11月20日(月)

 本日より、1週間北海道旅行〜〜〜!
 でも天気予報通り、雨だよ〜!
 雨は嫌だよ〜!
 手足がまだ不自由な私は、傘を右手に差したら、左手には何も持てないんだよ〜!
 おまけに朝の『めざましテレビ』のカウントダウン星占いで、獅子座は、12位。
最下位だよ〜! いつもこの手の占いは、たとえ10位とか11位でも、ビリじゃ
なきゃいいやと思って、気にしてないんだけど、最下位はなあ〜!
 きょうの旅路に、暗雲がたれ込めてしまじゃないか。すでに雨雲がたれ込めてる
けど。

 午前10時。いざでかけたら、いきなりコートを着ていくのを忘れて、家まで戻
る。今年初めてマフラーもしたら、けっこう暖かいので、コートを着るのを忘れて
しまったのだ。それも、左手に傘を差して、右手でカートをころころ転がした時点
で、まったく傘が差せないことに気づいて初めて、コートを着ていないことに気づ
いた。
 こういうときに、星占いの運勢を気にしてしまうもんだ。
 
 けっきょく嫁に、タクシーのところまで、傘を差してもらって、なんとかタクシ
ーに乗り込み、東京駅に向う。

 タクシーに乗ってすぐ、携帯電話の充電器を忘れてきたことに気づく。ああ! 
続くなあ! やだなあ! こういうスタートは。
 さらに、書きかけのアイデアノートを持ってくるのも、忘れた。
 最悪のスタート!

 午前10時30分。東京駅地下の資生堂パーラーで、土居ちゃん
(土居孝幸)と待ち合わせ。
「札幌は大雪みたいですねえ!」
「ちょうどふたりが札幌に行ってる間だけ、ずっと大雪みたいだよ!」
「時期的にちょっと早くないですかあ?」
「うん。12月になったら、大雪降るだろうからと、今週にしたんだけど、失敗だ
ったなあ!」

 午前11時。やまびこ11号に乗り込む。
「土居ちゃん! 私が仕事で旅行すると、必ず晴れるけど、仕事抜きの旅行だと、
大雨とか、洪水に見舞われることになっているんだけど、どっちかなあ!」
「むむ! じゃあ、ちゃんと仕事しましょう!」
 どうも土居ちゃんとふたり旅だと、仕事の緊張感が無いのは、確かだ。

 不思議なもので、土居ちゃんと真剣に『桃太郎大全集(仮)』の打ち合わせを始
めたら、外の雨が小ぶりになってきた。

 ふたりで、仕様書の束を前にして、敵キャラのデザイン。
 まさかこんなところで、敵キャラを決めているとは、誰も思うまい。さらさらと
土居ちゃんが、スケッチブックに敵キャラを描いていく。
「もうちょっとかわいいキャラにしたいな!」
「この敵キャラは、思い切り下品でいいよ!」
「爆弾抱えてる鬼とか、いてもいいですよね!」
「めったに当たらないけど、当たると痛いやつだな!」
 などという会話をしてるうちに、あっというまに、盛岡に到着してしまう。

 午後1時31分。盛岡駅着。
 思ったより、雨は激しくない。
 駅前のわんこそばのお店「八幡平(はちまんたい)」に入る。

 ここは昔々、私が毎月札幌まで、電車で通っていたときに、必ず中継地点として、
食べに来ていたお店。土居ちゃんはいつも飛行機で札幌に来ていたから、このお店
は初めてだそうだ。
 このお店では、必ず八幡平そばを食べる。
 わんこそばで食べるときとおなじお蕎麦と具を、ゆっくり食べられるので、好き
なのだ。もともと、わんこそばというのは、本来お蕎麦が美味しいことから、発展
したのだが、「大食い」という部分ばかり際立って、すっかりお蕎麦が美味しいと
いうことが忘れ去られてしまっている。
 お蕎麦は、山形、新潟、長野が、有名だが、ほぼ山形とおなじ地域のこの盛岡も
本来は、お蕎麦の美味しい国なのだ。

 午後2時48分。盛岡発はつかり13号で、北へ向う。
 走り出して、5分もしないうちに、雪が降り出す。
「雪だ! 雪だ! やだなあ!」
「土居ちゃん、本当に雪が嫌なの? うれしそうだよ!」
「そんなことないですけどね! 札幌は大雪かな?」
「やっぱりうれしそうだよ!」
「函館は雪かな?」
「函館は、海沿いだから、ほとんど雪は降らないはずだよ!」
『奥の細道』の松尾芭蕉は、43歳、門弟・曽良は40歳のときに、みちのくの旅
をめざしたという。私48歳、土居ちゃん、45歳。
 似たような年齢だが、芭蕉たちより、底抜けに明るくて、格段に体力が無い。

