10月12日(木)

 本日より、桃太郎チームは、京都合宿〜! 
 
 旅の無事を祈るが、ゲームを作るような人間たちだ。
 波乱のひとつやふたつぐらい起きてくれたほうがおもしろい。
 波風の立たない旅くらいつまらないものはない。

 と思っていたら、早くも、ひと波乱。
 酒飲みのホンダラこと、成沢大輔くんが、きょうの午前中にどうしても変更不可能
なラジオの録音があって、早くもスタートダッシュにつまずくという連絡が入る。

 そうか。それじゃ、新幹線の切符の払い戻しのこともあるからと、全員の切符を取
り出して確認すると、「????」!
 切符には、東京―新大阪間と印字されているではないか!
 おいおい! 駅員さんが間違えるといけないから、私がわざわざ懇切丁寧な文章を
ワープロして、嫁に持たせたのにさあ。明らかに駅員のミスである。

 午前9時。嫁と原宿まで行って、みどりの窓口で、切符の変更と、領収書を書き直
してもらう。8枚の領収書の書き直しなだけに、さすがに駅員さん、ムッとした表情
を作るまいと、必死の努力。こっちが証拠文書まで持っているから、文句が言えない。

 午前10時。嫁と、東京駅八重洲地下街の「資生堂パーラー」に行く。
 嫁は、娘が学校から帰り次第、いっしょにあとから京都に来る予定だったのだが、
原宿の駅員さんのミスのせいで、原宿まで行ったついでに、いっしょに来てしまった。
数時間後にはまたこの東京駅に来ないといけない。

「資生堂パーラー」に着いたとたん、ゲームディレクターの国政修くんから電話が入
って、「丸の内側から入ってしまって迷ってます!」との連絡。
 よしよし! 旅はこういうトラブルが頻繁に起きないとおもしろくない。
 おや? 「資生堂パーラー」のイスに大きな熊のぬいぐるみが立てかけてあるな…
と思ったら、放送作家の福本岳史くんであった。
 デブ・キャラのわりに、時間厳守の男で、こういうときほとんどヘマをしないので
おもしろくない。

 次々にメンバー到着。
 土居ちゃん(土居孝幸)、柴尾英令くん、宮路一昭くん、ハドソン桃太郎事業部の
石崎仁英くん、武田学くん。
 今回、梶野竜太郎くんが来れなくて残念!

 午前10時56分。のぞみ11号。喫煙組の柴尾英令くんと、宮路一昭くんが3号
車で、ほかのメンバーが禁煙席の14号車と、おもいきり遠くに離れ離れになってし
まう。

 車中、私と土居ちゃん、国政修くんの3人で、早くも『桃太郎大全集(仮)』の打
ち合わせ開始。
 土居ちゃんのふざけまくったアイデアが早くも炸裂する。

 ひたすらゲームのシステムを決めたり、マップをどうするか、道具袋に入るアイテ
ムの数をいくつにしたらいいんだろうか?といったこまかい部分まで、論議する。

 2時間10分、ノンストップで打ち合わせ。
 早くも、舌がしびれる。
 ちょっと飛ばしすぎ。 

 午後1時10分。京都駅着。
 柴尾英令くんたちと、新幹線駅構内の本屋さんで待ち合わせているのに、柴尾英令
くんと宮路一昭くんの姿が見えない。あれ?
「これはふたりして博多まで行ったか?」と爆笑話に発展の兆し?とみんなが期待す
るが、柴尾英令くんに電話を入れたら、宮路一昭くん得意の知ったかぶり攻撃「こっ
ちですよ、柴尾さん!」が炸裂して、なんとすでに在来線側の駅のタクシー乗り場前
まで行ってしまっているというではないか。
 わっはっはっは。みんなで笑う。
 よしよし! 旅はこうでなくちゃ!
 
