12月5日(火)

 午前10時30分。嫁と、東京駅大丸地下の「資生堂パーラー」へ。といってもまた
旅行に行くわけではない。
 おなじみの霊能者兼漫画家の岩崎摂さんと、アリtoキリギリスの石塚義之(ヅカッ
チ)くんと待ち合わせ。

 本日は、都内霊能ミニツアー。
 何が何のご利益があるのかもわからないが、行ったことの無い場所ばかり行くそうな
ので、私はついて来ただけ。
「あれ? さくまサンも来たの?」と岩崎摂さん。
「お昼に美味しい場所に行くと、嫁が言ってたから来た!」
「ま〜た、食べ物かい?」
「そうだよ! 食べ物につられるのが、我が家の掟だ!」

 まずは、その足で、神田明神へ。
「獅子は、かわいい我が子を千尋の谷に落とし…」で有名な獅子山があったり、銭形平
次の碑があったりと、霊能力のまったく無い私でも、おもしろい場所であった。
 獅子山の前で、ヅカッチとスナップ写真。
 何だか新しいお笑いコンビのように写ってしまったではないか!
 続いて、大手町の将門塚へ。  ほう。これが有名な、平将門(たいらのまさかど)の首が京都から飛んだという伝説 の首塚かあ。昔からこういう伝説を私は鼻から信じていない。 「京都から大手町まで首が飛ぶわけないだろう!」というのが、私の歴史に対する考え 方で、そういうぶっ飛んだ話が出なくなる戦国時代からの歴史が好きなのだ。だからど うも平将門の時代の歴史は苦手だった。  ところが、岩崎摂さんが「たぶん首は飛んだんじゃなくて、誰かが奪ってここまで持 って来たんでしょうね!」といったことで、非常に身近な歴史に思えてきた。 「飛ぶにしたって、3日で飛んでくるかい!」と、石塚義之くんと解説文にツッコミを 入れていただけに、納得。少なくとも当時の京都からなら、30日はかかるはずだ。ち ょうど10倍。話が大きく(小さくか!)なるのに十分な数値だ。  午後12時。駆け足で2ヶ所巡ったので、ほどよくお腹が空いた。  湯島天神のそばの「鳥つね」で、オレンジ色の卵の親子丼を食べる。このお店、以前 日記に初めて載せたときに、アリtoキリギリスの石井正則くんがものすごい反応を示 して、私は「今度いっしょに行こうね!」と石井正則くんに言っておきながら、石塚義 之くん のほうと来てしまった。  石井正則くんには、もうしわけないけど、「ヅカッチ! 石井くん、ざま〜みろ!の ポーズを!」と、要求してしてしまう、私であった。
 食後、仏壇ばかり売っている町があるというので、稲荷町界隈へ。  私は仏壇、仏具の類など、まったく興味がないのだが、数珠ひとつ持っていないので、 とりあえず岩崎摂さんがいるときに、どれがいいのか見てもらったほうがいいと思って 来てみた。善は急げだ。
 へ〜、本当だ。この辺一体みんな仏壇・仏具のお店なんだ〜! おもしろいなあ。おお!  何だ、これは! 五重塔のミニチュアかあ。きれいだなあ! 金ぴかだ。値段高いのかな?  えっ!? ご? えっ? えっ? ごひゃく? ごじゅうまんえん〜〜〜!? って、 550万円??? ずごごごごごっ!  えっ? うそ!?  この五重塔の脇にある小さななんとかという、雪洞(ぼんぼり)みたいなほうが、1個 600万円??? ぎょえ〜〜〜っ!  何だか金銭感覚がくるんっと狂ってしまう。 『桃太郎電鉄』で、物件買い放題のときって、こんな気分なんだろうなあ。もちろん、こ の五重塔を買う気なんて、さらさらないけど、いつか買ってやる!と、一応記念撮影だけ しておく。