 午前4時30分。はつかり13号が野辺地(のへじ)駅にさしかかる頃には、外
はもう真っ暗。まだ夕方なのに。
 外の景色が、楽しくなくなったので、一生懸命仕事をするが、あいかわらず土居
ちゃんは、無茶苦茶なアイデアを出して、私を困らせる。
「ちっちゃい家とか、宿があったら、おもしろいですよね!」
「どうやって入るんだよ!」
「ん? そうだね!」
「コウモリは、画面いっぱいに飛んでないと、コウモリって感じがしないですよね!
 50匹くらいいると、洞窟のなかって気がするなあ!」
「めんどくさがりの土居ちゃんが、50匹のコウモリをいちいち倒すわけないでし
ょ! 50匹のうち、1匹叩いたら、向こうから1匹当たり1ポイントの打撃数で
も、49ポイントのダメージを喰らうんだよ! 死ぬぞ!」
「あ、そっか!」
 こういう大ボケの土居ちゃんの考えのなかから、大傑作が出ることが多いから、
困ることは苦ではない。

 午後5時30分。青森駅に着く。しかしまだまだ私たちは、先へ向う。
 青森駅から、海峡線を通って、青函トンネルへ。

 かつて何度も通った青函トンネルなので、私にとっては、感慨はない。全長53、
85キロメートルのトンネルだが、いきなり入って、それっきり潜りっぱなしでは
なく、いくつかのトンネルを抜けてから、本格的に海底に潜るので、初めて通る人
でも感動はない。 
 かつて声優の横山智佐と北海道に行ったとき、横山智佐が「透明なトンネルのな
かを抜けて行くのだと思った!」と子どもの未来図鑑のような大ボケをかました頃
が懐かしい。

 さすがに、土居ちゃんが居眠りを始める。
 朝からずっと、ぶっ通しで、6時間も土居ちゃんが真剣に仕事をする姿は初めて
見た。このままでは、雨どころか、ヤリが降るかもしれない。

 午後7時15分。函館駅着。
 なんとか函館に到着と思ったら…。
 うわ〜! いきなり横殴りの激しい雨に歓待される。
「ははは。すごいなあ! すごい雨だなあ!」
 やっぱり、土居ちゃんは、ひどい天気になって大喜びしてる。映画『台風クラブ』
か、土居ちゃんは!

 駅前のハーバービューホテルにしておいて、よかった。
 ほんの少し濡れただけで、ホテルにチェックインすることができた。荷物を置い
て、すぐタクシーに乗り込み、函館山の麓にある
「レイモンハウス」に向う。
 ジャガイモと、ソーセージが美味しいお店だ。
「胃袋の伝道師」の異名を持つ、カール・レイモンさんが作ったお店で、ここのソ
ーセージは本当に美味しい。

 ところが、お店に着くと、シャッターが閉まっているではないか! 閉店時間は、
午後8時30分じゃなかったの? うひょ〜! 万が一のときのために、タクシー
の運転手さんに待っていてもらってよかったあ!
 こんな絶対タクシーの通らないところに放り出されて、横殴りの雨のなか、函館
駅まで歩いて戻ったら、間違いなく風邪を引いたぞ。

 そのまま、五稜郭まで行ってもらう。
 かつて、私はこの五稜郭にセカンドハウスを持っていて、北海道への橋頭堡とし
ていただけに、行きつけだったお寿司屋さんがあるのだ。

 午後8時。「幡龍(はんりゅう)」に着く。「幡龍」というのは、明治維新の
とき、榎本武揚(えのもとたけあき)が、江戸幕府から奪って来た船のひとつで、
江差沖で、沈没した船の名前から取っていたはずだ。いま手元に資料が無いので、
正確かどうか自信が無いが、さほど間違いはないと思う。
 函館に新政府を築こうとした、榎本武揚である。
 くれぐれも榎本46歳ではない。念のため。ギャグのため。

 この「幡龍」は、私がかつて15年前から5年間ぐらい、毎月札幌を往復したと
き、必ず寄った函館駅前のお店「鮨金(すしきん)総本店」の支店である。
 新橋にある「鮨金総本店」もまた、支店のひとつだ。

