5月31日(水)


 井上忠夫(大輔)さんの訃報は、朝のワイドショーを見ていくう
ちに、じわじわ悲しみがこみあげてきた。
 GS(グループサウンズ)世代の私にとって、作曲家としては、
すぎやまこういち先生が、手塚治虫さんなら、井上忠夫さんは、石
ノ森章太郎さんに匹敵する存在だった。

 その昔、井上忠夫さんの実家が有楽町のお寿司屋さんだと雑誌に
書いてあったので、お寿司屋さんの前まで行ったことがある。中学
生だったから入るお金もなかったけどね。井上忠夫さんに近づきた
くて、吹けもしないフルートを買ったこともあった。無理やりコン
ボオルガンを親に買ってもらったせいで、どれだけ親に恩に着せら
れたことか!
 いろんなことが思い出される。

 およそ芸能人の真似をすることの少ない私がこんなことをしたと
いうことは、相当大きな存在だったのだろう。
 死に関して、病気を苦にしての自殺というのは、5年前危篤状態
にまで行った私には、その気持ちがよくわかる。私の場合、不幸中
の幸いだったのか、手足が不自由になったため、飛び降りる所まで
行けなかったし、首を吊るにしても、紐が結べなかった。
 人の一生は、どこで急に終わるのかわからない。
 悔いの無い人生を送りたいものだ。

 きょうは仕事をさぼって、小旅行でもしようと思ったのだが、朝
から雨。まるでこっちの魂胆を見透かしているかのようだ。
 井上忠夫さんのことを思うと、やっぱり仕事をしてしまう。
 ここ数日のガツガツしたやり方ではなく、ゆっくりと。

 午前11時30分。近所の「L」で、昔ながらのオムライス・ラ
ンチ。こんなにまずいのは、ひさしぶり。オムライスって、まずく
ても最後まで食べられるものなのに、3分の2も残してしまった。
ソースが薄くてびちゃびちゃ。サイコロ状に切った鶏肉が、何の味
もしない。卵が多すぎる。よほどセンスの無い人が作ったのだろう。

 午後12時30分。マンションに戻り、ぽつぽつ仕事。中途半端
な雨で、どこにも行く気がしない。
 新作『桃太郎電鉄』で、ちょっとした変更を思いついたので、
『桃太郎電鉄V』にスイッチを入れて、確認。

 あっというまに終わったので、いよいよ全国マップの最終決定に
入る。
 おおむねどこを直すか決まっていたのだが、この最終決定が将棋
の名人戦のように、つらく、過酷なので、なかなか踏み出せないで
いた。一度始めたら、終わるまで、息抜きが許されない。

『桃太郎電鉄』の青マス、赤マス、黄色マスといったマス目は、さ
も適当に並んでいるように見えるが、実は考えに考え抜いて、決め
られている。
 私が『桃太郎電鉄』を作っていて、いちばん神経をとぎすませる
のが、このマップ決めだ。

 ひとマス抜いただけで、同一画面上に、目的地のパーツが見えな
くならないように配慮する。
 いいカードを売ってるお店は、実はみんながよく止まる駅から近
い。数えれば、4マス目にあるけど、画面上からは、決して見えな
いようになっているといった具合だ。
 よく『桃太郎電鉄』で、青マスがあるから、無理して止まりに行
って、次のターンに、サイコロを1個振ったら、どっちに行っても、
赤マスになっていたなんてことがあると思う。あれも実は巧妙に仕
組まれているのである。

 今回も、ひとつ新しいマスを新設しては、ありとあらゆる画面を
想定して、本当にこの位置、この色のマスでいいのか、腕組みして、
沈思黙考する。

 ごくふつうに『桃太郎電鉄』が好き程度の人には、たいして差が
無いように思うけど、桃鉄マニアには「えっ!?」と言わせるよう
な変更は毎回かなり多い。
 たとえば、『桃太郎電鉄V』にあった、池袋の☆印カード売り場
は、次回作では、廃止する!というと、日本じゅうから、「え〜〜
〜??」「それは困る〜!」とか、「そうか、そう来るか! なる
ほどね!」といった声が上がると思う。

 こういう作業をきょうはずっと。
 何度も紙に書き込んでは、消して、また書き直す。

 ぶつぶつ…。誰もいないので、心置きなくつぶやける。
 ぶつぶつ…。ぶつぶつ…。
「違う! 違うんだなあ!」

 ぶつぶつ…。ぶつぶつ…。
「そうそう。これでいいんだ!」

 ぶつぶつ…。ぶつぶつ…。
「あ〜! どうしよう!」

「ここと、ここの間に、赤マスがひとつ増えたら、みんな困るだろ
うなあ。 ぶつぶつ…。ぶつぶつ…」
「ここに新しい物件駅を増やしたら、ぶっとびカードで、飛んで来
た場合、入る確率が上がるぞ…。 ぶつぶつ…。ぶつぶつ…」
「ここに駅を置いたら、次の目的地に名古屋が選ばれたときに、7
マスになってしまって、1回で、目的地に入る華やか技を見ること
ができなくなってしまうなあ。 ぶつぶつ…。ぶつぶつ…。ダメだ。
つまらなくなっちまう。やめよう!」
 あ〜、もっと具体的に、わかりやすく書きたいものだ。

 あっというまに時間が過ぎていく。
 気がつくと、10枚ほどのマップを書き上げていた。
 自分でもびっくりするくらいの集中力だ。

 明日来る『桃鉄マニア』の宮路一昭くんに、早くこのマップを見
せたい! 彼が何というか楽しみだ。

 午後6時。雨の中、木屋町三条の「紅虎餃子房(べにとらぎょう
ざぼう)」に行く。ひとりで行くときは、いつも鉄鍋餃子(小)と、
鶏と高菜の土鍋ごはんと決めている。

 餃子は早く来たけど、土鍋ごはんが遅い。
 ずいぶん待たされる。
 よっぽど帰ろうかと思ったくらい、遅い。
 やっと来た。
 うへっ。濃い! 煮詰まっちまってるよ。ダメだなあ。
 調理人が悪くなってるな。

 午後6時30分。雨なので、ひょっとしたら、座れるかもと、三
条大橋にあるスターバックスに行く。実は10回ぐらい行って、ま
だ一度も座れたことがない。
 おお! さすがに空いている。
 スターバックスのホームページには、カフェモカがおいしいと書
いてあったから、これを飲んでみるか。食べ物屋さんのホームペー
ジで掲示板っていうのは、怖いけど、正しく機能していれば、いい
情報がもらえるからいいね。

 鴨川を見下ろしながら、カフェモカを飲む。
 ふつふつとまた、新作『桃太郎電鉄』のアイデアが出て来る。
 もはや、脳のなかが『桃太郎電鉄』で充満しているから、ちょっ
と押すと、すぐアイデアが出てしまう状態に入ってしまっている。

 午後7時30分。マンションに戻って、ゆっくり、ゆっくり新作
『桃太郎電鉄』の仕様書作り。
 さて、今夜で、京都ひとり合宿も一段落。
 明日から、桃太郎チームの国政修くん、土居ちゃん(土居孝幸)、
宮路一昭くんが来る。

 また暴飲暴食の日々が始まりそうである。
 明日から、6月。
 

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