10月20日(金)

 午前10時30分。表参道の「ロイヤルホスト」で『桃太郎大全集(仮)』のアイ
デア出し。
 いつもこのお店でアイデア出しをすると、湯水のようにアイデアが湧くことでおな
じみなのだが、きょうの出方は、ダムの決壊のようにすさまじかった!
 モーニングプレートを注文したものの、口にしたのはベーコン一切れだけ。コーヒ
ーも1杯飲んで、2杯目をお代わりしただけ。
 あとはぶっ通しで、アイデアノートにメモまくり。

 とにかく止まらない。
 しかも、ついにこれができるなら『桃太郎大全集(仮)』を作る意義がある、早く
このシステムをプレイヤーに見てもらいたい!と思えるアイデアが、ついに出た!
 そのアイデアを今ここで言ったところで、大半の人が「何でそんなものが、重要な
アイデアなの?」と思うかもしれないが、私にとっては、命綱のように大事なものが
出たのだ。

 たとえば桃太郎の「ほうひの術」なんていうくだらない術があるけど、こういうく
だらない術は、見る側にとっては、何の変哲もない、子どもでも浮かぶようなアイデ
アである。でも一度でもゲームを作ったことがある人なら、こんな馬鹿馬鹿しいアイ
デアが出ることがいかに難しいか、出たとしても、ゲームの世界観を壊さずに、シス
テムに組み込むことがいかに難しいことか、痛いほどわかると思う。

