11月7日(火)

 午前10時30分。京都のマンションに、整体のお兄ちゃん・梅津実くん、柴尾英令
くんが到着する。
 成沢大輔くんは、一足先に帰京。
 今回のメンバーもそうだが、昨年ぐらいから、いっしょに旅をする人たちが、すごく
楽な人たちばかりだ。時間が合えば、いっしょに行くし、時間が合わなければ、現地集
合だし、成沢大輔くんのように、きょう東京に早く帰らないといけない人を、誰も引き
止めない。
 こういうときに、無理やり引き止める人がけっこういるものだ。
 
 しかも、教養のない若者との旅のほうが、返してくれる話題が少ないので、かえって
気をつかう。教養のある大人たちのほうが、映画の話をしても、音楽の話をしても、競
馬の話でも、エッチな話でも、必ずおもしろい物の見方をして、返してくるので、おも
しろい。
 今後もこういう関係で、楽しくいっしょに旅がしたいものだ。

 午後12時。南禅寺の湯豆腐屋さん「聴松院(ちょうしょういん)」に行く。
「湯豆腐の味だけなら、『おひるや豆魂(とうこん)』だと思うけど、日本庭園が付い た聴松院(ちょうしょういん)のほうがいいと思わない」とは、フード・ナビゲーター である娘の弁。  きょうは、ちょっと暑くて、湯豆腐の味のほうはもうひとつだったのだが、寒い日に、 ここでぶるぶる震えながら、一味唐辛子を大量に入れて、かあ〜!っと身体を熱くして 食べる湯豆腐は、格別である。  年内にもう一度来てみたいものだ。
 でもきょうは、そんなものを吹き飛ばすような、整体のお兄ちゃんの食べっぷりが調 味料。  メンバーは、整体のお兄ちゃん、柴尾英令くん、わが家族3人の5人なのに、注文し た湯豆腐が、9人前とはこれいかに!  整体のお兄ちゃんには、昨日の松茸も、三田牛も、びくともしていないようだ。  食後、少しでも腹ごなしをしなければと、歩くことにする。  せっかくだから、まず南禅寺。  20本に1本ぐらいが、紅葉していた。  黄色く紅葉する木のほうが、紅葉が早く始まっている。
 石川五右衛門が「絶景かな! 絶景かな!」と叫んだ南禅寺の三門に、整体のお兄ち ゃんと、柴尾英令くんが登る。  うちの家族は、すでに何度も登っているので、下から覗いていると、三門の楼閣に、 ふたりが現れる。大きなお腹をゆすりながらの登場は 「絶景かな! 絶景かな!」ではなくて、「でっけえかな! でっけえかな! お腹が でっけえかな!」であった。
 京都初心者にお勧めするのが、南禅寺の疎水コース。
 琵琶湖から引いた水路の道から、京都市内も見渡せるし、森林の何とも言えない厳か な雰囲気も味わえていいのだ。適度に歩きつかれる距離なのもいい。  インクラインから、再び南禅寺のほうに戻って、器屋さんを覗く。
 午後1時30分。このメンバーだもの。シュークリーム専門店 「クレーム・デ・ラ・クレーム」に行かなくちゃと、烏丸竹屋町下ルに来たのだが、非 情にも定休日。 「さくまサンは、こういうとき代わりのお店のアイデアもあるんでしょ?」と柴尾英令 くんに言われる。  そう言われると、意地でも同系統の甘い物屋さんを紹介しないといけないじゃないか! どこにしそう! うん、あそこだ! 「クレーム・デ・ラ・クレーム」から、30メートルほど、ハートビートの小林千尋く んから教えてもらった、ケーキ屋さん「BRUN BRUN(ブラン・ブリュン)」に 行く。 「特製最高級アイスクリーム」が、イチ押しのメニューとしてテーブルの上に、写真入 りで紹介されているではないか! 「特製」でも、けっこう心動くものがあるのに、「最高級」までついている。  これは食べるっきゃない!