 恐ろしいことに、当時毎月のように通っていたので、この「鮨金総本店」のほと
んどの人と知り合いになってしまったことだ。
 きょうも、お店に入ると、顔なじみの佐々木さん、森村さんがいた。森村さんは、
新橋支店のほうで、何度か会っているので、ひさしぶり程度だったけど、佐々木さ
んは、おそらく6〜7年ぶりだと思うので、「いやあ〜! 本当にひさしぶりです
〜!」と、声が高くなってしまった。
 それにしても東京でおなじみサンになるならまだしも、函館で、おなじみサンに なるとは、本当に当時よく通ったものだ。    大雨でほかにお客さんもいないので勢い、懐かしい話に花が咲く。 「いつも、さくまサン、若い子を7人ぐらい連れて来て、ものすごい勢いで食べて、 ピューッ!と帰って行きましたもんねえ!」と森村さん。 「そうそう! とてもひとりでは握れきれなくて、必ず応援を頼みました!」と、 佐々木さん。 「東京のお店のときも、いつも開店と同時に来ましたもんねえ! しかも次のお客 さんが入ってくる前に食べて、さっさと帰っちゃいましたよね〜!」 「はっはっは! そうだ、そうそう!」 「お嬢さん、いくつになりました? 元気ですか?」 「もう中学2年生になりましたよ、問題児ながら、元気です!」  何だか本当に同窓会で、ひさしぶりに友だちに会っている気分だ。  それにしても、今でもたまに、新橋支店には食べに行くけど、やっぱり函館で食 べるお寿司のほうがはるかに美味しい。寿司ネタはまったくおなじだけど、水のせ いで味が違ってしまうそうだ。  大トロ、甘海老、ヤリイカ、サーモン、いくら、ウニ、カニなどなど、どれもこ れも北海道ならではの美味しさ。
 午後8時。土居ちゃんと、たらふく食って、カエルの膨らんだお腹のようになっ て、「タクシーを呼んでいただけますか?」というと、なんと! 森村さんが 「送って行きますよ! ハーバービューですよね!」と言い出すではないか! 「ええ〜〜〜! そんな〜!」 「いや、もう帰りは送っていくつもりで、こうして待ってたんですよ!」  まいっちゃうなあ。最近こういうやさしさに、めっきり弱くなってしまった。素 直にやさしさに甘えることにした。
 鮨金の人たちが、やさしい人揃いなのは、見ての通りなのだが、総じて函館の人 は、桁外れにやさしい人が多い。  かつて、私は旅行の資金10万円を剥き出しで持っていて、タクシーに置き忘れ たとき、電話したらわざわざ持って来てくれるようなお国柄なのだ。剥き出しの お金だよ。知らないと言えば、それまでなんだよ。  海鮮市場の人となかよくなれば、秋になると、今年のイクラはこのくらいに漬け あがりましたと、大量にイクラを送って来てくれたりする。  忘れ物といえば、うちの娘が手袋を落としたときも、お店の人に言っておいただ けで、わざわざ手袋を郵送してきてくれる。しかも送り主の名前が書いていないの よ! お礼ができないじゃないの!  こういう出来事が多いので、私の函館びいきは、相当なものなのだ。今でも、甲 子園は、函館代表が出ると応援する。函館有斗高校などという名前を暗記してるの も、函館びいきなせいだ。  またきょうも、よりいっそう函館びいきになってしまった。  来月、森村さんは新橋支店に行くそうだから、12月中に一度は新橋支店に行っ てあげたいな。  午後8時30分。ちょっとだけ土居ちゃんとホテルの2Fで、こコーヒーを飲む。 「あの頃、若い子たち連れて、函館の鮨金まで連れて行ったもんだったけど、けっ きょく残ったのって、土居ちゃんだけだもんなあ!」 「何だったんでしょうねえ、あの頃って!」 「今はもうこうして、幸せな人生を送ってるからいいけどね」 「あの頃は、余裕がなかったんでしょうねえ!」 「忙しいのはいけないね!」  午後9時。ホテルの部屋に戻る。  函館鮨金の人たちのやさしさに触れたあとだけに、今夜の内閣不信任案の茶番劇 には、あきれ返ってしまう。  相当、野中さんは、加藤さんの近辺におどしをかけまくったんだろうなあ!  このところ、野中さんの顔がどんどん悪役として立派な顔になってきている!  さて、明日は札幌に行く予定。  明日も大雨だそうだ。函館は。札幌は大雪だそうだし、またまた最悪の天候だなあ。  しかも午前中には、ちょっとしたスリリングな仕事が待っている。  それは何じゃい!? VAIOが元気なら、また明日!
 

-(c)2000/SAKUMA-