 そういうアイデアがついに出た。
 出たといっても、きょう突然出たわけではない。
 毎日、悶々と苦しんで初めて、出るのだ。
 この悶々の時期が、いちばん苦しい。
 
 午前11時30分。嫁と表参道の「月光茶房(げっこうさぼう)」で、茄子とひき
肉のキーマ・カレー。嫁はほうれん草とベーコンのカレー。
ほうれん草とベーコンのカレー
 ここのキーマ・カレーは、甘いので大好き。  何より、アーモンドのスライスが薬味としてついているので、シャキシャキ、パリ パリッ、あの食感がたまらなく好きなのだ。たまにアーモンドのスライスが縦になっ て、歯と歯の間に挟まるのが、愛嬌だけど。  午後12時30分。雨がぽつぽつ降るなか、散歩しながら歩いて自宅まで行き、並 びの喫茶店「らぴす」サンで一休み。  午後1時。『桃太郎大全集(仮)』の仕様書作り。  アイテムのほとんどが決まる。  ふっふっふ。きょうはとっても順調。  午後2時。「蔵人総合研究所」の赤根豊くんが来る。
 毎度おなじみ会社経営の難しいお話。  どうやら念願の鎌倉は購入の方向で、話が進んでいるようだ。ふむふむ。それはめ でたい。しっかり働かなきゃ!  午後4時。再び『桃太郎大全集(仮)』の仕様書作り。  へっへっへっへ。めでたく戦闘仕様書の第1稿が完成する。  いよいよスタート地点に立ったぞ。  うれしさのあまり、気が緩んで、風邪を引きかけの身体になって、ぽわ〜ん!とす る。いかん! ここで気合入れないと本当に風邪を引く。外は雨だし、こういう天気 のときがいちばん風邪を引きやすい。  午後6時。さてさて、きょうはとってもいいことがこれから待っている。  青山「穂積」で、修行していた樋口敬くんが、独立して、来週10月24日から和 風料理のお店「樋口」を開店する。    その開店前に、なんと我が家族3人を招待してくれたのだ。  場所も、なんとうちから30メートルくらいのところ。泳いでも行ける距離だぞ。 どういう基準だ。せめてスープの冷めない距離という欧米風の比喩をいうべきであっ た。  ちなみに樋口くんは、我が家の並びの喫茶店「らぴす」の渡辺さんの甥にあたる。 「こんにちは〜!」 「おめでとうございまーーーす!」  うわっ。思ってたより、ずっとずっと広い!  カウンター席が、5席。次の部屋に、4人用のテーブル席と、2人用のテーブル 席がひとつずつ。
 カウンター席に座る。  うわ〜。白木がぴっかぴか。イスも豪華だ。隣りのイスとの間もゆったりしている。 お店の雰囲気がどことなく、京都の「M」に似ている。「M」よりも広いぞ。  たぶん樋口くんが、ひとりで全部の料理を作るところが、「M」に似ているせいだ ろうなあ。「M」のお父さんの神業に近い包丁さばきを、樋口くんに見せてあげたく なる。  いやあ、それにしても、こういう新しいお店のオープンに立ち会えるなんて、うれ しいなあ。なんたる光栄。なんたる感動。食い道楽冥利に尽きる。  しかも一応、「樋口」という名前は、私が命名者なのだよ。樋口くんで、「樋口」 ではちょっと芸が無いように思うけど、いっぱい考えていろんな名前出したんだけど、 「樋口」がいちばん画数、よかったんだもん。 「樋口」。見るからに京料理のお店って、感じするでしょ?  しかしいいねえ、いいねえ。私はまさに若武者の初陣を見守る老武将の心境だよ〜!  一生懸命必死に動く樋口くんを見て、自分の若いときの仕事っぷりを思い出す。 「まだ新しい什器を上手くつかいこなせなくて。器とか、まだ『穂積』で置いてある 器の場所だと思ってしまうし…」  わかるなあ。新しい週刊誌の仕事だと、いつもやってる週刊誌の仕事のテンポと微 妙に違って、戸惑うことが多かったものだ。     料理のほうは、青山「穂積」とほぼおなじ。
 最高に美味しいお店で学んだ料理が、お値段安く食べられる。  こんなうれしいことはない。きょうはごちそうさせてもらっちゃったけど。こんな 調子で料理出していって、大丈夫かな? 食材よすぎるぞ。  なんとか、ひとつふたつく苦言を呈してあげるのが、宿老としての役目だけど、味 に関しては、ボールは1球も無し。全部ストライク・ゾーンを通っていた。  それでも樋口くんは、不満だらけなのだそうだ。  青山「穂積」を大好きになるきっかけとなった、お蕎麦ももちろんこのお店で出る んだけど、あのお蕎麦とおなじ味がどうしても出ないと悩んでいるのだ。でも、お出 汁のほうはまったくおなじ味で、十分美味しい。  けっきょく、お蕎麦を遠慮なく、もうひとり分いただいてしまった!   へっへっへ。おいしかったあ!  というわけで、来週10月24日に開店する「樋口」の詳細をば!    ・住所:渋谷区神宮前2-19-12    ・電話:03-3402-7038    ・午後5時30分〜 日曜・祝日休    ・8000円のコース料理のみ。  1ヵ月後くらいのほうが、樋口くんと什器が馴染んで、美味しい秋の味覚を十二分 に楽しめるのかもしれない。  その間に、うちは何回か行くけどね。『笑止会』のメンバー誘って。  日本酒の美味しいやつも置いているようなので、酒飲みホンダラ・成沢大輔くんを 誘わないといけないし、柴尾英令くんも誘わないといけないし、最近急激に食い道楽 になってきた土居ちゃん(土居孝幸)とも行きたいなあ。  ナムコの岸本好弘さんあたりは、さっさと行ってしまうと思うから、こっちのいっ しょに行きたい希望日をメールしないとな。    嗚呼! ただでさえ、秋は日本中行きたいお店だらけなのに、こんな近くに美味し いお店が向こうから寄って来ちゃって、スケジュールをどう組んだらいいの? 晩御 飯は1日1回しか食べられないからねえ。  午後9時。帰宅。家族3人、美味しい物を食べて、にっこにこ。  なのに昨日買って来た吉祥寺の「栗むしようかん」を食べてしまう。明日では風味 が落ちて嫌だと、意見が一致する悲しい食い道楽家族で あった。太るわけだ。  でも秋は、太ってもいいから、美味しい物が食べた―――い!
 

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