 想像どおり、美味しい。  チョコレートケーキだけのお店ではないな! この「特製最高級アイスクリーム」を 「名前を付けて保存(A)」だ。  アイスクリームを食べて、体重を気にする一行は、もうちょっと歩いて、カロリーを 消費することに。嫁と娘は、買い物に。私と整体のお兄ちゃん、柴尾英令くんの3人は 、御所南界隈をそぞろ歩く。  午後2時。御池地下街。きょうはこれから私もいっしょに東京に帰るので、「カスケ ード」のモルトくるみパンを買って帰りたい。  整体のお兄ちゃんと、柴尾英令くんに、「ここのモルトくるみパンが美味しいんだよ 〜!」と解説すると、黙ってモルトくるみパンをプラスチックのお盆に乗せ、ほかにも、 3個、4個、5個とほかにもパンを買い始める。ふたりとも。恐るべき人たちだ。 「たくさん買うと、味が落ちるから」といって、7〜8個もパンを買う人たちは、美し くは…ない。  午後2時30分。京都のマンションに戻って、帰り支度。  いつもなら、私だけさらに京都に残って、仕事の続きをするのだが、来週には、仙台 に行くことになっているし、帰りの新幹線のなかで、柴尾英令くんと仕事の打ち合わせ もしたいので、いっしょに帰ることにした。  寺町三条上ルの「とり市老舗」で、東京で食べる夕ご飯を買う。松茸ご飯、天むす、 栗ご飯にお惣菜を少々。家族3人で、ご飯3つは当たり前だと思うのだが、ふと見ると、 整体のお兄ちゃんが、うちとおなじご飯を3つかかえて、レジに向っている。 「ひ…、ひとりで、それ食べるの?」 「まさか、親父の分も入ってますよ!」 「でも、食べようと思えば、食べるられるんでしょ、このくらい」 「うん。まあ、食べるでしょうねえ!」  大食漢タレントとして君臨する放送作家の福本岳史くんに、強力なライバル登場であ る。いつか整体のお兄ちゃんと、福ちゃんのふたりで、盛岡わんこそば対決を見てみた いものだ。  午後4時7分。のぞみ60号で、東京に向う。  車中、柴尾英令くんと、『桃太郎大全集(仮)』の打ち合わせ。  ああしたい、こうしたい、ああもしたい、こうもしたい…などと話していくうちに、 電撃的に、後世エポック・メーキングとなるような、ビッグ・アイデアが生まれる。  これはもう、本当にここで、べろんちょ!と、教えてしまいたいくらいのビッグ・ア イデアだ!  このアイデアが柴尾英令くんといっしょに出ただけでも、FA宣言の柴尾英令くんを 獲得しただけの価値がある。  柴尾英令くんも「新幹線代を出して、松茸を食べにきた元が取れたかな?」と、強い 手応え。私なんか、さすがに昨日の松茸三昧はちょっと、贅沢が過ぎたかな?と思った のだが、この一発長打で、いっぺんに吹き飛んでしまった。  いやあ、京都に居残らず、柴尾英令くんといっしょに帰ってよかったあ!  いいねえ、いいねえ、柴尾英令くんの加入は!  性格もとってもふしだらでいいぞ!  正義を振りかざす人との仕事は、了見が狭くてやりづらいからなあ!  おまけに、しちめんどくさい部分のメッセージは、全部柴尾英令くんが書いてくれる そうだし、大変なパラメータの草稿も書いてくれるというし、♪あ、あ〜〜〜、よかっ たなあ、よかったなあ〜。花*花である。いいアイデアという点では、鼻*鼻で、鼻が ひくひくである。  柴尾英令くんとは、どうもゴールはおなじ場所をめざしているのだけれど、そこまで 行く交通機関の選択方法が違うようだ。こういう違いがあって、おなじゴールをめざす 関係を『桃太郎大全集(仮)』で構築したいものだ。    午後6時21分。東京駅着。  万事自由解散を旨とするチームなので、駅構内で「それじゃ、さよーならー!」 「今週末、整体してもらいに行きま〜す!」 「柴尾英令くん、それじゃ来週、仙台で〜!」。  こういう「いい加減」ができる大人たちとの旅行は楽しい。 「いい加減」は、本来「ちょうどよい加減」から来ている「いい加減」である。  今後もこういう「よい加減」な旅をしたいものだ。  午後7時。帰宅。 「とり市老舗」で買ってきたご飯を、家族3人で食べる。  美味しい松茸だけど、まだ口のなかに、昨日の松茸が残っていて、比べちゃいけない、 比べちゃいけないと思いつつ、少しご飯を残してしまった。この罰当たり家族め!  食後、さすがに疲れているけど、せっかく新幹線のなかで出た、ビッグなアイデアだ けでも書き留めておこう。罰当たり解消法は、働くに限る。  書き留めたら、広いお風呂で、ゆったりだ。  京都のマンションがもうひとつ狭いので、自宅のお風呂くらい気持ちのよいものはな い。  今週は、東京。  来週、仙台。  再来週は、北海道。  秋の暴飲暴食ツアーは、さらに続く。
 

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