で食べる。  例によって、ご飯を先に持って来てもらうのを、忘れない。  お肉は絶対ご飯といっしょに食べなきゃ美味しくないよね、全国のデブっちょさんたち!  ね〜!  つみれが美味しいなあ!  ちゃんこ鍋によくつかわれるような、つみれだ。  焼き豆腐が美味しい。京都で豆腐味覚が相当レベルが高くなっているので、もはや東京 で豆腐は美味しく感じられないと思っていただけに、この豆腐はかなりの兵(つわもの) だと思う。
      しらたき。しらたきを食べるのはひさしぶりだなあ。  うちは鍋物というと、完全に関西風にシフトしてしまっているので、鍋物には、しらた きではなく、葛きりを入れる。  桂三枝さんが歌うCM「♪も・り・いの葛きり、ポッカポカ!」というと、関西の人は 笑ってくれるだろう!というくらい、関西では鍋物というと、葛きりを入れる。  でもこういう濃いめのタレにひたされたしらたきというのも、美味しい物だな。  ふたり分にしては、ものすごい量の鍋だったんだけど、けっきょくほとんど平らげてし まった。つまり、それほど美味しいってこと!  最近牛肉のすき焼きの美味しいお店というと、1万円を越えるお店もけっこう多いのだ から、6400円というのは、安いということがいえるのかもしれない。  もう一度来てもいいお店だな。ただし、冬場の夜は、行列ができるくらい混むから、 お昼のほうがいいとお店の人が教えてくれた。  お昼からこんなにお腹パンパンにふくれあがるのは、いかがなものかではある。  午後1時30分。日本橋の日立エンジニアリングへ。前回この日記で高校時代の後輩の 最上谷学(もがみやまなぶ)の部署が開発したある物を見に行ったことを書いたが、きょ うはトミーのくぬぎふみたかサンに来てもらった。  餅屋は餅屋だから、本当に製品化できるかどうかという判断は私の手には負えないもの がある。  その内容とかその他もろもろは、もちろん極秘。 「ご〜めんなさいね〜!」といんちき外国人の真似!  会議終了後、私と嫁は次の会議まで時間があるので、日本橋から築地まで歩いてしまう か?と大胆な計画を実行する。真昼間から素材は鳥にせよ、すき焼きなんかを食べた罪悪 感から、歩いてカロリーを燃焼させたほうがいいのは、たしかだ。  しかし日本橋から、兜町(かぶとちょう)界隈というのは、証券会社ばかりで、私のよ うな自由業者が歩いても、ちっともおもしろくない景色だ。勢い足がへばるのが速くなる。  へばって、喫茶店に入ろうとするが、朽ち果てたようなお店ぐらいしかない。  兜町から、茅場町(かやばちょう)。なおも、八丁堀(はっちょうぼり)まで歩く。 『必殺仕事人』の中村主水の呼び名で有名なあの八丁堀である。  もはや、足がもつれにもつれ、まっすぐに歩けなくなって、足も上がらなくなった入船 あたりでついにリタイア! まだ風邪気味なので、これ以上疲れると本格的な風邪引きさ んになってしまう。    タクシーで、築地方面へ。  ありゃ! 初乗り660円で、築地に着いてしまった。う〜ん。何だかくやしいなあ! もうちょっと歩けば、築地まで踏破できたのかあ。でももうタクシーに乗る頃は、歩行姿 勢になっていなかったし、すでに嫁としゃべるのもつらい状態だったからなあ。  午後3時。築地の「茶の実倶楽部」で、ほうじ茶と和菓子のセット。けっこうよく登場 する、洒落たお店である。  内装が非常に純和風で、それでいて新しさを感じるデザインなのだ。いつかこんな家を 作りたいものだ。
 ほうじ茶で、一息つくものの、あまりの疲労度に、ハドソン桃太郎事業部の梶野竜太郎 くんに電話して、「体調悪いから帰る、ゴメン!」と何度も言おうとしたのだが、電話し ようと思うと、会って話したいことや、ゲーム・ディレクターの國政修くんと打ち合わせ たいことがいくつも出てくる。  けっきょく、無理してでも行こうということに。本当に私は仕事が好きだよなあ、と しみじみする。  午後4時。築地のハドソンへ。  きょうの打ち合わせのゲームは、当分、秘密。  メンバーは、作曲家の池毅(いけたけし)さん、ハドソンの音楽担当・三井啓介さん、 ゲーム・ディレクターの國政修くん、ハドソン桃太郎事業部の梶野竜太郎くん。
左から→梶野くん、三井さん、國政くん、池さん、さくま
 ゲームのタイトルを仮でも言えないので、打ち合わせ内容も秘密。  へっへっへ。いつもぽろりぽろりと内容を暴露してしまう私だけど、いざというときは 口が固いんだよ。  午後5時。ゲーム・ディレクターの國政修くんと、いよいよ『桃太郎電鉄X(仮)』の 打ち合わせ。  おおまかなマップが出来上がってきた。  むむ? 私が思い描いていたマップとちょっと違うぞ。ん? 私がデザインした通りの マップだなあ。変だなあ。ちょっと横のほうが長いぞ〜! ってことは、私のデザインが 間違ってるってことか〜? そうかもしれないね〜! あややややっ!  伊能忠敬さんは偉大なり!  こんな略図のマップなのに、私は間違えてしまいました!  けっこう手直しは大工事だぞ! 『桃太郎大全集(仮)』のこともちょっと打ち合わせて、帰ることに。早く帰るはずが午 後6時を過ぎてしまった。  午後7時。娘を呼んで、近所の沖縄料理のお店「藹藹(あいあい)」で、らふてぃーそ ば、焼きそば、紅芋のコロッケなど。  午後8時。帰宅。  ゲームなどをちょこちょこやって、今夜も『桃太郎大全集(仮)』の仕様書もちょこち ょこと。風邪のほうは、仕事を始めるとよくなって、休むとむあ〜っとしてくるのは、い つもの通り。  緊張感を緩めずに、休む以外、このピンチを乗り切る方法はない。土居ちゃん(土居孝 幸)に電話。流行に敏感な土居ちゃんは、すでに風邪を引いているそうである。  来週の火曜日、金曜日の打ち合わせ、いずれもOK!   火曜日までに風邪を治しておいてね〜!
 

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