 仏壇・仏具があまりにもおもしろいので、この「五雲堂」さんの御主人と話し込んでし まって、とうとう秘蔵の薬師寺東塔の20分の1モデルまで、見せていただいてしまった。  見事な工芸品だったよ〜。  何でも伊丹十三さんの『お葬式』のときの仏壇関係は、このお店で揃えたそうだ。本物 をつかわないと気がすまない、伊丹十三さんらしいエピソードをたっぷり聞かせてもらっ た。  私もゲームで、よく「そこまで取材しなくたって、ゲームくらい作れるでしょう?」と 言われることがあるけど、取材しないと、リアリティが違うのだよ。だから『桃太郎電鉄』 の物件駅の95%以上は、実際に訪れているし、食品物件の98%以上は、実際に食して、 美味しい物だけをゲームのなかでつかっている。  土居ちゃん(土居孝幸)と『桃太郎伝説』のほうを作るときになると、よく京都まで古 書を買いあさりに行ったり、お寺に行ったり、博物館に行くことが多い。  博物館など、写真はおろか、スケッチもダメという場所が多いので、土居ちゃんは目に 焼き付けて、帰ってから絵にしてみるということまでやっている。  伊丹十三のような素晴らしい映画をたくさん撮った人や、黒澤明監督のこだわりを聞く と、嗚呼! 自分のやり方は間違っていなかったんだと、ホッとする。  午後3時。表参道まで戻って、お茶を飲んで、本日のツアーは終了。いやはや。けっこ うおもしろい遠足であった。こんな機会でもなければ、仏壇仏具のお店の人と知り合うな んてことは、まずないと思う。まさか仏壇仏具のお店の人から、映画の裏話について、お もしろい話を聞けるなんて思ってないものね。  石塚義之くんが、次の収録のために、一度家に帰らないといけないというので、早々に 帰る。 「ヅカッチは、一度家まで戻らないといけないの?」 「家に戻らないと、短パンがないんで…」 「はっはっは。そうか。ヅカッチの場合は、短パンがステージ衣装なんだあ!」 「そうなんですよ〜!」  めざせ、ヅカッチ! 日本短パン協会会長の座を!  午後4時。自宅に戻り、『桃太郎大全集(仮)』の仕様書作り。  昨日身体を休めたおかげで、右腕の痛みも消えた。  またVAIOを、カタカタカタカタッと、特打(とくうち)! 特打(とくうち)!  特打(とくうち)!  第2次森内閣発足。  NHKで首相官邸から、記者会見の中継をやっていた。  どの大臣が出てきても、記者は「今度の内閣は短命といううわさがありますが、どう思 われますか?」という質問ばっか。 「短命という噂は、あんたらが作って、流してるだけでしょ!」と、大臣たちは言いたい だろうなあ。  政治家のレベルが低くなったと言われるけど、政治記者のレベルが低くなったという話 題は出ない。話題にする場所がないから。いいよねえ。いつもマスコミ側って、攻める一 方の楽チンな場所にいられてさあ。  今のマスコミは、巨大なる権力と戦わず、森内閣の支持率が低いということばかり攻め 立てる。これってただのいじめじゃないか!   もう少し建設的な質問ができないものかねえ。    午後6時。家に遊びに来ていた嫁の弟夫婦と、自然食のお店「ナチュラルハーモニー」 へ。1歳6ヶ月になる男の子もいっしょ。私は娘が3歳のときからしか知らなくて、親戚 付き合いの薄い家庭に育ったものだから、いわゆる赤ん坊という種族に接すると、緊張し てしまう。  まるで骨董品屋の狭い通路を通るときのような、緊張感が走る。倒れたらどうしよう。 ぶつかったらどうしよう。何をしてあげたらいいのかわからない。  弟の恵(けい)くんが、食事の途中で、泣く赤ん坊を抱いて外に出ている姿を見ると、 えらいなあ!と思う。  自分のときは、どうだったのだろう。  親戚というものがほとんどいないに等しいし、本来語り部である父は、まったく昔のこ とを語らないし、継母はその会話の105%が嘘だから、聞いても仕方がなかった。  午後7時30分。また『桃太郎大全集(仮)』の仕様書作りを粛々と。いつまで続くこ の作業。  ちょうど仕事が乗ってきて、楽しくて仕方がないときなんだけど、残りの作業がどのく らいあるのかを予想すると、クラッとなってしまう。  今年のお正月をのんびりすごすためにも、がんばりましょう!
 

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