 午後2時30分。それぞれバラバラなホテルに投宿後、うちのマンションに集結。
いよいよ本格的な会議に入る。
 この時間がいちばん長くて、実際の状況を書いたら、おもしろくて仕方が無いのだ
が、内容については極秘中の極秘なので、ちょっとでも書くわけにいかない。
 たまにで出た話もギャグめいた部分なら書けるのだが、書いた日には、こいつら大 人が10人近く真昼間から集まって、何を冗談ばっか言ってるんだと思われてしまう から、ゲームの仕事は威厳が無い。とくに私の場合、ギャグがメインだから余計そう 思われがちだ。  RPGの場合、刀剣の名前というのはなかなか難しい。日本語には、等級を現す単 語が意外と少ない。木刀、竹刀(しない)、刀と来たら、あとが無い。銅の剣、はが ねの剣という風に昇格できない。めっきり西洋風のRPGになってしまうからだ。勢 いどういう刀の名前にしたらいい?という話になる。  子(ね)丑(うし)寅(とら)卯(う)辰(たつ)巳(み)の干支をつかって、子 の剣、丑の剣、寅の剣という言い方もありだと思うのだが、では寅の剣と辰の剣はど っちが上位クラスか?といわれて、とっさに答えられないものだ。  こういう会議になると、ギャグが百烈拳になる。 「都道府県を北から順につけたらどうですか?」 「北海道の剣、青森の剣、秋田の剣、秋田なら、やっぱり秋田犬だろ!なんじゃそり ゃあ!」  こういうバカなことを言ってるところしか公開できないので、間抜けである。  午後4時。スタートと同時に落馬した成沢大輔くんが到着。  間抜け話を合いの手に、真剣な議論が続く。 「主人公キャラは1セルにする? 1、5セルにする?」 「文字フォントは、12×12にしてほしいなあ!」 「柴尾くん、文筆業としては、横18文字×2行と、横18文字×3行だったら、ど っちがいい?」 「文筆業としては、横18文字×3行は死守したいですよねえ!」 「やっぱり3行はほしいよね〜!」  こういう会話をしていると、福ちゃんが短い太った手を「先生!」みたいに挙げて 「あの〜、今みなさんが会話している言葉の大半の意味がわからないんですけど…」  そりゃそうだろな。ここでいちいち国政修くんが、福ちゃんにいろいろ教えてあげ る。 「福ちゃん、太い指の人は、RPG作りに向いていないから、今のうちあきらめてお いたほうがいいよ!」と、私と柴尾英令くんで、からかってあげる。  午後5時30分。嫁と娘が東京から到着。娘は明日から学校の行事で日曜日までお 休みである。こういう真剣な会議+楽しいリクレーションというときは、本当に都合 よく学校がお休みになるから恐ろしいガキだ。  午後6時。嫁と娘は、和食の「忘吾(ぼあ)」へ。  会議組は、京都文化博物館のお餅料理のお店「きた村」へ行く。  いちばん手っ取り早く京都らしさを味わえるお店ということで、このお店を選んで みた。先月、岩崎摂さん、田森庸介さんが来たときもここにしてみた。  男ばかり9人で、むさくるしい宴。さらに福ちゃんの一向に上達しないデジカメの 撮影が話題になる。 「あれだけ親指が数センチも下に押し込まれたら、デジカメでもピントが合うわけな いよなあ」 「だいたい指が太すぎるよ!」 「構図の悪さは、とても著名な洋画家の母親を持つ息子とは思えないよ!」
何度目かで成功!
 福ちゃんの撮影ポーズもまた恐い。  あの大きな身体を縮こませて、「はい、チーズ!」という掛け声が、いまどき物悲 しい。  午後8時。食事終了。  いつものように、私はマンションに戻って、日記。国政修くんは、ホテルに戻って お仕事。ほかのみなさんは、京都の夜に繰り出す。  新メンバーとして、酒屋の息子で大酒飲みの柴尾英令くん、酒飲みホンダラの成沢 大輔くんが加わっているので、さぞかし強烈な夜となることであろう。  私もきょう出たアイデアなどをまとめる作業。  あとここ数日、激しい毎日だったのと、明日はみんなで遠出するので、早めにお休 みしようと思う。  そういえば、ファミ通PS編集部から、コメントの依頼が来ていたような気がする。 その原稿もやっておこう!  充実の一日なのだが、日記にすると妙に地味だ。  だいたいどこにも京都らしさがない。
 

-(c)2000/SAKUMA-